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019 ソクセキメン
しおりを挟む朝からインスタントラーメンってのは、アリよりのナシだと思っていたが、最近はノンフライだの後入れの(薄味に調節できる)つゆがあるため、案外イケる。寒い冬の朝は、とくに美味く感じる。少ない手間と時間で調理できるしな。具材はその時々にあるものでオーケーだ。今回は瓶詰のメンマを冷蔵庫から取りだし、4~5本スープに浮かべる。メンマの原材料は、麻筍という種類のたけのこらしいな。しかも乳酸発酵させた加工食品なんだぜ。けっこう最近まで、なにも知らずに食っていた。
「いただきます」
のんきにラーメンをすすっていると、携帯電話の着信音が鳴り響いた。安達からだ。
「……もしもし」
まだ、早朝だぞ。と思いながら低めの声で応答すると、システムエラーの原因解明のため、今夜からあすの朝までゲームができなくなるとの連絡だった。朝イチで受信メールを確認しなかったが、プレイヤーには一斉送信済みになっている。ならば、ゆっくり過ごすまで。俺は「了解」といって、通話を終了した。配信後の人気は高まるいっぽうの[リージョンフライハイト]だが、裏では不具合の手直しに追われているようだ。
「そういや、ファーレンは無事に勇者イベントをクリアしたかね」
ログインして自動モードを解除すると、リージョンマスターだけが閲覧できる管理ページをひらく。(ピッ)
「おっ、ファーレン発見」
限定イベントをクリアした日付や時間、称号を手に入れたプレイヤーの名前が順番に載っている。見たところ、ファーレンは2時間前にベストクリアを達成していた。
「……あいつ、とちゅうで寝落ちしたくせに、サクッと勇者になりやがったな」
貴重品扱いの[伝説の剣]は装備可能につき、さっそく誰かに自慢してそうだな。能力値も、きのうより上昇しているはずだ。俺より一気に強くなったファーレンだが、ハッピーエンドは難しいだろう。……どうすれば胸クソを回避できるのか、俺も詳しくは知らない。
「メンテナンス情報を気にしてか、きょうはリージョン移動してくる連中が少ないな」
平日の朝でも、ぞろぞろやってくるプレイヤーの数が減っている。まあ、イベント進行中にフリーズされたら、迷惑だしな。あしたまで様子見といったところだろう。
色々な意味で、きょうは余裕ができた。ゲームのことばかり考えていると神経が疲れるし、変な夢をみてしまう。インスタントラーメンを食べ終わったら、三丁目の公園まで歩くか。たまには、ウォーキングもいいだろう。たしか、スポーツウェアがあったな。オレンジと黒いタイガーの刺繍が気に入って即買いしたが、サイズちがいの同じ服を着ている中学生が近所にいて、いくらも袖を通さず、衣装ケースに押し込んでしまった。量産品につき、同じ服を着ている男は全国にたくさんいるだろうが、どうにも気まずくなる。
「ふう、ごちそうさまでした」
即席麺の外装はプラスチックだ。専用のごみ袋に分別し、割箸は洗って再利用する。1回きりで捨てちまうのは、もったいない。どうでもいい話だろうが、ラーメンは細麺が好みだ。焼きうどんは太麺が美味いが、焼きそばは細麺だな。……奥が深いぜ(いきなりゾッとした)。
その後、スポーツウェアに着がえて公園で息抜きをした俺は、翌日、勇者イベントに再挑戦する[レンド]に声をかけられた。
✓つづく
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