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さて、つい先日階段から落ちた拍子に前世の記憶というものを思い出した次第なんですが今私が生きているこの世界って前世の私の記憶でいう『乙女ゲーム』とやらの世界なんですよね。

で、私は妹でありゲーム内ヒロインであるフェリナに対して嫌がらせの嵐を差し向ける最低最悪な性悪な彼女の双子の姉であるローラ・ヴィンセントだと。

私は静かにベッドの上で無表情ながらにこれからどうするか頭を巡らせながら小さく溜息をつく。

いや、ぶっちゃけると前世の記憶が戻るまで妹のフェリナのこと大っ嫌いだったけど今の私的には『うちの妹可愛過ぎない?』ってな状態な訳。

なのに妹をいじめたりとか出来ると思う?

いや、出来るはずないよね。

そう結論つけたその瞬間、私のいる部屋の扉がノックされて私の目の前に現れたのは私ことローラの妹であるフェリナその人。

彼女は私を視界に入れるなり目に涙を浮かべながら弱々しく私の名を呼び、こちらへ駆け寄って来たと思うと私のお腹辺りに抱き着きポロポロと涙を零しながらこんな事を口にした。

「ローラ、よかった!本当にごめんなさい!」

あら、なんて可愛いんでしょう。

前までの私なら問答無用で目の前の妹にビンタをしてたけど、なんで前の私はこんな可愛い子に手を挙げていたんだろう?

ああ、でも今回階段から落ちた理由はこの子でもあるから前の私がこの子をビンタしても仕方ないといえば仕方ないんだけどね。

私は内心でだらしない笑みを浮かべつつ、彼女の頭を撫でながら優しく笑む。

「大丈夫よ、フェリナ……」

途端に私の言葉に対して目を見開きながら顔を上げた彼女。

そりゃあ今まで最低最悪な性格だった姉がいきなり優しくなったら驚くよね。

フェリナはその澄んだ青色の瞳に涙を浮かべながら私を見上げて首を傾げる。

「ほ、本当に怒ってない……?」

「うん、怒ってないよ」

サラリと彼女の髪の毛に指を通しながら微笑めば口を開けたまま固まる目の前の彼女。

すると彼女は私にも聞こえるか聞こえないかの小さな声でこんなことを呟いた。

「これはもしかしてある意味成功……?」

「ん?」

ある意味成功とはなんのこと?

ふと私がフェリナに問い掛けるように首を傾ければ、彼女は慌てた様子で私から離れて早口に「な、何でもないの!お茶持ってくるからローラはゆっくりしてて!!」と言うとそのまま部屋から飛び出して行ってしまった。

「……一体何?」

私が小さく呟いたその言葉は誰に聞かれることもなく空気に溶けた。
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