はごろも伝奇

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27. 伝説・外伝

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飛立山とびたちやま伝説は、お前も知っての通り、天降女あもれおなぐ櫻未さくらびさまと、彼女を式神しきがみにしていた、陰陽師おんみょうじ伊氏これうじとを中心にしたお話だ。一方、その外伝がいでんは、2人のまわりにいた村人たちや、村にかかわりをもつ妖怪たちを中心にしたお話なのさ」

 絹代きぬよは、まごの佳奈子に、話をねだられ、外伝の説明をする。

「さっきも言ったが、外伝は長いからね…。今は、あらすじしか、言う気はないよ?それでも、けっこう長いんだけどね…」

「うん。お願い…!教えて…?」

 佳奈子は、絹代にお願いする。

「ああ、わかったよ…」

 絹代は、仕方ない、といった感じに、承諾しょうだくする。

 すると、そこへ、タマが話しかけてきた。

「あ…!じゃあ、私はその間、そっちで、い物をしていてもいいですか…?なんだかリュックの、かたのベルトのけ根が、やぶれそうになっていて…。ちょっとですから、すぐになおせると思うんですけど…」

 そう言ってタマは、破れそうな付け根を見せる。

「ああ、ホントだね…。破れたら大変だから、直せるんなら、直しちまいな」

「はい…!じゃあ、あっちで、ちょっと、直してきますね…!」

 そう言ってタマは、少し離れた岩の上に座った。

「…んじゃ、アタシたちは、外伝の話をしようかね…」

「うん…!お願い…!」

 佳奈子は、再びお願いした。

「ああ。…話のあらすじはこうさ…。強欲ごうよく傲慢ごうまんな陰陽師の伊氏これうじは、櫻未さくらびさまを使って、周辺にいる妖怪たちをつかまえて、その捕まえた妖怪たちを、売りはらったり、虐待ぎゃくたいしたりして、苦しめていたんだ…。…まぁ、それは妖怪にかぎった話じゃなくて、人間に対しても、だったんだけどね…」

 絹代は、苦々にがにがしげに話す…。

「…うん…。それは知ってる…。そのことは、伝承でんしょうの本編にも書いてあったから…」

 佳奈子は、伝承が書かれた、本を思い返す。

「ああ…、そうだったね…。…けど外伝では、その傲慢ごうまん伊氏これうじに対して、強い怒りを持った、櫻未さくらびさま以外のヤツらが出てくるんだ」

櫻未さくらびさま以外…?…たしか、村の人たちも、ひどい目にってたんだよね…?」

「ああ…、村人たちも、伊氏これうじ虐待ぎゃくたいをされていた…。だが、それ以上に、妖怪たちが怒っていたんだよ…。それも、大妖怪を怒らせちまったんだ…、伊氏これうじは…」

「大妖怪…?」

「ああ…。伊氏これうじのヤツが、夜のあかりになる妖怪を、集めていたのは知ってるね…?」

「あ、うん…。…たしか、その妖怪たちも、櫻未さくらびさまに命令して、虐待ぎゃくたいしていたんだよね…?」

 佳奈子は、不快ふかいになりながらも、話を思い返す。

「ああ…。そして、その中に、きつねの妖怪…、妖狐ようこがいたんだよ…」

妖狐ようこ…。あっ、そうか…。きつねの妖怪は、狐火きつねびっていう、火がともせるっていうもんね…」

「ああ、そうだ」

 絹代は、うなずく。

 妖狐ようことは、様々な能力を持つといわれる、キツネの妖怪である。

 幻術げんじゅつ催眠術さいみんじゅつを使ったり、「狐火きつねび」と呼ばれる、火をともしたりも出来るほか、人間や他の動物、無生物むせいぶつにも、姿を変えることが出来ると言われている…。

 また、妖狐ようこは、非常に長生きするとされており、歳をかさねるごとにの数が増え、力をすと言われている…。

「だから、その「狐火きつねび」を、夜のあかりにする為に、伊氏これうじは、その妖狐ようこも、つかまえたのさ…。その妖狐ようこは、まだ、子供だったっていうのにね…。しかも、母親と一緒に捕まえたんだ…。その妖狐ようこの親子は、この地を通りかかった時に、運悪うんわるく、伊氏これうじに見つかったのさ…。別に、なんにも、悪さをしてなかったのにね…」

「…なにも悪いことをしてない妖怪を、無理やりつかまえるなんて、ひどいよ…」

 この世界の妖怪の多くは、人間の言葉を、理解する知能があり、そのほとんどは、人に無害むがいなのである…。

「ああ。しかも、性悪しょうわる伊氏これうじは、そのつかまえた子供と母親を、わざと引きはなしたんだ…。子供を自分の手元に置いて、母親の方を人買いに売りはらってね…」

ひどい…!ホントに酷いヤツだね…!伊氏これうじは…!」

 佳奈子は、怒りがこみ上げる。

「ああ。外伝には、櫻未さくらびさまが、そんな悪事の片棒かたぼうかつがされて、毎度、涙を流していたと書かれているよ…」

「…櫻未さま…、かわいそう…」

「ああ…、ホントにね…。…けど、その妖狐ようこの母親は、売られる途中とちゅうに、仲間の妖怪に助けられるんだ…」

「あっ、そうなの…?よかった~!」

「ああ。そして、その母親の妖狐ようこは、つかまっている自分の子供を助けてくれと、自分の父親に、たのみに行ったんだ…。それで、その父親ってのが、なんと、あの大妖怪の九尾きゅうびだったのさ…」

九尾きゅうび…?!九尾って、あの九尾のきつね…?しっぽが9本あるっていう…?!」

 九尾きゅうびきつねとは、絶大ぜつだいな力をつけた、妖狐ようこのことである。

 キツネの妖怪、妖狐ようこは、歳をかさねるごとにの数が増え、力をすといわれるが、そのが、9本になるまで成長した妖狐ようこは、「九尾きゅうび」と呼ばれ、神にも近い力を持つと言われている…。

 また、九尾は、非常に聡明そうめいとされており、圧倒的あっとうてきな知識と策略さくりゃくをも、持っているといわれている…。

 ちなみに、九尾は、美しい姿をしていることでも有名である。

「じゃあ、つかまえられた、子供の妖狐ようこって…」

「ああ…。九尾のまごだったってわけさ」

「大妖怪の孫…」

「しかも、九尾が大層たいそうかわいがってたまごらしくてね…。九尾たちキツネ族は、そりゃあ、もう、怒ったらしい…。「おのれ…!クソ人間どもが…!なんて汚い奴らだ…!あの子を助けなくては…!あの村に、なぐみじゃあ~!」…ってな具合ぐあいにね…」

「うわぁ…。…不当ふとうな暴力は、許しちゃいけないけど…、九尾たちの、その気持ちは、私にもかるなぁ…。私だって、もしも大事な家族が、伊氏これうじみたいな悪いヤツに拉致らちされて、そいつの奴隷どれいにされたうえ、虐待ぎゃくたいなんかされてたら、絶対、奪還だっかんしに行きたいって思うもん」

 佳奈子は、弟の颯太そうたが、そうされている状況を思い浮かべる。

 颯太が「お姉ちゃん…。助けて…」と泣いている状況を…。

「ああ。アタシもそう思う…。…だが、知略ちりゃくにすぐれた九尾は、すぐにはなぐり込みに行かなかった」

「えっ?!そうなの…?!」

「ああ…。こういうのは、わなの可能性もあるからね…。自分をおとしいれるための…。櫻未さくらびさまがつかまった時の話を、思い出してごらん…?」

「えっ…?あっ!そっか…!櫻未さくらびさまは、友達のウサギの妖怪を助けようとして、わなにかかって、つかまっちゃったんだ…」

 佳奈子は、伝承を思い出す…。

 そうして、罠にかかった櫻未さまは、友人や仲間を傷つけるよう、伊氏これうじに命令されて、逆らうことが出来なかった…。

「そう…。もしも助けに行って、逆に自分がつかまってしまったら、被害ひがいは、さらに大きくなる…。今度は自分を助けるために、別の家族のだれかが、つかまってしまうかもしれない…」

「!そっか…」

 佳奈子は想像する…。

 もしも佳奈子が、とらわれている颯太そうたを助けに行って…、

「助けに来たよ…!颯太そうた…!今、出してあげる…!」

 そう言って、助けようとした途端とたん、佳奈子は、仕掛しかけられていたわなんでしまう…、

 すると、地面にかくされていたあみね上がって…、

「きゃ~っ!」

 佳奈子は、あみらわれ、り上げられてしまう…。

「な、なにこれ~!助けて~!」

 佳奈子は、あみの中でもがく…。

 すると…、

「大丈夫…?!颯太そうた…!佳奈子…!助けに来たわ…!」

「えっ…?!お母さん…?!」

 なんと、母の昭子あきこが、フライパンを持って助けに来たのだ。

 しかし…、

「きゃ~っ!」

 母の昭子あきこも、同じわなにかかって、り上げられてしまう…。

 すると今度は…、

「大丈夫か…?!颯太そうた…!佳奈子…!昭子あきこ…!助けにきたぞ…!」

「えっ…?!お父さん…?!」

 なんと今度は、父の幾太郎いくたろうが、助けに来たのだ。

 父は、その手に、のついた、細長い鉄板てっぱんのようなものを持っている…。

「お父さん、その手に持ってるのは、まさか…!」

「ああ。たい焼き機だ。一度に5匹焼ける…。そんな事より、お前たち、すぐに助けてやるからな…!まってろ…!」

 しかし…、

「うおぉ~っ?!な、なんだこれは~?!」

 父の幾太郎も、同じわなにかかって、り上げられてしまう…。

 そうして、佳奈子たち家族は皆、り上げられて、あみの中で「出せ~!」と、もがく…。

 すると…、

「ケケケケケ…!うまくいった…!こいつらを利用すれば…。ケケケケケケケ…!」

 そう言って、悪者わるものたちが笑うのだった…。


「………。それはマズいよ…。次はきっと、おばあちゃんだ…。それで、その次は、おじいちゃんで、その次は、タマちゃん…、その次は…!」

 佳奈子は、広がっていく被害ひがいを想像する…。

「こら!佳奈子…!勝手かってにアタシがつかまるって、決めつけるんじゃないよ…!」

 絹代は、佳奈子の考えを見抜みぬいて怒る。

「えっ?!あっ…!ごめん…。そうだよね…。おばあちゃんが、そう簡単かんたんつかまるはず、ないもんね…。よかった~!」

 佳奈子は、ホッ…と安心する。

「まったく…。だが、お前にも、かるだろう…?そうなったら、マズいって…。だから、慎重しんちょうな九尾は、そうならないよう、情報を集めることにしたんだ…。これは、自分たちをおとしいれるためのわななのか…。それを調べたうえで、なぐり込みに行くためにね…」

「おお~!なるほど~!」

 佳奈子は、感心する。

「キツネ族は、すぐに動いて、情報を集めた…。すると、伊氏これうじのヤツが、櫻未さくらびさまを使って、夜のあかりになる妖怪を集めていることが、すぐにかったんだ…。すでに、伊氏これうじ悪名あくみょうは、世間に、知れわたっていたんだよ…」

「うわぁ…。いやだ~。そんな先祖せんぞ…」

「ああ…。アタシもだよ…。だが、そんな先祖ばっかりじゃない。立派なご先祖さまだっていたんだ…。その事を忘れるんじゃないよ…」

「あ、うん…。そうだよね…」

 佳奈子は、気分きぶんを持ちなおした。

「…話が少しそれたね…。外伝がいでんの話に戻すよ」

「あ、うん…!」

「そうしてキツネ族たちは、伊氏これうじの情報を知った…。火属性の妖怪を集めている事や、式神しきがみとして、天降女あもれおなぐ櫻未さくらびさまをしたがえていること…、交渉こうしょうを、まともにするべき相手じゃ、ないって事をね…」

 絹代は、静かな声で話を続ける。

「だが、キツネ族たちが、一番知りたかったのは、拉致らちされた子供の、安否あんぴだったんだ…。当然だね…。いざ、助けに行ったとき、その子に、解除かいじょ不能ふのうじゅつでもかけられていたら、大変なことになるからね…」

「解除不能の術…?…ハッ…!それって、つまり…」

 佳奈子は、その状況を想像する…。

「助けに来たよ…!颯太そうた…!」

「父さんも来たぞ…!」

「お母さんもよ…!もう大丈夫だからね…!颯太…!」

 そう言って、佳奈子たち3人は、とらわれている颯太そうたもとにたどり着く…。

 しかし…、

「お前たち…!そこを動くな…!動けば、そいつにけている爆弾ばくだんを、爆発ばくはつさせるぞ…!」

 そう、悪者わるものたちが言う。

「なっ…?!爆弾ばくだん…?!」

 見ると、颯太そうたの体には、なんと爆弾が巻きけられていたのだ…。

「ケケケケケ…!その爆弾は、お前たちじゃ、解除かいじょできないぞ~!爆弾を爆発ばくはつさせられたくなかったら、おとなしく、つかまりな~!ケ~ケケケケケ…!」

「くっ…!くっそ~!」

 そうして、佳奈子たち3人は、動けなくなり、悪者わるものたちに、次々とつかまってしまうのだった…。

「………。それはマズいよ…」

「あ?」

 佳奈子のつぶやきに、絹代が反応する。

「次はきっと、おばあちゃんだ…。それで、その次は、おじいちゃんで、その次は、タマちゃん…、その次は…!」

「~~~っ!佳奈子~!」

 ゴチン…!

 佳奈子の頭に、鉄拳てっけんが落とされた…。

「~~~っ!」

 佳奈子は痛みで、うずくまる…。

勝手かってに人をつかまるって、決めつけるんじゃないって、言っただろうが…!いいかげんにしな…!」

 絹代は、そう言って怒る。

「うう~っ…。ごめんなさい…」

 佳奈子は、素直すなおにあやまった…。

「まったく…!次、同じことを言ったら、ただじゃおかないよ…!」

「はぁい…」

 佳奈子は、再びあやまった…。

「はぁ…。で、どこまで話したっけ…?からなくなっちまったよ…」

「…キツネ族が、拉致らちされた子供の、安否あんぴを知りたがってた、ってところまでだよ…。解除不能の術が、かけられている可能性もあるからって…」

「ああ…。そうだったね…。じゃあ、続きを話すよ。…キツネ族たちは、子供の状況を知りたかった…。だが、さすがにそこまでは、外には聞こえてこなかった…。だから、内部の情報を知るために、伊氏これうじの元に、密偵みっていを送り込むことにしたんだよ…」

「ええっ?!密偵みってい…?!それって、スパイのことだよね…?!うわぁ~!なんかドキドキしてきちゃった…!外伝って、そんなお話だったんだ~!」

 佳奈子は少し、わくわくする。

 それもそのはず、佳奈子は、スパイ映画が、結構けっこう、好きなのだ。

 この1970年には、すでに、スパイ・アクション映画として有名な、あの「007シリーズ」が、日本で、6作品も上映じょうえいされており、大ヒットしていたのだ。

 ちなみに、1967年に公開された映画「007は二度死ぬ」は、日本を舞台ぶたいとしていることで、有名である。


「ああ。外伝は、正義のスパイが、活躍かつやくする話だよ。…んじゃ、話の続きに戻っていいかい…?」

 絹代は、佳奈子に聞く。

「うん…!早く、続きを聞かせて…!」

「ああ、わかったよ…。…九尾たちは、情報を得るために、密偵みっていを送り込むことにした…。けど、その事に伊氏これうじが気づいてしまったら、その密偵の命が危ない…。しかも、これは、キツネ族をおとしいれるためのわなかもしれない…。その可能性を考えた九尾は、キツネ族以外の妖怪に、伊氏これうじ屋敷やしきの、内部調査をたのんだんだ…。キツネ族とのかかわりが、すぐにはからない妖怪にね…」

「キツネ族以外の妖怪…?」

「ああ。この伝承の本編を読んだとき、おかしいと思ったところはなかったかい…?」

 絹代は、そう聞いてくる。

「えっ?おかしいところ…?う~ん…。特には、思いあたらないけど…」

 佳奈子は、話を思い返すが、特に、変だと思ったところはなかった…。

「はぁ~。まったく、お前は…、退魔師だってのに、妖怪の知識がりないねぇ…。本編で、櫻未さくらびさまが、火属性の妖怪に、水をかけるよう、伊氏これうじに命令されていた場面があったろう…?」

「えっ?あ、うん…。それはもちろんおぼえてるよ…?…ひどい話だよね…。火属性の妖怪に、弱点の水をかければ、弱って、きずになるかもしれない…。ひどければ、死んじゃう事だってあるのに…」

「ああ…。だが、火属性の妖怪の中には、雨の日を好んで動き回る火の玉みたいに、水に耐性たいせいを持つヤツらもいる…。だが、天降女あもれおなぐの作り出す水は、普通の水とは違う…。だから、よっほどの水耐性たいせいがなければ、体にはがいがでちまう…」

 絹代は、そう妖怪について話す。

「そして、そのことには、九尾も気づいていたんだよ…。内部調査するために、伊氏これうじが欲しがっている、火属性の妖怪を送り込むにしても、天降女あもれおなぐ櫻未さくらびさまがいるかぎり、命の危険性が高いってね…。だから、九尾は、送り込む密偵の安全も考えて、火属性と水属性、両方を、持っている妖怪に、調査を頼んだんだ…」

「えっ?!火属性と水属性、両方を、持っている妖怪…?!そんなのいたっけ…?…一体だれのこと…?」

 佳奈子は考えるが、からない…。

「はぁ~。ここまで言ってもわからないか…。佳奈子、お前は、退魔師なんだから、もっと妖怪について勉強しな…!」

「うっ…。ごめんなさい…。…それで、一体、だれなの?その妖怪って…」

「はぁ…。仕方ない、教えてやるよ…。…ブナガヤさ…」

「ブナガヤ…?あっ…!そうか…!ブナガヤって、火を使う妖怪なのに、普段は、川底かわぞこに住んでるんだっけ…?!しかも、水の上を歩いたりもできる…。だから、火属性なのに、水属性…!そういうことか~!」

 佳奈子は、納得なっとくする。

 ブナガヤは、赤い髪をした、人間の子供のような姿をした妖怪である。

 平和と自然を愛し、森を守る存在とされ、自然環境がいい、森の奥で暮らしている…。

 釣りが大好きで、いたずら好きの妖怪である。

 ブナガヤは、普段、森にある川底かわぞこに住んでいて、保護色ほごしょくで、姿をかくしているといわれている。

 そのため、川底で眠っているブナガヤの姿は、人に見えないので、川に遊びにきた人が、あやまって、寝ているブナガヤをんでしまうことがある…。

 すると、ブナガヤは怒って、「ブナガヤ火」と呼ばれる火の玉を放ち、その相手に仕返しかえしをして、ヤケドをさせてしまうと言われている…。

 しかし、自分たちや、森に危害が加えられないかぎり、ブナガヤは、普段、とてもおだやかで、優しい性格の妖怪だと言われている。

 普段は、人間をがいすることがないどころか、漁師りょうしに、大漁たいりょうをもたらしてくれたり、材木を運び、家を作る手助けをしてくれたり、ケガした人や、漁師りょうし背負せおって、水面を歩き、運んでくれたりもするなど、こまった人を助けてくれた、という伝承は多い…。


 そんなブナガヤは、さまざまな能力を持っている。

 有名なのは、ブナガヤ火と呼ばれる、火をはなつ能力だが、川底かわぞこに住み、水辺みずべでの生活を愛するブナガヤは、水辺の清らかさを守る、水の守り神としても知られている。

 そのため、浄化じょうかの能力や、治癒ちゆの能力を持っているともされ、ケガや病気を、なおすことが出来ると言われている。

 また、水面を歩くことができ、さまざまな姿に変わることもできる。

 さらに、怪力かいりきを持っていることでも有名である。

 他にも、森で、人をまよわす幻覚げんかくの能力や、植物の成長を助ける力、さらには予知能力までも、持っていると言われている…。


「…考えてみると、ブナガヤって、すごい妖怪だよね…」

 佳奈子は、つぶやく。

「そりゃそうさ。沖縄では、ブナガヤは、精霊せいれいとして、今も信仰しんこうされてるんだから」

 絹代が、当たり前のように言う。

 そう、妖怪には、精霊や、神様のお使いと呼ばれる者や、ずばり、神様そのものとして、まつられている者がいるのである。

 日本では、妖怪と、神様との境界きょうかいは、とても曖昧あいまいだ。

 たまに、恩恵おんけいを与えるのが神で、わざわいをもたらすのが妖怪だ、と言う人がいる…。

 しかし、妖怪の中には、座敷ざしきわらしのように、ふくを与えてくれる存在もいる…。

 そして、神の中には、貧乏神びんぼうがみや、疫病神やくびょうがみのように、人々にわざわいをもたらす存在もいるのだ…。

 ただし、貧乏神や、疫病神は、丁重ていちょうまつることで、災いを退しりぞけてくれる、福の神に変わる…、と言われている。

 つまり、妖怪も神も、人間に対して恩恵おんけいを与えることもあれば、災いをもたらすこともあるのである…。

 そのため、妖怪と神との線引きは、とても難しいのだ…。

 さらに…、かつて人々に信仰しんこうされていた神が、信仰を失い、妖怪と見なされるようになることもある…。

 逆に、人々が、特定の妖怪を、おそうやまうようになって、妖怪が、神としてまつられることもある…。

 その時代、時代によって、妖怪への見方は、大きく変わっているのである…。


「…そっかぁ…、ブナガヤは、精霊信仰されるくらい、すごい妖怪なんだね…。九尾は、そんなブナガヤともしたしかったんだ…?調査を、依頼するくらいだもんね…?けど、九尾とブナガヤがしたしかっただなんて、全然知らなかったよ…」

 佳奈子は、少し驚く。

「ああ。九尾は、知略ちりゃくすぐれた妖怪だからね…。あらゆる事態じたいを想定して、他種族の妖怪や、人間たちとも、交友関係を作っていると言われているよ…」

 絹代は、この世界の、九尾情報を語る。

「…それって、なにかあった時のために、友達を作ってるってこと…?…なんだかなぁ…」

 佳奈子は、微妙びみょうな気分になる…。

「ん…?」

「だって…、友達って、なにかの保険で作るものじゃないよね…?ただ、一緒にいると、楽しいから、友達になるんじゃないの…?」

 佳奈子は、そう思う…。

「もちろん、それが一番さ。ただ、そんなに気が合わなくとも、つきあいをする必要もある…。そういうのは別に、悪いことじゃないんだよ…。たとえば、洪水こうずいとかの災害さいがいが起こった時や、不審者ふしんしゃがうろついていた時なんかに、自分の被害を防ぐためにも、その情報を教えてもらえるように、近所きんじょづきあいを、しといた方が、安全だろう?」

「えっ…?あっ、な~んだ…、そういうことかぁ~」

 そう、ご近所づきあいや、ママ友たちの関係が、まさにそれと言えるだろう。

 おたがいに、情報交換をしあって、地域で、災害が起こったときの対策たいさくや、防犯ぼうはん意識を高める、大変、有益ゆうえきな協力関係である。

 けれど…、ママ友や、ご近所づいあいは、つき合うのが苦しいとか、イヤで仕方ないとか、悩んでいる人が多いとも聞く…。

 価値観かちかんが合わない人たちと、無理に仲良くしようとすると、些細ささいな事がきっかけで、トラブルに発展はってんする事もあり、精神的な、ストレスになる事もある…。

 そして過度かどなストレスは、精神的なやまいを引き起こすだけでなく、その人の体の、血流けつりゅうを悪くしたり、免疫力めんえきりょくを低下させて、肉体的な、様々な病気を引き起こすことでも知られている…。

 そうやって、大きな病気にかかってしまえば、仕事や、日常生活が、ままならなくなってしまう…。

 これからの生活を考えれば、健康でいることは、とても重要だ…。

 だから、つき合いが、しんどすぎるのであれば、無理にすることはないのだ…。

 そもそも、ママ友や、近所づきあいは、必ずしも、必要な事ではない…。

 問題が起こった時に、自分で解決できたり、それを解決してくれる、家族や友人などの伝手つてがあるのであれば、ママ友や、近所づきあいの必要性は、それほど高くはない…。

 ただ、ママ友や、近所づきあいには、多くのメリットがあるのだ…。

 特に、災害時や、防犯対策として、大きな安全・安心を得ることが出来る…。

 だから、近所の人とは、何かあった時のために、り切った関係…、必要最低限の、挨拶あいさつ簡単かんたんな会話をわすだけでも、きっと安全や安心につながっていくだろう…。

 あと、もちろん、ママ友や、ご近所さんで、本当に仲がいい、友達どうしの人たちというのも、たくさんいる…!

 どうか誤解ごかいなきよう…!


「ああ。何かあった時のために、つき合いをするっていうのは、そういうのと、おんなじ事なんだ。だから、別に難しく考える必要はないんだよ。…それより、外伝の続きを話すよ」

「あ、うん…!」

「…そうして、色んな事態を想定したうえで、九尾は、ブナガヤに調査を依頼した…。頼まれたブナガヤは…「君は僕の友達だし、こまっているなら助けてあげる…!」と、こころよく、調査を引き受けてくれたそうだ」

「へぇ~。ブナガヤって、本当に優しいんだねぇ~。私も会ってみたいな~!」

 佳奈子は、ブナガヤに興味がわいた。

「願っていれば、いつかはかなうかもね。…じゃ、話を続けるよ」

「うん…!」

「…そうして、密偵みっていの仕事を、引き受けてくれたブナガヤに、九尾は、守りの術を、かけることにした…。伊氏これうじのヤツが、式神しきがみにするじゅつをかけてきても、式神には、ならないようにする術をね…」

「ああ…。そういえば、あったよね、そういうじゅつ…。けど、すごく難しいんでしょ…?それに、術を、絶対にふせげるわけじゃないって聞いたよ…?」

 佳奈子は、術を思い出す。

「ああ、その通りだ。だが、この術をやぶって、妖怪を式神にするのは、相当そうとう、難しいんだ…。まず、普通の術者じゃ、この術を破れない…。九尾のような大妖怪は、間違っても、式神には出来ないだろうね…」

「ふ~ん…。そうなんだ…」

 まだ、新米しんまいの佳奈子には、よく分からない…。

「…ま、お前にはまだ、妖怪を式神にする術は、早すぎるよ…。たとえ、任意型にんいがたの式神であったとしてもね…」

「…もぉ~。そんなのかってるよ~。…話の続き、お願いしま~す…!」

「ああ、分かった。…式神になるのを、ふせぐ術を、かけてもらったブナガヤは、伊氏これうじ屋敷やしき潜入せんにゅうするため、わざとつかまった…。式神になったふりをしてね…。この時代の、この辺の人間たちは、まだ、ブナガヤが、水属性を持っている事を、知らなかったんだ…。だから、ブナガヤは、伊氏これうじに、警戒けいかいされることなく、屋敷に潜入することができた…」

「ふ~ん…」

「そうして、ねらい通り、屋敷に潜入したブナガヤは、予想していたとおり、伊氏これうじから虐待ぎゃくたいを受ける…。櫻未さくらびさまに、水をかけられてね…。けど、水属性があるうえに、浄化の能力も持ったブナガヤには、なんの痛手いたででもなかった…。だが、痛がらないと、伊氏これうじ不審ふしんに思われる…。だから、ブナガヤは、痛がってるふりをしたんだよ…。いたずら好きのブナガヤには、それくらい、朝飯前あさめしまえの事だった…」

「おお~!そういう事だったんだ~?!全然、気づかなかったよ~!あはははは…!」

 佳奈子は笑う。

「バカだね…!笑いごとじゃないんだよ…!退魔師だったら、気づきな…!仕事に影響えいきょうするだろが…!」

「ひっ…!ご、ごめんなさい…!」

 佳奈子はあやまる。

「…まったく…!…続きを話すよ…!…そうして、潜入せんにゅうしたブナガヤは、他の虐待ぎゃくたいされて、きずを負った妖怪たちを、治癒ちゆの力でいやしながら、目的の子供の妖狐ようこを見つけ出した…。そして、変化へんげの術や、保護色ほごしょくで、姿をかくす力を使って、屋敷の情報を集めることに成功したんだ…」

「おお~!すごいね…!ブナガヤ…!」

 佳奈子は、ブナガヤに感心する。

「そうして、情報を集めたブナガヤは、九尾たちの所へ戻り、報告をした…。残念ながら、子供の妖狐ようこは、式神にされてるせいで、屋敷から出ないよう、命令されていて、れ帰ることが出来なかった…。しかし、伊氏これうじが死んだりすれば、あとは、なわを切るだけで、子供の妖狐は、解放されるだろう…、と言って…」

「ふんふんふん…」

「その情報を聞いた、九尾たちは、村に、殴り込みに行くことを決めた…。万が一にも、伊氏これうじを逃がさないよう、大勢おおぜいのキツネ族で、村を取り囲んでね…」

「うわぁ…。なんか怖いね…、それ…」

「ああ。…そうして、村を取り囲んだ九尾たちは、いよいよ村に、なぐり込もうとするんだ…。けど、そんな時、思いもよらない事態じたいが起こった…」

「えっ…?思いもよらない事態…?…あっ…!そうか…!分かった…!小鬼こおにでしょ…?!突然、村に、穴が出現しゅつげんして、小鬼こおにたちがき出してきたっていう…!」

 佳奈子は、伝承を思い出す…。

「ああ、そうだ。予想もしなかった事態に、キツネ族たちは混乱こんらんする…。小鬼は、キツネ族たちにも、攻撃してきたしね…。殴り込みの邪魔じゃまをされるかもしれない…。けど、村人たちは、小鬼への応戦おうせんいそがしいし、これは、子供を奪還だっかんするためのチャンスかもしれない…。九尾たちは、そうも思った…」

「うんうん。そうだよね~」

「それに、村人たちは、小鬼あいてに苦戦くせんしていた…。もしかしたら、戦力として、自分たちの子供を使うかもしれない…。そう危惧きぐした九尾たちは、やはり、このじょうじて、殴り込みをかけようと考えた…」

「う~ん…。それは、たしかに心配だもんね~」

「だが、そんな九尾たちに、ブナガヤが、待ったをかけたんだ」

「えっ…?ブナガヤが…?」

「ああ…。今は、殴り込みに、行くべきじゃないって言ってね…。ほら、ブナガヤには、予知能力があるだろう…?だから、その言葉を聞いた九尾たちは、殴り込みに行くのを、おくらせることにしたんだ…」

「へぇ~!そうなんだ~!」

「…ブナガヤは優しくて、平和を愛する妖怪だって言われてる…。だから、もしかしたら、情報を集める間に、村人たちが、悪い奴らばっかりじゃないってことや、虐待ぎゃくたいされていることを知って、かわいそうに思ったのかもね…。罪のない村人と、キツネ族…、その両方に傷ついてほしくないと思ったのかも…。それで、キツネ族たちを、止めたのかもしれないよ…」

「!そっか~!」

「…そうして、キツネ族たちが、様子見ようすみをしている間に、鬼たちは退治され、伊氏これうじのヤツは、櫻未さくらびさまに殺された…。そして、そのあと、すぐに村人たちは、伊氏これうじつかまえていた、妖怪たちを解放したんだ…。そうやって、子供を取り返したキツネ族たちは、怒りをおさめて、帰っていった…というわけさ…」

「ふぅ~ん…。外伝って、そういうお話だったんだ~」

 佳奈子は、伝承って、奥が深いな~と思ったのであった…。




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