婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
66 / 149
連載

112 ドッペル

しおりを挟む
 ドッペル族。肉体を骨格に至るまで自在に変化させることが出来る種族で、魔族の中でも特に数が少ないとされる種族。でもそれに反してその名はとっても有名。

 ドッペルにあった者は死ぬ。

 まだこの大陸に魔族が大勢いた時代、人と魔族は幾度となく刃を交えた。

 数々の特殊能力と純粋な身体能力の高さから魔族の王として恐れられる吸血鬼。その吸血鬼に純粋な身体能力で迫る獣人。幻惑魔法と性魔法で異性を虜にするサキュバス。恐るべき力を持った種族は数あれど、その中でも当時の冒険者や王族を最も震え上がらせたのがドッペル族だという話。

「え? ガチで?」

 授業にも登場した種族である少女(?)を指差し、アリリアナが惚けた顔をイリーナさんに向ける。

「失礼ですわね。私、つまらない嘘など付きませんわ」

 イリーナさんは腰に手を当てると、心外だとばかりにため息をついた。

 ……やっぱり本物なんだ。

 この間あったエルフのカイエルさんに続いて二人目の魔族。

 い、色々話を聞いてみたいかも。普段の食生活とか。睡眠時間とか。質問してみても良いかな? でもいきなりそんなこと聞くのはちょっと失礼な気もするし……。

 悩んでいると、アリリアナがドルドさん(少女)の頰を指でツンツンした。

「つまりドルドさんはこの姿が本来のものな感じなわけ?」
「本来とは何処を起点とした質問なのか。母の腹にいる胎児と生まれでた赤子は同一のものなのか? 遡ることで得れるものが果たして本来と呼ばれるべきものなのか。それはあるいは未完と呼ぶべきものではないのか」
「なるほど……私もミカンは好きな感じよ」
「いや、そのミカンじゃないよね。それとドッペル族は本来の姿というものを持たなくて、幼年期は両親どちらかの姿を真似て、ある程度成長すると気ままに周囲のものを真似始めるらしいよ」
「流石ドロシーさんですわね。その通りですわ。ただドルドは親を持たないはぐれドッペルで、少々変わった相手に育てられましたの。ですので基本的な人間形態である親の姿がそもそもありませんのよ」

 ドッペル族というだけでもかなり珍しいのに、変わった相手に育てられたって……。どうしよう。正直すごく気になる。でも複雑な家庭の事情を軽々しく聞くのもどうかと思うし。

 見ればアリリアナまでもが難しい顔をしていた。

「ドッペル族、ね。一つ聞いてもいい感じ?」
「もちろんですわ。どうぞ」

 ドルドさんの代わりにイリーナさんが返事をするけど、その口調が少しだけ挑発的だ。もしかしたら私たちが魔族に対してどんな反応するのか見てるのかも。特にドッペル族は恐怖の対象だから。

 そんなイリーナさんの様子を知ってか知らずか、アリリアナはキリッとした顔でドルドさんの小さな手を取った。そしてーー

「その姿の時はドルドさんじゃなくてドルドちゃんって呼んでいい?」
「ええっ!?」

 聞きたいことってそれ? 真面目な顔して聞くことじゃないよね? ほら、イリーナさんも呆れて……あれ? 笑ってる?

「名前など所詮記号に過ぎない。だがしかし、それに意味があると思うならば好きに呼ぶといいだろう」
「アハハ。普段からそれくらい短く纏めてくれると助かる感じ。あっ、手繋ごう。手」

 アリリアナが手を伸ばすと、ドルドさんは意外にもすんなりそれを掴んだ。

「どう、ドロシー。羨ましいでしょ」

 人形のように可愛いらしい少女と手を繋いで、アリリアナはすっかりご満悦だ。

 その笑顔があまりにも眩しくて、どうしてそんな風に人と距離を詰められるんだろうって不思議に思う。少なくとも私には絶対に無理だ。

 ああ、本当にーー

「うん。羨ましいよ」

 そしてこんな時、思い知らされちゃう。私はきっとアリリアナにとって特別じゃないんだろうなって。

 一緒に生活してすごく仲良くなれたし、アリリアナのお陰で毎日がすごく楽しい。

 私の親友。

 メルルさんともセンカさんとも友達だけど親友と呼べるのは多分アリリアナだけ。でもアリリアナにとってはきっとそうじゃない。私は沢山いる友達の中の一人。別にそれが悪いわけじゃない。ただ、ちょっとだけーー

「ちょっとドロシー、何か急に暗くない? ドルドちゃん、悪いけどそこのお姉さんとも手を繋いであげてくれる?」
「ええっ!? ちょっとアリリアナ、ドルドさん、本当に子供じゃないんだよ?」
「大人と子供の境は何処にあるのか。いや、そもそもそのようなものが本当にあるのか。誰も彼も己の稚拙さからは逃れられぬ」

 そう言ってドルドさんがこちらに手を伸ばす。

 ……本当、アリリアナには敵わないな。

「えっとそれじゃあ、し、失礼します」

 私は小さな少女の手をそっと握った。

「あらあら。仲睦まじい光景ですわね」

 そう言って微笑むイリーナさん。アリリアナをどこか眩しそうに見つめるその顔は、まるで私を真似たドッペルのようだと思った。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。