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第8話 メンヘラエルフの魔力講座
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酒場を出た俺とセシルは、クウェール密林に足を踏み入れていた。酒場から少し離れた場所にあるこの広大な密林は、人の気配がまるで感じられず、ひっそりと静まり返っている。湿った土の香りと、空気に漂うわずかな樹木の甘い匂いが鼻をくすぐる。風が木々の間を抜け、葉がざわざわとささやき、時折遠くで小動物が地面を走る音が聞こえる以外、周囲には誰一人としていない。ここなら、誰にも迷惑をかけることなく、魔法を教えられるとセシルは言う。
俺の隣を歩く彼女の姿が、ふと目に飛び込んできた。セシルは、俺が地球で夢見ていた「本物のエルフ」そのものだった。陽光を反射し、彼女の長い銀色の髪がまるでエメラルドのように輝く。風に乗って髪が優雅に揺れ動き、その度に細かい光が散りばめられたようにきらきらと光る。その艶やかさは息を呑むほどだ。瞳は透明なガラスのように碧色く、まるで湖の底を覗き込んでいるかのような深みと輝きがあり、吸い込まれそうになるほど美しい。彼女はまさに“歩く美術品”とでも形容したくなるような、圧倒的な存在感を放っている。その容姿は誰もが目を奪われるほど完璧だ。しかし、それはあくまで外見の話であり、内面は全く異なる。
彼女の美貌に相反するように、その精神はどこか脆く、不安定で、常に壊れそうな危うさが漂っている。地球にいた頃なら、こういうタイプの人間を「メンヘラ」と呼んだが、セシルはまさにその典型例だ。何がきっかけで彼女の不安定さが爆発するのか予測できないため、言葉一つにさえ細心の注意を払わざるを得ない。
「そ、そ、それじゃあ、魔力について……教えていきます……ね……」
セシルは小刻みに震えながら、どこか怯えたような声でそう告げた。
「よろしくお願いしまーす!」
俺は、彼女の一挙手一投足に気を配り、何が彼女の機嫌を損ねるかわからない状況に備えるしかない。余計なことを言わず、あくまで相手を立てる。それが今、俺にできる最善の策だ。
「ところでアカシさん、魔力についてどれくらい知ってるんですか……?」
「何一つ知りません……」
俺は少し間を置き、正直に答えた。彼女は、ふっと小さく鼻で笑った。
「なるほど……お、教えたら私より強くなりそうなので……や、やっぱり、教えるの、やめますね」
そう言って、彼女は軽く肩をすくめて、そっぽを向いた。
「ちょっ、ちょっと待ってー!教えて!行かないでー!」
「いやです」
俺が下手に出ても、彼女は全く譲る気配を見せない。マジで面倒くさい。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「お願いします!セシル先生、教えてください!」と、俺はわざと誇張した口調で懇願する。
その瞬間、彼女の顔に微かに嬉しそうな表情が浮かんだ。どうやら「先生」と呼ばれるのが、彼女にとって特別な響きを持つらしい。だが、こちらからすれば、その小さなプライドを刺激することが、いかに厄介かを思い知らされるばかりだ。
「仕方ないですね~」と、彼女は得意げな表情で頷いた。
「まず魔力とは、全ての生命体に流れている生命エネルギーの総称です。本来、誰でも魔力を扱うことはできるんですよ。ただし、扱いを誤ると、魔力は危険な凶器に成りうる。それゆえ、魔力の体得は冒険者や魔法学校の生徒、戦士育成学校の生徒に限られています」
その言葉を聞きながら、俺は彼女の表情を見つめた。冷静な顔をしているが、その奥にはどこか焦燥が見え隠れしているようだった。
「アカシさんは既に魔力操作ができているみたいですね。生まれつき魔力を操れる人間はごく稀で……。まあ、魔族はみんな生まれつきできるんですけどね」
彼女の視線が一瞬、俺から逸れる。最後の言葉には、どこか少し棘が含まれているように感じた。
「魔力を自在に操れる者は、魔法使い、もしくは魔術師などと呼ばれます。魔術師は、『魔道士型』と『戦士型』に分類することができるんです。魔道士型は魔力を体外に放出することが得意で、戦士型は体内に留めて力に変えることが得意なんです」
セシルは俺の方をじっと見つめながら続けた。
「クオラと対等に戦えたということは、アカシさんはきっと戦士型でしょうね」
その言葉に対して、俺の中でひとつ疑問が生まれる。
「戦士型だったら、魔力を体外に放つことはできないのか?」
「原則、できませんね。体外に魔力が漏れ出すことはあっても、それを自由に操ることは不可能です」
彼女の説明に、俺の疑問は更に膨らむ。
「じゃあ、魔道士型の魔術師が、戦士型に変わることってあるのか?」
セシルは首を横に振り、はっきりと答えた。
「あり得ません。魔道士型か戦士型かは、生まれつき決まっていて、後天的に変えることは絶対に不可能です」
その答えに、俺はますます困惑する。俺が戦士型であるなら、ワイバーンとの戦いで火炎弾を放ったことの説明がつかない。
【メニュー・オープン】
俺は試してみることにした。俺の視界にだけ表示されるメニュー画面がふわりと浮かび上がる。俺はその中から「魔法」の項目を選び、「サンダー」を選択した。すると、俺の右手に電撃のような光がビリビリと走り始める。その感触を確かめた後、近くにそびえ立つ大きな木に向かって、「サンダー」と呟く。すると、瞬時に高圧の電流が木を直撃し、瞬時に木は焼き焦げ、地面へと崩れ落ちた。
その様子を見ていたセシルは、信じられないという顔で俺を見つめていた。
「俺、多分、魔道士型なんじゃない?」
と、俺は肩をすくめて言った。その一言が彼女の不安定な精神に火をつけた。
「いや、えぇ!?なんでぇー!?」
セシルの声は驚きと困惑でかすかに震えていた。
彼女の瞳には、怯えと不信の色が浮かんでいる。
「じゃ、じゃあ、どうしてあんなにクオラと戦えたんですか!?魔道士型と戦士型、両方ってこと!?そんなの……そんなの絶対に有り得ない!!」
彼女の言葉が震え、声が上ずる。彼女はまるで、自分の認識が崩れ去っていくのを拒むかのように、震えだした。
「ちょ、セシルさん?」
「そ、そんなの、そんなのズルい!世の中、結局才能なんですね!私なんか、魔法学校を2年も留年したんですよ!?どうして私がこんなに苦しんでるのに、アカシさんはそんな───」
彼女の瞳には嫉妬と怨嗟が燃え上がる。まるでその感情が具現化したかのように、空気がねじれ、暗く、重くなっていく。
「ちょっ、セシルさーん?落ち着いてください?ね?ほら、魔力とか関係なく、俺の身体能力がただ単に高いとか、そういうことかもしれないだろ?ね?」
俺は必死に説得を試みた。
「………………………なる、ほど?」
セシルの瞳が揺れ、動悸が止まる。少しの安堵が俺の胸を満たす。
「確かに、そう言う事なら……辻褄が合いますね。ごめんなさい、取り乱して……説明を続けますね」
セシルは、一度気を取り直したかのように息を整え、淡々とした口調で再び説明を始めた。しかし、その目にはまだどこか不安定な光が揺れていた。
「魔力には、炎属性、水属性、草属性、雷属性、風属性、地属性、光属性、闇属性、無属性の9つの属性があり、魔術師にも生まれつきこの属性が備わっているのです……」
彼女の声は滑らかだったが、その抑揚のない語りは、どこか不気味さを感じさせた。
俺は頭の中で整理しながら、ふとクオラのことを思い出す。なるほど、あの風を纏った体…彼女は風属性だったのか。俺はそう推測しながら、セシルの説明に思考を巡らせる。
「じゃあ炎属性の人は、風属性の魔力を使えないってことですかー?」
と俺は興味本位で尋ねた。
セシルは一瞬固まり、目を泳がせながら言葉を繋げる。
「い、いえ……。自身の属性とは異なる属性の魔力も、扱うことは可能です。ただし、相殺関係の魔力以外は……」
「相殺関係?」
「魔力の属性には、相性というものが存在するのです……。炎属性は草属性に強く、草属性は水属性に強く、水属性は炎属性に強いという具合です……。仮にアカシさんを炎属性としたら、水属性の魔力と草属性の魔力は、炎属性の魔力で相殺されてしまいますから……水属性と草属性の魔力を操ることは……不可能となります……」
その説明は、よくある魔法のルールで、そこまで新しいものではなかった。まあ、覚えるのは難しくなさそうだな、と軽く思いながら俺は更に質問を投げかける。
「じゃあ、俺が仮に雷属性だったら、水属性と炎属性の魔力を操れるんですか?」
セシルは一瞬だけ不自然に視線を逸らしながら答えた。
「操れます、が………どちらか一方しか扱えませんね……。基本的に、相殺関係にある魔力を同時に操ろうとすると……体内で魔力同士が打ち消しあうので……相殺関係にある魔力を同時に操ることは不可能です……」
俺の頭の中で再び疑問が浮かんだ。俺は「魔法」を選択し、その中にある「ファイヤー」と「ウォーター」を同時に選んでみた。すると───、
「ん?あれ?」
俺の右腕には炎が纏い、左腕には流水が纏った。炎と水が同時に───。
「普通にいけましたよ……同時発動……」
その瞬間、セシルの表情が一気に暗く変わった。俺は、その異様な変化にしまった、と思ったが、もう遅い。
「な、な、な、な……?」
セシルの体が震え始める。その震えは彼女の内に渦巻く感情を抑えきれないような、破滅的な何かを暗示していた。
「あ……、あー!ああ……!」
動揺のあまり、彼女は声にならない叫びを上げ始めた。まるで、自分自身の現実が崩壊していく瞬間を目の当たりにしているかのように。
「セ、セシル先生?お、落ち着いてください、ね?」
俺の声は、まるで深淵に響くかのように虚しく、セシルには届かない。彼女の表情は既に遠く、何か別のものを見つめているようだった。
「私は先生……私は先生……私は偉い……私は強い……」
彼女の声が呪文のように繰り返される。自己暗示───いや、これは自己崩壊の兆しだ。俺は、急に寒気を感じた。
「私は先生だ……。そうだ、先生だぞ?せ、先生ができないのに、なんで教え子の貴方がそんなことできるの?……なんで?……ねえ?そんなのおかしいよね?ね?どうして?」
その問いかけは、どこか壊れていて、理性を失っている。それが怖かった。とても怖かった。
「え、えーっと……」
俺は言い訳を探したが、何も思い付かない。何を答えても、今の彼女には届かないだろう。
セシルはわなわなと震える手を前に差し出した。すると、その手に眩い光が宿り、1本の杖が現れた。杖はセシルの身長よりも少し長く、先端には蒼く輝く宝石がはめ込まれている。その姿はまさに、魔法の象徴そのものだった。
彼女の目は、さらに深い闇に覆われていく。そして、黒くどす黒いオーラが彼女の周囲に漂い始めた。暗黒の波動が、周囲の空気を歪ませるように広がっていく。セシルはゆっくりと杖を俺に向け、その震える唇から、低い、しかし決然とした声を漏らした。
「お前なんか、消してやる………!」
その言葉は冷たく、狂気を孕んでいた。俺はただその場に立ち尽くし、息を呑んだ。
俺の隣を歩く彼女の姿が、ふと目に飛び込んできた。セシルは、俺が地球で夢見ていた「本物のエルフ」そのものだった。陽光を反射し、彼女の長い銀色の髪がまるでエメラルドのように輝く。風に乗って髪が優雅に揺れ動き、その度に細かい光が散りばめられたようにきらきらと光る。その艶やかさは息を呑むほどだ。瞳は透明なガラスのように碧色く、まるで湖の底を覗き込んでいるかのような深みと輝きがあり、吸い込まれそうになるほど美しい。彼女はまさに“歩く美術品”とでも形容したくなるような、圧倒的な存在感を放っている。その容姿は誰もが目を奪われるほど完璧だ。しかし、それはあくまで外見の話であり、内面は全く異なる。
彼女の美貌に相反するように、その精神はどこか脆く、不安定で、常に壊れそうな危うさが漂っている。地球にいた頃なら、こういうタイプの人間を「メンヘラ」と呼んだが、セシルはまさにその典型例だ。何がきっかけで彼女の不安定さが爆発するのか予測できないため、言葉一つにさえ細心の注意を払わざるを得ない。
「そ、そ、それじゃあ、魔力について……教えていきます……ね……」
セシルは小刻みに震えながら、どこか怯えたような声でそう告げた。
「よろしくお願いしまーす!」
俺は、彼女の一挙手一投足に気を配り、何が彼女の機嫌を損ねるかわからない状況に備えるしかない。余計なことを言わず、あくまで相手を立てる。それが今、俺にできる最善の策だ。
「ところでアカシさん、魔力についてどれくらい知ってるんですか……?」
「何一つ知りません……」
俺は少し間を置き、正直に答えた。彼女は、ふっと小さく鼻で笑った。
「なるほど……お、教えたら私より強くなりそうなので……や、やっぱり、教えるの、やめますね」
そう言って、彼女は軽く肩をすくめて、そっぽを向いた。
「ちょっ、ちょっと待ってー!教えて!行かないでー!」
「いやです」
俺が下手に出ても、彼女は全く譲る気配を見せない。マジで面倒くさい。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「お願いします!セシル先生、教えてください!」と、俺はわざと誇張した口調で懇願する。
その瞬間、彼女の顔に微かに嬉しそうな表情が浮かんだ。どうやら「先生」と呼ばれるのが、彼女にとって特別な響きを持つらしい。だが、こちらからすれば、その小さなプライドを刺激することが、いかに厄介かを思い知らされるばかりだ。
「仕方ないですね~」と、彼女は得意げな表情で頷いた。
「まず魔力とは、全ての生命体に流れている生命エネルギーの総称です。本来、誰でも魔力を扱うことはできるんですよ。ただし、扱いを誤ると、魔力は危険な凶器に成りうる。それゆえ、魔力の体得は冒険者や魔法学校の生徒、戦士育成学校の生徒に限られています」
その言葉を聞きながら、俺は彼女の表情を見つめた。冷静な顔をしているが、その奥にはどこか焦燥が見え隠れしているようだった。
「アカシさんは既に魔力操作ができているみたいですね。生まれつき魔力を操れる人間はごく稀で……。まあ、魔族はみんな生まれつきできるんですけどね」
彼女の視線が一瞬、俺から逸れる。最後の言葉には、どこか少し棘が含まれているように感じた。
「魔力を自在に操れる者は、魔法使い、もしくは魔術師などと呼ばれます。魔術師は、『魔道士型』と『戦士型』に分類することができるんです。魔道士型は魔力を体外に放出することが得意で、戦士型は体内に留めて力に変えることが得意なんです」
セシルは俺の方をじっと見つめながら続けた。
「クオラと対等に戦えたということは、アカシさんはきっと戦士型でしょうね」
その言葉に対して、俺の中でひとつ疑問が生まれる。
「戦士型だったら、魔力を体外に放つことはできないのか?」
「原則、できませんね。体外に魔力が漏れ出すことはあっても、それを自由に操ることは不可能です」
彼女の説明に、俺の疑問は更に膨らむ。
「じゃあ、魔道士型の魔術師が、戦士型に変わることってあるのか?」
セシルは首を横に振り、はっきりと答えた。
「あり得ません。魔道士型か戦士型かは、生まれつき決まっていて、後天的に変えることは絶対に不可能です」
その答えに、俺はますます困惑する。俺が戦士型であるなら、ワイバーンとの戦いで火炎弾を放ったことの説明がつかない。
【メニュー・オープン】
俺は試してみることにした。俺の視界にだけ表示されるメニュー画面がふわりと浮かび上がる。俺はその中から「魔法」の項目を選び、「サンダー」を選択した。すると、俺の右手に電撃のような光がビリビリと走り始める。その感触を確かめた後、近くにそびえ立つ大きな木に向かって、「サンダー」と呟く。すると、瞬時に高圧の電流が木を直撃し、瞬時に木は焼き焦げ、地面へと崩れ落ちた。
その様子を見ていたセシルは、信じられないという顔で俺を見つめていた。
「俺、多分、魔道士型なんじゃない?」
と、俺は肩をすくめて言った。その一言が彼女の不安定な精神に火をつけた。
「いや、えぇ!?なんでぇー!?」
セシルの声は驚きと困惑でかすかに震えていた。
彼女の瞳には、怯えと不信の色が浮かんでいる。
「じゃ、じゃあ、どうしてあんなにクオラと戦えたんですか!?魔道士型と戦士型、両方ってこと!?そんなの……そんなの絶対に有り得ない!!」
彼女の言葉が震え、声が上ずる。彼女はまるで、自分の認識が崩れ去っていくのを拒むかのように、震えだした。
「ちょ、セシルさん?」
「そ、そんなの、そんなのズルい!世の中、結局才能なんですね!私なんか、魔法学校を2年も留年したんですよ!?どうして私がこんなに苦しんでるのに、アカシさんはそんな───」
彼女の瞳には嫉妬と怨嗟が燃え上がる。まるでその感情が具現化したかのように、空気がねじれ、暗く、重くなっていく。
「ちょっ、セシルさーん?落ち着いてください?ね?ほら、魔力とか関係なく、俺の身体能力がただ単に高いとか、そういうことかもしれないだろ?ね?」
俺は必死に説得を試みた。
「………………………なる、ほど?」
セシルの瞳が揺れ、動悸が止まる。少しの安堵が俺の胸を満たす。
「確かに、そう言う事なら……辻褄が合いますね。ごめんなさい、取り乱して……説明を続けますね」
セシルは、一度気を取り直したかのように息を整え、淡々とした口調で再び説明を始めた。しかし、その目にはまだどこか不安定な光が揺れていた。
「魔力には、炎属性、水属性、草属性、雷属性、風属性、地属性、光属性、闇属性、無属性の9つの属性があり、魔術師にも生まれつきこの属性が備わっているのです……」
彼女の声は滑らかだったが、その抑揚のない語りは、どこか不気味さを感じさせた。
俺は頭の中で整理しながら、ふとクオラのことを思い出す。なるほど、あの風を纏った体…彼女は風属性だったのか。俺はそう推測しながら、セシルの説明に思考を巡らせる。
「じゃあ炎属性の人は、風属性の魔力を使えないってことですかー?」
と俺は興味本位で尋ねた。
セシルは一瞬固まり、目を泳がせながら言葉を繋げる。
「い、いえ……。自身の属性とは異なる属性の魔力も、扱うことは可能です。ただし、相殺関係の魔力以外は……」
「相殺関係?」
「魔力の属性には、相性というものが存在するのです……。炎属性は草属性に強く、草属性は水属性に強く、水属性は炎属性に強いという具合です……。仮にアカシさんを炎属性としたら、水属性の魔力と草属性の魔力は、炎属性の魔力で相殺されてしまいますから……水属性と草属性の魔力を操ることは……不可能となります……」
その説明は、よくある魔法のルールで、そこまで新しいものではなかった。まあ、覚えるのは難しくなさそうだな、と軽く思いながら俺は更に質問を投げかける。
「じゃあ、俺が仮に雷属性だったら、水属性と炎属性の魔力を操れるんですか?」
セシルは一瞬だけ不自然に視線を逸らしながら答えた。
「操れます、が………どちらか一方しか扱えませんね……。基本的に、相殺関係にある魔力を同時に操ろうとすると……体内で魔力同士が打ち消しあうので……相殺関係にある魔力を同時に操ることは不可能です……」
俺の頭の中で再び疑問が浮かんだ。俺は「魔法」を選択し、その中にある「ファイヤー」と「ウォーター」を同時に選んでみた。すると───、
「ん?あれ?」
俺の右腕には炎が纏い、左腕には流水が纏った。炎と水が同時に───。
「普通にいけましたよ……同時発動……」
その瞬間、セシルの表情が一気に暗く変わった。俺は、その異様な変化にしまった、と思ったが、もう遅い。
「な、な、な、な……?」
セシルの体が震え始める。その震えは彼女の内に渦巻く感情を抑えきれないような、破滅的な何かを暗示していた。
「あ……、あー!ああ……!」
動揺のあまり、彼女は声にならない叫びを上げ始めた。まるで、自分自身の現実が崩壊していく瞬間を目の当たりにしているかのように。
「セ、セシル先生?お、落ち着いてください、ね?」
俺の声は、まるで深淵に響くかのように虚しく、セシルには届かない。彼女の表情は既に遠く、何か別のものを見つめているようだった。
「私は先生……私は先生……私は偉い……私は強い……」
彼女の声が呪文のように繰り返される。自己暗示───いや、これは自己崩壊の兆しだ。俺は、急に寒気を感じた。
「私は先生だ……。そうだ、先生だぞ?せ、先生ができないのに、なんで教え子の貴方がそんなことできるの?……なんで?……ねえ?そんなのおかしいよね?ね?どうして?」
その問いかけは、どこか壊れていて、理性を失っている。それが怖かった。とても怖かった。
「え、えーっと……」
俺は言い訳を探したが、何も思い付かない。何を答えても、今の彼女には届かないだろう。
セシルはわなわなと震える手を前に差し出した。すると、その手に眩い光が宿り、1本の杖が現れた。杖はセシルの身長よりも少し長く、先端には蒼く輝く宝石がはめ込まれている。その姿はまさに、魔法の象徴そのものだった。
彼女の目は、さらに深い闇に覆われていく。そして、黒くどす黒いオーラが彼女の周囲に漂い始めた。暗黒の波動が、周囲の空気を歪ませるように広がっていく。セシルはゆっくりと杖を俺に向け、その震える唇から、低い、しかし決然とした声を漏らした。
「お前なんか、消してやる………!」
その言葉は冷たく、狂気を孕んでいた。俺はただその場に立ち尽くし、息を呑んだ。
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