67 / 99
高等部 一年目 皐月 ゴールデンウィーク
058 GW 4日目 2
しおりを挟む**健太視点**
高名な芸術家である京夜の祖父の誕生日パーティーに家族みんなで招待された。
祖父母達と一緒に京夜の祖父に挨拶して雑談をしていると絵のモデルを懇願された。
それを快諾して、日時の調整は陽翔がする事になった。
陽翔は実家のホテルの繁盛期で忙しいせいか、今日は給仕の手伝いをしている。
陽翔がいるケーキバイキングのコーナーは女性と可愛い系の男性Ωの人集りが凄いことになっている。
跡取りではないが、黙っていれば王子様な見た目の若く優秀な御曹子のαだからモテモテだ。
華やかなギャラリーに囲まれた陽翔とは逆に、今、俺はαの年代が近い若いイケメン達に囲まれている。
自分んちのパーティーに来ないかとか、食事のお誘い、デートのお誘い、夜の・・・
イケメン揃いだけど、自意識過剰系の俺様ばっかりで、好みのタイプがいない。
そしてピーチクパーチク、ウザイ。
陽翔に群がってるお洒落で可愛いトイプードル系の女子とチェンジして欲しい。
パーティー中だし、威圧で全員沈めたら不味いので我慢して聞き流す。
でも我慢の限界に近づいた頃、スマホのバイブが鳴った。
「すみません、失礼します。」
電話に出るからとその場を後にする。
宴会場の前のロビーを抜けてエレベーターホールに向かいながらスマホのアラームを切った。
こういうパーティーの時は囲まれた時に場を離れやすくするため、着信に見せかけたバイブ設定のアラームやタイマーを入れている。
祖父母達にも挨拶が終わったら適当にホテルの部屋に戻っていいと言われていたし、城山と最上階のレストランで夕飯を食べる約束もしていたので、そのままエレベーターに乗った。
エレベーターには先客が一人。
何処かで見たようなイケメンだ。
何処だったっけ?
結婚式の帰りらしく、ホテルの引き出物用の白い大きな手提げ袋を持っていて顔色が悪い。
酒臭いから飲み過ぎか?
エレベーターのボタンは俺の部屋と同じフロアが押してあったので、先客の男と反対側の角に背をつけた。
エレベーターのドアが開いて、フロアの方へ数歩歩き出した時、ドサッという何かが倒れるような音がした。
振り向くと男がゼエゼエと荒い息を吐いて踞っていた。
「大丈夫ですか?」
「薬、盛られた、多分・・・ラットの促進剤・・・」
「医務室に行きましょう!」
「いや、部屋に中和剤がある。俺、医者・・・」
「肩に捕まって、部屋はどこですか?」
男を支えながら立ちあがると、男は上着のポケットからカードキーを出した。
俺はそれを受け取って部屋番号を確認する。
1002
ここから近いな。
男の部屋に着くとカードリーダーにカードキーをかざしてドアを開けた。
念の為ドアが閉まりきらないように引き出物を入口付近に置いてストッパー代わりにしてから男を近くのソファーに座らせた。
「中和剤は何所ですか?」
「クローゼットの中のアタッシュケース」
男が言った場所の扉を開けるとアルミ製のアタッシュケースがあった。
それを男の前に置いて、
「自分で開けられますか?」
男が肯いたので洗面所に行ってカップに水を汲んで持って行った。
「ありがとう」
男が震えながらカプセルを口に入れたのを確かめてからカップを渡した。
俺は再び洗面所へ行くと水をためてタオルを浸した。
そして雪成兄さんに薬を盛られた男の症状と部屋番号をメールで送った。
絞った濡れタオルをソファーで横になっていた男の額に乗せてやった。
薬が効いてきたのか、10分程経った頃には呼吸と顔色が良くなってきた。
「助かった、改めてありがとう。」
「どういたしまして。じゃあ、俺はこれで失礼します。」
「待って!」
男の手が俺の手を掴んだ。
その時、男と初めて目が合った。
「俺の運命・・・」
男に肩を掴まれ、抱き寄せられて項の匂いを嗅がれた。
いつもなら肩を掴まれる前に避けるのに、油断してたせいか、がっちり掴まれて動けない。
触れられた所や項に鳥肌が広がる。
体が思うように動かないし、威圧を上手く出せない。
「俺の運命、今度は間違いない!」
運命、そう決めつける男に嫌悪感がつのる。
いつの間にか男にソファーの上に押し倒されていた。
「名前、教えて」
「離せっ、」
男に反撃出来ないように四肢をがっちり押さえ込まれた。
「やめろ!」
男の顔が近づいて、唇があと少しで触れそうになったとき、部屋のドアが開いて誰かが入って来た。
「健太?」
城山の声だ!
「先生!」
俺にのしかかっていた男を城山が押し退け、俺を抱き寄せる。
「亮輔? 何で?」
男が目を見開いて、呆然と城山と俺を見上げていた。
「蘭?!」
「あららぎ?」
あ、こいつ颯の追っかけしてたセクハラ校医だ!
「健太、何でコイツと一緒にいるんだ? ここ、お前の泊まる部屋じゃないよな?」
「エレベーター出たとこで、この人が倒れたから部屋まで運んでやったんだ。ラットの促進剤盛られたって話で、中和剤が部屋にあるからって、飲ませて様子見してた。」
城山は俺を抱き込んで大きく溜息をついた。
「通りかかった時にこの部屋からお前の声が聞こえたから、入ってみて良かった。ケガとかしてないか?」
「大丈夫だよ」
俺を守るように抱きしめたまま、城山は男に声をかけた。
「蘭、何で恩人を押し倒してたんだ?」
「彼は俺の運命だ!」
「運命? α同士で?」
「α? いや、それより亮輔、彼とどういう関係だ?」
「俺の唯一、俺の命より大事な人だ。」
そう言う城山の声が言葉が態度が俺の身も心も優しく包み込む。
俺は無意識に城山の背に手を回していた。
0
あなたにおすすめの小説
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
俺の“推し”が隣の席に引っ越してきた
雪兎
BL
僕の推しは、画面の向こうにいるはずだった。
地味で控えめなBLアイドルグループのメンバー・ユウト。彼の微笑みと、時折見せる照れた横顔に救われてきた僕の、たった一つの“秘密”だった。
それなのに、新学期。クラスに転校してきた男子を見て、僕は思わず息をのむ。
だって、推しが…僕の隣に座ったんだ。
「やっと気づいてくれた。長かった〜」
――まさか、推しの方が“僕”を見ていたなんて。
推し×オタクの、すれ違いと奇跡が交差する、ひとくち青春BLショート。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
天使のローブ
茉莉花 香乃
BL
アルシャント国には幼少期に読み聴かせる誰もが知っている物語がある。
それは勇者の物語。
昔々、闇黒がこの国を支配していた。太陽の光は届かず大地は荒れ果て、人々は飢えと寒さに耐えていた。その時五人の勇者が立ち上がった。
闇黒に立ち向かい封印に成功した勇者たちはこの国を治めた。闇黒から解き放たれた人々は歓喜した。
その話は悠遠の昔のこと…しかし、今も続く勇者の物語。
ファンタジーです
他サイトにも公開しています
前世が悪女の男は誰にも会いたくない
イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です
ーーーやってしまった。
『もういい。お前の顔は見たくない』
旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。
前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた
しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう
その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める
頑張って運命を回避しようとする話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる