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高等部 一年目 皐月
072 王道転校生の事情 後編
しおりを挟む**乾大和視点**
俺が初めて城山亮輔とシアンに会ったのは、四歳の頃だった。
日本で有名な劇団がヤマトタケルの物語をミュージカルにした舞台の初公演の初日で、厳しいオーディションを勝ち抜いて選ばれたメインキャストの中に天才子役として名高かった、当時中学生の城山亮輔の名前があった。
初日の公演の終了直後、母親に連れられて楽屋に行くと、城山亮輔は美少女三姉妹から花束を受け取っていた。
姉二人の方は城山亮輔と同年代、妹の方は俺と同年代に見えた。
母親が城山亮輔と美少女姉たちと話している間、俺は美少女妹に見蕩れていた。
「おまえ、名前は?」
俺の声に美少女妹は、姉とお揃いのフリフリヒラヒラのワンピースを摘まんでお姫様のようなお辞儀をした。
「しあん」
「しあん?」
「きみは?」
「やまと」
「ヤマトタケルのヤマト?」
今日観た舞台の主人公と同じ名前に「しあん」が瞳をキラキラさせた。
けれど、しあんの一番のお気に入りは主人公ではなく、主人公を信濃から美濃へ導いた白い狼(演者・城山亮輔)だった。
「ワンコ好きなの?」
「大好き。カッコイイ!」
しあんの目は狼の衣装を着た城山亮輔に釘付けだった。
確かに、ファンタジーの狼獣人のような出で立ちで、凄く格好良かった。
でもそれが悔しくて、俺はしあんに「おれだけみてよ!」とか「こいつよりしゅごいやくしゃにおれはなる!」とかウザ絡みして母親に叱られた。
城山亮輔には「大物になれよ」と笑われた。
俺は母親と一緒に城山亮輔とその父親でアクション俳優のキヤマダイスケが出演している映画やドラマ、舞台のDVDを観るのが好きだった。
キヤマダイスケが出ている初期の作品には若い頃の母親が出ているものもあった。
俺は母親に「キヤマタケル」という芸名をつけられ、アメリカで子役として忙しなく活動していたせいもあり、それ以降、しあんにも城山亮輔にも会う機会は無かった。
両親が出会った当時、αの母親には同じαで俳優の夫がいた。
そしてその夫の狂信的なファンが俺の父親だった。
俺のΩの父親が母親の夫にヒートトラップを仕掛けたのだが、引っ掛かったのは母親の夫ではなく、母親の方だった。
皮肉なことに、俺の両親は「運命の番」だったのだ。
心とは裏腹に本能で引き寄せられて番ってしまっただけなら良かったのに、俺の父親は妊娠してしまった。
そのせいで母親は夫のキヤマダイスケと離婚して俺の父親と再婚する羽目になったと、酒に酔う度に父親が嗤いながら何度も俺に語って聞かせた。
けれど、定期的に日本に帰国してキヤマダイスケとの間に生まれた息子──おれの異父兄に面会している母親を、父親はいつも悔しそうに嫉妬心剥き出しで見つめていた。
憎い男が産んだ子供の俺を、淡々としつつも、母親はそれなりの情を俺には向けてくれたし、大事に育ててくれた。
父親の方は典型的な毒親だった。
お互い憎み合いながらも番になってしまったせいで離れることができなかった両親。
父親のそのストレスの矛先はいつも俺だった。
母親が仕事の度に俺を連れ出して子役をさせるようになったのは、そんな父親との一緒の時間を減らして、虐待を防ぐ目的もあったと思う。
そんな家庭環境だったから、エージェントの三島さんとその家族には公私ともに助けられた。
俺のもう一つの家族と言っていい。
***
見た目のチャラさとは裏腹に、城山亮輔の授業はとても有意義な時間だった。
授業が終わって教室を去る城山亮輔の後を追う。
周りが見えていなかった俺は廊下の分かれ道で誰かとぶつかった。
「痛っ!」
ふわりと薫る甘いフェロモンの香り。
「ゴメンナサイっ」
目の前に顔をしかめた中学生の頃のシアンにソックリな銀色の髪の少年。
「・・・レッド?」
少年がじっと俺の顔を見つめ、そして顔を輝かせて叫んだ。
「バース戦隊のアルファレッド!!」
ああ、うん。
今の俺の姿は、キヤマダイスケが演じていた昔の戦隊ヒーローのリーダー、アルファレッドの変身前の姿に似ているかもしれない。
でも、30年位前の作品だった筈。
よく知ってるな~と感心する。
シアンに似た少年からの憧憬の眼差し、そしてシアンと同じフェロモンの香りが心地いい。
「レッド! ちょっと、保健室まで付き合って!!」
グイっと手首を捕まれ、俺はシアン似の少年に保健室まで連れ去られたのだった。
──────────
補足と余談
大和が見た美少女三姉妹の姉二人は雪成と凪です
雪成は凪に合わせてフリフリヒラヒラな服を着ていたのと、「雪ちゃん」と母親が呼んでいたので、大和は女子だと勘違い
そして凪と雪成が結婚していることも知らないので、シアンの本名は「宇佐美」姓だと勘違いしている
大和の母親は城山の依頼で凪のブランドのモデルをブランド立ち上げ時代からしている
母親がシアンと撮影の合間に一緒に撮った写真が大和の実家には沢山ある
小さい頃の健太は前世の記憶があるせいで凪のお下がりばかり着て、女の子のように振る舞っていた
幼少時代、健太用に買われた男子用のカッコ可愛い服は颯が喜んで着てるので無駄にはなってない
女装してる時に「けんた」と名乗ると「ウソつき!」と泣き叫ぶ同年代男子がたくさんいたので、女装時は「しあん」と名乗るようになった
「亜麻色の髪」のカツラを好んでいるのは、前世で大好きだった伯父(柴犬獣人)の色だから
しあん 名前の由来
フランス語で「犬」
プリンターのインクの青色
毒の名前
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