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勤め先はどんな場所2
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私は一度も竜を見たことがない。
絵物語で見て、想像することしかできなかったのだけど、そういったイメージとさほど変わらない竜だ。
見た目はトカゲに翼が生えている生き物。うろこが白くて固そう。あちこちごつごつして頭にも角が三本もある。
「本物……?」
呼吸をしているようには見えない。そもそも竜は呼吸が必要なのか知らないけど。
だから置物なのかしら?
「……これ、魔術師が置いたのかしら?」
だとしたら、わざわざ砦の中庭、中央という目立つ場所に竜を置いているのは、試験の一つという可能性がある。
これを怖がっているようでは、奥の主塔にも行けないし、通えないから解雇になっても仕方ない。
「なら、避けて行くしかないわ」
私としては、できれば雇ってもらいたいのだ。
私はおっかなびっくり卵を迂回することにした。
この竜が生きていたとして、動き出したら避けられるわけもないのだけど、なんとなく壁際を進む。
卵を割って出て来るのだろうから、その間ぐらいの時間があれば、砦の内部へ逃げ込めるかもしれないと思ったから。
そろりそろりと移動をして、なんとか竜の背後にあたる主塔の前までやってきた。
ほっとする間もなく、私は主塔の前の光景に目をまたたいた。
そこには、オレンジ色の花が咲いていた。
主塔の扉の近くが、ちょっとした花壇のようになっていて、そこに咲いているのだ。
誰かが育てているのは間違いない。
ただ上手く育っていないのか、やや元気がなく、まばらな生え方をしていた。
注目すべきはそこではないのかもしれない。
「見たことない……」
オレンジ色の五つの花弁は、普通の物ではなかった。半透明の硬質な花弁。
まるで、宝石を薄く削って作ったような美しさだ。
「これは植物?」
初めて見た。伯爵令嬢だし王宮にも出入りしていたから、けっこう珍しい物も目に触れていたのだけど……。
花が咲くところを見てみたいな。そんなことを思いながら花に触れると、すっと自分の中から魔力が抜けるような感覚と引き換えに、花がふわんと金色に輝く。
「え!」
ぽんとはじけるように金色の輝きが弾けたかと思うと、ふいにその花が成長し出す。
宝石のような緑の茎が太くなり、葉の生え際から新しい枝が伸び出す。
それだけではない。その花の周囲からも急に土から芽吹き、伸びて行き、あれよあれよという間に、何本もオレンジ色の花を咲かせていた。
「私のせい?」
いつも雑草が無作為に生えていた、私の魔法。
この鉱石みたいな綺麗な花なら、意図的に増やせるのかしら。
もう一度確認したいけど、ためらう。
「魔術師が関与している場所で育てている希少な花ですもの。今のはたまたまで、変に触れたら枯れてしまったら大変だものね」
とにかくこの砦の主に挨拶しよう。
そう思って立ち上がった時だった。
小さな光を感じて振り向けば、青い球体のような光の環が現れたかと思うと、人の姿に代わり、ぶわっと風が吹きつけてくる。
紺色のローブが風に大きく翻った。
さらりと流れる銀の髪も。
そうして彼の瞳が、私に向けられる。
首元で結った銀色の髪。外見からすると二十歳ぐらいだと思う。
彼は、間違いなく王宮で会った魔術師ジュリアンだ。
藍色のローブのはためきが静まると、彼はじっと私を見て、なにか言いかけたところで私の足元に視線を向ける。
何か踏んではいけないものでもあった? と驚いて見ても、そこには花壇のオレンジ色の花が揺れるだけだったけど。
「花が……増えてる?」
彼は少し顔をしかめた。
絵物語で見て、想像することしかできなかったのだけど、そういったイメージとさほど変わらない竜だ。
見た目はトカゲに翼が生えている生き物。うろこが白くて固そう。あちこちごつごつして頭にも角が三本もある。
「本物……?」
呼吸をしているようには見えない。そもそも竜は呼吸が必要なのか知らないけど。
だから置物なのかしら?
「……これ、魔術師が置いたのかしら?」
だとしたら、わざわざ砦の中庭、中央という目立つ場所に竜を置いているのは、試験の一つという可能性がある。
これを怖がっているようでは、奥の主塔にも行けないし、通えないから解雇になっても仕方ない。
「なら、避けて行くしかないわ」
私としては、できれば雇ってもらいたいのだ。
私はおっかなびっくり卵を迂回することにした。
この竜が生きていたとして、動き出したら避けられるわけもないのだけど、なんとなく壁際を進む。
卵を割って出て来るのだろうから、その間ぐらいの時間があれば、砦の内部へ逃げ込めるかもしれないと思ったから。
そろりそろりと移動をして、なんとか竜の背後にあたる主塔の前までやってきた。
ほっとする間もなく、私は主塔の前の光景に目をまたたいた。
そこには、オレンジ色の花が咲いていた。
主塔の扉の近くが、ちょっとした花壇のようになっていて、そこに咲いているのだ。
誰かが育てているのは間違いない。
ただ上手く育っていないのか、やや元気がなく、まばらな生え方をしていた。
注目すべきはそこではないのかもしれない。
「見たことない……」
オレンジ色の五つの花弁は、普通の物ではなかった。半透明の硬質な花弁。
まるで、宝石を薄く削って作ったような美しさだ。
「これは植物?」
初めて見た。伯爵令嬢だし王宮にも出入りしていたから、けっこう珍しい物も目に触れていたのだけど……。
花が咲くところを見てみたいな。そんなことを思いながら花に触れると、すっと自分の中から魔力が抜けるような感覚と引き換えに、花がふわんと金色に輝く。
「え!」
ぽんとはじけるように金色の輝きが弾けたかと思うと、ふいにその花が成長し出す。
宝石のような緑の茎が太くなり、葉の生え際から新しい枝が伸び出す。
それだけではない。その花の周囲からも急に土から芽吹き、伸びて行き、あれよあれよという間に、何本もオレンジ色の花を咲かせていた。
「私のせい?」
いつも雑草が無作為に生えていた、私の魔法。
この鉱石みたいな綺麗な花なら、意図的に増やせるのかしら。
もう一度確認したいけど、ためらう。
「魔術師が関与している場所で育てている希少な花ですもの。今のはたまたまで、変に触れたら枯れてしまったら大変だものね」
とにかくこの砦の主に挨拶しよう。
そう思って立ち上がった時だった。
小さな光を感じて振り向けば、青い球体のような光の環が現れたかと思うと、人の姿に代わり、ぶわっと風が吹きつけてくる。
紺色のローブが風に大きく翻った。
さらりと流れる銀の髪も。
そうして彼の瞳が、私に向けられる。
首元で結った銀色の髪。外見からすると二十歳ぐらいだと思う。
彼は、間違いなく王宮で会った魔術師ジュリアンだ。
藍色のローブのはためきが静まると、彼はじっと私を見て、なにか言いかけたところで私の足元に視線を向ける。
何か踏んではいけないものでもあった? と驚いて見ても、そこには花壇のオレンジ色の花が揺れるだけだったけど。
「花が……増えてる?」
彼は少し顔をしかめた。
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