まつろわぬ番【完結済・番解除した僕らの末路シリーズ】

藍生らぱん

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番外編 番解除した僕らの末路・裏

前日譚 海の向こう側

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**L視点**

泊っているホテルには有名な芸術家の作品の展示スペースがあった。

「神子柴透琉作品展」と書かれた看板があるスペースに入ると、展示スペースの中央のテーブルには綺麗な青磁のお皿や茶わん、一輪挿しが飾られていた。
そして、壁には海の絵。

値札が付いているものもあるけれど、一輪挿し一つ、数十万円、絵は一番小さいサイズでも数百万円もするから、僕のお小遣いでは買えない。

絵の方は浜辺だったり、港町だったり、沖縄の海をテーマにした様々な絵が飾られていた。
その中で、一枚だけ、子供の絵があった。

黒髪に紅い目をした綺麗な男の子の横顔。
浜辺に座って、じっと海の向こうを見つめている。

何を見ているの?
海の向こう側に何があるの?

思わず、そう問いかけたくなった。

「これ、良かったらどうぞ。」

受付にいた綺麗なお兄さんが、その絵のポストカードを一枚くれた。
「あの・・・」
「可愛いでしょう?」
「はい。」
「この絵のモデル、僕の弟なんだ。それで非売品だから、欲しそうな人にはお詫びにこれをプレゼント。」
「あ・・・ありがとうございます。」
「この絵は今週いっぱいで展示が終わるから、良かったらまた見に来てあげてね。」
「はい。」

僕は吸い寄せられるように、時間が空くとその絵を見に行った。
ポストカードをくれた綺麗なお兄さん、聖夜さんとも連絡先を交換するほど仲良くなって、タイミングが合うときは一緒にお茶を飲んだりした。

聖夜さんは神子柴透琉画伯の息子さんで、僕と同じオメガで、妊夫さんだった。
しかも、三人目!

「ルイくん、明日帰っちゃうんだね。」
「はい、赤ちゃん生まれたら教えて下さい。」
「写真、送るね。」
「あ、そうだ、弟さんの名前って、聞いてなかったんですが、なんて名前なんですか?」
「内緒。」
「え?」
「今度、紹介してあげるから、それまで内緒。」
「えぇ・・・」
「明日、帰る前に寄って? タイミングが合えば弟に会えるから。」
「じゃあ、明日。」
「うん、待ってるね。」


そして、翌日、僕は僕の運命と出会った。

あの絵の少年と同じ、黒髪で紅い瞳を持った綺麗な男の人だった。



**A視点**

「ヴィクトール、明日ルイが帰ってくるから叔母さんと一緒に迎えに行ってくる。」
「俺、運転手してあげるよ。」
「助かる。ありがとう。」

俺のフラットの部屋でヴィクトールと遅めの夕食時にそんな話をしていたら、叔母さんから電話がきた。
「ハロー」
『アーサー、明日なんだけど、予約してた便がトラブルで欠航になったから、別の便にするって連絡があったの。』
「そうなんですか。」
『別の便になると貴方の仕事の都合もあると思うから、迎えは無理しないで。私だけでも大丈夫だからね。』
「わかりました。じゃあ、帰ってきたら連絡下さい。」
『ええ、またね。』

「どうしたの?」
「予定の便が欠航だって。」
「じゃあ、明日はフリーだよね? 一緒に出掛けようよ。」
「ああ。」
「じゃあ、海に行こうよ。イーストボーン!」
「お前、海が好きだな。」
この前はブライトンだったし。
イーストボーンはブライトンの近隣にあるリゾート地だ。
「水平線を見るのが好きなんだ。あの海の向こう側に何があるんだろうって想像するの楽しい。」
「そうだな、俺もそう思って見たことあるな。」
「でしょ? それに海鮮、美味しいし!」

***

イーストボーンに着くと、そこでは映画の撮影をしていたらしく、世界的に有名な女優や俳優が海岸にいるのが見えた。
海岸近くのオープンカフェでその様子と海を見ながらコーヒーを飲んでいると、俳優の一人が俺たちの方に猛ダッシュで駆け寄って来た。
「げ! ヘンリー!」
「ヴィクトール!!」
スパイ映画の主演で有名なトリスタンが、ヴィクトールにハグしたかと思うと、まるで騎士のように俺の前に膝まづいた。
「やっと、会えましたね。俺の天使!」
恭しく手を取られ、指先にキスされた。
「は?」
「俺の名はヘンリ―・トリストラム・ダンドレジーです。ヴィクトールの兄です。」
「え、そうなの? トリスタンがヴィクトールのお兄さん!?」
トリスタンがヴィクトールの兄だなんて、初耳だ。
「ヘンリーは、ブルーアンバーの大ファンなんだよ。」
呆れたようにヴィクトールが冷ややかな目をトリスタンに向けた。

俺の神と女神ブルーアンバーの愛の結晶、俺のことはヘンリーと呼んでください。」

チャラい・・・
ものすごくカッコいい二枚目なのに、仕草とか言葉遣いがチャラい・・・

「初めまして、アーサー・リチャード・バーンスタインです。」
苦手なキャラだけど、ヴィクトールのお兄さんだというし、挨拶はきちんとしておこう。

「伝説の王の名をいただく気高く美しい人、わが君と呼んでも?」

なんか、大げさな言い回しが可笑しいし、グイグイ来るし、距離が近くて困る!

「あ、いや・・・」
「ちょっと、俺のアーサーに近寄らないで!」
ヴィクトールが怒って間に入ってくれた。
「いいじゃん、減るもんじゃなし。」
「減るよ! アーサーの繊細な神経が磨り減る!」
「え、そうなの?」
「あの、距離が近すぎて困ります。ヘンリーさんの顔、カッコよすぎて、眩しいし。」
「はぁあ~?」
「フッ・・・」
俺の言葉にヴィクトールが憤慨してる横で、トリスタンはポーズを決めてドヤ顔でヴィクトールを挑発していた。

兄弟の仲が良さそうで、羨ましいな。

「アーサー、俺とヘンリー、どっちの顔が好きなの? アーサーの好きな顔は、どっち?」

好きな顔、と言われて脳裏に浮かんだのは・・・

俺は二人から目を逸らした。

「ねぇ、どっちの顔が好き?」
「どっちと言われても・・・一番好きな顔は・・・」

俺は水平線の、海の向こう側に目を向けた。

「ああ、早くルイ、帰ってこないかなぁ・・・」

ルイの笑顔が俺の一番の癒し。

一番好きなのはルイの笑顔。

俺は海の向こう側、遠い日本にいるルイに思いを馳せた。


──────

余談

アーサーはマザコンなので、母親に似た自分の顔もルイの顔も好きなのです。

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