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第42話 - 地下迷宮 最後の夜
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シャロはそっぽを向いて、むくれたまま何も言わない。
腕を組んで精一杯、怒っていることをアピールしている。
レウはぽりぽりと頭を掻きながら、なんと声をかけるべきか考えた。
「その、勝手に置いていったのは、申し訳ない。確かに独断だったが、アルスの能力を聞いて、君を守り切れる自信がなかったからさ。シャロはほら、行くと決めたら来てしまう性格だから」
「そうじゃない」
レウの謝罪を途中で否定したきり、彼女はそのまま、つんとそっぽを向く。
他にこれほど怒る理由はなにがあったっけ、と、と戸惑い続けるレウ。
そして埒が明かないと、彼女はレウに向き直った。
「全然違う。私が怒っているのは、あなたが、黙って、出て行ったこと」
「……なんだよ、同じじゃないか」
「違う。行くなら、私とちゃんと話をしてから行ってほしかった。黙って行くということは、私は、話する価値もないと言われてるのと同じだもん。一緒に命を賭けて戦うって、約束したのに。ちゃんと話すらしない、っていうのは、ひどい裏切りじゃない」
「……シャロ」
彼女の反論に、ぐうの音も出なくなってしまう、世界最強の剣士であった。
シャロの言うとおりである。ちゃんと話し合うことをしたくなくて、彼は一人で死地へと赴いた。
いや、もっというのなら。シャロの意見を、否定することができないと知っていたからかもしれない。
共に戦うという言葉とは程遠い行動だ。酷い裏切り、という指摘に、返す言葉などどこにもなかった。
だからレウは、シャロの目をちゃんと見返しながら、真摯に謝った。
「シャロ、ごめん。……その通りだ。ちゃんと、言葉を交わすことから僕は逃げてしまった。守りたいとかどうだとかは、きっと言い訳だ。僕はどうしようもなく、臆病になっていた」
「……もしも、あのまま、お別れになってしまったらって思ったら。すごく怖くて、絶対に嫌だって思って、だから、ハーヴィスを呼びつけて、何も考えずに追いかけたの」
アルスを最果の戦場に誘い出すことは決まっていたから、どこへ行くべきかは自明であった。
きっとシャロは、レウの思いにも察しはついていただろう。だから、すぐその場に出て行ってしまうと足手まといになることもわかっていた。
あの闘技場で放った【ゴッドバード】を再び改修していたシャロは、投擲のできる地点を探し出し、強化魔法で上げた視力でずっと二人の戦いを観察していたのだ。
白い少女は、脚を椅子に上げ、自らを抱え込むように腕でぎゅっと包んだ。
「……でも、まさか、本当にアルスに勝つなんて。ありがとう、レウ。絶対に、私にはできないことだ」
「いや、シャロの槍が無けりゃ、僕もヤバかったよ。そもそも星と同じ体力と防御力ってなんだよ、勝てるわけないだろってねえ」
話し合うことで、一つのわだかまりが解け、二人の距離は再び縮んだ。
そして彼らの会話は、笑いの混じったものになった。いつものように、気兼ねなく互いに言い合える、輝かしい関係に戻った。
だけど、二人の隔たりが完全に無くなることがないことは、お互いが知っていた。
「遂に明日、姉さんを取り戻せる。そしたらレウの呪いも解ける」
シャロの声は上擦っていた。これは興奮なのか、それとも恐れであろうか。
レウは黙って、彼女の手を取る。
少年は、少女の怒りから、学んでいた。ここで言葉を誤魔化すことこそが、最大の不義であるのだと。だから、伝えねばならぬことがある。
「そこで僕らは、お別れだ」
レウはあの日、一人だけ生き残った。自分だけ生き残って、他の尊敬すべき恩師たちを見頃した意味を水平の論理に求め、全ては平等に無価値なのだから、恩師が死んでもよかった。無論、己もいつ死んでもいい人間であると、見出したのだ。
シャロは、この理屈を受け入れられない。ここまでの道のりで、命を賭けて自らに全てを託してくれた人たちの価値を証明するのは、託された己自身であると信じているからだ。
レウの理論を否定すれば、レウは己を許せなくなる。
シャロの信念を否定すれば、託された重みに耐えきれず、潰れてしまう。
ここで別れるのが運命の二人であった。
シャロの目から涙が零れ、レウの目頭は赤くなっている。
これ以上の会話はいらなかった。二人は手を握り合い、でもそれぞれが、違う方を向いていた。
最後の夜は、静かな時間を、互いに共有するのみであった。
『馬鹿みたい。シャロ、あなた、その姉さんの顔すら思い出せないくせに』
どこかで小悪魔が、ぼそりと呟く。だが、その言葉は二人の耳に届かないくらい小さかった。
腕を組んで精一杯、怒っていることをアピールしている。
レウはぽりぽりと頭を掻きながら、なんと声をかけるべきか考えた。
「その、勝手に置いていったのは、申し訳ない。確かに独断だったが、アルスの能力を聞いて、君を守り切れる自信がなかったからさ。シャロはほら、行くと決めたら来てしまう性格だから」
「そうじゃない」
レウの謝罪を途中で否定したきり、彼女はそのまま、つんとそっぽを向く。
他にこれほど怒る理由はなにがあったっけ、と、と戸惑い続けるレウ。
そして埒が明かないと、彼女はレウに向き直った。
「全然違う。私が怒っているのは、あなたが、黙って、出て行ったこと」
「……なんだよ、同じじゃないか」
「違う。行くなら、私とちゃんと話をしてから行ってほしかった。黙って行くということは、私は、話する価値もないと言われてるのと同じだもん。一緒に命を賭けて戦うって、約束したのに。ちゃんと話すらしない、っていうのは、ひどい裏切りじゃない」
「……シャロ」
彼女の反論に、ぐうの音も出なくなってしまう、世界最強の剣士であった。
シャロの言うとおりである。ちゃんと話し合うことをしたくなくて、彼は一人で死地へと赴いた。
いや、もっというのなら。シャロの意見を、否定することができないと知っていたからかもしれない。
共に戦うという言葉とは程遠い行動だ。酷い裏切り、という指摘に、返す言葉などどこにもなかった。
だからレウは、シャロの目をちゃんと見返しながら、真摯に謝った。
「シャロ、ごめん。……その通りだ。ちゃんと、言葉を交わすことから僕は逃げてしまった。守りたいとかどうだとかは、きっと言い訳だ。僕はどうしようもなく、臆病になっていた」
「……もしも、あのまま、お別れになってしまったらって思ったら。すごく怖くて、絶対に嫌だって思って、だから、ハーヴィスを呼びつけて、何も考えずに追いかけたの」
アルスを最果の戦場に誘い出すことは決まっていたから、どこへ行くべきかは自明であった。
きっとシャロは、レウの思いにも察しはついていただろう。だから、すぐその場に出て行ってしまうと足手まといになることもわかっていた。
あの闘技場で放った【ゴッドバード】を再び改修していたシャロは、投擲のできる地点を探し出し、強化魔法で上げた視力でずっと二人の戦いを観察していたのだ。
白い少女は、脚を椅子に上げ、自らを抱え込むように腕でぎゅっと包んだ。
「……でも、まさか、本当にアルスに勝つなんて。ありがとう、レウ。絶対に、私にはできないことだ」
「いや、シャロの槍が無けりゃ、僕もヤバかったよ。そもそも星と同じ体力と防御力ってなんだよ、勝てるわけないだろってねえ」
話し合うことで、一つのわだかまりが解け、二人の距離は再び縮んだ。
そして彼らの会話は、笑いの混じったものになった。いつものように、気兼ねなく互いに言い合える、輝かしい関係に戻った。
だけど、二人の隔たりが完全に無くなることがないことは、お互いが知っていた。
「遂に明日、姉さんを取り戻せる。そしたらレウの呪いも解ける」
シャロの声は上擦っていた。これは興奮なのか、それとも恐れであろうか。
レウは黙って、彼女の手を取る。
少年は、少女の怒りから、学んでいた。ここで言葉を誤魔化すことこそが、最大の不義であるのだと。だから、伝えねばならぬことがある。
「そこで僕らは、お別れだ」
レウはあの日、一人だけ生き残った。自分だけ生き残って、他の尊敬すべき恩師たちを見頃した意味を水平の論理に求め、全ては平等に無価値なのだから、恩師が死んでもよかった。無論、己もいつ死んでもいい人間であると、見出したのだ。
シャロは、この理屈を受け入れられない。ここまでの道のりで、命を賭けて自らに全てを託してくれた人たちの価値を証明するのは、託された己自身であると信じているからだ。
レウの理論を否定すれば、レウは己を許せなくなる。
シャロの信念を否定すれば、託された重みに耐えきれず、潰れてしまう。
ここで別れるのが運命の二人であった。
シャロの目から涙が零れ、レウの目頭は赤くなっている。
これ以上の会話はいらなかった。二人は手を握り合い、でもそれぞれが、違う方を向いていた。
最後の夜は、静かな時間を、互いに共有するのみであった。
『馬鹿みたい。シャロ、あなた、その姉さんの顔すら思い出せないくせに』
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