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高等部 一年目 皐月
076 続 王道転校生は気づかない 1
しおりを挟む**健太視点**
雪成義兄さんから完治のお墨付きを貰ったので、週末は約束通り、亮輔の実家所有の別荘に外泊することになった。
外泊届けは出したし、泊まりの準備も出来ているので、後は亮輔が仕事を終えて戻って来るのを待つだけだ。
亮輔の部屋のソファーに寝転んで待っていると、来客を知らせるインターホンが鳴った。
起き上がって防犯カメラの画像を確認すると、転校生の乾大和の顔が映っていた。
「・・・・・・」
俺はドアを開けて乾と対峙した。
「城山先生はまだ戻ってないから、中に入って待つか?」
俺は乾を部屋に入れてやった。
「黒峯クンは、どうしてここに?」
コーヒを淹れてやって、向かい合わせの席に座ると、乾が緊張した面持ちで聞いてきた。
「先生とは幼馴染なんだ。で、最近、体調が悪かったから、一人でいて何かあったら心配だからって、世話になってた。」
「そう、なんだ・・・」
乾は嫉妬心を隠すことなく、不機嫌そうに俯いた。
乾って、ブラコンなのか?
話が続かなくて沈黙すること数分、タイミングよく亮輔が帰って来た。
「健太、ただいま・・・」
「お帰り、亮輔。」
「お帰りなさい・・・にぃちゃ・・・兄さん・・・」
乾は、はにかみながら亮輔を見つめて微笑んだ。
あざといな、こいつ・・・
流石、役者ってとこか。
「大和? なんだ、俺のこと、ちゃんと覚えてたんだな。」
「急に押しかけて、ごめん。」
「いや大丈夫。でも、ごめんな、用事があって、これから出かけるんだ。」
亮輔はそわそわと俺と乾を交互に見た。
今日、亮輔は、今まで我慢してきたことを解禁する予定でいたから、イレギュラーな乾の乱入に内心苛ついていそうだ。
「あの、俺も付いてっちゃダメかな? 話したい事あるし。」
「話ってシアンの事か?」
亮輔が低い声を出して、乾を睨んだ。
「うん・・・」
「この間、ショッピングモールで撒かれたんだろう?」
「なんで、それ知って!」
「お前を撒いたシアンを迎えに行ったの、俺だから。」
「マジかよ・・・」
「シアンのことは諦めろ。」
「無理・・・だって、俺の運命だから!」
「シアンはαだぞ? お前だってαなんだから、運命とか関係ないだろうが。」
「ひとめぼれなんだから、仕方ないだろ!」
黙って二人のやり取りを見ていたが、二人ともヒートアップしてきて口調が荒くなってきた。
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「一回、会わせてみたら?」
つい、口を挟んだら、亮輔がビックリしたように俺を見た。
「は? 健太、何言ってんだ?」
「シアンにきっぱり振られたら、諦めるんじゃない?」
「黒峯クン、シアンのこと知ってるのか?」
乾が歓声を上げる。
「ああ、知ってるよ。」
「健太!!」
亮輔はダメだと、首を横に振る。
「乾、会って振られたら、きっぱり、さっぱり、諦めるよな?」
「俺が、振られるわけない!」
「振られたら、諦めるって約束できるなら会わせてやる。」
「振られないから、諦めない!」
・・・話が、通じない・・・
「・・・亮輔、こいつ、ヤバくないか?」
「だから、気を付けろって、お袋が言ってたじゃないか・・・」
「こんな話が通じない奴と思わなかった。」
乾の頭の中は一体どうなってんだ?
亮輔の弟だから、まともに違いないと思った俺が浅はかだった・・・
俺がシアンだってバレるのはリスクが高そうだ。
「で、シアンにはいつ会える?」
顔を紅潮させて、鼻息も荒く乾が期待を込めた目で俺を見た。
目の前にいるのにな。
欠片も気づかない乾に呆れる。
もし、今ここで眼鏡を外して素顔を曝したら気づくんだろうか?
「振られたら諦めるって、約束できないなら自分で捜してくれ。シアンはこの学園にいるが、モデルの仕事の事は公にしていない。」
「同じクラスにいるのか?」
「ノーコメント、これ以上の情報はやらん。それに、」
「それに?」
「シアンは彼氏持ちだから、乾のことは眼中に無い。」
そう言いつつ亮輔に視線を向けると、亮輔は片手で口元を隠した。
ニヤついてるの隠したつもりかな?
「何でそんなこと断定できるんだよ!」
乾がムキになって俺を睨みつける。
「本人の言。」
「・・・まさか、お前が、彼氏?」
なんでそうなる?
「俺はシアンの彼氏では無いし、なろうともなりたいとも思ってない。以上、頑張って勝手に捜せ。」
もう、溜息しか出ない・・・
このまま一生、気づかれなくてもいいな・・・
いや、一生、気づかんでいいよ、もう・・・
「待ってくれ、もう少し情報をくれ!」
「断る。俺は早く亮輔と出かけたい。」
「お前、に、兄さんと、でかける・・・のか?」
「察しろよ、週末の夕方に出かけるんだぞ? デートに決まってんだろ。」
「デート・・・兄さんと、お前が? お前、兄さんの何なんだ?」
「健太は俺の唯一だからな、大和。」
唯一とか、改めて人前でハッキリ言われると照れるな。
「だから、健太には惚れるなよ?」
「俺はシアン一筋だから、黒峯には絶対惚れないよ。」
「絶対だぞ?」
「ありえないから、安心してよ。誰がこんな奴・・・」
「男に二言はないな?」
「当たりまえだろ。」
「絶対だぞ?」
「しつこいな、絶対、ありえない。」
シアンの正体が俺だと気づいていない乾に、亮輔が大人げない・・・
そして、あんなにシアンの姿の時にはぐいぐい来てたキヤマタケルでもある乾が、俺のことはありえないとか・・・
いやね、面倒だから惚れられても困るんだけどさ・・・
でも、「ありえない」ってハッキリ言われるとさ、なんかムカつくな!
「お前、見る目無いな。」
ぼそっと言った亮輔の呟きに乾は気づかない。
うん、見る目無いし、節穴だな。
「まあ、俺も、乾はありえないから、安心しろよ。」
満面の笑顔でそう言ってやると、亮輔は笑顔になり、乾は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「なんか、ムカつくな、お前・・・」
「奇遇だな、俺もお前にムカついてる。」
「俺は、お前が兄さんの唯一だなんて、認めない!」
「お前が認めなくても、亮輔は俺にゾッコンだから、残念だったな。」
ドヤ顔で、鼻先で笑ってやったら、乾の顔が怒りで真っ赤に染まった。
「お前!」
グイっと乾に胸倉を捕まれ、睨まれる。
「いいのか? これ、全部シアンに筒抜けだぞ?」
「何?」
「健太、煽るな!」
「亮輔は黙って!」
「お前、シアンのなんなんだよ!」
「だから、それは自分で調べろよ。俺はもう、お前にシアンに関して何も言う事はない。」
「くそっ!」
「やめろ、大和!」
今にも俺を殴りそうだった乾だったが、亮輔に腕を取られ、そのまま部屋の外に追い出された。
亮輔の弟じゃなかったら、ボコボコにしてやったのに!!
ホント、ムカつくな!!
**大和視点**
「大和、健太には関わるな。」
城山亮輔の、兄ちゃんの部屋から追い出された俺は、兄ちゃんに食って掛かった。
「兄さん、あんなやつの何処がいいんだよ!」
「全部。」
そう言った兄ちゃんの顔は、飛び切りの笑顔だった。
「はあ? 兄さん、趣味悪すぎ!」
「俺は何があっても健太の味方だから。お前がもし健太に何かしたら、絶対に許さない。」
俺の捨て台詞に、兄ちゃんは絶対零度の眼差しを俺に向けた。
「りょうすけにいちゃん?」
「俺は、できればお前を嫌いになりたくない。だから、わかるな?」
なんで、
なんで、あんな奴の為に、
俺にそんな目を向けるんだよ?
「わかったよ、あいつには関わらない。」
俺はそう言って自分の部屋に戻った。
これ以上揉めて兄ちゃんに嫌われたくない。
部屋に戻ってから、俺は耕平に電話をかけて、兄ちゃんの部屋であったことを全部ぶちまけた。
「酷いと思わないか?」
「ああ、うん、お前がサイテーな事はわかった・・・」
「何でだよ?!」
耕平は何であっちの肩を持つんだ?
「俺、シアンがどこの誰か、わかっちゃったから・・・」
「は?」
「でも今の話聞いて、お前には教えない事にした。お前が自分で気づいて、反省しないとダメだと思うから。だから、頑張って捜せよ。そんで、振られろ。振られたら慰めてやるよ。」
「耕平、誰なんだよ、教えてくれよ!」
「お前、思い込みがさ、激しいからさ、今教えても、信じないと思う。だから、自分で捜し出すしかないよ。」
静かな、諭すような耕平の言葉に俺はため息を吐いた。
「学園にいるって、教えてもらえたんだろ? きっとすぐに見つかるさ。」
「・・・・・・」
「見つけた時、シアンと城山亮輔氏に嫌われたくなければ、ホント、絶対にその健太君って同級生には手を出すなよ? 暴力はダメ、絶対!」
「でも、一発殴ってやらないと、俺の気が済まない・・・」
「それ、したら終わりだぞ?」
「わかってる。あいつの顔見ないように気を付けるわ・・・」
耕平にはそう言ったけど、やっぱり、一回ぶっ飛ばしたい。
そういや、あいつ、剣道部だったな・・・
プロの殺陣師の指導を受けるから部活はしない予定だったけど・・・
剣道部入って、練習でぶっ飛ばすなら、問題ないよな?
黒峯健太、覚悟しろよ!!!
「ふふふふふ、はぁーはっは!」
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