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まつろわぬ番・裏 V視点
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しおりを挟む定期健診で訪れた病院のロビーの窓から、何となく中庭の方を見た時、遠目に入院患者の車いすを押して歩く白衣を着た男に目を奪われた。
「あ・・・」
無意識にスマホで彼のことを撮っていた。
撮った画像を拡大すると、優しそうな綺麗な横顔が映っていた。
その日は、なんとなく実家に帰って、マーサにアップルパイの作り方を教わって焼いた。
数日後、検査結果を受け取りにウィルの診察室に行った。
「初期のがんが見つかった。早期治療すれば治るから。」
「そう。」
「それで、投薬治療なんだが、」
「ウィル、俺、この人に治療担当して欲しい。」
俺はこの間撮ったスマホの画像をウィルに見せた。
「アーサー?」
「知ってる先生?」
「がん治療の専門医で俺のチームの部下だ。」
「それなら丁度いいね。彼を俺の担当にしてくれないかな?」
「ああ、聞いてみる。」
けれど何日か経ってから、電話で
「スケジュールが詰まってて、担当は無理そうだ。別の医師にしてもいいか?」
ってウィルが言うから、
「アーサーじゃなきゃ、治療受けない!」
って、思わず叫んでしまった。
「・・・わかった、何とかしてみる・・・」
そう言ったウィルの声は今までに聞いたことがない、悲壮感いっぱいの声音だった。
それから何日かして、ダンテに呼び出されて実家に帰った。
アーサーの調査をお願いしていたから、その報告だろう。
「ただいま!」
出迎えてくれたマーサに笑顔を向けた。
「トール坊ちゃま、サロンで皆様お待ちですよ。」
「わかった~」
サロンに入ると、そこにはダンテだけでなく、何故かウィルと母親もいた。
「珍しいね、マムまでここにいるの。」
「・・・・・・」
難しい顔で黙り込む母親と、それを慰めるように寄り添うウィル。
またダッドが何かやらかしたのかな?
ダンテの方はいつもの無表情な顔のままで、書類が入ったファイルを持っていた。
きっと頼んでたやつだ!
「ダンテ、アーサーの調査の結果貰える?」
「その前にいくつか聞きたい。記憶は戻ったか?」
「全然。」
「何故、彼の調査を頼んだ?」
「気になったからだよ。だって、綺麗だし、優しいし、親しくなりたいって思ったんだ。」
「そうか。調査結果を渡すのは、一つ条件を飲んでもらってからになるが・・・」
「条件?」
ダンテは視線をウィルに向けた。
「トール、俺の方もダンテと同じ条件を飲んで貰えれば、アーサーがお前の担当医になる。この条件を飲まない場合、アーサーはお前の担当になることはない。」
ウィルは俺とは視線を合わせずにフルフルと拳を握りしめていた。
もしかして、わがまま言ったから、俺のことを怒ってるのかな?
「何? 二人して怖い顔してさ・・・条件って何?」
「番解除。」
番解除?
「それだけでいいの?」
「今すぐ、できるな?」
母親が、切羽詰まったような顔と声で俺を見つめた。
「トール、お願いだ。番解除してあげて・・・」
「もしかして、番がみつかったの?」
「そうだ。お前の番は番解除を望んでいる。」
ダンテが静かにそう言った。
「ウィルの方も条件が一緒ってことは、番はアーサーの関係者?」
その問いには誰も答えてくれなかった。
番解除しなければアーサーに会えないなら、喜んで解除するけどさ。
「わかった。番解除する。」
そう宣言した時、クモの糸のように細く頼りなかった番との繋がりが消え去った。
「腕出して。」
母親の言うとおりに腕を出すと採血されて、その場で簡易検査された。
「確かに、解除できてる。ウィル、この残りの検体はアルヌール博士のところに回してくれ。」
「わかった。」
ウィルは母親から受け取った検体をアルミケースに入れると、そのままサロンから出ていった。
「トール、記憶が無いお前から番を失わせて、すまない。」
「マム、別に気にしないで。10年も俺に会いに来なかった番のことは、もういいよ。」
「記憶を取り戻した時、お前は色んな感情に晒されると思う。その時は全部、一緒に受け止めるから。」
「?」
母親はそう言うと、俺をぎゅっと抱きしめてから家の奥にある研究室に戻って行った。
「トール・・・」
ダンテがアーサーの調査ファイルを俺に差し出した。
それを受け取って、「ありがとう」と言うと、ぐしゃぐしゃと大きな手で頭を撫でられた。
「俺たちはお前の味方だから、何か困ったことがあったら相談してくれ。暴走だけはするな。」
「うん?」
調査ファイルを受け取った瞬間、嬉しすぎて、様子がおかしかった三人のことはすっかり忘れた。
俺は実家の自室でアーサーの調査結果が書かれた書類を夢中になって何度も何度も読み返した。
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