婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
73 / 149
連載

119 抹茶ラテ

しおりを挟む
「ごめんね。一目で気づけなくて」

 アリリアナと一緒にシャワーを浴びて、眠気をすっかり洗い流すと、遊びに来てくれたセンカさんと一緒に馬車のお金を支払いに行くことにした。

「いや、構わない。急に来た私も悪いしな。オオルバさんが上がっていいと言ってくれたんだが、ノックくらいはするべきだった」
「センカって意外とおっちょこちょいな感じよね」
「誰のせいだ。毎回お前の家に掃除に行ってたので、つい同じ感覚で入ってしまったんだ。本当にすまなかったな、ドロシー」
「う、ううん。全然気にしなくていいよ。尋ねてくれるのは嬉しいし、ほんと、気にしないで」

 むしろ友達がいなかった時と比べると、こんな会話が出来てる時点ですっごく嬉しい。いきなりだとちょっと驚くこともあるけど、それだってアリアの悪戯に比べたら可愛いものだし。

「それよりセンカさん、今日は用事があったりするの?」
「いや、久しぶりの非番だが、どうしてだ?」
「えっと、その、すごいお洒落してるから」

 センカさんはいつも兵士さんのキッチリした制服姿か、あるいは胸当てなどの簡易な防具を身につけてるけど、今日のセンカさんはそんな姿からは程遠い、なんていうか、今からパーティに参加してもおかしくない凄く綺麗な格好をしてる。

「センカ、休日はいつもバッチシ決める感じだもんね。普段とギャップありすぎて、見慣れてなければ私でも分かんないかも」
「そこまでか? 私としては気に入ってるんだが」

 ちょっと困ったような顔で自身の服装を見下ろすセンカさん。その言動に家を飛び出して初めて短いスカートを穿いた時のことを思い出して、ドキリとした。

「別に変とかじゃないよ? ううん。すっごく似合ってる。まるで空想絵巻に出てくる深窓の令嬢みたいだよ」
「ありがとう。だがドロシーに深窓の令嬢と言われると変な感じだな」
「? どうして?」
「その言葉は私なんかよりもドロシーの方がずっと似合うだろう? 実際名家の出なわけだし」
「そう、かな?」

 確かにウチは歴史だけはあるけど、この場合はイメージの問題であって、自分が深窓の令嬢と言われても全然ピンとこない。

「ねぇねぇ。そんなことよりもさ、私まだちょっと眠いからコーヒー飲んでかない?」
「私は構わないぞ」

 足を止めた二人が揃って私を見る。

「う、うん。私も全然構わないよ」
「じゃあ決まり。ちょうど『キャット』の近くだし、久しぶりにナオさんのコーヒー飲んじゃおっと」
「本当に好きだな」
「と~ぜんでしょ。徹夜明けのコーヒーほど素晴らしい飲み物はない感じなんだから」

 そう言うアリリアナの瞼は昨日寝てないだけあって重たそう。私は学生時代散々徹夜したから一日くらい寝なくても全然平気だけど、アリリアナ、大丈夫かな?

 睡眠不足のアリリアナが転けたりしないかハラハラしている内に、看板にコーヒーカップを眺める帽子を被った黒猫が描かれている喫茶店へと到着した。

「いらっしゃいませ。あら、久しぶりじゃない」

 お店に入るとセンカさんと同じ艶やかな黒髪をショートカットにした美女が出迎えてくれた。化粧をバッチリ決めたセンカさんは何処からどう見ても大人の女性だけど、ナオさんの場合は両耳で光るピアスが大人感をすごく引き出してる。

「アハハ。すみません、ちょっと色々あって」
「旅館の仕事辞めて冒険者になったんだって? アンタらしいって言えばらしいけど、また思い切ったわよね」
「いや~。職場の先輩と話しているうちにやってみたくなっちゃって」
「普通は思うだけなんだけどね。大丈夫なの? 冒険者って危ない仕事なんでしょ?」
「心配ご無用です。私のクランにはすっごい人が沢山いますから。彼女とか」

 そう言ってアリリアナが私の肩に腕を回してくる。

「わ。私は別に凄くなんか……」
「そういや、伝達絵巻見たよ。姉妹揃ってS指定の魔物を倒したんだって? すごいじゃない」
「いえ、あれはみんなで倒したのであって、私一人の力じゃ無理でした」

 お父様の指示だと思うんだけど、伝達絵巻の内容が作為的で、あの内容じゃあ誰だって私とアリアがそれぞれ単独でS指定の魔物を倒したと誤解するよね。

「ふーん。なんでもいいけど、アリリアナの事よろしくね。ドロシーさんと違ってアリリアナは強い魔物と遭遇するとすぐにやられちゃいそうだから心配で」
「あっ、はい。任せてください」

 アリリアナは勿論、クランの皆に万が一がないよう、もっと魔法の勉強頑張らなくっちゃ。

「いやいや。私も最近すごい魔法覚えたんで、結構レベルアップしてる感じなんで」
「例の糸を使った魔法のことか? 良かったら後でどんなものか見せてくれないか?」
「いいわよ。ってか、簡単なものならここでも見せられる感じだし」

 アリリアナはアマギさんに貰ったグローブを取り出す。

 もしかしてここで魔法使う気なのかな? ナオさんは特に何も言わないし、時間帯の関係で店内にお客さんは殆どいないけど、流石に迷惑なんじゃ……。

「ね、ねぇ、それよりも一先ず席に座らないかな?」
「ん~? ……確かに。じゃ、ナオさん。いつものをお願いします。あっ、サラダは抜きで」
「はいよ。二人は?」
「あっ、私もいつもので」
「私は……そうだな。抹茶ラテをお願いします」

 抹茶ラテ? そんなのもあるんだ。新作なのかな? ナオさんが私のお気に入りを覚えてくれたのが嬉しくて最近あまりメニュー見てなかった。私もそっちにしようかな。でももう注文しちゃったし。そもそも抹茶ラテってなに? 抹茶にミルクが入ってるの? そんなの合うのかな? ……合いそう。飲んでみたい。

「はい。承りました。直ぐに持ってくるから、好きな席に座って待っててよ」

 変更しようかなって悩んでいる間にナオさんは行ってしまった。

 ハァ。こういう時、直ぐに言い出せない自分が情けない。

「それじゃあその辺の席にでも……ドロシー? どうかしたのか?」
「う、ううん。何でもないの」

 次に来た時は絶対に抹茶ラテを頼もう。そう決心しながら私は席についた。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。