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まつろわぬ番・裏 V視点
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しおりを挟むがん研究センターのロビーには小さな子供からお年寄りまで、色んな年代の人たちがいた。
「アーサーせんせい、ありがとう。」
1の番号が大きく書かれてある診察室の自動ドアから出てきた車椅子に乗った小さな女の子が、はにかみながらそう言って入口まで見送りに来たアーサーに手を振った。
「またね。」
少女に向かって腰をかがめて、笑顔で手を振るアーサーに胸がときめいた。
もうすぐ会える。
逸る心を抑えて、ドキドキしながら予約の時間になるのを待った。
「いいわねぇ、あの子、担当がバーンスタイン先生なんて。」
「ダサい眼鏡かけてるけど、それが気にならない超イケメンだし、目の保養になるわよね。」
近くに座っていた妙齢のご婦人たちが受付で次の予約の確認をしている少女を羨望の眼差しで見つめていた。
『ダンドレジーさん、1番のバーンスタイン先生の診察室へお入りください。』
受付からの放送に立ち上がると、ご婦人たちの視線が俺に集中した。
「やだ、凄いイケメン・・・」
俺はご婦人たちに軽く微笑んで会釈すると、アーサーの診察室に向かった。
「初めまして。」
ご婦人たちに向けた笑顔のまま、アーサーの診察室に入った。
「初めまして。」
さっきの女の子とは真逆の、感情の無い声と表情でアーサーに迎えられた。
パソコンのモニターで、以前MRIで撮ったステージ1の腫瘍の画像を見せてもらいながら、淡々とした口調で投薬治療のスケジュールの説明を受けた。
アーサーは一度も俺の顔を見なかった。
どうして?
「何か、質問はありますか?」
画像を見たままそう聞かれた。
「アーサーって呼んでもいい?」
切ない気持ちを押し殺して、できるだけ明るい口調できいた。
「お好きにどうぞ。」
アーサーは何処までも感情の見えない冷たい声で言った。
もしかして、俺の中から失われた三年間の記憶の中で、俺はアーサーに何かしてしまったんだろうか?
調査で、アーサーは俺と同じ寄宿学校と大学に在学していたことがわかった。
けれど、一度も同じクラスになってないし、大学も学部が違って、接点はなかったと書かれてあった。
「アーサーは俺のこと何か聞いた?」
「ウィリアムから記憶喪失のことは伺っています。」
「ほんの数年分の記憶がなくて、その数年の間に番を持ったみたいなんだけど、誰なのか覚えていないんだよね。身近にいたオメガの誰も番じゃなくて、でもヒートの時期になれば俺のところに来るかなって思ったんだけど、何カ月経っても、何年過ぎても来なかった。アーサーのことは定期検査で来た時にチラッと見かけただけだったんだけど、すごく気になって、調べちゃった。アーサーは俺と同じ寄宿学校卒業して、同じ大学にいたんだよね。」
「ええ。」
「どうして、大学を入学早々退学したの?」
「退学する二年前に両親を事故で亡くしました。支えてくれる友人もいて一人でもなんとかなると思っていたんですが、精神的にきつくなって、叔父家族がいた国に渡航したんです。」
「アーサーと俺は友達だった?」
「いいえ。お互い、名前と顔を知ってる程度で、寄宿学校時代はクラスが一緒になったこともないですし、大学の学部も別でしたよ。」
「そうなんだ。あのさ、・・・アーサーは俺の番が誰なのか知ってるんだよね?」
俺の問いに、一瞬、アーサーの顔が強張って見えた。
「何故、そう思うんですか?」
「ウィルが、番解除しないとアーサーが担当になれないから、解除しろと言ってきて・・・」
「守秘義務があるので、知ってるとしか言えません。ウィリアムは他に何か言っていましたか?」
「いや、ただ、かなり怒ってたかな。俺に対してだけどね。」
「そうでしょうね。」
「俺は、その、番に酷いことをした・・・?」
俺の問いにアーサーは答えなかった。
次の診察の予約日の都合を聞かれ、受付で処方箋を貰うように告げられて、診察室から出された。
あの女の子の時のように、笑顔を見せてはくれなかった。
「なんか、思ってたのと違った・・・」
ダンテと入ったレストランで、ランチをつつきながら、俺はため息をついた。
「ねぇ、ダンテ。俺、失くした記憶の中で、アーサーに何かしたのかな?」
「思い出せてないのか?」
「ダンテ、何か知ってる?」
「・・・アーサーとのことは、人から聞かされるのではなく、自分で思い出すべきだ。」
「やっぱり、何かあったんだね。」
「トール、担当を変えてもらうか?」
「嫌だ。絶対変えない。」
アーサーと会えなくなるくらいなら、原因が何かは思い出せないけれど、嫌われたままでも構わない。
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