悪役令嬢になった私は運命に抗う

花咲千之汰

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部屋の中で軽く魔法を使いながらジャムを作る私と、それを私の側で自由に過ごしながら眺める精霊達。

すると、とある一人の精霊がふと何かを察したように窓の外を見たかと思うとこんな事を呟いた。

『あいつが来た~!』

途端にその子の呟きを聞くなり部屋の中でザワザワと騒ぎ出すその他の精霊達。

『あっ、ホントだ』

『えー何しに来たのー』

『きっとオリヴィアに悪いことしに来たんだ!!』

『あの子いい子だと思うけどなぁ~?』

彼らが口々に口にする人物が一体誰のことを指しているのか分からないが、取り敢えず好感を持っている精霊達とその人物を嫌っている精霊達が半々ぐらいいるのは分かった。

そして、暫く彼らを無視しながらジャムを作り続けていると何やら窓の方に向かい始めた精霊達。

私はジャム作りを一時的に中断させると、彼らが見ている窓に近寄ってみた。

すると、そこには立派な馬車がこの屋敷のすぐ近くまで来ているではないか。

私は近くにいた精霊の一人に「あの馬車には誰が乗ってるの?」と問い掛ける。

しかし、何故かその精霊は私の問い掛けには答えずに『来てからのお楽しみだぜー!』の一言。

私はその精霊の言葉に苦笑いをしながらその馬車が屋敷に到着するのを待って、それから数分して屋敷の敷地内に入ってきた馬車を見下ろしながらその馬車から出てきた人物を見て目を見開いた。

なんと、なんとだ。

馬車から降りてきたのはあのアルバート王子だったのだ。

でも何故、この屋敷にやって来たのだろうか?

以前までならばオリヴィア・ローズマリーが「屋敷に来て下さい!」やら何やらとしつこく手紙を送って屋敷に来させていたが、私はそんなことはしていない。

もしかして父さんかレイモンドに用があるのだろうか?

私は考えも分からないと中断させていたジャム作りに戻る。

そして、そこから十分ほどが経った頃だろうか。

ただひたすらに無心でイチゴを煮詰めながら灰汁を取る作業をしていると、何やらコンコンと私のいる部屋をノックする音が聞こえた。

ここで『もしやアルバート王子なのでは……』と考えた私。

もしもそうだとしたらここまでスラスラ魔法を使えているのは不味い。

私はそう考えるなりグイッとなにもない宙を掴んでスーが使ってもいいと言っていた空間を作り出すなり、そこに作りかけのジャムとジャムを作るために使っていた道具を突っ込んで空間を閉じると、更に風の魔法を使って部屋の中の空気を入れ替える。

そして最後に身嗜みを整えながら扉の向こうに対してこう告げた。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

深く扉の前で深呼吸をしてドアノブに手を掛けた私はゆっくりと部屋の扉を開けた。

すると、扉を開けるなり目の前にいたのは綺麗に微笑むアルバート王子。

私は部屋の中に彼を招き入れるなり机の上にあった紅茶をカップに入れて彼の目の前に差し出した。

「……お待たせしてすみません。よければこちらどうぞ」

「ありがとう。いきなり何の連絡もなく来てわるかったね」

「いえ、それは気にしなくてもいいですよ。でも何故こちらへ?」

「君の顔が見たくなったんだ」

ふわりと本当に綺麗に微笑む目の前の彼。

しかし、そんな彼の肩の上にいたとある精霊達が口々にこんな事を口にし始めた。

『嘘ばっかり~』

『オリヴィア騙されちゃダメだよ』

『お腹の中真っ黒黒な癖にぃ~!』

それぞれみんながみんな彼に向かってあっかんべーやら嫌な顔をする。

けど、それとは違って『そんな訳ないじゃん~』やら『アルバート王子は優しいよぉ~?』なんてことを言う子もいる。

でも、彼の設定を思い出すとアルバート王子は物凄く腹黒いキャラだったので性格は悪いには悪い。

彼にとってオリヴィア・ローズマリーとは虫除けかつ王家の力を強くする為に国王に言われるがまま仕方なく婚約した婚約者だ。

ぶっちゃけ彼に私が恋をしたとしても報われる率はほぼゼロパーセントである。

自小説の中でもヒロインと結ばれるのは彼ですし。

「そうなんですね。ありがとうございます」

だから何なら婚約破棄していただいてもいいのだ。

私はそんなことを考えながら目の前の彼に微笑みを返す。

途端に少し驚いたように目をほんの少しだけではあるものの見開いた彼。

「どうかしましたか?」

「あ、いや。なんでもないよ」

私は再び微笑みという名の仮面を被った彼に「そうですか」というと、手元にある自身の紅茶に口を付けた。

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