剣術だけでギルドの魔法使いたちをぶった斬る -禁欲の呪いのせいで世界唯一の魔法が斬れる剣術を覚えました-

座佑紀

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第13話 - 労働街エナハ シャロの事情

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 妖精とは即ち、妖精国に住まう、超常の存在。
 与えるモノ。崇められるモノ。畏れられるモノ。
 人間とは文字通りステージが違う。なので、互いが結ばれることなどあるはずがない。
 なのに、どういうわけだか。妖精の中でも特別な、貴族の血を引く一族――貴種の一種である【純白の翅族】の一人の女が、突如、妖精国から出奔し、人間と結ばれた。そして二人は愛し合い、子を成した。

「ねぇ、おとうさん。おかあさんって、どんな人?」

 幼いシャロは、事あるごとに父にそう尋ねた。父は、困ったように笑い、いつもはぐらかして、詳しいことはなにも語らなかった。

 シャロが物心ついたときから、家族は常に、ひっそりと生きていた。
 何かに怯え、見つからないように生きることが第一だった。
 過去を語らない父であったが、妖精の母は既に亡くなっているらしいことは、明かしていた。
 なのでシャロは、人間の父と、姉と、この一族に付き従う数名の従士と共に、森の奥の小屋で、慎ましやかに暮らしていた。

「おとうさんは、どうしておかあさんと、一緒になったの?」

 素朴で、純真な好奇心の質問に。父は珍しく答える。

「お互いが特別だったからさ。それ以上の理由なんて、ないんだよ」

 父のことを、どこかの国の王子であったとか、ギルドの幹部であるとか、強大な魔力を秘める戦略級の兵士であるとか、そんな風に噂する者もいた。
 だが、シャロから見ても、父はただの父であり、それ以上のなにかなんて、気にすることでもないのだと、思っていた。
 
 そんな、のどかで、退屈で、でも、平和だった毎日は、突然破られた。

 シャロが成長したある日。突然ギルドの兵たちが、森に攻め込んできた。
 名のある妖精一族の末裔であったが、所詮人間と交わったまがい物。強力な魔法が使えるわけでもなく、従士も数名しかいない。戦力差は圧倒的で、ひたすら逃げることしかできなかった。

 このときの混乱を、シャロはよく覚えていない。

 気が付けば、従士は老人と男と女の三名しか残っておらず、姉はギルド本部に連れ去られたという。
 そして、父は――命を落としたと、聞いた。

========================

「……そうか。まぁ、そうだな。残念だが、。それで君はギルドから追われ、逃げ回ってるってことか」
「逃げる? 違うわ。冗談じゃない」

 決然と、レウの推測を、否定するシャロ。彼女の瞳は、覚悟の炎が揺れていた。

「お姉ちゃんを、私が取り戻すの。この手で。逃げ回るだなんて、冗談じゃない」
「……僕が言うのもなんだが、随分、無謀なことを言うんだな。ギルドは、君たちを追っているんだろう? なのにむしろ、そんな組織の本部に突っ込もうというのか? 豚が自らキッチンにやってくるようなもんじゃないか」
「【劣化模造《デッドコピー》】――【不破魔城の絶壁ダークムーン・スフィア】」

 少女が唐突に、そう唱える。
 すると、彼女の掌の先に、小さな黒い塊が出現した。
 それは、ダイオンが身に纏っていた無敵の魔法と、同じものであった。
 何故、シャロがそれを使えるのか。
 驚きに目を丸くするレウに、シャロは説明を続けた。

「私たちは、腐っても【純白】の末裔。特殊な、魔法の特性を受け継いでいる。それは、保存と記憶。つまり、他者の魔法を覚えることができる。……生きる魔導書、ということね。まぁ、性能そのままで真似ることはできない。かなり劣化した魔法になっちゃうんだけど」

 それが、昨日の爆発を防いだ理由であった。
 ダイオンの防御魔法を展開し、二人を包み込んだのだ。
 だが、彼女の言う通り、手の先に出現している黒い塊は、本物より、ひどく脆く見えた。きっと、レウの刃であれば通じてしまうだろう。

「なんでもかんでも覚えられるわけでもない。死に行く人が手放した妖精文字に触れれば、覚えられる、という程度の力。こんな、器用貧乏みたいな力、私たちはなんとも思っていないんだけど」

 そう言ってシャロは、開いていた手のひらを、ぎゅっと握りしめた。

「でも、あいつらが私たちを狙ったのは、これが理由。この力を使って、何かをしようとしている。ただ逃げているばかりじゃ、きっと何かが手遅れになる。そうなる前に、私が、なんとかしないと。そうじゃないと、これまでの犠牲が、無駄になる」

 悲壮な決意であった。絶望的な窮地ではあるが、前を向こうとすると、巨大な壁が立ちはだかっている。
 彼女はそれに挑もうと言うのだ。並みならぬ覚悟で、口にできることではない。

 ――あのときの老人は、それで、殺されたのか。

 ウルダンに向かう道の途中で、リンチに合っていた老人を思い出す。きっと、彼女の従士だったのだろう。
 ギルドとしては、シャロ以外は邪魔でしかない。さっさと処分する他の選択肢はないであろう。
 きっと、他の従士も、既に殺されているはずであろう。

 経緯と覚悟は、痛いくらいに理解ができた気がする、レウであった。
 シャロは、レウの目をまっすぐ見つめて、手を差し出す。

「幼いころ、私が遊び半分で出した魔法で、多くの魔物を呼び寄せてしまった。それを、姉が消してくれたことがあるの。きっと、解呪の魔法を、姉は覚えている。お願い、レウ。無茶を言っているのはわかるけど、力を貸して」

 事情はわかった。心情も理解できる。悲惨なことがあったのに、折れずに彼女は、前を歩こうとしている。
 全てがわかる、レウだからこそ。相容れない部分も、より鮮明であった。

「シャロ。その決意は、死んだ仲間のために叶えるものか?」
「……仲間の、ために? ……それも、勿論、あるだろう、けど」
「であるなら、やめたほうがいい。死んだ人間のことは考えるべきでない。死体に無念はないんだ。君が晴らすものではない。誰にでも訪れる、平等で、水平な結末なんだよ」

 そんなことを、言い放った。驚くシャロに――レウは、皮肉げな顔をしている。

「無謀も嫌いじゃないんだけどね。僕ァ、亡霊に取り憑かれた奴は、嫌いだ。何のためにそこまでするのか。それがはっきりしないままだと、無駄死にするぜ」
『そーだそーだ! レウの言うとーりだ! この女、あたしきらーい! もう出てっちゃおうよ、レウ!』
「な、なによその言い方! 託された想いのために命を賭けることって、そんなにおかしいことなの?」
「死者は何も託さない。終わった結果がそこにあるだけだ。そこに特別な意味を見出し、勝手な荷物を拾っていくのは、生者がやることなんだよ」
「勝手な荷物……! 違う、そんなんじゃない。私は、家族と、皆のために……!」
『あんたの負けだよーっ! べーっ! 大人しく荷物まとめてどっか行っちゃえ! ばーかばーか、ぶーす!』
「さっきからうるさいし、あんた!」

 シャロが叫んだ。レウの脳内にだけ存在するはずの、小悪魔を指さして。
 レウは、驚愕し、舌戦が止まった。
 
「シャロ、ええと、これが、見えるのか?」
『これってなんだし! これって! 可愛い可愛いリーリスちゃんでしょ!」
「……? うん、普通に、見える、けど」

 不可思議なことである。これは、レウにのみ憑いた呪いのイメージであるはずだ。
 だから、他人に見えるはずがない。でも、シャロはリーリスの悪口に反応した。
 これは……【純白】の末裔であることが、関係しているのだろうか。

 そう考えを巡らせているとき。

「よう。邪魔するぜ」

 声をかけてくる男がいた。
 そちらを向くと……この食堂にそぐわない、真っ赤な装備に身を包んだ男が、にかりと笑いながら立っていた。
 同じような装備をした仲間が、彼の後ろに二人、控えているのも見える。
 レウは、朝に挨拶を返すように、軽く応じた。

「ええと、なんだ? どこかで会ったことでもあるかな?」
「へっ。いいや。そうじゃねえ。一応聞いとこうと思ってさ」

 快活に、明るい太陽の如くそう話しかける男は、それを口にした。

「昨日、ダイオンを殺したレウとシャロってのは、あんたらで合ってるか?」

 沈黙。
 レウと、快活な男が、視線を交わせる。
 それが、次第に苛烈な熱量が籠りはじめ、ぶつかった視線が火花を散らした。
 そう思えるほどの緊迫が高まった瞬間。

 レウが立ち上がり様に剣を抜き。
 男が腰を落とし、拳に火炎を纏った。

「【火炎の拳撃バーニング・ハンマー】!」
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