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017 勇者の定義

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 ところで、勇者ってのは、ファンタジー世界では定番の主役だよな。あくまで俺の意見だが、たまには主役を立てる醍醐味だいごみを味わいたいものだ。プレイヤーはなるべく影にてっし、主役を裏で支える。たとえば軍師とか伏兵ふくへいとか、ふだんは仲間として迎えるキャラクターのシナリオを、プレイヤーとしてたどってみたい。売り文句が似たようなゲームを見かけて買ったこともあるが、思っていたのとちがった。

 そんながった考えを現在進行系でもっているからこそ、リージョンマスターの仕事は(割に合わない給与をのぞけば)うってつけだったのかもしれない。誰かの成長を後押あとおしするような、後方支援的なポジションは、俺の性格に合っていたようだ。他人であろうと、プレイヤーが夢を叶える瞬間に立ち会うと、けっこう感動するんだよな(プレイヤーの人格は別問題)。

 仮想空間である[リージョンフライハイト]では、欲求や欲望を無限に追い求めることができる。配信データを所有し、追加料金(強制ではない)を振り込めば、どんどん攻略可能イベントが増えていく。世界の一部として存在するプレイヤーとしては、欲求を満たすために謎を回収し、欠如けつじょしている部分を埋めていくという、使命感とも依存症ともいえる概念に捉われやすい。

 この手のゲームの強みは、個人が、全体の中に取り込まれてしまうことがない点であろう。わかりやすく言うと、プレイヤーの成長過程に差異があって当然のシステムにつき、共通の目的があっても、個性によってルートが分岐する。つまり、ゲームライフをいとなむうえで、不自由をいられることはない。それぞれに適したシナリオが発生し、獲得物が変化する。個別の意志が尊重そんちょうされるとはいえ、欲望のままにふるまうと、バッドエンドにつながるってオチだ。ただし、それが悪いというわけではない。好きなことを楽しんだ結果だからな。

 そもそも、仮想空間は自由度が高いうえ、法律に抵触ていしょくしないかぎり、プレイヤーの勝手が許される。ある意味、誰もが納得する終わり方なんてのは、逆に存在しないはずだ。

 さっきのファーレンも
 ぎり危なかったぜ……

 現実では周囲の目を気にして巻けないという[伝統下着ふんどし]を、ゲームのキャラクター(もうひとりの自分)に装備させることで満足感を得る。そこまでは本人の自由だ。べつに性癖せいへきが異常だとは思わない。しかし、そのままの姿では、勇者イベント時の負傷者ふしょうしゃを助けることができなくなる(クリアは可能だがベスト条件は満たせない)。残念ながら、あの恰好かっこうで村人に近づくと、助ける選択肢があらわれない。ここでいちばん重要なのは、自分の好きなことばかり優先しては、不都合がしょうじるという教訓だろう。

 勇者ってのは勇敢ゆうかんな者に対する称号らしいが、ちょいと無謀だと思わないか? ひとりで成し遂げた場合、与えられる称号は英雄ヒーローでいい。勇者は、仲間の支えがあってこそ成立する存在だ。少なくとも、俺はそう考えたい。

 勇者の定義は、自分の信念をつらぬくことではない。むしろ、自分とは無関係の場所で苦しむ人々のため、できることはないかと試行錯誤し、無条件で手を差しのべるやつらを、勇者一行と呼ぶにふさわしい。自分の利益など、相応の働きをすればあとからいくらでもついてくる。

 ……どうにも、うまくまとまらんな。勇者について思考をめぐらせると、行き詰まる。瞬間的な正義に、価値はないってことにしておくか。


✓つづく
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