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第92回[捌け口]
しおりを挟むからだの内部にたまったものが外部へ散らばって出る瞬間、快感は最高潮に達し、しばし恍惚とした意識状態になる。通常とは異なる事柄に心を奪われることで、精神面へも浄化作用がはたらき、人間は自分らしさを拡散してこそ、社会における立場を考えることができる。
実験的に様々なものに触れ、ときには傷を負うことで、自分が選んだものの矛盾を感じ取り、失敗を通じて社会が求める方向へ関与し始めていく。集団や価値と合わない他者への反目は、分裂という問題を引き起こし、それがあまりにもこうじてしまうと、病的な状態に陥ってしまう。したがって、場面によって自分を演じる適応能力を発揮でるようになれば、良好な相互関係を行ったり来たりすることが可能である。単純にいえば、何事も塩梅や折り合いをつけることが重要であり、無心になったほうが利口なのだ。
ストリップ劇場へ足を運び、一夜かぎりの情欲に溺れる連中は、明日への活力を獲得するため、紙一重のところで社会とつながりを持っているといえた。
酒のはいった嵐は、頬が紅くなっている。新人のストリッパーらしいが、礼慈郎の目には飛英よりも幼く見えた。短い髪型をしており、項にほくろがふたつ並んでいる。
「それくらいにしておけ。」
グラスにのばした腕を礼慈郎に遮られた嵐は、一瞬目を丸くしたのち「はぁい」と、酔いのまわった口でこたえた。礼慈郎は近くを通りがかった清掃係へ花園の所在を訊ねた。すると、「どなたですか?」と逆に質問を受け、経営者が変わっていることを確信した。
英を身請する際、手渡された書類には病歴を記入する欄があり、空白ではなかった。飛英の健康状態について、花園は額に先天性の良性腫瘍ありと、書きとめている。飛英いわく、生まれつきだという黒い痣は、礼慈郎の関心を損ねる原因とはならず、当初から(そこまで)気にしていなかったが、淫呪の血による遺伝的な特徴であれば、劇場に身を寄せていたときに何か変わったようすが見られたかどうか、確認しておきたかった。万が一、飛英の二面性を知る者がいた場合、口止め料を渡す必要がある。
✓つづく
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