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高等部 一年目 皐月 ゴールデンウィーク
059 GW 4日目 3
しおりを挟む**蘭悠聖視点**
あの頃は自分一人の力で何でも出来ると思っていた。
傲慢で独り善がりで誰の忠告も忠信も避けて嗤って聞き流していた。
その結果、敵対していた族との抗争に亮輔達を巻き込んでしまった。
雪成の応急処置が無ければ亮輔は一生歩けなかったかもしれないし、最悪死んでいたかもしれない。
亮輔の生気のない暗い目を見るのが辛くて以前のように話す事が出来なくなった。
それでも亮輔の力になりたくて医学を学んだ。
整形外科、整体、リハビリ、スポーツ力学、
亮輔が再び舞台を踏みたいと思った時に役に立ちそうなことは全て学んだ。
でも俺の知らないうちに亮輔は別の夢を見つけて立ち直ってしまった。
凪と雪成と三人、大学の構内で楽しそうに過ごしているのを遠くから何度も眺めた。
そして一足先に卒業してしまった亮輔とは接点が無くなり、会えなくなった。
会えたところで元通りの友人関係には戻れない・・・
実際、校医に採用されて学園の同僚として再会したとき、ひと言挨拶をしただけで亮輔とはそれ以降まともに会話する機会が無かった。
そんな心苦しい日々の中、「運命の番」のものかもしれない香りに出逢った。
「運命の番」の香りは俺のささくれだった心を癒してくれた。
「運命の番」が側にいてくれたら、今のこの苦しみから解放されるのではないだろうか?
けれど、見つけたと思った「運命」は「運命」じゃなかった。
遺伝子の相性80%
出逢った翌日、玲子先生から渡された検査結果に呆然とした。
番契約をしているαとΩの遺伝子の相性の平均値よりは高いけれど、「運命」とされる数値の境目、グレーゾーンにも引っかかっていない微妙な数値。
「あの子は確実に違うけれど、もしかしたらあの子の血縁者に蘭君の運命がいるかもしれないわね。」
どん底に沈む心を、あっけらかんとした玲子先生の言葉に救われた。
「血縁者?」
「フェロモンの香りも遺伝由来だから、たまにいるのよ。バース性関係なく親兄弟とか親戚で良く似た香りの人。」
「玲子先生、あの子と同じ香りの人、知ってるんですか?」
「ええ。でも個人情報だから、誰なのかは教えられないわ。連休明けには会えるかもしれないから、その時にあの子以上に惹かれたら昨日とか今朝みたいな行動はしないで宇佐美先生に相談する事。いいわね?」
失意と僅かな希望を抱えながら過ごした数日後、参加した大学のゼミ仲間の結婚式で、新郎側の招待客の中に族の幹部の恋人だったΩの男がいた。
名前は・・・覚えてない。
「ラン、久しぶり~」
馴れ馴れしく触れてくる近い距離感が気持ち悪い。
勝手に隣の席に座り、聞いてもいない話をペチャクチャと捲したてる。
そいつに注意が向きすぎていたせいだ。
同じテーブルの隣にいたゼミの同期が酌をしてきたワインをうっかり飲んでしまった。
「あはっ、やっと飲んだ。彼がね
αのあそこが元気になるお薬、ランのワインに入れたんだよ。僕さ、ずっとランとしてみたかったんだよね。彼もね、ランとしてみたいんだって。三人でいっぱい気持ち良くなろうよ♡」
信じられない事を言うΩと共犯の同期に怒りと気持ち悪さがつのる。
丁度お開きの時間となったお陰で症状が軽い内に二人を振り切ってエレベーターに逃げ込めた。
このまま止まらずに客室のフロアまで早く、と焦っていた時、途中のフロアでエレベーターが止まった。
Ωが乗り込んで来ませんように
ドアが開いて乗り込んで来たのはスラリとした姿勢の良い綺麗な少年だった。
老舗ブランドのオーダーメイドのスーツを上品に着こなしていて、清涼な雰囲気と香りが立ちこめていて心地良い。
そんな彼の香りに既視感を覚える。
そう、「運命」だと思った少年と同じ香りだったのだ。
普段のまともな状態だったなら、同じ香りを持った者同士が血縁者だと気づけた筈だった。
そして彼の顔が凪にそっくりだった事にも。
けれど、薬のせいで意識も体もギリギリで、自分が自分では無い状態になっていたせいで気づけなかった。
結果、玲子先生の忠告を忘れてしまっていた。
俺が泊まっている客室のフロアに着いてすぐ、先に出た彼を追ってエレベーターから降りた時、足元が覚束無く、転んでしまった。
「大丈夫ですか?」
彼が振り返って、俺を助け起こしてくれた。
兎に角、目の前にいる彼を逃したくなかった。
彼の肩に支えられて部屋に連れて行ってもらった。
彼は中和剤の入ったアタッシュケースを出してくれたり、水を用意してくれたり、冷たいタオルを額にのせてくれた。
けれど彼は中和剤が効いて症状が落ち着いてきたのを確認すると、あっさりと立ち去ろうとした。
思わず彼の手を掴んだ。
目と目が合ったらもう止まれなかった。
抱き寄せて項の香りを胸一杯に吸い込んだ。
本能が歓喜している。
本物を見つけた!
今度こそ間違い無い、俺の運命!
それなのに、自分の手の中にいたはずの運命が奪われようとしている。
よりによって亮輔に・・・!
「お邪魔しまーす」
亮輔と睨み合ってると、間の抜けたような雪成の声が聞こえた。
「修羅場?」
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