婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
76 / 149
連載

122 それぞれの家庭

しおりを挟む
「それじゃあ眠気もとれてきたし、そろそろ馬車の購入に行こっか」

 朝から甘いものを堪能した私達は、アリリアナのその一言で喫茶店『キャット』を後にした。

「それで、アリリアナ希望の馬車はいくらするんだ?」

 魔車屋までの道すがらセンカさんが思い出したように聞いてくる。

「う~ん。それがね……う~ん」

 あれ? ひょっとしてアリリアナ、馬車の値段忘れちゃったのかな?

「何を悩んでいるんだ?」
「いや、糖分が補充された頭で考えてみたら、やっぱイリーナの言ってた馬車でも良い気がしてきて」
「えっ!?」

 ここに来て変更するつもりなのかな? まだ代金を支払う前だから大丈夫だとは思うけど……。

「お前な、安い買い物じゃないんだぞ。そんな調子で大丈夫なのか?」
「いや、そうなんだけどさ。イリーナが指摘していた点ももっともだと思って。やっぱ私の欲しい馬車って大きすぎかな? いや、でも快適さは必須だし」
「何事も即決するお前がそこまで悩むのは珍しいな」
「私だけの問題じゃないしね。そう言うわけでごめんドロシー。ひょっとしたら今日買わない可能性あるかも」
「私は別に構わないけど、マジックブルーのアサガオはどうするの? 確か期間申請三週間だったよね?」

 アリリアナが依頼を納品して、すでに数日経過している。エルフの里に行って花を積んでくるだけだから、まだまだ余裕はあるんだけど、このまま移動手段が決まらないのはちょっと問題かも。

「だーいじょうぶ。大丈夫。試運転として今回の依頼で馬車使っておきたかったけど、いざとなったらシロと黒帝王に乗って依頼の品を取りに行こ。どうせ大した距離じゃないんだし」

 確かにシャドーデビルなんて例外的な存在と遭遇した後でなければ、エルフの里まで魔法を使って走って行くことを検討してたと思う。

「シロと黒帝王? ……ああ、アリリアナがメデオ先生に家を売り払って買った馬か」
「えっ!? アリリアナが家を売った相手ってメルルさんのお父様だったの?」

 よくあの短時間で売れたなって思ってたら、思いっきり知り合いに売ってたんだ。

 それにしてもメデオ先生か。何度かあったことあるけど、メルルさんと同じで優しそうな面差し……何だけど、怒らせると怖そうな雰囲気の人だったな。

「いや~。流石はメデオ先生な感じよね。何も聞かずに言い値の三倍の金額だしてくれたし」
「三倍? それは……すごいね」
「メデオ先生のことだ。アリリアナの様子から大方の事情を察したのだろう」
「二人はメデオ先生と親しいけど、やっぱりメルルさんの友達だから?」

 私もメルルさんの友達なのに、メデオ先生とは世間話をする程度。もっと積極的に話しかけた方がいいのかな?

「それもあるが、先生と私達の親が友人でな。その縁でメデオ先生には昔から良くしてもらってる。私が魔法学校に通えたのも先生のお力が大きい」
「え? それって……」

 どういうことなんだろ? 気になる。気になるけど、聞いていいことなのかな? 

 アリリアナが肩をすくめた。

「センカはお父さんの残したお金があるんだから、学校にいけないことはなかった感じじゃない?」
「今ならともかく、当時の私にあのお金をきちんと管理できたとは思えん。母もその手のことが上手くないしな。やはり先生のお陰だ」
「センカさんのご両親って……」
「母は子供相手に護身術を教えている。父は王国兵士で昔小さな村を襲った魔物と戦って、それで……」
「あっ、ご、ごめんね? 変なこと聞いて」
「いや、構わない。もう何年も前のことだし、魔物が跋扈するこの世界では特に珍しい話でもないしな。それにこうして父と同じ仕事にもつけた。これからは父の代わりに私が国を守る一助になるつもりだ」

 そう語るセンカさんは眩しくて、お化粧とか関係なく、すっごく綺麗だった。

「……お父様のこと、尊敬してるんだね」
「幼い私からみても愚直過ぎる人ではあったが、それでも私の父親だからな。いや、親子関係など家庭によって様々だろうがな」
「うん。そう、だね」

 最後の言葉はきっと私に気を遣ってくれたんだ。……どうしよう。センカさんと話してると何だかお父様の顔を見たくなっちゃった。でも会ったら会ったで喧嘩になりそうだし。そもそも今まで散々アリアと比べて出来損ないだ何だと言っておいて、S指定の魔物を倒した途端に手のひら返すなんて父親としてどうなの?

 あの時のお父様の顔を思い出すとすっごくムカムカする。するのにーー

 それでこそ私の娘だ。

 油断するとあの日言われた言葉を何度も反芻してる私がいる。……お父様にあんな風に褒められたの、いつ以来だろ?

「何かさぁ、空気重くない? なんでこんな話になってるわけ?」
「え? なんでって……」

 あれ? そういえば何の話してたんだっけ?

「確かアリリアナがメデオ先生に家を売った話がきっかけだったか。そもそも勝手に売ってよかったのか?」
「友達のピンチだったんたし、全然オッケーでしょ。それにママからはあの家は好きにして良いって言ってもらってるし」
「お前のその行動力は本当に凄いと思うよ」
「えっと、アリリアナのご両親は?」

 というか、アリリアナってお母様のことママっていうんだ。ちょっと意外かも。

「私? 私のところはママが魔物の生態調査を生業にした研究者で、父親はいない感じ。あっ、死んだとかじゃなくて、初めから結婚しなかった感じね」
「そ、そうなんだ。……あれ? でも家を売ったならお母様は今どこで生活されてるの?」
「ママは仕事の都合で殆ど家に帰らないの。だから会えるのは年に数回くらいかな?」
「数回って……それはアリリアナが卒業してからの話だよね?」
「え? いや、私が十歳くらいの頃からそんな感じだけど?」
「ええっ!?」

 お父様がいないんだよね? なのにお母様とは年に数回しか会えない? メイドさんとかいたのかな? でもアリリアナの家は平民だし。もしも誰もいない家に十歳の子供を一人で生活させてたなら、それってーー

「友人のご家族を悪く言いたくないが、私はユーリリナさんの子育てについては正直腹に据えかねるところがある」
「ユーリリナ!? って、ギルドと教会から公式研究者として認定されてる?」

 大陸に大きな影響を与える教会とギルド。二者はそれぞれ研究者に公式研究者という肩書きを与えることで、現代の基準となる知識を大陸に広めている。つまり公式研究者に選ばれるということは、この大陸の『知』の基準になるということだ。

「一応はそのユーリリナな感じ。ママは確かに放任主義だけど、あれで良いところもあってリトルデビル事件の後も私の顔を見に来てくれたんだよ。まぁ無事を確かめたら三時間くらいで帰ったけど」
「三時間って……」

 年に数回しか会えないのに? お父様も親として相当アレだったけど、アリリアナのお母様も方向性が違うだけで結構な問題がある気がする。それなのに……何だろ? この気持ちは。共感? それとも安堵? 当たり前だけど、家族のことで悩んでるのは私だけじゃないんだよね。

「ってか、話題変えない? 空気重いし、丁度魔車屋が直ぐそこな感じだし」
「そうだな。では候補の馬車を見させてもらった上で、王国兵士としての視点から意見させてもらうとするか」
「おっ、頼もしい感じじゃん。ドロシーも気付いたことあったら言ってよね」
「う、うん。任せて」

 私達は親の話題なんてなかったかのように話題を替えて、魔車屋へと入店した。

「すみませーん。予約してたアリリアナ組のものですけど」

 よく通るアリリアナの声。それに引っ張られて店の奥から店主さんがやってきた……んだけども、どうしたんだろ? 店主さん、やけに機嫌が良さそう。

「ああ、アリリアナ様、それにドロテア様。お待ちしておりました」

 あれ? この間来た時、ドロテアだって名乗ったっけ? 対応はアリリアナとイリーナさんがしてたし、どちらかが言ったのかな? そらともまさか、この人も伝達絵巻読んだとか?

「予約してた馬車なんですけどーー」
「それなら代金は既に頂いております。馬車を納品する場所を教えて頂ければ、直ぐにでもお運びしますよ」
「「「え?」」」
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。