まつろわぬ番【完結済・番解除した僕らの末路シリーズ】

藍生らぱん

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まつろわぬ番・裏 V視点

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エイベルのヴァイオリンの音色は本当に素晴らしいから、こんな奴らのために将来を潰されたらアーサーが悲しむ。
だからエイベルの才能は大事にしないと。
アーサーはきっと自分に対して邪な感情を持っていないエイベルにだけは連絡を入れる筈だから。

「お前たちとは絶交する。」
「エイベル、何で?」
「友達に薬盛るような奴らと付き合えるか!」
「ううっ・・・」
泣き止まないベンジャミンとナイジェルがうっとおしい。
それに、こいつらには用もない。
「エイベル、行こう。」
「ああ。」
「待ってくれ、エイベル!」
ナイジェルが手を伸ばして、エイベルの腕を掴んで止まらせようとした。
でもそのせいでエイベルは、バランスを崩して階段の方へ倒れそうになった。

「危ない!」

体が勝手に動いていた。
エイベルを踊り場に押し返し、ナイジェルをクッションにして踊り場に倒れこむ様を見ながら俺は階段から落ちていた。

「ヴィクトール!」

アーサーはエイベルがコンクールで優勝するのを応援していたから、怪我がなさそうで良かった。

誰かの悲鳴と叫び声が聞こえた。
体のあちこちが痛い。
特に頭がガンガン痛む。

誰かが俺の耳の側で大声を出している。

大丈夫か?
とか
しっかり!
とか

うるさいなぁ・・・

頭に響くから、静かにして欲しい。





うっすらとした視界の中で誰かがせわしなく動いていた。
救命士のユニフォームかな?
白衣を着たウィルの姿もぼんやり見えるから、いつの間にか病院に運ばれたのかもしれない。

「トール! 目を覚ませ!」

研究室に籠っていて、同じ屋敷の中にいるのに滅多に会えない母親マムの声が聞こえた。
珍しいな。
誘拐から救出された時も、こんな風に泣きながら傍にいてくれたっけ・・・

俺は大丈夫だよ

そう言って安心させたいけれど、今はものすごく眠い・・・





目を覚ました時、見覚えのある病室にいた。
ウィルの、叔父の務めている病院の中の特別室だ。
毎年、定期検査で入院する時に泊まる部屋だ。
起き上がろうとしたけれど、あちこち痛くて諦めた。
でも、何でこんなに体中が痛いんだろう?

視線だけ動かすと、ヘンリーの頭が見えた。
俺が寝ているベッドに突っ伏して寝てる。
「ヘンリー」
俺がそう呼ぶと、ガバリとヘンリーが起き上がった。
「トール! 良かった、目が覚めたんだな。一週間以上も昏睡状態で、死ぬかと思った・・・」
「昏睡? 誰が?」
「お前だよ。頭打ってたから記憶の混濁があるかもってウィルも言ってたな。フルネーム言えるか?」
「ヴィクトール・アーノルド・ダンドレジー」
「俺のフルネームは?」
「ヘンリー・トリストラム・ダンドレジー」
「お前の恋人の名前は?」
「いるわけないだろ。」
「お前の好きな人の名前は?」
「いるわけないだろ。」
「・・・大変だ!」
「?」
ヘンリーは立ち上がると、ベッドわきにある内線電話の受話器を取った。
「ウィル、トールの目が覚めたから急いで来てくれ! 記憶障害があるかもしれない!」

ウィルと長兄のダンテが連れ立って病室にやってきて、問診された。
生年月日、年齢、学校の名前、友人の名前、そして何故か番の名前を聞かれた。
その他にも色々・・・

その結果、俺は3年分の記憶を失っていることがわかった。

「俺、大学生だったんだ・・・」
「お前ならすぐに授業に追いつけるさ。それより、番だ。」
ヘンリーが目をキラキラさせて俺を見つめている。
「番ねぇ・・・ほんとにいるのかな?」
「精密検査の結果で断定されてる。それに、オメガの匂い、わからなくなってるだろう?」
と言ったのはウィルだ。
「俺がどこの馬の骨ともわからないオメガと番になったなんて、信じられないんだけど。」
「ビッチングかもしれないだろ?」
と言ったのはヘンリー。
「お前、好きな奴、アルファの男だって言ってたし。」
「それも信じられないんだけど。」
「名前さえわかればな・・・」
「何で覚えてないのさ、ヘンリー」
「お前が頑なに教えてくれなかったからだろうが!」
「でも、その場合、番になったということはオメガに転化してるんだよね? だったらヒートになれば接触して来るんじゃない? だから別に捜さなくてもいいよ。オメガにしろ、アルファにしろ、番以外の匂いがわからなくなったの、ラッキーじゃん。」
「まあ、それもそうだな。ヘタに捜して変なのが見つかったり、偽物が出てきても困るし。」
「そうそう、だから勝手に捜しちゃダメだよ。わかった?」
「わかったよ。」
ダンテとヘンリーが残念そうに肩をすくめてみせた。

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