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スーツの下の化けの皮
第40話
しおりを挟む大学内倉庫の姫季から救済信号が送られる中、職場のデスクで火傷の痕を眺めていた幸田は、「まいったな」と、溜め息がでた。
「やっぱり、痕が残っちゃいましたか?」
昼休憩を終えた三井がデスクの前までやって来て、幸田の予後を気にかけた。手のひらの火傷は、表皮に加え真皮まで障害が及んでいたが、病院では浅達性と診断され、うっすらと線のような赤い色素沈着が残された。火傷は時間とともに進行することもあり、目だけで状態を判断せず、早めに医療機関を受診すべき熱傷である。
「パッと見では、そこまで目立たないだろう?」
幸田が右手を裏返して差しだすと、三井がのぞき込んでくる。
「そうですね。ちょっと皮膚が赤く見えますが、重度っぽくはないです。まだ痛みますか?」
「いいや、痛みはないよ。あれから2週間も経っているからね。ステロイド外用剤も使い切った」
「形成外科で植皮手術とか受ける手もありますが……」
「おおげさだな。芸能人ではあるまいし」
「まあ、そうですよね……。女優とかだと、火傷の痕なんて残ったら撮影とか大変そうですけど……」
云いながら、三井の視線はデスクにおかれたファッション誌へ向けられた。
「これかい?」
「幸田さんがファッション誌を読むなんて、意外ですね」
「俺もだよ。こんなもの、初めて買った」
「そうでしたか」
「似合わないか?」
「いえいえ、そんなことはありません。むしろ、幸田さんは背が高いほうですし、もっと冒険して良いと思います!」
拳をつくって力説する三井だが、お世辞の可能性もあるため、幸田は苦笑いした。容姿に自信があるわけではないが、躰つきの面では平均値をキープしている。身長に至っては、先月に実施された健康診断の結果、この年齢になって、さらに1センチ伸びていた。たんなる誤差かもしれないが、180センチと表記された欄を見たとき、なぜかうれしい気分になった。もとより、179センチで成長が止まってしまったので、なんとかキリがよい数字を目ざし、牛乳を飲み続けた過去がある。
火傷は完治したが、まだ姫季に知らせていない幸田は、少し迷っていた。じきに夏休みが始まるため、互いに時間の余裕が生まれるはずだ。今すぐホテルへ誘うより、旅行の計画を持ちだすべきか、正解を択べずにいた。
✰つづく
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