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第21話 - 地下迷宮 妖精の目的
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「それが、シャロの親父さんってわけか?」
「ああ、そうさ。あのバカ、手を出す相手を考えなさすぎだろうってな」
はは、とハーヴィスは笑う。
レウは、そっとシャロを見やるが、彼女は、ぎゅっと歯を食いしばって、ハーヴィスの話を聞いていた。
「奴はどうやってか妖精国に行き、【純白】の女と結ばれた。だがそこで、何故か妖精たちが【純白】の一族を狙い、襲い掛かったらしい。理由は不明なんだと。それで命からがら、奥さんと子供を連れて、人間界に戻ってきたわけさ」
唯一の親友であったハーヴィスを頼り、助けを求めた。
だが時すでに遅く。妖精の女の傷は癒えず、命を落としてしまったらしい。
「とんでもねえ事件だ。妖精に恨まれるだなんて、相当だ。だがローウェルは、平穏な生活を望んでいた。俺は迷ったが――平穏を守ることにした。こっそり世話を焼いてやったな。ローウェルがどっかの時に、妖精を信仰する三人の従士を連れてきてからは、俺から手を出すことは減ったが」
そうしてしばらくは平穏に暮らしていた一家であったが。
そのあとは、シャロが語る通りだろう。
「だが何故だかギルドが嗅ぎ付け、急襲した。なんとかお嬢さんだけは、三人が守ったが、姉は連れ去られ、ローウェルは……」
「……いい。大丈夫。わかってる、から」
それがあらまし。シャロは生まれてから、ずっと何かに狙われ続け、生きてきた。
ハーヴィスはそんな彼女を、じっと見つめる。
「そして、お嬢さんはずっと、追われることになったわけだ。三人はずっと付き従っていたみたいだが……そういう、ことなんだな」
「……うん。皆、私のために、死んじゃった」
「ははは! あのなぁ、シャロ! そりゃあちょっと違うぜ。あいつらが死んだのは、あいつら自身が、そうしたいと思ったからだ。それを悔やむのは、あいつら自体を否定することになる」
「……そうね。ありがと。でも、触らないでよ」
ハーヴィスがわしゃわしゃと、シャロの髪を撫でまわす。彼女は、くすぐったそうに、それを冗談めかして跳ね除けた。
レウは、何故だろう。その様子を見て心の中が変にざわめいた。
邪魔をするように、レウは口をはさむ。
「ハーヴィス。あんたが守ってやってたら、三人は死ななくて済んだんじゃないか」
「はは! まあ、それもそうだわな。でもな、すまないが、俺はあくまで、ギルド側の人間だ。ギルドの絶対的な力は、この世界に必要であると思っている。だから、表立って敵対をすることはしない」
「はあ? じゃあなんで、助けたんだよ。矛盾してるぞ」
そんな文句、見透かしているぞ、とでも言うように、中年はいやらしそうな顔で笑う。
なんだか気に入らないと思い、レウは、顔を背けた。
「そこのお嬢さんは、追われてるんだ。じゃあ、誰から追われている? ギルドか? いいや、違う。思い出してみろ。こいつらは最初、妖精から追われてたんだ。つまりな、シャロの身柄は、妖精が欲しがってるんだ。その手先として、ギルドを使ってるだけなんだよ」
「妖精が……? なんでだ? 妖精の末裔、だから?」
「そこは、正直わからない。だが、確実に、あいつらはシャロを使ってなにかをしようとしている。きっとよくないことだ。……俺は、それをなんとかしたいんだよ」
ハーヴィスの声が、低くなった。それまで、調子よく話していた姿が、急に、真剣な眼差しで、語る。
「ギルドは、人が作った組織だ。人が考え、人が作った絶対的なシステムなんだよ。妖精のいいように使われる、玩具であっていいはずがない。俺はその、妖精の思惑を砕けりゃ、それでいいんだ。そこだけが、利害が一致してるということだな」
「随分、ギルドを崇めてるんだな。あんなに嫌われてるというのに」
「ははは! 死ぬほど嫌われてるのに、取り除けない。それこそ絶対を証明してるんだよ、お坊ちゃん。で、俺はいいけどよ。ギルドの是非について――これ以上、議論するかい?」
思わずレウは、ぞっとした。どれだけ気さくであろうが、相手はギルドの大幹部なのだ。不用意な発言が、命取りとなる。
少年は黙って、首を振り、それを見てハーヴィスは笑った。
「そうだ。それでいい。存外、賢明で助かるよ! ……それで、だ。お嬢さんが言う通り、逆にこちらから姉を取り戻しに行く、というのは、俺も賛成だ。逃げ回るだけじゃ、ゆるやかな死を待つだけだからな。この状況を打開するためには、こちらから攻めにいくしかない。そのために俺は、マズい状況のときにはこうやってセーフティを用意してやったり、魔導書の情報を提供してやったりした」
「魔導書……?」
「ああ。お嬢さんの力は知ってるだろ? 生きる魔導書。死にゆくものが手放した妖精文字を覚えられる。また、世界中に散らばっている魔導書を読むことでも、その魔法をコピーできるのさ」
それで彼女は、魔導書を探していたのか、と、合点がいった。
その時、ぽん、とリーリスが現れる。
『あたしが、レウレウじゃなくてー、あの女に憑いてたらどーなってたんだろうね!』
一瞬、そのもしもを考え、二人は悶々とした気持ちになり、手を煽いで小うるさいリーリスを追い払う。
その様子を不思議そうにハーヴィスは見るが、特に触れず話を進める。
「話をまとめようか。俺は協力者ではあるが、限定的だ。妖精の思惑を潰すため、情報の提供や、逃げ場の確保くらいは手伝ってやろう。姉の救出は、二人で勝手にやってほしい。そんなところだ」
「……よくわかったよ、ハーヴィス。実に心強いSランク様だ」
「いい負けん気だな! ははは! オジサンも、昔はお前くらい尖がってたんだ。そんくらいでいいさ!」
そうして、ハーヴィスは、すくりと立ち上がった。
「とりあえず、俺の話はしまいだ。で、お前さん二人はまだどうすべきか、迷っていると見た。話し合いな。最後まで付き合うのか、ここまでなのか。明日また来てやろう。そこで答えを聞いてから、次の話をしようじゃないか」
そう言うと、《魔法卿》は、指をぱちんと鳴らすと、彼の姿は、空中に溶けるようにしてすぅ、と消えた。
薄暗い小部屋に残されたのは、レウとシャロの、二人きりであった。
「ああ、そうさ。あのバカ、手を出す相手を考えなさすぎだろうってな」
はは、とハーヴィスは笑う。
レウは、そっとシャロを見やるが、彼女は、ぎゅっと歯を食いしばって、ハーヴィスの話を聞いていた。
「奴はどうやってか妖精国に行き、【純白】の女と結ばれた。だがそこで、何故か妖精たちが【純白】の一族を狙い、襲い掛かったらしい。理由は不明なんだと。それで命からがら、奥さんと子供を連れて、人間界に戻ってきたわけさ」
唯一の親友であったハーヴィスを頼り、助けを求めた。
だが時すでに遅く。妖精の女の傷は癒えず、命を落としてしまったらしい。
「とんでもねえ事件だ。妖精に恨まれるだなんて、相当だ。だがローウェルは、平穏な生活を望んでいた。俺は迷ったが――平穏を守ることにした。こっそり世話を焼いてやったな。ローウェルがどっかの時に、妖精を信仰する三人の従士を連れてきてからは、俺から手を出すことは減ったが」
そうしてしばらくは平穏に暮らしていた一家であったが。
そのあとは、シャロが語る通りだろう。
「だが何故だかギルドが嗅ぎ付け、急襲した。なんとかお嬢さんだけは、三人が守ったが、姉は連れ去られ、ローウェルは……」
「……いい。大丈夫。わかってる、から」
それがあらまし。シャロは生まれてから、ずっと何かに狙われ続け、生きてきた。
ハーヴィスはそんな彼女を、じっと見つめる。
「そして、お嬢さんはずっと、追われることになったわけだ。三人はずっと付き従っていたみたいだが……そういう、ことなんだな」
「……うん。皆、私のために、死んじゃった」
「ははは! あのなぁ、シャロ! そりゃあちょっと違うぜ。あいつらが死んだのは、あいつら自身が、そうしたいと思ったからだ。それを悔やむのは、あいつら自体を否定することになる」
「……そうね。ありがと。でも、触らないでよ」
ハーヴィスがわしゃわしゃと、シャロの髪を撫でまわす。彼女は、くすぐったそうに、それを冗談めかして跳ね除けた。
レウは、何故だろう。その様子を見て心の中が変にざわめいた。
邪魔をするように、レウは口をはさむ。
「ハーヴィス。あんたが守ってやってたら、三人は死ななくて済んだんじゃないか」
「はは! まあ、それもそうだわな。でもな、すまないが、俺はあくまで、ギルド側の人間だ。ギルドの絶対的な力は、この世界に必要であると思っている。だから、表立って敵対をすることはしない」
「はあ? じゃあなんで、助けたんだよ。矛盾してるぞ」
そんな文句、見透かしているぞ、とでも言うように、中年はいやらしそうな顔で笑う。
なんだか気に入らないと思い、レウは、顔を背けた。
「そこのお嬢さんは、追われてるんだ。じゃあ、誰から追われている? ギルドか? いいや、違う。思い出してみろ。こいつらは最初、妖精から追われてたんだ。つまりな、シャロの身柄は、妖精が欲しがってるんだ。その手先として、ギルドを使ってるだけなんだよ」
「妖精が……? なんでだ? 妖精の末裔、だから?」
「そこは、正直わからない。だが、確実に、あいつらはシャロを使ってなにかをしようとしている。きっとよくないことだ。……俺は、それをなんとかしたいんだよ」
ハーヴィスの声が、低くなった。それまで、調子よく話していた姿が、急に、真剣な眼差しで、語る。
「ギルドは、人が作った組織だ。人が考え、人が作った絶対的なシステムなんだよ。妖精のいいように使われる、玩具であっていいはずがない。俺はその、妖精の思惑を砕けりゃ、それでいいんだ。そこだけが、利害が一致してるということだな」
「随分、ギルドを崇めてるんだな。あんなに嫌われてるというのに」
「ははは! 死ぬほど嫌われてるのに、取り除けない。それこそ絶対を証明してるんだよ、お坊ちゃん。で、俺はいいけどよ。ギルドの是非について――これ以上、議論するかい?」
思わずレウは、ぞっとした。どれだけ気さくであろうが、相手はギルドの大幹部なのだ。不用意な発言が、命取りとなる。
少年は黙って、首を振り、それを見てハーヴィスは笑った。
「そうだ。それでいい。存外、賢明で助かるよ! ……それで、だ。お嬢さんが言う通り、逆にこちらから姉を取り戻しに行く、というのは、俺も賛成だ。逃げ回るだけじゃ、ゆるやかな死を待つだけだからな。この状況を打開するためには、こちらから攻めにいくしかない。そのために俺は、マズい状況のときにはこうやってセーフティを用意してやったり、魔導書の情報を提供してやったりした」
「魔導書……?」
「ああ。お嬢さんの力は知ってるだろ? 生きる魔導書。死にゆくものが手放した妖精文字を覚えられる。また、世界中に散らばっている魔導書を読むことでも、その魔法をコピーできるのさ」
それで彼女は、魔導書を探していたのか、と、合点がいった。
その時、ぽん、とリーリスが現れる。
『あたしが、レウレウじゃなくてー、あの女に憑いてたらどーなってたんだろうね!』
一瞬、そのもしもを考え、二人は悶々とした気持ちになり、手を煽いで小うるさいリーリスを追い払う。
その様子を不思議そうにハーヴィスは見るが、特に触れず話を進める。
「話をまとめようか。俺は協力者ではあるが、限定的だ。妖精の思惑を潰すため、情報の提供や、逃げ場の確保くらいは手伝ってやろう。姉の救出は、二人で勝手にやってほしい。そんなところだ」
「……よくわかったよ、ハーヴィス。実に心強いSランク様だ」
「いい負けん気だな! ははは! オジサンも、昔はお前くらい尖がってたんだ。そんくらいでいいさ!」
そうして、ハーヴィスは、すくりと立ち上がった。
「とりあえず、俺の話はしまいだ。で、お前さん二人はまだどうすべきか、迷っていると見た。話し合いな。最後まで付き合うのか、ここまでなのか。明日また来てやろう。そこで答えを聞いてから、次の話をしようじゃないか」
そう言うと、《魔法卿》は、指をぱちんと鳴らすと、彼の姿は、空中に溶けるようにしてすぅ、と消えた。
薄暗い小部屋に残されたのは、レウとシャロの、二人きりであった。
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