スーツの下の化けの皮

み馬

文字の大きさ
上 下
41 / 93
スーツの下の化けの皮

第38話 ※イラストあり

しおりを挟む
[姫季視点より]


 時間軸は少し巻きもどり、沢村が姫季のマンションへおとずれたあとの週明けのことである。大学の玄関ホールで彼女を待ち構える沢村は、複雑な心境だった。

「……くそぉ、ヒメキは平常心が大事だって云ってたけど、こんなモヤモヤした気持ちで、ともえと話し合いなんてできるのか?」

 先週の夜、ビジネスホテルから見知らぬ男と彼女の巴が出てきたところを目撃してしまった沢村は、ここ数日、気分が落ちつかない。

「……あぁ、もう、くそっ。なんでおれが緊張してんだよ。もとはといえば、巴のせいだろーが! あぁ~っ、まだかよ~」

 待ち人来びとこずの状況がれったく感じる沢村は、そこへ(偶然)通りかかった石津と目が合った。いつも数人の女性に囲まれて歩く(というか、勝手についてこられる)ため、悪目立ちする学生である。しかし、ファッション誌のグラビア取材を受けるほど、容姿の見栄みばえはよかった。芸術学部のカリスマ的存在で、カラーコンタクトレンズの瞳の色は、イノセントアッシュである。沢村は目を逸らしたが、なぜか石津のほうから近づいてきた。

「たしか、おまえはつかさの友人だったな」
「え? あ、はい。沢村です。ヒメキとは1年のときに知り合って、同じテキスタイルデザインコースで学んでます……」

 士とは、姫季の名前である。ずいぶん気安きやすく呼びつけているが、大学で姫季と石津が親しげに接する場面を見たことない沢村は、少し眉をひそめた。目当ての巴がなかなか姿をあらわさないため、石津との会話を続けた。

「あの、石津先輩……ですよね。こっちからも質問していいですか?」
「どうぞ」
「ヒメキとは、……その、どういう関係なんですか?」
「本人は、なんて?」
「本人?」
「あいつから、何も聞いてないのか」
「……はい」
「気になるなら、士に聞けよ。おれは、あいつをゆるしたわけじゃないからな」
「赦すって、なにを……」

 ことばの途中で、展示室の石膏像を思いだした沢村は、背中につけられた傷のような線が気になった。

「……まさかな?」

 不吉な予感がした沢村は、きびすをかえす石津のうしろ姿を、神妙な顔で見つめた。


✰つづく


※あまり丁寧ではなく恥ずかしいのですが、イメージの参考になればと思い、載せてみました(汗)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に行ったらオカン属性のイケメンしかいなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:199

不運が招く人間兵器の異世界生活

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:204

翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:90

Domな俺の総攻めライフ

BL / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:318

人には見えないものが見える俺は精霊王

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:39

秘密の男の娘〜僕らは可愛いアイドルちゃん〜 (匂わせBL)(完結)

Oj
BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:8

処理中です...