剣術だけでギルドの魔法使いたちをぶった斬る -禁欲の呪いのせいで世界唯一の魔法が斬れる剣術を覚えました-

座佑紀

文字の大きさ
44 / 46

第44話 - 魔導研究院 神が生まれる

しおりを挟む
「ハーヴィス……頭でもおかしくなったのか……? なにを作るだって……?」
「神だよ、坊ちゃん。いや、レウ。お前は本当に、よくやってくれたよ」

 ハーヴィスは語る。彼の思惑、その目的を。

「妖精とは、実在する超常存在だ。だが、皆が語る神というのは、完全なる空想だ。宗教を説明するための装置と言ってもいいだろう。全てを照覧する絶対神など、いない。だが、妖精たちに言わせればな、元々全能で万能の神がいて、そこから分かたれたのが妖精だというのだ」
「違う……?」
「今の妖精は、翅族毎に能力が異なる。だが、本来はこれは一つの翅族であった。あらゆる奇跡を自在に操る、真に万能の一族。妖精たちはそれを【虹の翅族】と呼んでいた」
「【虹の翅族】……」

 全く聞いたことも無い話である。くだらない妄言だと吐き捨てることもできたが、しかしそれを語るハーヴィスは、真に迫っているようであった。

「一部の妖精は、再び【虹の翅族】を復活させることを悲願としている。だが、そう簡単なことではない。無数に分かたれた翅族を一つにまとめる、だなんて、なにをどう試そうと失敗に終わっていた。だが、ある日、解決の糸口が見つかった。色をくっつけても濁るだけなら、真っ白なキャンバスに塗りたくればいい。つまり【純白の翅族】こそ、この【虹】の下地になる一族であったのだと、気付いたんだよ」
「……【純白】。シャロの、一族」
「そうだ! 奴らは劣化した魔法を覚える、なんて大した役にも立たない特性を備えている。が、それも必然なのだ。彼らは無数の翅族の【色】を吸い取るための一族なのだから! 何故突然、妖精たちがこんなことに気付いたと思う? レウよ」
「……知るかよ、楽しそうに、ペラペラと……」
「ローウェルだ! あいつは、妖精の国に行って、【純白】と出会った。そして、その時、妖精の国にはなかったモノが観測されたんだよ! わかるか? 「恋」だ! 奴らが忘れ去ったその激情は、凄まじいエネルギーだった! 【虹】を作り出す際の、燃料として申し分ないほどの! そのときに妖精どもはようやっと気付いたのさ! これが鍵だったのだと。恋をした【純白】に、色を注ぐことこそが、神を作り出す正しい手順なのだと!」

 そしてハーヴィスは、両手を広げた。

「妖精たちは【純白】を追った! だが、ローウェルはこちら側に【純白】と家族を逃がした! 妖精から人に存在を堕とさせてでも、だ! だが、その逃走劇の中、ローウェルの【純白】の恋人は傷を負い、耐えきれず死んでしまった。残されたのは、哀れなローウェルと、たった一人の娘だけだった」
「たった一人の、娘……」
「そうだ! それがシャロだ! 幼いシャロは、人と妖精の性質を併せ持つ存在だった。それは強い魔力を放っていただろう。妖精はこちら側に、安易に手を出すことはできない。次元を堕とすことになるからだ。だから、ギルドに追わせるしかない。強い魔力を放ったままであれば、すぐに補足されてしまう。また、人として生きて欲しいなんて思いもあったんだろうな。ローウェルは、シャロの妖精の部分を切り取ることにしたんだ」
「……ハーヴィス。もう、いい。お前は、黙れ」
「わかるか? ローウェルはな、シャロの一部を、大量の魔導書に変えて、世界中にばら撒いたんだよ! 人として生きられるよう、利用価値を最大限減らすように! 小癪な奴だ。シャロを捉えたところで、そいつ自体は、不完全な妖精崩れだ。とても神の素体になるような器ではない」
「ハーヴィス……! お前、お前……!」
「だがなぁ、あいつは知らなかった。これで十分だと思っていた。何も知らないが故に。俺は、知った。あいつが作った、妖精言語で、ギルドの妖精どもから確認したんだ! ――恋をした【純白】は、神の素体になり得ると!」

 レウは、言葉を失った。
 そんなことが、あっていいはずが、ない、と。

「俺らは必死に探した……! ローウェルを殺して奴の家を調べたがなにも出てこなかった! だから世界中探し、そして、手に入れた。ここにあった魔導書は、特に強い代物だ。【純白】の根幹を記した、妖精に羽化するための魔導書だよ。これをシャロと融合させれば、彼女は妖精に近しい存在となる! ――あとはシャロに、恋をしてもらうだけだ」

 ハーヴィスの語る計画は、あまりにもおぞましく、レウの耳に響いた。

「魔導書を通じ、この本のことを姉だと思い込むように、暗示をかけた! あれはローウェルに似たのか、強情な女だったからな。かならず無茶をすると思ったさ。そこであの三人の従士と、冒険させるように唆したんだよ。壮絶な旅は、恋に落ちるに絶好のイベントだからな。だが、奴らはあまりに妖精を崇めすぎていて、恋をするなんて関係性ではなかったし、それに予想外に弱すぎた。さっさと死んでしまったんだよ」
「クズ野郎……」
「そこで現れたのが、お前だよ、レウ」

 ハーヴィスは、にっこりと、レウに微笑んだ。

「エロ本と呪いの本を取り違えたんだって? だが、それも考えると必然だな。呪いの魔導書もシャロの一部であるからだ。言わば魔導書自身の意思で、強者をシャロに引き寄せるように動いたんだろう。お前は本当によくやってくれた。シャロと冒険を駆け抜け、そして無事、恋に落ちた」
「ハーーーーーーーーーーヴィス!」

 レウは立ち上がった。
 シャロという神秘の存在により、周囲の時空は歪んでいる。重力なんていう縛りも、随分緩くなっていた。
 レウは背中の【星剣】を抜いた。【籠手】と【星剣】に【指輪】の魔力の全てを回した。
【星剣】が吠える。波濤のようなエネルギーを纏う。
 星を斬る最強の剣が唸り、《魔法卿》を斬らんと魔力の極光が放たれる。

 だがハーヴィスは、ぱちん、と、指を鳴らした。
 すると瞬く間に、【星剣】と【籠手】に悪性の魔力がどんどん流れ込み――二つの妖精武器は破裂し、無残に瓦解した。
 呆然とするレウに、ハーヴィスは冷たく言い放つ。

「ダメじゃないか、レウ。俺は敵だろ? 【指輪】の魔力に、何かを仕込んでるに決まってるじゃないか」
「テメエ……!」
「エルセイドとアルスは厄介だった。あいつらは単純に、妖精が嫌いだからな。奴らの妖精武器は【虹】の幼体を殺しかねない。だから真っ先に排除しておきたかった。本当に、神が完成するのは、お前のお陰だよ、レウ」

 全ては彼の手の平の上だった。
 対抗する手段を失ったレウは、呆然とするしかなかった。
 ハーヴィスは、少しだけ残念そうな表情で、少年を見やる。

「俺は本当に、お前を買ってたんだぜ。騙すような真似をして悪かったが――もうちょっと、反撃してくるかと思ったのも、事実だ」

 全てを語り終えたハーヴィスは。

「それじゃあ、始めようか」

 両手の指を鳴らす。
 その瞬間、何故だろう。レウの心の大事ななにかがごっそりと、持っていかれたような感覚に襲われた。
 たまらず膝をつくレウ。そして、宙に浮くシャロを見上げると。
 彼女は一層強く輝き、神秘性が増している。

「【純白】を神にするには、妖精と人間両方の恋心を燃料にすると確実だ。悪いが、奪わせてもらう。ほら、見ろよ。シャロの中に、様々な妖精たちが混ざりに来ている。今ここで【虹】が生まれる。全能にして万能の神。人が従うべき、絶対の存在だ」

 ハーヴィスは、煌めくシャロに手を組み、祈りを捧げた。
 全ては彼の計画通り。今ここに神が生まれる。
 その脇で、もはや認識すらされていないレウは、ただただ呆然と。膝をつきながら。
 失った感情に、思いを馳せていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

処理中です...