65 / 149
連載
111 待ち合わせ
しおりを挟む
「やっぱりくるの少し早かった感じじゃない?」
「そうかな。これくらいの時間でちょうどいいと思うけど」
ギルド街の本通りから少しだけ外れた場所にある大広場。腰掛けるための椅子が広場の色んなところに設置してあるから、よくクランの集合場所や依頼人との待ち合わせに用いられているって話だけど、私達も例に漏れずここでイリーナさんと待ち合わせをしていた。
「だんだんと冒険者っぽくなってきたよね、私達」
「ぽいって言うか、本当に冒険者な感じじゃん」
「そうだけど、兼業だし。普段あんまり冒険者やってる実感なくない?」
私はオオルバさんの魔法店を手伝ってるし、アリリアナも時間がある時は旅館のお仕事に行ってる。
「まぁ確かに今はあんまり活動出来てない感じだけど、馬車を手に入れたら色んなところに行くつもりだから、ドロシーもそのつもりでいてよね」
「いいけど、どんな馬車が欲しいとか決めてるの?」
「ん~。そりゃやっぱり全員が快適に寝泊まりできる感じかな。あと倒した魔物を収納できるスペースも当然欲しい感じ」
「広さだけが基準なら探せば安いのはあるだろうけど……」
材質に拘らなければ三桁でも購入できると思う。
「いやいや、馬車って超重要じゃん。こればかりはドロシーが何を言おうが高いのを選ぶからね。最低でも行商人が使うくらいの奴」
「別に何も言わないよ。私も馬車にお金を掛けるのは賛成だし」
どこに魔物が潜んでいるか分からない野外での拠点である馬車は、テントと同じで金を惜しむべきじゃないと思う。幸いシャドーデビル討伐でお金には余裕があるし、街から街へと移動する行商人くらい良い馬車を購入するべきだ。
「最高の道具を持ったからといって、それが最良の自衛手段となり得るのか、むしろその慢心こそが最大の敵に変わるのではないだろうか」
「へっ!? ええっと……」
見ればベンチに腰掛けている私とアリリアナの前にフリルやレースがふんだんに使われた黒いドレスを着た、可愛らしい女の子が立っていた。
「アリリアナの知り合い?」
「全然。完璧なる初対面な感じ。でも可愛いちびっ子ね」
初対面にも関わらず女の子の頭を親しげに撫でるアリリアナ、女の子は怯えるでも怒るでもなくそんなアリリアナをジッと見つめて、そしてーー
「初対面とは一体何を持って判断しているのか。どうして初めての相手を初めてだと認識できるのか。もしもそれらの判断を記憶に委ねているのであれば、己の記憶がそれほどまでに信頼のおけるものであるのかどうかを今一度自身に問いかけるべきではないのだろうか」
あれ? この喋り方って。
同じことを考えたのか、少女の頭を撫でていたアリリアナの手がピタリと止まった。
「あのさ、ドロシー。なんかこの子とよく似た喋り方の人を知ってる感じなんだけど」
「う、うん。私も今同じこと考えてた」
でもそんなことあるかな? 性別以前に、似ているところが一つもないんだけど。
「あっ、ひょっとして幻覚魔法とか?」
「でも私めちゃくちゃ頭触ってるんだけど。それにドルドさんって、騎士じゃん。騎士って魔力の波長がちょっと変わってて、基本身体強化以外はできない感じじゃなかったっけ?」
「だよね」
アリリアナの言う通り、騎士は多種多様な魔法が使えない代わりに、肉体を強化するという一点において、通常の魔法使いを大きく凌駕する。
身体能力特化の魔法使い。それが騎士。
勿論騎士だからって普通の魔法が全くつかないと言うわけではないけれど、それでも触覚までも誤魔化せる魔法となると、騎士であるドルドさんが使用するには難易度が高すぎる気がする。
「やっぱり喋り方が似てるだけかな? あっ、ドルドさんの妹さんとか?」
「おっ、それが一番ありそうな感じじゃん。ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ、強面なお兄さんいる?」
「アリリアナ、聞き方」
「え? ダメな感じ? じゃあツルツ……じゃなくて、とにかくお兄さんいる?」
人形のような少女は私とアリリアナをジッと見つめると、おもむろに口を開いた。
「自分が何者であるかもわからぬこの身で、肉親の存在をいったいどうして証明できようか。いや、あるいは肉親の存在こそが己を知る手がかりとなるのか。だがしかし、たとえそのような存在が目の前にいたとしても、それが真実自らの親であるとどうして断言できようか。そもそーーむぐ」
「あ~はいはい。分かったからちょっとシーな感じでお願いね」
物凄い勢いで喋り出した少女の唇に、アリリアナが人差し指を当てた。
「どう思う?」
「どうって、すごく似てるとは思うけど、そもそも私達ドルドさんのこと全然知らないし」
「「「…………」」」
「あら、私が最後ですの? みなさん随分とお早いですわね」
「イリーナさん」
「おお、ナイスタイミング」
ちょうど良いところに、今日も見事にセットされた縦ロールを揺らしながらイリーナさんがやって来た。
「あら、そんなに歓迎されると嬉しいですわね。ところで……アリリアナさんは何をやってますの?」
「アハハ。それがさ、変な話だけどこの子、喋り方がすっごいドルドさんに似てる感じなんだけど、ひょっとして妹さんか何か?」
「ああ、そういえばこの間の飲み会で説明する予定でしたのに、うっかり忘れてましたわ」
トイレでアリリアナと一緒にゲーゲー戻してた姿を思い出す。
あれだけ酔っ払ってたら伝え忘れがあっても不思議じゃないよね。
「ドルドはドッペル族。まぁ分かりやすく言えば魔族ですわね」
「ええっ!?」
「うっそ」
思ってもなかったイリーナさんの言葉に驚く私とアリリアナを、ドルドさん本人であるらしい少女はジッと見つめてた。
「そうかな。これくらいの時間でちょうどいいと思うけど」
ギルド街の本通りから少しだけ外れた場所にある大広場。腰掛けるための椅子が広場の色んなところに設置してあるから、よくクランの集合場所や依頼人との待ち合わせに用いられているって話だけど、私達も例に漏れずここでイリーナさんと待ち合わせをしていた。
「だんだんと冒険者っぽくなってきたよね、私達」
「ぽいって言うか、本当に冒険者な感じじゃん」
「そうだけど、兼業だし。普段あんまり冒険者やってる実感なくない?」
私はオオルバさんの魔法店を手伝ってるし、アリリアナも時間がある時は旅館のお仕事に行ってる。
「まぁ確かに今はあんまり活動出来てない感じだけど、馬車を手に入れたら色んなところに行くつもりだから、ドロシーもそのつもりでいてよね」
「いいけど、どんな馬車が欲しいとか決めてるの?」
「ん~。そりゃやっぱり全員が快適に寝泊まりできる感じかな。あと倒した魔物を収納できるスペースも当然欲しい感じ」
「広さだけが基準なら探せば安いのはあるだろうけど……」
材質に拘らなければ三桁でも購入できると思う。
「いやいや、馬車って超重要じゃん。こればかりはドロシーが何を言おうが高いのを選ぶからね。最低でも行商人が使うくらいの奴」
「別に何も言わないよ。私も馬車にお金を掛けるのは賛成だし」
どこに魔物が潜んでいるか分からない野外での拠点である馬車は、テントと同じで金を惜しむべきじゃないと思う。幸いシャドーデビル討伐でお金には余裕があるし、街から街へと移動する行商人くらい良い馬車を購入するべきだ。
「最高の道具を持ったからといって、それが最良の自衛手段となり得るのか、むしろその慢心こそが最大の敵に変わるのではないだろうか」
「へっ!? ええっと……」
見ればベンチに腰掛けている私とアリリアナの前にフリルやレースがふんだんに使われた黒いドレスを着た、可愛らしい女の子が立っていた。
「アリリアナの知り合い?」
「全然。完璧なる初対面な感じ。でも可愛いちびっ子ね」
初対面にも関わらず女の子の頭を親しげに撫でるアリリアナ、女の子は怯えるでも怒るでもなくそんなアリリアナをジッと見つめて、そしてーー
「初対面とは一体何を持って判断しているのか。どうして初めての相手を初めてだと認識できるのか。もしもそれらの判断を記憶に委ねているのであれば、己の記憶がそれほどまでに信頼のおけるものであるのかどうかを今一度自身に問いかけるべきではないのだろうか」
あれ? この喋り方って。
同じことを考えたのか、少女の頭を撫でていたアリリアナの手がピタリと止まった。
「あのさ、ドロシー。なんかこの子とよく似た喋り方の人を知ってる感じなんだけど」
「う、うん。私も今同じこと考えてた」
でもそんなことあるかな? 性別以前に、似ているところが一つもないんだけど。
「あっ、ひょっとして幻覚魔法とか?」
「でも私めちゃくちゃ頭触ってるんだけど。それにドルドさんって、騎士じゃん。騎士って魔力の波長がちょっと変わってて、基本身体強化以外はできない感じじゃなかったっけ?」
「だよね」
アリリアナの言う通り、騎士は多種多様な魔法が使えない代わりに、肉体を強化するという一点において、通常の魔法使いを大きく凌駕する。
身体能力特化の魔法使い。それが騎士。
勿論騎士だからって普通の魔法が全くつかないと言うわけではないけれど、それでも触覚までも誤魔化せる魔法となると、騎士であるドルドさんが使用するには難易度が高すぎる気がする。
「やっぱり喋り方が似てるだけかな? あっ、ドルドさんの妹さんとか?」
「おっ、それが一番ありそうな感じじゃん。ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ、強面なお兄さんいる?」
「アリリアナ、聞き方」
「え? ダメな感じ? じゃあツルツ……じゃなくて、とにかくお兄さんいる?」
人形のような少女は私とアリリアナをジッと見つめると、おもむろに口を開いた。
「自分が何者であるかもわからぬこの身で、肉親の存在をいったいどうして証明できようか。いや、あるいは肉親の存在こそが己を知る手がかりとなるのか。だがしかし、たとえそのような存在が目の前にいたとしても、それが真実自らの親であるとどうして断言できようか。そもそーーむぐ」
「あ~はいはい。分かったからちょっとシーな感じでお願いね」
物凄い勢いで喋り出した少女の唇に、アリリアナが人差し指を当てた。
「どう思う?」
「どうって、すごく似てるとは思うけど、そもそも私達ドルドさんのこと全然知らないし」
「「「…………」」」
「あら、私が最後ですの? みなさん随分とお早いですわね」
「イリーナさん」
「おお、ナイスタイミング」
ちょうど良いところに、今日も見事にセットされた縦ロールを揺らしながらイリーナさんがやって来た。
「あら、そんなに歓迎されると嬉しいですわね。ところで……アリリアナさんは何をやってますの?」
「アハハ。それがさ、変な話だけどこの子、喋り方がすっごいドルドさんに似てる感じなんだけど、ひょっとして妹さんか何か?」
「ああ、そういえばこの間の飲み会で説明する予定でしたのに、うっかり忘れてましたわ」
トイレでアリリアナと一緒にゲーゲー戻してた姿を思い出す。
あれだけ酔っ払ってたら伝え忘れがあっても不思議じゃないよね。
「ドルドはドッペル族。まぁ分かりやすく言えば魔族ですわね」
「ええっ!?」
「うっそ」
思ってもなかったイリーナさんの言葉に驚く私とアリリアナを、ドルドさん本人であるらしい少女はジッと見つめてた。
0
あなたにおすすめの小説
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。