85 / 100
高等部 一年目 皐月
075 咬み痕
しおりを挟む**健太視点**
寄宿舎の亮輔の部屋にはシアンの仕事の打ち合わせで何度か入ったことがある。
でも、泊まるのは初めてだ。
階は違うが、俺の部屋と同じ棟なので行き来はしやすい。
なので一度自分の部屋に戻って着替えを数日分、亮輔の部屋に持ち込んだ。
シャワーを借りたあとはガーゼと包帯を変えて貰った。
今日は早めに休むように言われていたので、大人しく寝室に入る。
亮輔の寝室のベッドは生徒用の部屋のベッドより大きめのセミダブルサイズだ。
ベッドの奥の方に横になって目を閉じた。
昨日から色々あって、本当に疲れた、というか、草臥れた・・・
すばるとの事は何一つ解決してない。
でも、もう、無理だ。
俺に対しては何をされても仕方無い。
でも颯は違う。
自分の欲のために颯を利用したり、蔑ろにする奴とは一緒にいられない。
「健太?」
不意に亮輔に名前を呼ばれ、瞼を開けると、上半身裸の、風呂上がりの亮輔が目の前にいた。
程よく筋肉がついた引き締まった体にドキリとさせられる。
「まだ、痛むか?」
「もう、痛くないよ。」
亮輔はベッドの空いてるスペースに寝転ぶと、俺を抱き寄せた。
「亮輔、大好きだよ。」
「ばか、この状態で言うなよ。キスとかそれ以上したくなる・・・」
「治るまで我慢してくれるんだよな?」
「キスはしたいけど、我慢する。」
「キスだけならいいんじゃない?」
「お前は鬼か?」
「ふふっ、亮輔の好きにしていいよ。」
「俺は抱きたいけど、健太は? 健太が抱きたい方なら受け入れる覚悟はあるぞ。」
「俺は、亮輔に抱かれたい。」
俺はそっと亮輔の項を指先でなぞった。
この間、ホテルで添い寝した時に気がついたのだが、亮輔の項には小さな窪みが二つ並んでいる。
その窪みをなぞっていると亮輔が何とも言えないような顔で俺を見つめていた。
「健太、赤ん坊の頃の事は覚えているか?」
「颯が生まれてからの記憶はあるよ。颯の成長の事だけはさ、はっきり覚えてる。」
「うん、流石に生後半年くらいの頃のは無いか・・・」
亮輔が苦笑する。
俺が乳幼児の時に何かあったのか?
「健太ってさ、赤ん坊の頃は俺に凄く懐いてて、遊びに行くとべったりくっついて離れなかったんだ。」
「マジ?」
「颯が生まれたら俺に見向きもしなくなったけどな。」
「ご、ごめん?」
「中等部の寄宿舎入ったら頻繁に遊びに行けなかったから、お前が夢中になれる者ができて丁度良かったんだけどな。寂しかったけど。」
「覚えてなくて、ごめん。でも、何で今その話?」
「俺の項咬んだの、赤ん坊の頃のお前だから。」
「はい?」
「お前が今触ってるところ。」
「俺が咬んだの? 何で?」
その話が本当なら、何で赤ん坊の頃の咬み痕が残ってるんだ?
「丁度、歯が生えて来たあたりでムズムズしてたみたいでさ、あの頃のお前って噛みつき魔だったんだよな。俺だけじゃなくて、黒峯の家の人たちみんな噛まれてたぞ。俺はお前と一緒に昼寝してた時に、後ろから寝ぼけたお前にガブリって・・・」
亮輔は当時の事を思い出しながらクスクスと笑った。
「みんなは腕とか足だったからか、痕も残らずに直ぐに治ったのに、俺の項だけ咬み痕が残ってる。凄いと思わないか?」
「痛くない?」
「いや、全然。それより、痕が残ってる事の方が凄く嬉しいんだ。俺たちはα同士だから番にはなれないだろ? でも、俺がお前のものだって所有印があるようで、それが嬉しいんだ。」
「・・・亮輔、俺にもつけてくれるか? 治ったら、抱いて、項も咬んで欲しい。」
「・・・だから、今そういう事言うなよ・・・これでもかなり我慢してるんだぞ?」
「そうなんだ?」
「項の怪我が治って、体調も戻ったら、覚悟しろよ?」
「おう・・・」
結局、歯止めが効かなくなるかもしれないからと、キスもお預けになった。
その代わり、そのまま抱きしめられたまま寝た。
亮輔の肌の体温と鼓動が心地良くて、割とすぐ眠れた。
***
朝になって目が覚めると、ベッドに亮輔の姿はなかった。
寝室のドアが全開になっていて、キッチンで朝食を作っている亮輔の後ろ姿が見えた。
「おはよ。」
ベッドから起きた俺は真直ぐキッチンに向かって亮輔に声をかけた。
「おはよう、顔洗ったら飯にしよう。」
「うん。」
トイレを済ませてから顔を洗ってキッチンに戻ると、朝食の準備を終えた亮輔が座って待ってくれていた。
「美味そう・・・」
「食欲がありそうで良かった。」
「いただきます。」
「おう、俺も、いただきます。」
豆腐とネギの味噌汁に、ハムエッグ、ポテサラ、白いご飯。
「亮輔、いいお嫁さんになれるな。」
「健太が貰ってくれるなら、毎日作ってやるぞ?」
軽口を言ったのに、マジで返された。
「城山先生、寄宿舎で生徒と同棲する気ですか?」
俺の言葉に亮輔が大きなため息をついた。
「今すぐ教師辞めたい・・・」
「辞めたら毎日会えなくなるな。」
「それも嫌だぁ・・・」
仕事もできて家事も万能でスパダリなα様のくせに、変なところでヘタレだな。
でも、俺の事で一喜一憂する亮輔が愛しい。
「健太、完治したら家の別荘に行かないか?」
「別荘? なんで?」
「初めてはさ、思い出に残したいだろう?」
別荘で、つまり、最後までするってことか。
「亮輔って、ロマンチストだったんだな。」
「ダメか?」
「ダメじゃない・・・」
「じゃあ、決まりな。」
「おう・・・」
***
それから数日は、日中は雪成義兄さんの保健室で過ごして、部活は休んだ。
出席が必要な授業と、生徒会の仕事はリモートでこなした。
保健室登校初日、昼休みに体調管理をしっかりしろと真琴からお小言のテレビ電話がきた。
ネチネチ色々言われたが、心配してのことだから素直にハイハイと聞いてやった。
プリプリ怒りつつも「倒れる前に頼りなさい!」と言う真琴のツンデレ具合が可愛い。
颯は嫌ってるけど、俺はそんな真琴が友達として好きだ。
「心配かけて悪い。真琴、愛してるよ。」
「寝言は寝て言え。」
「ははっ、ごめんごめん。」
「ったく、黒峯がいないと使い物にならない人がいるので、早く戻って下さいね。」
昼は颯と一緒に保健室で学食のデリバリーを注文して食べた。
あれ以来、颯の所にも、ここにも、すばるが来ることは無かった。
静かで平和な、特に何もない日々を保健室で過ごす。
六月になったら体育祭があるけれど、実行委員会も立ち上げ済みだし、プログラムも決まっているので、後は種目毎の参加者を各チームで決めて練習するのみだ。
体育祭は紅白2チームに分かれる。
実力が偏らないように、体育教師たちの采配で振り分けられるので、週明けにならないと自分がどちらのチームになるのかが判らない仕様になっている。
去年は真琴と同じチームで、他の生徒会メンバーと京夜とは敵対したっけ・・・
応援に来ていた颯が、どっちを応援するかで頭を抱えていたな。
でも、京夜とは出た種目が被らなかったので、リレーの時は颯の応援のお蔭で陽翔を抜いてトップでゴールできた。
今年はどういう編成になるんだろう?
颯とはできれば同じチームになりたいものだ。
0
あなたにおすすめの小説
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
世話焼き風紀委員長は自分に無頓着
二藤ぽっきぃ
BL
非王道学園BL/美形受け/攻めは1人
都心から離れた山中にある御曹司や権力者の子息が通う全寮制の中高一貫校『都塚学園』
高等部から入学した仲神蛍(なかがみ けい)は高校最後の年に風紀委員長を務める。
生徒会長の京本誠一郎(きょうもと せいいちろう)とは、業務連絡の合間に嫌味を言う仲。
5月の連休明けに怪しい転入生が現れた。
問題ばかりの転入生に関わりたくないと思っていたが、慕ってくれる後輩、風紀書記の蜂須賀流星(はちすか りゅうせい)が巻き込まれる______
「学園で終わる恋愛なんて、してたまるか。どうせ政略結婚が待っているのに……」
______________
「俺は1年の頃にお前に一目惚れした、長期戦のつもりが邪魔が入ったからな。結婚を前提に恋人になれ。」
「俺がするんで、蛍様は身を任せてくれたらいいんすよ。これからもずっと一緒っすよ♡」
♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢♦︎ ♢
初投稿作品です。
誤字脱字の報告や、アドバイス、感想などお待ちしております。
毎日20時と23時に投稿予定です。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる
さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。
ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。
來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。
すると、來が獣のように押し倒してきて……。
「その顔、煽ってんだろ? 俺を」
アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。
※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。
☆登場人物☆
楠見野聖利(くすみのひじり)
高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。
中等部から学年トップの秀才。
來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。
ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。
海瀬來(かいせらい)
高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。
聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。
海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。
聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
全寮制男子高校 短編集
天気
BL
全寮制男子高校 御影学園を舞台に
BL短編小説を書いていきます!
ストーリー重視のたまにシリアスありです。
苦手な方は避けてお読みください!
書きたい色んな設定にチャレンジしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる