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120 お出掛けの約束
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「はい。お待たせ。ブレンドコーヒーとエスススプレッソ、それと抹茶ラテね」
ナオさんが慣れた動きでテーブルに三つのカップを置いていく。
抹茶ラテって、どんなのだろう?
好奇心に促され、センカさんのカップを覗き込んでみる。黒いカップを満たす緑色の液体。その表面に白い渦が巻いてるけど、あれってやっぱりミルクなのかな?
「ん? なんだドロシー、これが気になるのか?」
「え? えっと……うん。ちょっとだけ」
本当はすっごく。やっぱり私もセンカさんと同じものを注文しとけばよかった。
「何なら一口飲むか?」
「へっ!? そんな、悪いよ」
「遠慮しなくていいぞ」
「い、いやでも……あっ、そうだ! 私だけ貰うのもなんだし、良かったらだけど、センカさんも飲まない?」
そう言って注文したエスススプレッソをセンカさんの方に差し出すけど、ち、小さい。私の注文したコーヒーはすっごく美味しいんだけど、その分必要以上に小さくて、これを飲めと言われても困るかな? 困るよね。
そう思ったんだけどーー
「そうか。それなら一口」
センカさんは特に気兼ねすることもなく飲んでくれた。
「コーヒーを飲むのは久しぶりだが、やはりナオさんの入れたモノは上手いな」
「だよね! 私もそう思う」
センカさんが自然体なおかげか、私の中にある遠慮が小さくなっていく。私はさっそく抹茶ラテなるものを一口頂いた。
「わっ!? 甘い?」
抹茶って数えるくらいしか飲んだことなかったけど、昔飲んだのはもっと苦かった気がする。
「意外か? 最近は抹茶を使った商品も増えてきたが、どれも甘めな物ばかりだぞ」
「そうなんだ。センカさんは抹茶好きなの?」
「というか、新商品に目がないんだ。私は元々暇な日は街を散策して、気になった店に入っているんだが、中でもスイーツ店は欠かさずチェックしている」
「それって……凄く楽しそう」
私も以前に比べて行動範囲は随分広がったけど、未だに新しいお店に行くのは緊張しちゃって、何だかんだ理由をつけては『キャット』含めた知ってるお店に通って満足しちゃう事が多い。だからセンカさんみたいな休日の過ごし方は私の理想の一つだ。
「良かったら次の非番にでも一緒にスイーツの食べ歩きでもするか?」
「え? わ、私と?」
「ああ。ドロシーさえよければだが」
「行きたい! すっごく行きたい!! 絶対行こ」
「なら後で魔法文字で私の休暇予定を送るから、都合の良い日にちを教えてくれ」
「うん。エヘヘ」
センカさんとスイーツの食べ歩きなんてすっごく楽しみ。考えてみたら私ってまだまだセンカさんやメルルさんのことを、ううん。アリリアナについてもきっと知らないことばかりなんだよね。
今の関係に不満なんて何一つないけど、せっかくなんだし、この機会にもっと仲良くなれるといいな。
「それでその時に少し相談したいことがあるんだが、いいか?」
「うん。……えっ!? 私に? センカさんが?」
「そうだ。ダメか?」
「まさか。私でよければ何でも言って。できる限りのことはするから」
「助かる」
センカさんはどうしてだか、どこか申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
何かあったのかな? 気になるし、力になってあげたいけど、後日って話だし、今は聞かない方がいいのかな?
「はーい。二人とも注目、注目。どう? これが私の新魔法な感じ」
アリリアナの操る糸に支えられてコーヒーカップが宙に浮いた。
やけに静かだと思ったら、魔法の準備してたんだ。
「ほう。単純だが面白いな。……ん? それはただの糸じゃないな?」
「流石はセンカ。この糸は魔銀で出来てるの」
「なるほど。グローブに仕込まれている魔銀を使って糸を生成しているのか。単純な物体操作というよりも錬金術に近いな」
魔力によってその形を変える魔銀。同質の魔力を繰り返し送り込むことで、いつしかその魔力にしか反応しなくなる性質を利用して武器や防具に用いられることはままあるけど、魔力で簡単に形を変える性質上、純度百%の魔銀武器というのは珍しい。あれだと形状維持に不安がないのかな? 幾ら自分の魔力になじませたからといっても何らかの拍子で外部の魔力に反応しないとは限らないんだし。その辺を安定させるのがアマギさんの魔法の真髄……かな?
「まだまだ不慣れだけどさ、見ての通り結構便利なのよね」
「しかし魔銀はかなり希少な品だぞ。そのグローブも魔銀を多く収納できるように作られた特別製なのだろう? 値が張ったんじゃないのか?」
「そこは体で払っておきました」
「なん……だと?」
「ちょっと、アリリアナ。一緒に食事しただけでしょ」
私が誤解しか招かないアリリアナの言葉を訂正したら、センカさんがホッと息を吐いた。
「そうか。いや、だが随分気前の良い相手に師事しているんだな。ギルド職員の中でも地位の高い人なのか?」
「ん~。ちょっとその辺はよく分かんない感じかな。ほら、ギルドってその辺り秘密主義じゃん? でも同じ職員からお姉様呼ばわりされてたし、高い感じだとは思うんだけどね」
ギルドは内部情報の管理がかなり厳しくて、前は受付だった人が次の日は全く別の仕事をしてたりと、肩書きが当てにならないところがある。もっとも、ギルドに所属しているだけで色々な国にほぼフリーパスで入れるのだから、その信頼を守るためにギルドがあの手この手で内部情報を守ろうとするのは当然と言えば当然なのかもしれない。
「まぁギルド職員ならそうか。それで? その新魔法がまったく通じなかったというグラドール家の御令嬢はやはり強かったのか?」
「もうヤバヤバな感じ。ほら、昔授業で騎士学校の生徒と合同模擬戦やったじゃん?」
「あったな。メルルの往復ビンタが炸裂したやつだろ」
「そう、それ。メルルの往復ビンタが炸裂したやつ」
メ、メルルさん。何したんだろ?
残り少なくなったコーヒーをチビチビ飲みながら、二人の会話に耳を澄ます。
「あの時はさ、騎士って言っても正直これぐらいなんだって思ったじゃん? 今回の模擬戦ではそんな甘い感想を粉々に吹き飛ばされちゃった感じであります」
何故か軍人さんみたいにビシッと敬礼してみせるアリリアナは、センカさんにも敬礼を返して欲しいのか、何度もしつこくビシッ、ビシッと決めている。
「身体能力のみを極めた魔法使い。グラドール家はその中の代表格だからな」
センカさん、完全にスルーだ。そのせいでって言うのもアレだけど、矛先がこっちに向いちゃった。
ビシッ、ビシッ。
「え、えっと……」
ビシッ、ビシッ。
ちょっと恥ずかしいけど、無視をするのも可哀想だし敬礼を返す。アリリアナは満足したのか、満面の笑みを浮かべた。
「グラドール家が凄いのは分かってたんだけどさ、もう少し勝負になる感じだと思ったんだよねぇ」
口調だけは悔しそうにそう言って、アリリアナは湯気の昇るカップに口を付けた。
確かにアリリアナはイリーナさんに圧倒されてたけど、あれはまだ不慣れな糸の魔法にこだわりすぎてただけであって、普段通り戦えばもっと善戦してたと思う。勝敗よりもやりたいスタイルにこだわるのはアリリアナらしいけど。
「そうか。しかしそれなら馬車は残念だったな」
「へ? 何で?」
「なんでも何もお互い好みの違う馬車のどちらを購入するかで勝負したんだろう? それともどちらでも良かったのか?」
「ああ、そういうこと。それなら勘違いよ。ねっ、ドロシー」
「うん。そう……だね」
「勘違い? 何がだ?」
こっちを向いた切れ長な視線が問うてくる。だから私はセンカさんに先日の勝負の結果を伝えることにした。
「確かに私とアリリアナはあまり良い結果ではなかったけど、試合自体には勝てたの。……その、レオ君が凄くて」
ナオさんが慣れた動きでテーブルに三つのカップを置いていく。
抹茶ラテって、どんなのだろう?
好奇心に促され、センカさんのカップを覗き込んでみる。黒いカップを満たす緑色の液体。その表面に白い渦が巻いてるけど、あれってやっぱりミルクなのかな?
「ん? なんだドロシー、これが気になるのか?」
「え? えっと……うん。ちょっとだけ」
本当はすっごく。やっぱり私もセンカさんと同じものを注文しとけばよかった。
「何なら一口飲むか?」
「へっ!? そんな、悪いよ」
「遠慮しなくていいぞ」
「い、いやでも……あっ、そうだ! 私だけ貰うのもなんだし、良かったらだけど、センカさんも飲まない?」
そう言って注文したエスススプレッソをセンカさんの方に差し出すけど、ち、小さい。私の注文したコーヒーはすっごく美味しいんだけど、その分必要以上に小さくて、これを飲めと言われても困るかな? 困るよね。
そう思ったんだけどーー
「そうか。それなら一口」
センカさんは特に気兼ねすることもなく飲んでくれた。
「コーヒーを飲むのは久しぶりだが、やはりナオさんの入れたモノは上手いな」
「だよね! 私もそう思う」
センカさんが自然体なおかげか、私の中にある遠慮が小さくなっていく。私はさっそく抹茶ラテなるものを一口頂いた。
「わっ!? 甘い?」
抹茶って数えるくらいしか飲んだことなかったけど、昔飲んだのはもっと苦かった気がする。
「意外か? 最近は抹茶を使った商品も増えてきたが、どれも甘めな物ばかりだぞ」
「そうなんだ。センカさんは抹茶好きなの?」
「というか、新商品に目がないんだ。私は元々暇な日は街を散策して、気になった店に入っているんだが、中でもスイーツ店は欠かさずチェックしている」
「それって……凄く楽しそう」
私も以前に比べて行動範囲は随分広がったけど、未だに新しいお店に行くのは緊張しちゃって、何だかんだ理由をつけては『キャット』含めた知ってるお店に通って満足しちゃう事が多い。だからセンカさんみたいな休日の過ごし方は私の理想の一つだ。
「良かったら次の非番にでも一緒にスイーツの食べ歩きでもするか?」
「え? わ、私と?」
「ああ。ドロシーさえよければだが」
「行きたい! すっごく行きたい!! 絶対行こ」
「なら後で魔法文字で私の休暇予定を送るから、都合の良い日にちを教えてくれ」
「うん。エヘヘ」
センカさんとスイーツの食べ歩きなんてすっごく楽しみ。考えてみたら私ってまだまだセンカさんやメルルさんのことを、ううん。アリリアナについてもきっと知らないことばかりなんだよね。
今の関係に不満なんて何一つないけど、せっかくなんだし、この機会にもっと仲良くなれるといいな。
「それでその時に少し相談したいことがあるんだが、いいか?」
「うん。……えっ!? 私に? センカさんが?」
「そうだ。ダメか?」
「まさか。私でよければ何でも言って。できる限りのことはするから」
「助かる」
センカさんはどうしてだか、どこか申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
何かあったのかな? 気になるし、力になってあげたいけど、後日って話だし、今は聞かない方がいいのかな?
「はーい。二人とも注目、注目。どう? これが私の新魔法な感じ」
アリリアナの操る糸に支えられてコーヒーカップが宙に浮いた。
やけに静かだと思ったら、魔法の準備してたんだ。
「ほう。単純だが面白いな。……ん? それはただの糸じゃないな?」
「流石はセンカ。この糸は魔銀で出来てるの」
「なるほど。グローブに仕込まれている魔銀を使って糸を生成しているのか。単純な物体操作というよりも錬金術に近いな」
魔力によってその形を変える魔銀。同質の魔力を繰り返し送り込むことで、いつしかその魔力にしか反応しなくなる性質を利用して武器や防具に用いられることはままあるけど、魔力で簡単に形を変える性質上、純度百%の魔銀武器というのは珍しい。あれだと形状維持に不安がないのかな? 幾ら自分の魔力になじませたからといっても何らかの拍子で外部の魔力に反応しないとは限らないんだし。その辺を安定させるのがアマギさんの魔法の真髄……かな?
「まだまだ不慣れだけどさ、見ての通り結構便利なのよね」
「しかし魔銀はかなり希少な品だぞ。そのグローブも魔銀を多く収納できるように作られた特別製なのだろう? 値が張ったんじゃないのか?」
「そこは体で払っておきました」
「なん……だと?」
「ちょっと、アリリアナ。一緒に食事しただけでしょ」
私が誤解しか招かないアリリアナの言葉を訂正したら、センカさんがホッと息を吐いた。
「そうか。いや、だが随分気前の良い相手に師事しているんだな。ギルド職員の中でも地位の高い人なのか?」
「ん~。ちょっとその辺はよく分かんない感じかな。ほら、ギルドってその辺り秘密主義じゃん? でも同じ職員からお姉様呼ばわりされてたし、高い感じだとは思うんだけどね」
ギルドは内部情報の管理がかなり厳しくて、前は受付だった人が次の日は全く別の仕事をしてたりと、肩書きが当てにならないところがある。もっとも、ギルドに所属しているだけで色々な国にほぼフリーパスで入れるのだから、その信頼を守るためにギルドがあの手この手で内部情報を守ろうとするのは当然と言えば当然なのかもしれない。
「まぁギルド職員ならそうか。それで? その新魔法がまったく通じなかったというグラドール家の御令嬢はやはり強かったのか?」
「もうヤバヤバな感じ。ほら、昔授業で騎士学校の生徒と合同模擬戦やったじゃん?」
「あったな。メルルの往復ビンタが炸裂したやつだろ」
「そう、それ。メルルの往復ビンタが炸裂したやつ」
メ、メルルさん。何したんだろ?
残り少なくなったコーヒーをチビチビ飲みながら、二人の会話に耳を澄ます。
「あの時はさ、騎士って言っても正直これぐらいなんだって思ったじゃん? 今回の模擬戦ではそんな甘い感想を粉々に吹き飛ばされちゃった感じであります」
何故か軍人さんみたいにビシッと敬礼してみせるアリリアナは、センカさんにも敬礼を返して欲しいのか、何度もしつこくビシッ、ビシッと決めている。
「身体能力のみを極めた魔法使い。グラドール家はその中の代表格だからな」
センカさん、完全にスルーだ。そのせいでって言うのもアレだけど、矛先がこっちに向いちゃった。
ビシッ、ビシッ。
「え、えっと……」
ビシッ、ビシッ。
ちょっと恥ずかしいけど、無視をするのも可哀想だし敬礼を返す。アリリアナは満足したのか、満面の笑みを浮かべた。
「グラドール家が凄いのは分かってたんだけどさ、もう少し勝負になる感じだと思ったんだよねぇ」
口調だけは悔しそうにそう言って、アリリアナは湯気の昇るカップに口を付けた。
確かにアリリアナはイリーナさんに圧倒されてたけど、あれはまだ不慣れな糸の魔法にこだわりすぎてただけであって、普段通り戦えばもっと善戦してたと思う。勝敗よりもやりたいスタイルにこだわるのはアリリアナらしいけど。
「そうか。しかしそれなら馬車は残念だったな」
「へ? 何で?」
「なんでも何もお互い好みの違う馬車のどちらを購入するかで勝負したんだろう? それともどちらでも良かったのか?」
「ああ、そういうこと。それなら勘違いよ。ねっ、ドロシー」
「うん。そう……だね」
「勘違い? 何がだ?」
こっちを向いた切れ長な視線が問うてくる。だから私はセンカさんに先日の勝負の結果を伝えることにした。
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