スーツの下の化けの皮

み馬

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スーツの下の化けの皮

第6話

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 シュンシュンと、薬罐やかんが音を立てている。姫季はキッチンでコンロの火を消すと、食器棚からマグカップをふたつ用意した。しかし、インスタントコーヒーを淹れる予定を変更し、幸田の背後へ近づいた。すっ、と、首筋に指でれると、その感触に驚いた幸田が「なんだい?」と聞き返す。姫季は、少し考えてからこたえた。

「あんたをコーディネイトしてやるよ」

 唐突に断言すると、床に放置してある測定用のテープメジャーを拾いあげた。ぼんやりする幸田を見据え、「裸身はだかになれ」と指図さしずする。

「ひ、姫季くん?」
「早く脱げ」
「い、いきなりそんなことを云われてもだな……」
「男同士で恥ずかしがるなよ。さっさと全裸ヌードになれ」
「いやいや、俺たちは知り合ったばかりだし、こういうのは、ちょっと……」
「今どき、目が合えば親友で、口をきけば恋人同士だろ」
「初耳だ!」
「いいから脱げって。なんで抵抗すんの?」
「き、きみが未成年者だからだ」
「ちがうよ。二十歳はたちの誕生日なら過ぎてるし、酒や煙草たばこだって買える。……好きな男とは、セックスもする」
「す、好きな男? なんの話だ……」

 大学生に詰め寄られてたじろぐ、、、、幸田は、同性愛者ホモセクシュアルではない。やたら豪勢な手織絨毯のうえに押し倒されたが、その気になれば、細身の姫季くらい、突き返すことは可能だった。とはいえ、あまりにも予想外の展開につき、からだ硬直こうちょくした。そうこうしているうちに、何喰わぬ顔をした姫季から、ズボンのまえをひらかれた。

「待て待て、冗談にしてはタチが悪いぞ! 俺は珈琲を飲みに来ただけだ」
「インスタントでよければ、あとで淹れてやるさ。こっちも、遊びで男を誘惑するほど暇じゃない」
「まさか、本気だとでも云うつもりか?」
「幸田さんって、ヘテロ?」
「ヘテ……? あ、ああ、独身だがゲイ、、ではないよ」
「ふうん、女と経験は?」
「黙秘する」

 幸田が口をつぐむと、姫季は、くすッと笑った。下半身へ指で触れてくるため、幸田は「よせ」と、ことばで抗議する。

「……幸田さんがノンケ、、、なのは、わかったよ。……下着はそのままでいいから、ウエストとヒップだけ測らせて」

 あくまで、私服センスのない幸田のための行動につき、姫季の下心したごころは不確かである。だが、下手に抵抗するより、いさぎよく脱いでしまったほうが無難な気がした幸田は、妥協だきょうすることにした。ブロードシャツの釦を解いてタンクトップ姿になると、ズボンも脱いでカウチソファへおいた。

「……これでいいか?」

 ネイビーのトランクスを見た姫季は、「やっぱりおっさん、、、、だな」と、わざとらしく肩をすぼめた。テープメジャーで胴まわりを測りながら、「下着はボクサーブリーフにしなよ」と、アドバイスする。

「ボクサーって、あの水着みたいなやつだろう? 俺は、フィット感のある肌着は苦手なんだ」
「だったら、メッシュ生地のレギュラーライズを買えばいいだろ。股下の長さがあるから食い込みにくいし、前開きもある。トランクスと同じで、臍下へそしたまで生地が当たるぜ」
「そうなのか?」
「知らないのかよ」
「ずっとトランクス派だったからな……、っと!?」
「ヒップを測るんだよ」

 姫季は床へひざをつき、きわどい部位にテープメジャーを巻きつける。学生の目の高さに局所が位置する幸田は、股間がそわそわした。


✰つづく
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