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番外編 番解除した僕らの末路・裏
番解除した僕らの末路・裏 1 A視点
しおりを挟むルイが無事に帰国した翌日の夕方、様子を見がてら叔父の家に寄った。
「アーサー、いらっしゃい。」
やけに機嫌のいいルイが出迎えてくれた。
「体調は?」
「絶好調! アーサー、僕ね、決めたよ。」
「うん。」
「延命はしない。緩和ケアを受ける。しばらくは家で家族で過ごして、残り半年切ったら・・・」
ルイはいったん言葉を止めると、ふうっと息を吐いて笑顔で言った。
「海が見えるホスピスで余生を過ごしたい。」
***
ルイが帰国して1か月目の定期健診での検査で、ルイが妊娠していることがわかった。
妊娠はほぼ不可能だと思われていたのに、それは小さな奇跡だった。
妊娠が判明する前、ルイからはヒートを止めるために卵巣と精巣の摘出手術の相談を受けていた。
「摘出手術はできないよ。妊娠してるから。産むかどうか決めてからだね。」
俺の告知にルイは目を丸くしていた。
「嘘・・・」
そして、驚きと半信半疑でしばらくの間、言葉が出なかった。
「再発する前、妊娠は絶望的って、言ってたよね?」
ようやく、ルイの口から出たのは疑問だった。
「99%の確率で絶望的だったんだけどね、奇跡だよ。残り1%で妊娠しちゃうとは・・・もしかして、運命だった、とか?」
「・・・・・」
俺の問いかけにルイは押し黙って俯いた。
「運命だったの?」
「もう解除されたけど・・・」
ルイは、日本で、自分の運命と出会った時のことを話してくれた。
きっと妊娠していなかったら、絶対に話してくれなかっただろう。
「・・・何で待たなかったの?」
話を聞き終わって、思ったことを問いかけた。
「だって、あと一年しか生きられないのに、運命とはいえ初対面の赤の他人の事なんて煩わしいだけじゃん。妊娠は想定外だけど、産むよ。この子がいれば両親も僕の死後に気が紛れるだろうし、きっと大切に育ててくれる。両親に何も残せないし、親孝行もできないって思ってたけど、この子を残してあげられる。」
ルイの気丈な言葉に目頭が熱くなる。
「父親には知らせないの?」
俺は涙をこらえて聞いた。
ルイは言う気はないようだが、相手が誰なのか知っておきたい。
何とか、ヒントは得られないだろうか?
「名刺見たから、どこの誰かは知ってる。でも、」
「でも?」
「いくら運命でもさ、解除した相手だよ? この子の存在喜ぶと思う?」
「・・・そう言われると微妙だな・・・」
そう言ったものの、通常の番解除とはどこか違うような違和感を覚えた。
「番解除」されたオメガは、人によって違いはあるものの、様々な不調を抱える。
急激に持病が悪化したり、精神的に不安定になったり。
けれど、ルイは病状が悪化している様子もないし、精神的に不安定にもなっていない。
番の子を妊娠している影響なんだろうか?
「でしょ? だから知らせる必要ないよ。」
「ルイ、ほんとにそれでいいの?」
俺は念を押してきいた。
「いいに決まってる。」
ルイは笑顔でそう言い切った。
俺はため息をついて、今後のケアと出産のスケジュールに思考を巡らせた。
叔父さんたちにはルイと二人で妊娠の報告をした。
二人は驚いてはいたが、ルイを抱きしめて「おめでとう」と言ってくれた。
「心配するな。ルイの子供は俺たちの大切な孫だ。」
「男の子かしら、それとも女の子かしら? 楽しみが増えたわね。」
「うん、ありがとう。お父さん、お母さん。」
病状もあるから、ルイは夏季休暇まで通うつもりだった音大を退学して入院することになった。
「もし、何かあったら、母体より赤ちゃんを優先してね。」
ルイの希望はそれだけだった。
ルイの病状に左右されることなく、胎児は順調に大きくなった。
安定期に入ってすぐ、ヴィクトールにもルイの妊娠を報告した。
妊娠を知ってから、ヴィクトールが今まで以上にルイの散歩に付き合ってくれるようになった。
「ヴィクトール、ありがとう。」
「天気のいい日に車椅子押してるだけだし、ルイの散歩に付き合うとアーサーの好感度が上がるから、ウィンウィンだよ。」
「それもそうか!」
楽しそうに中庭に向かう二人の背中を見送って、俺は午後の診察に向かった。
「ルイの相手、内緒で捜そうと思ってるんだけど、いいかな?」
安定期に入ってしばらくしたころ、ヴィクトールがそんな提案をしてきた。
「ダンテに頼めばすぐに見つかると思うんだ。」
「何か、聞いたのか?」
「約束したから、今はアーサーたちには言えない。でも、気になって夜眠れないから、一応、アーサーには捜すことは伝えとく。結果は教えないかもしれないし、教えるかもしれない。う~ん、結果次第?」
「でも、特徴も何もわからないのに、探し出せるのか?」
「・・・アーサーは真面目だからね。」
「?」
「アーサーは興味本位でルイの私物こっそり見ないから、いつまでもわからないんだよ。」
「お前、何か勝手に見たのか?」
「勝手にじゃなくて、偶然、とういうか、ルイがうっかりしてただけ。」
「何があった?」
「ルイさ、子供あての手紙、俺が見てる前で書いてたんだよね。俺、それの介助して、ルイが手紙の中に名刺を入れたのを見たんだ。名刺は漢字がたくさんあったから、多分、中国語とか日本語だと思う。ルイは俺が漢字読めないって思って出したのかな。でも、俺さ、一瞬でも見たものの記憶はできるんだ。だから、ルイが手紙に同封した名刺、記憶できたから書き写せるよ。」
「本当か?」
「でも、今はダメ。ルイとの約束があるから。」
「わかった。」
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