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高等部 一年目 皐月
閑話 シロの運命と約束 後編
しおりを挟む**亮輔(16歳)視点**
目が覚めた時、事故から一カ月が過ぎていた。
憔悴しきった顔のお袋と目が合って、たくさん泣かれた。
精密検査の結果、舞台に戻れる可能性は低いと言われた。
憧れの劇団のオーディションに受かって、メインキャストに選ばれ、やっと舞台に立つことができたのに、今までの努力してきた事が全て水泡に帰した。
あの時とった自分の行動に関しては全く後悔していない。
健太も凪も颯も無傷だったから。
でも、悠聖のことは、何度謝られても、土下座されても、許すことはできなかった。
リハビリに身も入らず、何もやる気が起きなかった。
こんなことなら死んだ方がマシだった。
いや、でも生きなきゃいけない。
でも、何の気力もわかない。
これから何をすればいいのかわからない。
助けてシロ・・・
そんなある日、凪が健太と颯を連れて来た。
どうやら颯が病気で、同じ病院の小児科に入院しているらしい。
「颯ね、骨髄移植するの。叔母さんたちと楓太は合わなかったんだけど、健太の型が運よく一致してね、来週手術よ。」
「・・・・・・」
「ミイラ男だ!」
不意に健太が声を上げた。
「颯、ミイラ男!」
「・・・ミイラ男、ケガいたい?」
「・・・痛くない・・・」
「オレ、らいしゅう、しゅぢゅちゅだよ。」
「ふうん・・・何の病気なんだ?」
「ひんけちゅ?」
颯のあっけらかんとした言い方に反して、周りの空気がどんよりと沈む。
こんな小さい体で難病だなんて・・・
替われるものなら替わってやりたい・・・
「勝負しよう!」
急に健太が叫んだ。
「は?」
「どっちが早く退院できるか、颯とミイラ男で勝負!」
「健太、何、言ってんだよ・・・」
「負けたら一生、ミイラ男って呼ぶからな!」
「はぁあ?」
「そして軟弱なミイラ男はアルファレッドの必殺技で倒してやるから覚悟しろ!」
そう言って、健太は初代アルファレッドの必殺技の型を披露した。
三年前に亡くなった親父が、昔演じたヒーローの完コピに思わず涙が出そうになった。
健太を通して親父に叱咤激励されてるような気分になった。
「参ったか?」
「参った・・・」
「勝負する?」
「うん、でもさ、俺、あちこち骨折してて、リハビリ、半年以上はかかるから、負け決定なんだけど?」
「リハビリ、ちゃんとするって約束するなら、一生ミイラ男呼びはやめてやる。」
「リハビリ、するよ。約束する。」
でも、しばらくの間、ミイラ男呼びは続いた。
手術が成功して元気になった颯と一緒に、俺の前で繰り広げられる健太主宰のヒーローごっこ。
たまに健太の友達が加わって、健太の友達が悪の総帥、健太が参謀、俺は下っ端のミイラ男、颯はレッド・・・
「何で俺、下っ端なんだよ・・・俺、初代アルファレッドとヒロインの息子だぞ? ヒーローのサラブレッドなんだぞ?」
子供相手とはいえ、不満が募る。
健太に下っ端扱いされて、あごでこき使われて、颯に倒される毎日。
なんか悔しい。
着替えを持ってきてくれた葉輔叔父さんについ、愚痴ってしまった。
「ははは、悔しかったらオーディション受けるか? 来年、三代目のオーディションするぞ?」
「叔父さん、それ本当?」
「まだ半年くらい先だから、この調子なら大丈夫だろ? エントリーするなら書類は俺が出しとくぞ。」
「お願いします。」
「うん、いい顔になったな。」
「俺、絶対レッドになって、健太と颯をギャフンと言わせてやるよ。」
「その意気だ!」
リハビリが終わって退院した俺は学園の寄宿舎に戻った。
筋肉量も減って、スタミナも落ちたけれど、日常生活は送れるようになった。
葉輔叔父さんの友人のスポーツドクターの診察とリハビリ指導を受けつつ、アルファレッドのオーディションも受けた。
学園の方は、春休み中に補修を受けることでギリギリ出席日数も何とかなって、進級できた。
「これ、健太の卒園式の写真。」
三月の下旬に雪成がピンボケな写真を数枚俺に手渡してきた。
「ナニコレ・・・」
「僕が撮った・・・健太の写真・・・」
「ヘタクソ・・・健太の可愛い顔が台無し・・・」
「てへっ」
「褒めてない・・・」
「入学式さ、亮輔、一緒に行かない? 僕、またカメラマンしろって凪に言われたんだけどさ、またピンボケになったら婚約破棄されちゃう! お願い、助けると思って!」
「わかったよ。」
「やった~!」
「仕方無いから、これからも健太の行事関連は全部俺が撮ってやるよ。」
入学式の朝、雪成と久しぶりに黒峯の家に行くと、健太が男子の制服を着こんでいて、機嫌が悪い。
「どうした?」
「俺、スカートかキュロットが良かったのに、ダメだって・・・」
「似合うのにな。」
「亮輔もそう思うだろ?」
「うん。でも、校則で男子の制服は決まってるだろ? 我慢だ。」
「そんへんの女子より、俺の方が可愛いいし似合うのに、着ちゃダメって酷くない?」
「ぶはっ! そうだな・・・入学式終わったら、凪のお下がりの制服着て写真撮るか?」
「いいの?」
「ああ、最高に可愛く綺麗に撮ってやるよ。」
「亮輔、大好き!」
「あ、でも先に男子の制服姿も撮るからな?」
「ええ~」
「男装の麗人みたいでカッコいいじゃないか。」
「男装の麗人・・・?」
「ほら、タカラ〇カの元男役の女優さんたちとか、お前、好きだろ?」
「天海〇希さまとか、真〇聖さま?」
「そうそう。男子の服着なきゃいけない時の健太はタカ〇ヅカの男役になりきればいい。」
「それ、なんかカッコいい!」
途端に機嫌が良くなった健太。
その様子を見ていた黒峯の家の人たちからは「グッジョブ!」を頂いた。
颯は健太の、アルファの造血細胞が上手く馴染んだようで、心配されていた成長障害も後遺症も無く元気にしている。
早い段階でΩだと判って、健太の友達と婚約もしたようだ。
本人同士も仲がいいし、颯の母親と健太の友達の母親が親友らしく、とんとん拍子に決まった。
「健太、いいのか?」
「何が?」
「お前の友達、颯の番に決めるの、早くないか?」
「京夜はね、俺が颯のママだって分かってるからいいの。二人で颯を護ろうって約束したし。それに多分、京夜は颯の運命だよ。」
「そうか、何かあったら俺にも頼れよ? 俺はお前ごと、颯を護るから。」
「亮輔、何か、カッコいいね!」
「俺、三代目アルファレッド、合格したからな。」
「おお~!」
「毎週、欠かさず見ろよ?」
「見る見る! ビデオも撮る!」
「カッコいい俺を見て、惚れるかもな?」
「え~、それは無い無い。」
「なんでだよ?」
「だって、初代が一番カッコいいもん!」
「・・・親父がライバルかよぉ・・・」
**現在**
不思議な夢を見た。
とても懐かしくて、大切な○○の夢・・・
「・・・・・・」
○○って誰だ?
思い出せないし、夢の内容もどんどん抜け落ちて薄れていく・・・
でも、それでいい、と妙に納得している自分がいる。
だって、大切なものは、俺の唯一は、すぐ側にいる。
「ん・・・」
健太の寝息が聞こえて、そちらを見ると、何の夢を見ているのか、楽しそうな寝顔だ。
朝まで無理させたから、起きたらすぐに何か食べられるようにしておこう。
「健太、愛してる。俺の番になってくれてありがとう・・・」
そう言って健太の額にキスすると、俺はキッチンに向かった。
──────────────────
余談
城山先生の苗字は本当は「白」が付く苗字にしたかったのですが、辺境のイメージが城塞とか険しい山だったので城山になりました。
健太と番になるのは城山とすばるで悩んだのですが、書いてるうちにすばるは自己中すぎてダメだなって思ったので、城山になりました。
すばるに前世の記憶があったら、子供っぽさが抜けていい感じになってたような気がしないでもないですが、ややこしくなるので、記憶持ちは健太だけにしました。
健太は城山が伯父の生まれ変わりだとは気付いてません。(バース性も性格も全く違うので)
城山は前世の記憶はないけれど、漠然と健太が自分の番だと思っていました。
健太がΩだったら婚約したいと雪成と凪には相談していました。
「光源氏計画?」と、凪にからかわれたりしてます。
でも、αだったので、一回諦めました。
諦めたけど、健太の周りのαがウザイ、邪魔、かといってΩとくっつかれるのはもっと嫌だ、と色々積み重なって、悩んで悩んで、新入生歓迎会での理事長の行動が最終的に引き金になって告白しました。
蘭とか大和に「α同士の運命」に否定的な言葉を言ってますが、牽制です。
ヴィアンカがエリオスに対して抱いていた愛情の大半は母性です。
伯父さんに失恋してやさぐれてた時に、無条件に愛情を向けてくる乳幼児に依存したような感じです。
生まれ変わってすぐに城山に出会って無意識に咬みついて満足して、颯が産まれたことで母性愛は全て颯に注がれてしまったので、すばるが入る余地があんまり無かったような感じです。
会う順番が違っていたら、一番最初にすばるに会っていたら、状況は変わっていたと思います。
颯の遺伝子キメラは骨髄移植で血液の遺伝子が健太の遺伝子に置き換わったからです。
臓器移植とかバニシングツインも視野に入れていたのですが、健太の血が流れてる方がしっくりしたので骨髄移植の方にしました。
颯の運命になりうる相手が健太と一部被ってるのは、移植の影響です。
実際の骨髄移植の後遺症と本作の内容は異なります。
こちらはあくまでもフィクションで、創作ですし、オメガバースものは舞台が現代であっても、どこかファンタジー的な、奇跡が起こりやすい世界だという認識ですのでご了承下さい。
次回からは体育祭の準備期間~体育祭本番、時々、剣道部の日常が舞台になります。
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