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番外編 番解除した僕らの末路・裏
番解除した僕らの末路・裏 3 A視点
しおりを挟むヴィクトールから話があると連絡があったので、仕事帰りにヴィクトールのフラットに寄った。
「これ、ルイの番の調査結果。」
そう言って渡された人物の名前と顔写真を見て俺は息を飲んだ。
「神子柴くん・・・」
「知り合いなの?」
「ウィリアムの助手として同行した学会で会って話したことがある。小児がんの研究者だ。」
「そうなんだ。」
調査結果を読み進めるうちに、どうしたものかと俺は頭を抱えた。
「番解除は死別だと、本能が勘違いしたせいだったんだな。」
ルイが神子柴くんの帰りを待っていれば事故に合うことは無かったのかもしれない。
例え事故に合っていたとしても、ルイが日本いれば、彼の側にいれば「番解除」も無かったはずだ。
ちょっとしたすれ違いがこんなにも二人の運命を狂わせている。
「ルイに会わせる?」
「考えさせて・・・」
叔父たちにも調査結果を見せて話し合ったが、答えが出なかった。
ルイはいずれ来る死を受け入れ、今はただ子供を産むことだけに集中している。
視力も落ちているし、いずれ見えなくなるし、耳も聞こえなくなる。
そんな状態で元番に会いたいと望むだろうか?
そして、神子柴琉偉から面会の要請が届いた。
「まさか君がルイの運命だったなんてね・・・」
面会に訪れ、今までの経緯を説明して「ルイに会いたい」と懇願する神子柴くんに、俺は静かに言った。
「ルイは余命があと数カ月しかない。それでも会いたいのか?」
「余命・・・?」
「君のところの調査はそこまで調べなかったのか? それとも・・・」
「多分、伏せられたんだと思う。」
大けがをして一度死んだ人間に、番の余命を告げるのは憚られたのだろうと想像はつく。
この調子だと、ルイが妊娠していることも知らないのかもしれない。
だが、今後のことも考えて、俺ははっきりと告げた。
「ルイは妊娠している。」
「え・・・」
「それも聞いていなかったのか?」
「聞いていない・・・」
「調査員は100%君の子だと確証が持てなかったんだろうね。」
「俺の子だ。」
神子柴くんは嚙みしめるようにそう言うと、涙を流した。
その様子を見るかぎり、彼ならルイの意思を尊重してくれると確信した。
「ルイの子供はルイの両親に託すから、君には渡せないよ?」
「それがルイの望みなら受け入れる。」
「ルイは視力が低下しているから君が誰か分からないと思う。」
「それでも、最後まで世話をしたい。」
「たった一度、一日にも満たない時間を過ごしただけなのに?」
「それでも、俺の番だ。」
「元、だろう? それにルイは番を望んでいない。心穏やかに余生を過ごさせたいんだ。」
「名乗らない、番だと言わない。だから、見守るだけでも・・・お願いします・・・」
「わかった。会話は厳禁。俺たちの指示に従うのが条件だ。」
「ありがとう!」
神子柴くんは俺の新しい助手で名前は「シバタ」ということにしてルイの介助を任せることにした。
時間が空いた時に様子を見に行くと、眠っているルイの手を握って、優しく寝顔を見守っている神子柴くんの姿を見かけた。
「黙っているのも辛いよね・・・」
振り向くと、ヴィクトールがいつの間にか俺の背後に立っていた。
「話くらい、させてあげたら?」
「・・・そうだな・・・」
叔父たちとも相談して、ルイに神子柴くんのことを話すことにした。
けれど、切迫早産で予定よりも8週も早く緊急帝王切開することになり、神子柴くんのことは後回しになった。
術後、目が覚めたルイは耳が聞こえなくなっていた。
赤ん坊も未熟児で、新生児室から出られない。
神子柴くんは新生児室とルイの病室を往復するようになった。
「もう、耳も聞こえなくなってる・・・君、ルイの話相手になってくれないか?」
俺は神子柴くんにそう言って頭を下げた。
「話してもいいのか?」
「目も見えないし、耳も聞こえないから、君が何を話そうとルイが煩わされることはもうない。だから、ルイの話を聞いてやってくれ。」
「ありがとう・・・」
神子柴くんはルイの手のひらに指で文字を書いて簡単な受け答えをするようになった。
「シバタさん、ねぇ、聞いて。」
ルイは神子柴くんが話し相手になってから、とても楽しそうだった。
もしかしたら気づいているんじゃないか?
そう思うこともあった。
「シバタさん、今日のルイスの様子はどうだった?」
ルイの問いかけに、神子柴くんが指文字で答える。
「体重、増えた? もう少ししたら保育器出られるの? そうか、もうすぐ、みんな抱っこできるんだね。シバタさん、僕の代わりに抱っこしてね。僕はもう、動けないから、お願いね。あ、そうだ、アーサー呼んでくれない?」
「ルイ、どうした?」
俺はルイの頭を撫でて、傍にいることを教えた。
「アーサー、ちょっと内緒の話いい?」
俺は指文字で「OK」と書いて、神子柴くんを病室の外に出した。
『ルイ、どうした?』
「あのね、僕が死んだら、連絡を取って欲しい人がいるんだ。」
『誰?』
「日本で友達になった人。聖夜さんって人で、僕のスマホに連絡先、入ってるから。ルイスの写真と、お礼のメッセージを代わりに送ってくれる?」
『わかった。』
「お願いね。」
『他には?』
「よっちゃんが、多分、たくさん泣くと思うから、僕の代わりに抱きしめてあげてね。」
数日後、家族と神子柴くんに見送られてルイは旅立った。
ルイは、神子柴くんの手を最後まで握ったまま離さなかった。
葬儀には日本からルイの伯母家族がやって来た。
ルイの従兄弟たちと抱擁を交わし、最後に約束通りよっちゃんを抱きしめた。
葬儀の間、よっちゃんは大人しく俺の腕の中で泣いていた。
葬儀が終わってからルイの遺灰の一部を、叔父はルイの伯母の玲子さんと神子柴くんに渡した。
玲子さんが受け取ったものは日本のルイの祖父母の墓に分骨されることになっている。
叔父は神子柴くんに
「君の手で海に散骨してくれないか?」
と話していた。
「海に?」
「これ、君だろう?」
そう言って叔父はルイの日記帳からポストカードを取り出して神子柴くんに見せた。
「はい、俺です。父が描いてくれた俺の絵です。」
「ルイが、この海に散骨して欲しいそうだ。頼めるかい?」
神子柴くんは泣きながら、何度も何度も頷いていた。
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