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高等部 一年目 皐月
閑話 初恋の終焉
しおりを挟む番外編的なお話です
急に思い立ったので書いてみました
時系列は前半が皐月、後半は翌年の弥生あたり
**蘭視点**
ゴールデンウィークが終わって学園での通常勤務に戻った。
俺の勤務時間は午後一時から部活動が終わる午後七時までだ。
「お疲れ様です。」
一時五分前に保健室に入ると、玲子先生が見ていたカルテ専用のタブレットの画面に俺の運命の番の顔写真が・・・
「健太・・・」
健太のカルテには抗生薬が入った点滴を処方したと今日の日付が入っている。
「お疲れ様、蘭先生。」
「玲子先生、黒峰健太に何かあったんですか?」
「夕べ、怪我をしたみたいよ。それで具合が悪くなったらしくて、宇佐美先生から処方箋が回ってきたのよ。」
ということは、雪成のいるα専用の保健室にいるんだろうな。
「大丈夫なんですか?」
「ええ。それより、黒峰君ともう会ったの?」
「はい、友人の結婚式があったホテルで偶然・・・」
「で、どうだったの?」
「彼が俺の運命ですよね?」
「でも、黒峰君は蘭先生に反応しなかったんじゃない?」
「・・・どうしてそれを?」
「蘭先生だけじゃないのよ。黒峰君は最高位のαだから。」
「最高位のα?!」
「あまり知られてはいないけれど、研究者たちの間では、最高位のαは自分で運命を選ぶって言われているわ。例え遺伝子の相性が限りなく0に近かったとしても、それをひっくり返せる能力をもっているらしいの。だから、どんなに相性がいいΩが目の前でヒートを起こしても、すでに運命を決めてしまったαは反応しないらしいわ。ビッチングでαやベータをオメガに書き換えて唯一の番にしたαはみんな最高位のαだったわ。蘭先生は、Ωになる覚悟はあるのかしら?」
俺がΩに?
そんなの無理に決まってる!
そんな覚悟をしなければ、彼が手に入らないと言うのなら、諦めるしかない・・・
男に掘られるなんて、俺のαとしてのプライドが許さない。
「蘭先生、私が所属している研究チームに協力してくれるなら、黒峰君より相性のいいΩの子を紹介してあげるけれど、どうする?」
「お、お願いします・・・」
「じゃあ、この書類にサインして、このスマートウォッチを半年間、肌身離さずにつけてね!」
バース性マッチングアプリ・モニター契約書、と書かれた書類にサインした後、ぱっと見、普通の腕時計にしか見えない作りのスマートウォッチを渡されて着けた。
「そのスマートウォッチね、Ω用のネックガードと同じ作りなの。抗菌仕様で完全防水だから、24時間つけっぱなしにしてね。でも、半年以上経たないと外れない仕様なんだけどね・・・ふふふ・・・」
モニターと言う名の実験動物を手に入れて、ニコニコと微笑む玲子先生・・・早まったかもしれない・・・
数日後、亮輔と仲良く連れ立って寄宿舎への帰途につく健太を見かけた。
二人の間には俺が入り込む隙間もない。
諦めるって決めたのに未練が残る。
本当に彼よりも相性のいいΩがいるのだろうか?
亮輔は、健太にビッチングされる覚悟があるから、一緒にいるのだろうか?
「蘭先生、お見合いしましょう!」
玲子先生がそう言ってお見合い写真を俺のデスクの上に広げた。
「貴方との相性99%! 最高位のΩの子よ。大学生なの。」
写真の中に、精悍な銀髪の青年の姿があった。
「黒峰君の母方の遠縁の子で、神月大輝君って言うのよ。」
「あの、Ωなんですよね? αにしか見えないんですが・・・背も高そうだし・・・」
「身長は180は超えてるのかしら? Ωの男子の平均、軽く超えてるけれど、とっても・・・一途?なキュートな子よ?」
「とりあえず、会ってはみます・・・」
とんとん拍子に見合いの席が設けられ、見合い当日、見合いの話を知らないはずの両親が玲子先生と一緒にホテルのロビーで待っていた。
嫌な予感がする・・・
そうこうしているうちに見合い相手が両親に連れられてやって来た。
「「!!」」
確かに、相性は最高に良かった。
出会った瞬間、挨拶も自己紹介すらする間もなく、ヒートとラットに突入した俺たちは、ホテルの一室に両家の親公認の元、閉じ込められ、本能の赴くままに繋がり、俺は彼の項を噛んでいた。
まあ、つまり、番になってしまっていた・・・
正気に戻った時、大輝は呆然としていた。
「お前、誰だよ? 健太はどこだ?」
半狂乱になって騒ぐ大輝を宥め、何とか話を聞きだした。
「親父に嵌められた・・・健太に会えるって言うから来たのに・・・」
話始めた大輝は黒峯健太の話を語り出して止まらなかった。
スマホにある健太の写真も見せてくれたが、どう見ても全部、隠し撮りだ。
「こうなったら仕方ないから婚約でも結婚でもするけどさ、お前の名前は?」
「蘭悠聖、凰堂学園で校医をしている。」
「健太のいる学校? 職員用の寄宿舎あるよな?」
「ああ。」
「じゃあ、すぐ籍入れて俺を寄宿舎に入れるようにしてくれ。」
「はい?」
「家族用のあるだろ?」
「俺と結婚したいのか?」
「ああ、だって校医ならさ、健太の部屋に入れるマスターキー、持ち出し可能だろ? 毎日、健太の部屋に夜這いにいけるじゃん!!」
こいつ、ヤバイ奴だ!!
ってか、健太、こんなヤバイ奴に付きまとわれてたのか?
「ああ、早く健太の雄〇んこに俺のちんこブッコみてぇ・・・」
何か、信じがたい言葉まで言ってる・・・
「健太にぶちこまれるんじゃなくて、ぶちこみたいのか?」
「あれは俺の雌だからな。」
「メス?」
「健太ってさ、最高位のαなんだけどさ、受けなんだよね。」
それが本当なら、俺、もしかしなくてもビッチングなんかされなかったのか?
俺も嵌められた?
「嘘だろ、健太が、最高位のαが受け?」
「何? もしかして、あんたも健太に気があるの?」
「諦める為に見合いしたのに・・・」
「惚れた相手の性癖も知らずに、掘られる覚悟も無かったんだ? 諦めて正解だったんじゃない?」
「そうかもな・・・」
亮輔は知っていたのだろうか?
いや、知らなくても亮輔は受け入れる覚悟はしている筈だ。
あいつはそういう奴だ。
だから、俺はあいつが・・・
何で、今頃気づくかな・・・
もう、どうにもならないのに・・・
「でも、あんた、いい体してるよな。運命だけあって、体の相性も最高だったし。」
「そうだな。」
「健太と3Pも有りかな・・・」
「おいおいおい!」
やっちまいといてなんだが、こいつとだけは結婚したくねぇ!!
だけど、数か月後、大輝の妊娠がわかって、強制的に入籍させられた。
寄宿舎は引き払って、神月家本家が所有する郊外のマンションに住むことになった。
あ、俺、婿養子になってた・・・
どんな偶然か、凪と雪成の双子の子供たちと同じ学年となる長男が正月明けに産まれた。
名前は神月健太郎・・・
親戚って、伊達じゃなかった。
健太郎は健太の子供と言っても過言ではない程、健太に似ていた。
けれど健太郎の誕生と共に母性が芽生えたせいか、大輝の健太への執着は少しづつ消えて行った。
「どこにどういう縁が転がってるのか、分からないものだね・・・」
三月に入って桜が満開になった頃、俺の保健室に雪成がやって来た。
「まさか、あのストーカー・・・いや、大輝君が悠聖と結婚して子供まで・・・」
「名前はストーカーの執念が色濃く残ってるけどな・・・」
「悠聖、幸せかい?」
「・・・正直、大輝とは結婚する気無かった。ストーカーだし・・・」
「うん、躊躇するよね。」
「お互い両親に嵌められて、半分事故で番ったようなもんだったけど、まあ、マイナスからのスタートだったのが良かったのか、あいつのことは今は可愛いと思ってる。お互い一番は健太郎なんだ。だから、家族としては上手くいってるし、幸せだって思う瞬間もある。」
「そうか。神月の血統ってさ、愛情が深いから、悠聖がちゃんと大輝に愛情を向ければさ、同じくらいかそれ以上かえしてくれるよ。」
「えぇ・・・それで俺のストーカーになったらどうすんだよ?」
「番なんだから、いいんじゃない? 大輝って、ぶっ飛んでるけど、ルールは守る子だよ? 健太に接近禁止だった頃も、ちゃんと距離保ってたし。」
「望遠レンズで隠し撮りしてたぞ?」
「まあ、それくらい見逃さないと、後が怖いよね。」
「ははは・・・」
「悠聖のお陰で健太のストーカーが一人消えたのには感謝してる。だから、悠聖も幸せになって。」
「・・・もしかして、大輝以外にもストーカーいるのか?」
「健太って、モテるからね・・・君も一時期、予備軍だったし・・・」
「亮輔と健太の邪魔はしないよ。俺は、亮輔には幸せになって欲しいって思ってるから。」
「うん、そうだね。僕も凪も亮輔と健太の幸せを願ってる。」
「凪と双子、元気か?」
「元気だよ。たまに亮輔と健太が子守してくれるから助かってる。」
「亮輔、子守できるの?」
「できるよ。健太が赤ん坊の時、三人で子守して、オムツ替えたりしたし。」
「そんな昔からの付き合いだったんだな・・・」
結婚して、子供が産まれたことで、昔のように雪成とは話せるようになった。
亮輔とはまだまだだけど、いつか、昔のようにお互い言いたいこと言い合える関係に戻れたら・・・
「あ、悠聖。」
クラブ棟からの帰り道で亮輔とばったり出くわした。
「赤ん坊、産まれたんだってな。おめでとう。」
「ありがとう。」
「男? 女?」
「男の子。」
「名前は?」
「健太郎・・・」
「ぶはっ!」
「母親が健太のストーカーだから仕方ないだろう?」
「写真ある? 見せて。」
俺はスマホを取り出して待ち受けを亮輔に見せた。
「可愛いな。お前にソックリじゃん。」
「そうか?」
「そうだ、お祝いにうちのスタジオで写真撮ってやるよ。お宮参りの時とかどう?」
「いいのか?」
「もちろん。日程が決まったら教えて。あ、番号とアドレスの交換しようぜ。」
「亮輔・・・ありがとう。」
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