【R18】一匹狼は愛とか恋とか面倒くさい

藍生らぱん

文字の大きさ
68 / 99
高等部 一年目 皐月 ゴールデンウィーク 

059 GW 4日目 3

しおりを挟む

**蘭悠聖視点**

あの頃は自分一人の力で何でも出来ると思っていた。
傲慢で独り善がりで誰の忠告も忠信も避けて嗤って聞き流していた。

その結果、敵対していたチームとの抗争に亮輔達を巻き込んでしまった。
雪成の応急処置が無ければ亮輔は一生歩けなかったかもしれないし、最悪死んでいたかもしれない。

亮輔の生気のない暗い目を見るのが辛くて以前のように話す事が出来なくなった。
それでも亮輔の力になりたくて医学を学んだ。
整形外科、整体、リハビリ、スポーツ力学、
亮輔が再び舞台を踏みたいと思った時に役に立ちそうなことは全て学んだ。

でも俺の知らないうちに亮輔は別の夢を見つけて立ち直ってしまった。
凪と雪成と三人、大学の構内で楽しそうに過ごしているのを遠くから何度も眺めた。
そして一足先に卒業してしまった亮輔とは接点が無くなり、会えなくなった。

会えたところで元通りの友人関係には戻れない・・・

実際、校医に採用されて学園の同僚として再会したとき、ひと言挨拶をしただけで亮輔とはそれ以降まともに会話する機会が無かった。

そんな心苦しい日々の中、「運命の番」のものかもしれない香りに出逢った。
「運命の番」の香りは俺のささくれだった心を癒してくれた。

「運命の番」が側にいてくれたら、今のこの苦しみから解放されるのではないだろうか?

けれど、見つけたと思った「運命」は「運命」じゃなかった。

遺伝子の相性80%

出逢った翌日、玲子先生から渡された検査結果に呆然とした。
番契約をしているαとΩの遺伝子の相性の平均値よりは高いけれど、「運命」とされる数値の境目、グレーゾーンにも引っかかっていない微妙な数値。

「あの子は確実に違うけれど、もしかしたらあの子の血縁者に蘭君の運命がいるかもしれないわね。」
どん底に沈む心を、あっけらかんとした玲子先生の言葉に救われた。
「血縁者?」
「フェロモンの香りも遺伝由来だから、たまにいるのよ。バース性関係なく親兄弟とか親戚で良く似た香りの人。」
「玲子先生、あの子と同じ香りの人、知ってるんですか?」
「ええ。でも個人情報だから、誰なのかは教えられないわ。連休明けには会えるかもしれないから、その時にあの子以上に惹かれたら昨日とか今朝みたいな行動はしないで宇佐美先生に相談する事。いいわね?」


失意と僅かな希望を抱えながら過ごした数日後、参加した大学のゼミ仲間の結婚式で、新郎側の招待客の中にチーム幹部なかまの恋人だったΩの男がいた。
名前は・・・覚えてない。

「ラン、久しぶり~」

馴れ馴れしく触れてくる近い距離感が気持ち悪い。
勝手に隣の席に座り、聞いてもいない話をペチャクチャと捲したてる。
そいつに注意が向きすぎていたせいだ。
同じテーブルの隣にいたゼミの同期が酌をしてきたワインをうっかり飲んでしまった。
「あはっ、やっと飲んだ。彼がね
αのあそこが元気になるお薬、ランのワインに入れたんだよ。僕さ、ずっとランとしてみたかったんだよね。彼もね、ランとしてみたいんだって。三人でいっぱい気持ち良くなろうよ♡」
信じられない事を言うΩと共犯の同期に怒りと気持ち悪さがつのる。
丁度お開きの時間となったお陰で症状が軽い内に二人を振り切ってエレベーターに逃げ込めた。

このまま止まらずに客室のフロアまで早く、と焦っていた時、途中のフロアでエレベーターが止まった。

Ωが乗り込んで来ませんように

ドアが開いて乗り込んで来たのはスラリとした姿勢の良い綺麗な少年だった。
老舗ブランドのオーダーメイドのスーツを上品に着こなしていて、清涼な雰囲気と香りが立ちこめていて心地良い。

そんな彼の香りに既視感を覚える。
そう、「運命」だと思った少年と同じ香りだったのだ。
普段のまともな状態だったなら、同じ香りを持った者同士が血縁者だと気づけた筈だった。
そして彼の顔が凪にそっくりだった事にも。
けれど、薬のせいで意識も体もギリギリで、自分が自分では無い状態になっていたせいで気づけなかった。
結果、玲子先生の忠告を忘れてしまっていた。

俺が泊まっている客室のフロアに着いてすぐ、先に出た彼を追ってエレベーターから降りた時、足元が覚束無く、転んでしまった。
「大丈夫ですか?」
彼が振り返って、俺を助け起こしてくれた。
兎に角、目の前にいる彼を逃したくなかった。
彼の肩に支えられて部屋に連れて行ってもらった。
彼は中和剤の入ったアタッシュケースを出してくれたり、水を用意してくれたり、冷たいタオルを額にのせてくれた。
けれど彼は中和剤が効いて症状が落ち着いてきたのを確認すると、あっさりと立ち去ろうとした。

思わず彼の手を掴んだ。
目と目が合ったらもう止まれなかった。
抱き寄せて項の香りを胸一杯に吸い込んだ。
本能が歓喜している。
本物を見つけた!
今度こそ間違い無い、俺の運命!

それなのに、自分の手の中にいたはずの運命が奪われようとしている。

よりによって亮輔に・・・!

「お邪魔しまーす」

亮輔と睨み合ってると、間の抜けたような雪成の声が聞こえた。

「修羅場?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

俺の“推し”が隣の席に引っ越してきた

雪兎
BL
僕の推しは、画面の向こうにいるはずだった。 地味で控えめなBLアイドルグループのメンバー・ユウト。彼の微笑みと、時折見せる照れた横顔に救われてきた僕の、たった一つの“秘密”だった。 それなのに、新学期。クラスに転校してきた男子を見て、僕は思わず息をのむ。 だって、推しが…僕の隣に座ったんだ。 「やっと気づいてくれた。長かった〜」 ――まさか、推しの方が“僕”を見ていたなんて。 推し×オタクの、すれ違いと奇跡が交差する、ひとくち青春BLショート。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

天使のローブ

茉莉花 香乃
BL
アルシャント国には幼少期に読み聴かせる誰もが知っている物語がある。 それは勇者の物語。 昔々、闇黒がこの国を支配していた。太陽の光は届かず大地は荒れ果て、人々は飢えと寒さに耐えていた。その時五人の勇者が立ち上がった。 闇黒に立ち向かい封印に成功した勇者たちはこの国を治めた。闇黒から解き放たれた人々は歓喜した。 その話は悠遠の昔のこと…しかし、今も続く勇者の物語。 ファンタジーです 他サイトにも公開しています

処理中です...