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高等部 一年目 皐月
074 王道転校生は気づかない
しおりを挟む**大和視点**
シアン似の少年に連れられて保健室の前に着くと、ドアの前にいた坊主頭の美少年をシアン似の少年が俺の背後から激しく責め立てて絶縁を告げた。
軽い修羅場に眩暈を覚える。
けれど、シアン似の少年が言う「ケン兄」とは、昨日見かけた黒髪の、後ろ姿とういか、立ち姿がシアンに似ていた「ケンタ」とかいう少年の事なのは察せられた。
崩れ落ちる坊主頭の美少年を残して、俺はシアン似の少年に連れられて保健室の中に入った。
そして目立たない位置にある個室の中へも連れられて入った。
個室には保険医の宇佐美先生と黒髪に黒縁眼鏡をかけた少年がいた。
優しい印象の宇佐美先生とは違い、黒髪の少年は鋭利というか凛々しい面差しだ。
彼が「ケンタ」だろうか?
確かに彼もシアンに似ているけれど、こうして間近で見ると、あの儚げで優しいシアンとは雰囲気がかけ離れている。
「お帰り、颯・・・」
声も数日前に聞いたのと違う。
・・・別人だな。
全く似ていないわけではないから、兄弟とか親戚の可能性は高そうだ。
黒髪の少年はシアン似の少年の隣にいる俺に気づくと眉を潜めた。
まあ、いきなり知らない奴が来れば警戒もするだろう。
城山亮輔とゆっくり話したかったのに、勢いに押されて連れて来られたのは失態だ。
さっきの修羅場と今のこの状況を耕平に教えたら大笑いされそうだ。
けれどポジティブに考えるなら、この少年たちと宇佐美先生と親しくなればシアンに繋がるかもしれない。
今すぐにでも問いただしたいけれど、それは悪手だろう。
仲良くなって、さりげなく・・・だな。
**健太視点**
京夜を見送りに出ていた颯が戻って来た。
隣に転校生の乾大和を連れて・・・
気を付けるように言われていたのに、なんかメッチャ懐いている?
この短時間に一体何があったのだろう?
「レッド、自己紹介がまだだったけど、オレは1年B組の神月颯。颯って名前の方で呼んでいいよ。こっちは2年S組所属で生徒会書記してるオレの従兄弟の黒峯健太。あと、保険医してるオレの義従兄弟の宇佐美雪成先生。」
「・・・乾大和デス。」
颯の勢いに押されて転校生がペコリと頭を下げた。
「同じクラスの黒峯だ。こんな状態ですまない。」
丁度、点滴を外して貰ってる最中だったので、そういう微妙な挨拶になってしまった。
「僕は宇佐美です。ここはα専用の保健室だから、バース性の事で何かあった時は気軽においで。」
雪成義兄さんが余所行きの笑顔を転校生に向けながら言った。
「レッド、ケン兄と同じクラスだったんだな。」
「乾は今日、転校して来たんだ。」
「そうなの?」
「yes」
「どうりで、見たことないと思ってたんだ。」
「颯、初対面の乾君をどうしてここに?」
雪成義兄さんの問いに颯は笑顔で、
「保健室に戻ろうとしたらぶつかって、」
「ボクの不注意、ゴメンナサイ。」
「大丈夫だから! でね、すばるがさ、保健室の前に居たから、レッドに盾になってもらった。」
「・・・また来てたのか・・・」
「昼に追い出したのに、懲りない子だね・・・」
「乾、颯が世話になったようで、ありがとう。」
「レッド、さっきはありがとう。オレ、風紀委員だから、何か困った事があったら声かけてくれよな。」
「yes、デハ僕はコレデ失礼シマスデスネ。」
「レッド、またね。」
俺たちは、礼儀正しく出ていく転校生を見送った。
「はぁ~、ビックリした・・・いきなり連れて来るなんて、心臓に悪いよ。」
雪成義兄さんが溜息をしつつ唸った。
「それに、レッドって?」
「バース戦隊の初代アルファレッドに似てたよね!」
「・・・ああ、うん、似てたね・・・」
颯のはしゃぎっぷりに雪成義兄さんが頭を抱えた。
「素顔は隠すとは思ったけど、そう来たか・・・」
「「?」」
「彼、シアンの熱狂的なファンだから、正体バレないようにね。」
「シアンの? 雪成義兄さん、何でそんなこと知ってるの?」
「乾大和はね、キヤマタケルなんだよ。」
「は? あいつ、この前のナンパ野郎なの?」
あ、危ねー
項に貼って貰ってるガーゼと包帯、フェロモンの匂いを抑える特殊加工してあるやつで助かった。
それに、左近と右京に貰った眼鏡のお蔭もあるな。
この眼鏡かけると、かなり顔の印象変わるからな・・・
双子たちには後でご褒美ショットでも撮らせてやるか。
演劇部の衣装の軍服着て鞭でも持てば大喜びするだろう。
「そう、それで、彼さ、亮輔の弟なんだ。」
「亮輔の弟!? キヤマタケルが?!」
「母親の再婚相手との子供ってことになってるから、数える程しか会ってないようだけどね。因みにノエルさんが母親。内緒だよ?」
ノエルさんはハリウッドで活躍している女優で、姉貴のブランドの専属モデルの一人だ。
俺が中等部の時、撮影の見学に行って雑用を手伝ってた時にモデルになることを勧めてくれた人でもある。
ノエルさんは日本にいる時は、普段一緒にいられない亮輔にべったりで、俺と同じ年の息子がいたなんて、知らなかった。
「ノエルさんが城山先生の母親!?」
颯は初耳だったらしく、目を丸くしている。
「親子だって公表してないんだよ。でも、ブランドの立ち上げの時、亮輔の力になりたいからって、格安で専属になってくれたんだ。」
あんな大物女優が専属になってくれるなんてどんなコネかと思ってたら、亮輔の母親だったんだよな。
紹介された時は俺も、今の颯のように目を丸くしたなぁ・・・
「情報過多で頭パンクしそう・・・」
颯がフラフラと椅子に座ってベッドに突っ伏した。
そんな颯の頭をそっと撫でてやる。
「ノエルさんから、乾君が同じ学園に転校して来るから健太に注意するようにって言付かってたんだよ。彼、かなりシアンに入れ込んでるらしくて、シアンが身に着けてたブランドのアクセサリー、全部買ってるらしい。去年、映画の撮影の時もさ、凪に健太に会わせてくれとか、私物の一点ものの透かし彫りのバングル、売ってくれってしつこかったんだよ。」
「京夜が誕プレで作ってくれたやつか・・・」
「ああ、京夜君が製作者だってこともバレないようにね。同じの作ってくれって、しつこく付きまとって言いかねない。」
「颯も気をつけないとヤバいんじゃ・・・」
俺は颯の首元のチョーカーに視線を向けた。
颯のチョーカーとお揃いのつけて撮った新作のポスター、今月の下旬に発売のファッション誌でお披露目だ。
「これ?」
白銀色のプラチナ製の細身のチョーカーはアイビーの模様がぐるりと彫られている。
アイビーの花言葉は
「永遠の愛」
「友情」
「不滅」
「死んでも離れない思い」
京夜の颯への執着愛が絡みついてるな、蔦だし・・・
撮影で付けてた俺のチョーカーは、蔦部分が無い、葉っぱだけのデザインだった。
「ケン兄のと微妙に違うから、大丈夫かな?」
「でも、製作者は同じだって、見る人が見ればわかるよ。」
「ケン兄の方のチョーカーだったら京夜のパパの工房でレプリカ作れるよ。」
「颯、マジ?」
「うん、パパが自分もお揃いの欲しいからって、ケン兄にプレゼントする前に型取ってた。だからレッドにチョーカーの事聞かれたらパパの工房紹介するよ。」
**閑話 カエルの子はカエル**
「ただいま・・・」
撮影が終わって帰宅した私は、そう言って番のルーファスの部屋のドアを開けた。
ルーファスの部屋の中はキヤマダイスケのポスターとグッズで溢れている。
ルーファスはキヤマダイスケの遺作のスパイ映画を観ていた。
「ノエル、大和は?」
「大和は学校の寄宿舎よ。」
「そう、最近、大和ってダイスケに似てきたと思わない?」
「そうね。」
「やっぱり、大和って、俺とダイスケの子供だったんじゃないかな。」
「大和は私と君の子供です。」
ルーファスは、大輔の両親が離婚した後に、母親の再婚相手との間に産まれた大輔の異父弟だ。
大輔は母方の祖父に似た容姿をしていたから、大和は隔世遺伝のお蔭か、実子の亮輔よりも大輔に似ている。
大輔の母親はルーファスが小さい頃に亡くなったから、異父兄が二人いるのを知らずに育って、俳優のキヤマダイスケが端役で出たハリウッド映画を観てファンになった。
来日した時に何かのイベントで握手をしてもらってからは、兄とは知らずに恋をして、ストーカーになったようだ。
ルーファスは大輔が亡くなったのを受け入れられずに、毎日こうして自堕落に過ごしている。
私は自分の部屋に戻ると、大和からのメールに添付されていた動画を再生させた。
動画は寄宿舎のルームツアーだった。
楽しそうに玄関から洗面、トイレ、バスルーム、キッチンを映し、最後に寝室が映った。
「・・・・・・」
寝室の壁には亮輔が撮ったシアンのポスター(額入り)や写真が張り巡らされていた。
ルーファスの事を嫌っているくせに、そういう所だけルーファスにソックリで思いやられる・・・
そして最後に、
「物足りなくて寂しいから、母さんのスマホに保存されてるシアンの画像、送ってくれない?」
というメッセージ・・・
うん
却下で・・・
──────────
余談
京夜の趣味は彫金とアクセサリーを作る事
母親(男性Ω)がジュエリーデザイナーで自宅に工房があるので、小さい頃から手解きを受けていた
京夜は凝り性なので、颯のチョーカー(Ω用ネックガード)の防犯プログラムやGPS、宝石のカットも自分でやってます
趣味と言いつつ、腕前は一流のプロ並み
あと、からくりや建築も好きなので大学は工学系に進む予定
颯は夢の影響で獣医を目指しています
京夜の母親は京夜が颯や健太に作ったアクセサリーの型を取って、素材を変えて自分用のを作ったり、一部デザインを変えた市販品を作って売ったりしています
売った方の売り上げは、きちんと京夜にお給料として渡しています
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