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第23話 - 地下迷宮 プランB
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「はは! なんだ、昨日と違って、随分すっきりした顔だな。迷いは無くなった、ってか」
次の日。目覚めた二人の前に、ぬらりとハーヴィスが現れ、気持ちよく笑った。
ご丁寧に、小部屋の近くに、二人分の寝室も作られており、上等とは言えないが眠るには十分なベッドも設えてあった。
興奮から醒め、騒ぎ過ぎたと、ほんのり恥ずかしい面持ちになってるレウと。
興奮の狂乱を間近で見せられていたシャロは、なんだかよそよそしかった。
その様子を知ってか知らずか、ハーヴィスは昨日と同じく、椅子を床からにょきりと生やして、そこにどかりと座る。
「じゃ、話をしようか。まず、お嬢さんが今やっていることを説明しよう。姉を取り戻すためには力をつけなきゃいけない。だから、世界中の魔導書を集め、魔法を収集し、ギルドに対抗できる力を蓄えてから突入する。これがプランAだ」
「ええ。オジサンに言われて、ずっとやっていたこと」
「ああそうだ。だがこれは、今日からなしだ。理由は簡単だ。遠回り、かつ、現実的でない。その時のお嬢さんには、それをするしかなかった、というだけの話だ」
「……そうね、結局大した魔法なんて、覚えられなかった」
シャロが魔導書を集めていた真の理由がこれだった。
魔導書とは、果たして誰が作ったかまるで不明であるが、妖精文字をびっしりと埋め込んだ、言わば本の形にした魔法の剥製である。
一般人がそれを手に取っても、何にも使えないガラクタであろう。もしくは、レウのように突然呪われてしまうことだってある。
特殊な研究院などが手に取って初めて内容を解読できるかもしれない、くらいの代物である。
だがシャロであれば違う。生きる魔導書たる彼女が、それを手に取れば、記された魔法を覚えることができるのだ。
なので、ギルドに対抗できるような強大な魔法を求めて旅をしていたのであるが。
そうそう都合よく、強い魔法なんて手に入れられるはずがない。
それでも他に選択肢がないから、やらざるを得なかった。
自由を得るとは、それほどまでに辛い道のりであったのだ。
だが、それも今日までのようである。
「おっさん。そう言うからには、プランBがあるのか?」
「おっ、いいねぇ! その通り。プランBが、これからお前らが取るべき道だ」
レウの生意気な口ぶりに、怒るそぶりは見せず、むしろ嬉しそうに笑うハーヴィス。そして彼は、にやりと笑いながら手をかざした。
「実はな、今からお前らを、お嬢さんの姉が捕らわれてる場所に転移させることは、できるんだよ」
「……は?」
「ハーヴィス、ちょっと、どういうこと」
その場ですっころんでしまうかと思うほどであった。
どうやって取り戻すか、と頭を悩ませていたのに、結局、この男の魔法一つで解決するというのだ。
バカにされているような気分になるほどであったが、ハーヴィスの話には続きがある。
「望むんであれば、今すぐ姉貴と合わせてやってもいいんだ。だけどな、話を思い出してみろ。この件には、妖精が絡んでいるんだ。ギルドの奴らを仮になんとかできたとして、最後に妖精が立ちはだかる可能性が非常に高い」
「……妖精が、自ら出てくるっていうのか」
「あり得ないと思うだろ? だが、これはマジだ。むしろ可能性としては高いくらいだ。それほど、妖精は姉貴にご執心なんだよ」
それは、あまりに予想外であった。
ギルドの猛者が立ちはだかるのは予想していたが、上位存在である妖精が出てくるというのは、想像することすらできない。
シャロという、妖精と人間の落とし子が目の前にいるが、妖精そのものを見たことのある人間はこれまで一人でもいるのだろうか。
その名の通り次元の違う存在と戦うことになる、なんて言われても、現実感を得られないレウであった。
それに構わず、ハーヴィスは続ける。
「今突っ込んだって、十中八九無駄死にだ。だから妖精への対抗手段を身に着けろ。そしたら俺が責任持って転送してやるよ」
「対抗手段? そんなものが、あるのか?」
「ああ。あるさ。二つの妖精武器を持ってこい。それが、お前らに課すミッションだ」
妖精武器。妖精が作ったのだとされる、超常の兵器である。
魔法的な特性を宿す不思議な武器は、強大すぎるが故に、扱える人間も限られている。正しく最強の武器であろう。
ハーヴィスは、それを二つ持ってこいなどと言っている。
真っ当に探すのであれば、凶悪なダンジョンの奥深くに潜り探索するしかないが、あまりに現実的ではないだろう。
意図を計りかねていると、ハーヴィスは――にやりと笑って、言った。
「一つは【破神の籠手】。身に着ける者に比類なき怪力を授ける、妖精武器。――王国の《黄金騎士》エルセイドが保有する武器だ」
《黄金騎士》エルセイド。エナハで、巨大な船を破壊した騎士。
「一つは【星剣】。剣の形こそしているが、その力は、星を斬るだなんて噂があるほどの、超高出力の兵器だ。――ギルド最強の剣士、《星崩し》アルスが保有している」
《星崩し》アルス。エナハで、巨大な船を斬った剣士。
そのビッグネーム二つを並べて、ハーヴィスはにっと笑った。
「この二つの妖精武器を奪ってこい。そうすりゃ、妖精にも届くだろうさ」
あまりの難題に、二人は言葉を失う。
「ふざけてんのか、おっさん。それができりゃ、苦労はしねえだろうけど」
「別に、他の方法があればそれでもいいんだぜ。例えば、水平の剣が完成に至る、とかな」
なんでも知っている、とでも言うように、ハーヴィスはレウに微笑む。
レウはその言葉を受け、嫌そうに顔を逸らした。
――また、出た。「水平」
シャロの知らない言葉であった。しかしそれが、レウの心の深いところに紐づくなにかであることは、察することができた。
黙するレウに、ハーヴィスは満足そうな表情で、手を叩いた。
「じゃ、決まりだな。そうなりゃ早速、プランBを始めようか」
次の日。目覚めた二人の前に、ぬらりとハーヴィスが現れ、気持ちよく笑った。
ご丁寧に、小部屋の近くに、二人分の寝室も作られており、上等とは言えないが眠るには十分なベッドも設えてあった。
興奮から醒め、騒ぎ過ぎたと、ほんのり恥ずかしい面持ちになってるレウと。
興奮の狂乱を間近で見せられていたシャロは、なんだかよそよそしかった。
その様子を知ってか知らずか、ハーヴィスは昨日と同じく、椅子を床からにょきりと生やして、そこにどかりと座る。
「じゃ、話をしようか。まず、お嬢さんが今やっていることを説明しよう。姉を取り戻すためには力をつけなきゃいけない。だから、世界中の魔導書を集め、魔法を収集し、ギルドに対抗できる力を蓄えてから突入する。これがプランAだ」
「ええ。オジサンに言われて、ずっとやっていたこと」
「ああそうだ。だがこれは、今日からなしだ。理由は簡単だ。遠回り、かつ、現実的でない。その時のお嬢さんには、それをするしかなかった、というだけの話だ」
「……そうね、結局大した魔法なんて、覚えられなかった」
シャロが魔導書を集めていた真の理由がこれだった。
魔導書とは、果たして誰が作ったかまるで不明であるが、妖精文字をびっしりと埋め込んだ、言わば本の形にした魔法の剥製である。
一般人がそれを手に取っても、何にも使えないガラクタであろう。もしくは、レウのように突然呪われてしまうことだってある。
特殊な研究院などが手に取って初めて内容を解読できるかもしれない、くらいの代物である。
だがシャロであれば違う。生きる魔導書たる彼女が、それを手に取れば、記された魔法を覚えることができるのだ。
なので、ギルドに対抗できるような強大な魔法を求めて旅をしていたのであるが。
そうそう都合よく、強い魔法なんて手に入れられるはずがない。
それでも他に選択肢がないから、やらざるを得なかった。
自由を得るとは、それほどまでに辛い道のりであったのだ。
だが、それも今日までのようである。
「おっさん。そう言うからには、プランBがあるのか?」
「おっ、いいねぇ! その通り。プランBが、これからお前らが取るべき道だ」
レウの生意気な口ぶりに、怒るそぶりは見せず、むしろ嬉しそうに笑うハーヴィス。そして彼は、にやりと笑いながら手をかざした。
「実はな、今からお前らを、お嬢さんの姉が捕らわれてる場所に転移させることは、できるんだよ」
「……は?」
「ハーヴィス、ちょっと、どういうこと」
その場ですっころんでしまうかと思うほどであった。
どうやって取り戻すか、と頭を悩ませていたのに、結局、この男の魔法一つで解決するというのだ。
バカにされているような気分になるほどであったが、ハーヴィスの話には続きがある。
「望むんであれば、今すぐ姉貴と合わせてやってもいいんだ。だけどな、話を思い出してみろ。この件には、妖精が絡んでいるんだ。ギルドの奴らを仮になんとかできたとして、最後に妖精が立ちはだかる可能性が非常に高い」
「……妖精が、自ら出てくるっていうのか」
「あり得ないと思うだろ? だが、これはマジだ。むしろ可能性としては高いくらいだ。それほど、妖精は姉貴にご執心なんだよ」
それは、あまりに予想外であった。
ギルドの猛者が立ちはだかるのは予想していたが、上位存在である妖精が出てくるというのは、想像することすらできない。
シャロという、妖精と人間の落とし子が目の前にいるが、妖精そのものを見たことのある人間はこれまで一人でもいるのだろうか。
その名の通り次元の違う存在と戦うことになる、なんて言われても、現実感を得られないレウであった。
それに構わず、ハーヴィスは続ける。
「今突っ込んだって、十中八九無駄死にだ。だから妖精への対抗手段を身に着けろ。そしたら俺が責任持って転送してやるよ」
「対抗手段? そんなものが、あるのか?」
「ああ。あるさ。二つの妖精武器を持ってこい。それが、お前らに課すミッションだ」
妖精武器。妖精が作ったのだとされる、超常の兵器である。
魔法的な特性を宿す不思議な武器は、強大すぎるが故に、扱える人間も限られている。正しく最強の武器であろう。
ハーヴィスは、それを二つ持ってこいなどと言っている。
真っ当に探すのであれば、凶悪なダンジョンの奥深くに潜り探索するしかないが、あまりに現実的ではないだろう。
意図を計りかねていると、ハーヴィスは――にやりと笑って、言った。
「一つは【破神の籠手】。身に着ける者に比類なき怪力を授ける、妖精武器。――王国の《黄金騎士》エルセイドが保有する武器だ」
《黄金騎士》エルセイド。エナハで、巨大な船を破壊した騎士。
「一つは【星剣】。剣の形こそしているが、その力は、星を斬るだなんて噂があるほどの、超高出力の兵器だ。――ギルド最強の剣士、《星崩し》アルスが保有している」
《星崩し》アルス。エナハで、巨大な船を斬った剣士。
そのビッグネーム二つを並べて、ハーヴィスはにっと笑った。
「この二つの妖精武器を奪ってこい。そうすりゃ、妖精にも届くだろうさ」
あまりの難題に、二人は言葉を失う。
「ふざけてんのか、おっさん。それができりゃ、苦労はしねえだろうけど」
「別に、他の方法があればそれでもいいんだぜ。例えば、水平の剣が完成に至る、とかな」
なんでも知っている、とでも言うように、ハーヴィスはレウに微笑む。
レウはその言葉を受け、嫌そうに顔を逸らした。
――また、出た。「水平」
シャロの知らない言葉であった。しかしそれが、レウの心の深いところに紐づくなにかであることは、察することができた。
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