剣術だけでギルドの魔法使いたちをぶった斬る -禁欲の呪いのせいで世界唯一の魔法が斬れる剣術を覚えました-

座佑紀

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第32話 - 王国闘技場 破神の籠手

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「【暗天の月に騎士は躍るブラックナイト・パレード】」

 彼女の剣は、まるで突風のようであった。
 真っすぐであった長剣が、あまりの速度、圧力によりくの字に曲がっているかのように見える。
 それが真っすぐ、レウに向かって放たれていた。
 レウは素早く剣を抜き、迫り来る長剣に激突させる。
 
 が、騎士の剣はあまりにも暴力的であった。
 およそ人の膂力ではない。台風の風が一点に収束したかのような、宙から落ちる隕石そのもののような、超常たる暴力であった。
 受けた瞬間、あまりの衝撃にレウの頭が真っ白くチカチカしたほどであった。
 少年と少女は、長剣を受けた瞬間、宙に浮き向こうまで吹き飛ぶ。
 そして二人は、闘技場の壁に激突した。
 騎士のほうはというと、力のままに振るった長剣が、持ち主のあまりの力に耐えきれず、真っ二つに折れ、砕けた。
 用済みとなった長剣の残骸を放り捨て、背後に浮かぶ武器群の中から、新たに槍を掴む。

 そして一切の容赦なく、壁に激突した二人に向かって槍を放り投げた。
 かつて戦った騎士団隊長ラスタの妖精武器もかくやというほど、凄まじい速度の投擲であった。
 だがその槍は一切の特性はない。正真正銘、ただの槍である。
 あり得ない速度は、エルセイドの単純な怪力によるものだ。

 これが、騎士団最強の、単純かつ、最強の戦い方であった。
 一切の遠慮無しに、【破神の籠手】による怪力で武器を振るう。
 武器が壊れても、魔法で延々と武器を生成し続けるので何の問題もない。
 ただの剣も槍も、これにより大量破壊兵器と化す。
 エルセイド単騎で、万の軍勢に匹敵する。戦略級の騎士であり、王国最強の戦力である所以であった。

 槍がレウの胸元に飛び込んだ。
 防がねばならぬが、先の太い直剣をまともに受けてしまっている。
 彼の、何の銘もない細い剣がまともに受けて、無事でいられるはずがない。
 必ず砕け散っているはずだ。
 つまり彼は、攻撃を受ける武器がない。空っぽの手ではなにも守れない。
 これであっけない終了だ、とエルセイドが確信する、が。

 鋼の残響が辺りに響く。

 見ると――何故だか、レウの細い剣は健在であった。
 完璧なタイミングでの弾き返しで、見事高速の槍を防いでいた。
 いや。よく見ると、その細い剣の様子がおかしい。その剣の周囲には、黒い靄のようなものが纏わりついている――。

 隣の白い少女が、剣に手を掲げながら、何かを呟いていた。
 その手にはきらりと、美しい青の指輪が嵌められている。

「【劣化模造《デッドコピー》】――【不破魔城の絶壁ダークムーン・スフィア】」
 
 これこそが、彼らがエルセイドに挑むための作戦であった。
 怪力による攻撃は、一度でも受けてしまうと剣が持たない。
 よって、剣をシャロの【不破魔城の絶壁ダークムーン・スフィア】でコーティングし、打ち合えるようにする。
 勿論、その魔法は不完全なもので、一度受けると砕けてしまうほどに脆い。
 なので毎回、魔法を張り替える必要がある。
 そのためには魔力が圧倒的に不足するのだが――それは、指輪の力で賄うことにした。

 青い指輪、それは妖精武器【妖精王の碧眼】である。大容量の魔力が保管されている、という代物だが、これは、ハーヴィスの所有物だ。
 この戦いに臨むにあたりああだこうだと言い訳と難癖をつけ、ハーヴィスからこの妖精武器だけを借り受けたのだ。

 シャロはまさしく、レウの剣となることを決めたのであった。
 死線の間近で、剣に無敵の魔法もどきを掛け、剥がれたら掛け直す。
 あまりに危険で無謀な作戦であるから、レウは当初反対していた。
 しかし、シャロの意思は強かった。
 共に戦う。その言葉の重みを否定することはできず――最終的にレウは、あの時労働街を駆け抜けたように、共に戦うことを決めたのであった。

 槍を弾いたレウは、シャロの手を強く握りながら、真っすぐ黄金の騎士へと駆ける。
 エルセイドは、武器の輪を両腕の周囲に展開させ、二つの手に小剣を握った。

「なーんか、うざいことしてんね、あんたら。まぁ、なんでもやってろよ。小細工ごと吹き飛ばしてやっからさァ!」

 両手の剣を力任せに投げる。レウに牙を突き立てるようにして、豪速の剣が二本、回転しながらレウに迫る。
 その二つの牙をレウは器用に弾き飛ばした。
 真正面から力を受けぬよう、上手く力を受け流しながら、二本は空へ吸い込まれる。

 絶妙なる剣技により、衝撃をまともに受けず、受け流しながら明後日の方向に弾き飛ばしていた。が、それでも伝わる衝撃はあまりに重かった。
 彼女の攻撃を受けるたび、筋繊維が何本も千切れる音が聞こえてくるようであった。
 耐え切れず苦悶の表情を見せるレウ。騎士は、そんな隙を見逃さない。

「おい兄さん、手元がガラ空きだぜ」

 いつの間にか騎士の手には硬い鞭が出現していた。
 それを器用に振り回し、蛇のように長い身を空中に広げると、勢いよく振り抜いた。
 これまでの力任せで乱暴な攻撃とは違う。繊細で丁寧で、かつ迅速な一手であった。
 その鞭はレウの手にひゅるりと絡まる。剣を握る右手が、どうしようもなく拘束されてしまう。

 相手は籠手を装備する、類を見ない怪力の持ち主だ。
 黄金の兜の奥の瞳が、爛と光ったような気がした。
 まずいと思う暇もなく、騎士は鞭を容赦無く、ぐいと力任せに引っ張られる。
 レウに抗う術はない。手を握るシャロと共に、エルセイドの元に引き寄せられる。

 彼女は右手で二人を引き寄せ、左の拳を思い切り引き絞っている。
 限界まで張り詰めた弓を思い起こさせる、拳撃の恰好だ。
 あれを受ける術は無いし、鞭に絡められた今、避ける術もない。
 正しく絶体絶命である。
 兜の奥が、にやりと笑ったような気がした。
 そして、万物を砕く拳が、今放たれようとしていた。その時。

 空から何かが、落ちてくる音がした。
 小さな影が回転しながら真っすぐ、騎士に向けって飛来する。
 それは、先ほどレウが弾き飛ばした小剣であった。
 高域まで飛ばされた剣が、大きな弧を描いて騎士に落ち行く。

 エルセイドは咄嗟に、それを引き絞っていた拳で殴りつけ、小癪な剣を砕いた。
 そしてすぐにレウを見る。
 が、その一瞬で、レウは手を鞭から外していた。

 そして彼は――不敵にも、嗤うのであった。

「ようやく、ここまで来れた」
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