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高等部 一年目 皐月 ゴールデンウィーク
060 GW 4日目 4
しおりを挟む**健太視点**
「お邪魔しまーす」
ドアの方から雪成義兄さんの声が聞こえた。
味方が増えたことに安堵する。
雪成義兄さんは睨み合う男と城山、城山に守られるように抱き込まれている俺を見渡して一言。
「修羅場?」
そして満面の笑顔で蘭とかいう男の首根っこを掴んでベッドへと引き摺った。
「何があったのか、容易に想像できるよ。悠聖、お前に理性はないのか? 薬のせいもあるだろうけど、盛りすぎ。この前は凪の従兄弟で今日は凪の弟、凪と俺の大切な家族に何してくれてんの?」
「凪の弟? でも・・・俺の運命なんだ!」
「だからって何してもいいの? 相手の気持ちは無視?」
「相手の気持ち?」
男が縋るような目で俺を見つめた。
「俺は、貴方に運命も何も感じない。」
「嘘だ! 君は俺の運命だ!」
「じゃあ、あんたは見ず知らずのオッサンに運命だって言われたら喜んで尻掘られるんだ?」
「は?」
俺の言葉に男は何を想像したのか、嫌そうに顔を歪めた。
「俺にとってはあんたが見ず知らずのオッサンなんだけど?」
「あ・・・」
今度は涙目になった。
ついでに雪成義兄さんと城山も微妙な顔になってしまった。
そういや、同級生だったな、この三人。
「兎に角、俺は運命だからって無条件に好きになることは無いし、受け入れる事はない。」
「じゃあ、好きになって貰うように頑張る。」
「「「・・・」」」
男の言葉と笑顔に俺達は絶句する。
「俺は蘭悠聖、整形外科が専門のスポーツドクターをしている。雪成と亮輔とは同級生。君の名前を教えて欲しい。」
ここで名乗らないまま学園で会ったら、余計面倒くさい事になりそうだよな。
「・・・黒峯健太」
不本意ではあるが、名乗っておいた。
「健太・・・」
男がベッドの上に座り込んだまま、噛みしめるように俺の名前を呟いた。
「「「・・・」」」
この時の俺達は、チベットスナギツネのような顔になっていたと思う。
「・・・バ会長・・・」
ふと、雪成義兄さんが呟いた。
この三人、生徒会のOBでもあったな。
生徒会長と副会長と会計だったっけ?
「健太♡」
ぞゎっ・・・
男の甘ったるい声に背筋が・・・
颯が陽翔のこと「バ会長」って言って毛嫌いしている気持ちが心の底から理解できた。
こいつは陽翔と同類だ。
この男があのまま颯の追っかけになるよりは良かった、そう思う事にしよう。
だが、こいつ只者じゃないよな。
俺の動きと威圧を封じてたし。
こいつに酒と薬の影響が無ければ俺は完全に制圧されて声も出せなかったかもしれない。
とりあえず、男の事は雪成義兄さんに任せて、俺は城山と自分の部屋に戻った。
「健太、大丈夫か?」
ベッドの上に仰向けに寝転んだ俺の側に座った城山の手が俺の頭を撫でる。
城山に頭を撫でられたのは何年振りだろう。
初めて会った時、城山は全身包帯だらけで車椅子に乗ってたっけ・・・
「城山先生・・・」
「昔みたいに名前の方で呼んでくれないか?」
高等部に上がる頃までは「亮輔」と名前を呼びすてにしていた。
亮輔が臨時で教師する事になったから公私混同しないように苗字に先生って付けて呼ぶようにしたんだよな。
「・・・亮輔」
「健太、キスしてもいいか?」
「え?」
「健太、いい?」
「いいよ。」
了承すると城山の、亮輔の唇が俺の唇に重なった。
軽い触れ合うだけのキスを何度もされた。
それだけで、それ以上もなく、あとはただ抱きしめられた。
亮輔の温もりと鼓動が心地いい。
「健太、愛してる。」
「亮輔、俺・・・」
亮輔が俺にくれる愛情は穏やかで温かくて優しい。
前世の記憶が無ければ、迷わずに亮輔の愛情を素直に受け入れる事ができたのかもしれない。
「・・・俺は、颯を愛してる。もし亮輔か颯のどちらか一人しか助けられない時は颯を助ける。」
「それでいい。」
亮輔は優しく微笑んで、俺の手を取ると指を絡めて恋人つなぎをした。
「俺の一番は颯なんだよ?」
「知ってる。颯を守って世話してたお前だから好きになったんだ。死んだ方がマシだったって絶望して投げやりになっていた時、お前達が俺の心を救ってくれた。」
「ミイラ男って酷いこと言ったのに?」
「大学病院の庭で車椅子の動けない俺を相手に二人で好き勝手にヒーローごっこしてたよな。」
「ごめん。」
「最初はクソガキ共めっ、て頭にきてた。ぶっ飛ばしてやりたくても思うように動けなくて悔しかった。怪人じゃなくてヒーローになって見返してやるって、子供相手にムキになってさ、サボってたリハビリをするようになってた。」
「うん。」
「その頃、雪と凪が時々お前達の写真撮って見せてくれてたんだけど、お前達の魅力を全然引き出せてなくて、俺が撮ってやるって言ったらお前達の学校の行事とか七五三の度に駆り出されてカメラマンするようになった。そのうち凪がデザインした服のモデルをお前がするようになって、俺以外に撮らせるなって凪に言ったんだ。」
「・・・」
「雪のマンションのスタジオで俺の指示でセット組んで貰って、仕事としてお前の写真撮るようになって、舞台の美術とか演出とか興味深いなって気づけた。モデルや役者を輝かせる裏方の仕事をしたいって思えるようになった。自分が撮りたい場面とか舞台を創っていく過程が凄く楽しいんだ。雪と凪、そして健太が俺に新しい夢を気付かせてくれた。」
「亮輔・・・」
「俺は一生お前を撮り続けたい。仕事もプライベートも全部。」
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