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018 究極の二択
しおりを挟む──と、まあ、俺は勇者について(心の内で)長々と語っていたわけだが、そのあいだに[ファーレン]はドロニュルの撃退に成功し、次なる選択肢に頭を悩ませ中だ。究極の二択は、以下のとおりである。
→村人の生計を立て直す
→支援団体にお金を寄付する
上記のどこが究極なのかって? よく見ろ。どっちも、所持金を差しだす結果になるが、いくら引かれるか明確に表示されていない。これにはシステム上の都合があって、勇者イベントのフラグを立てたプレイヤーが、トータルでいくらもっているかで、引かれる合計金額が変わるんだ。もちろん一括払い。片方を選択した瞬間、所持金が大幅に減らされる。
……シビアだよな。これはゲーム内での復興対策だが、換金すれば現実で使えるゴールドコインを、ごっそりもっていかれる。また、せっかく貯めたコインを大量に置いていったとしても、クリア後は同じリージョンに移動できないため、差しだしたコインで復活を遂げた村のようすを確認することもできない。欲深いやつ(勘の鋭いやつ)は、選択肢の画面を見たあと、先には進まず、ログアウトする。手前のリージョンからやり直し、勇者イベントは無理に発生させない。俺のリージョンでは、他のイベントも楽しめるからな。勇者の称号に興味がないプレイヤーは、たくさんいる。
ファーレン、どうした
おまえは、勇者になりたい
んだろう?
迷う必要はないはずだ
困ってる人を見捨てるな
後方から勇者の誕生を見届ける俺には、まだやるべきことがある。ファーレンがどちらかを選んだあと、ふたたびバトルが発生する。勇者になるための最後の試練は、このリージョンを支配する影の悪役を倒すことだ。ファーレンの場合、この戦闘中に[伝説の剣]が手に入る。最初に手渡されるパターンもあるが、彼のフラグは少しちがっている。このゲームは、ムダに設定が細かい。
ファーレンのやつ、
長考してるな
チョイスに制限時間がないとはいえ、やけに頭を悩ませている。……単純にゲームを楽しみたければ、コインの消失を惜しむところじゃないぞ。時間はかかるが、またあとで好きなだけ稼げばいい話だ。ほしいものは安くなかったという件でしかない。
「うん? もしや、これって……」
画面を見つめる俺はハッとして、壁の時計へ視線を向けると、時刻は深夜0時をまわっていた。
「さては寝落ちしたな」
俺も若い頃よくやった。両親が寝静まったあと、部屋の電気を点けずこっそりゲーム機をセットして、時間を忘れて夢中で遊ぶ。そして、コントローラーをもったまま意識が飛んで、朝になる。ファーレンは、学生っぽいしな。さっきからまったく動かないし、こりゃ、選択画面越しにスヤスヤ眠っているとみた。
「リージョンマスターの行動パターンは、自動モードに設定できるが、それだと、ファーレンが勇者になる瞬間を見届けられん……」
とか言いつつ、いつもは自動モードにして放っておく。最初の頃は責任を感じていちいち対応していたが、リージョンマスターはNPC扱いになるため、自動モードという便利なスイッチが存在する。もっとも、スイッチを押した時点で、安達のブラウザにも通知がいく。俺をはじめとする管理人が、ただ今の時刻はオフモードであることを暗黙の了解で認識するためのシステムだそうだ。私生活を勘ぐられそうであまりいい気はしないが、24時間体制で連絡を取り合うよりマシだ。
「俺も寝るか」
いつファーレンが目覚めるか不明につき、自動モードにして終了するしかない。さすがに、四十路を過ぎると徹夜はキツイ。
✓つづく
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