婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
85 / 149
連載

131 納得

しおりを挟む
 納得いかない。いや、理屈は分かる。相手の言い分の方が正しく、感情的になってるのは俺の方だという自覚もある。だがそれでもーー

「何で俺を連れてかないんだよ」

 昨日、俺以外のクランメンバーが偶々街で出会ったらしく、クエストに付いての打ち合わせが行われた。そのこと自体は構わない。ただ一点、俺を勝手に外したことを除けば。

「……やっぱ頼りにされてないのか?」

 エルフの里に行くにはシャドーデビルが出た危険地帯を通る必要がある。前回の事件の後、当然ながら国とギルド双方が森を調べた。だから国家を脅かす魔物があの森にまだ潜んでいる可能性は限りなく低い。だが決してゼロじゃない。

 そんな場所に行くというのにドロシーさんは今回のクエスト、俺は来なくて良いと言う。学校の勉強頑張れと。

「駄目だ。全然頭に入らねー」

 溜息をつくと、開いていた本を閉じた。気付けば早朝の静けさに包まれていた教室は、すっかりと喧騒という産声を上げている。

「ようレオ。怖い顔してどうした? ってか、何を読んでるんだ?」

 締まりのないヘラヘラとした笑みに合わせて男にしては長い金髪が揺れている。クルスは俺の本を手に取った。

「呪痕の専門書? 医療第二種の勉強か?」
「そっちとは別だ」
「熱心だねぇ。そんな熱心だと疲れるだろう。どうだ? 息抜きにいかないか?」
「息抜き?」

 何かいいことでもあったのか、クルスは嬉しそうに俺の肩に腕を回してくる。

「今日、久しぶりに登校してるらしいぜ」
「誰がだよ?」
「おいおい。我が友は察しが悪いな。アリア•ドロテア様に決まってるだろ」

 神秘的な雰囲気を身に纏った美少女の姿が脳裏に浮かんだ。

「俺も遠目にちょっと見れたけど、やっぱ雰囲気がヤベーわ。光ってないのに全身から魔力光が見える感じ。あ~、お近づきになれねーかな」
「……親しくなりたいなら話しかければいいだろう」
「いや、相手はドロテア家の御令嬢だぞ? 長女のドロシー様が次期王妃な上、父親であるジオルド様はこの国初となる超法規的な権限を持った特殊部隊の長。それでなくてもドロテア家は有名だってのに、もう完全に天上人。気軽に挨拶なんて出来ねーから」
「次期王妃って……ドロシーさんと王子の婚約は破棄になっただろ」
「はぁ? それ、どこ情報?」
「どこって……」

 本人が言ってた。とは言わない方がいいか? デリケートな問題だし。……うん。言わない方がいいな。

 黙ってるとクルスの奴が肩をすくめた。

「確かにドロシー様は現在冒険者として活動されてるみたいだが、ゲルド王子との婚約がどうなったかは公表されてないだろ。まっ、冒険者になったドロシー様の代わりにアリア様と婚約したって噂もあるけどな。くっそー、あの無能王子が俺のアリア様と。マジで許せん」
「お前のじゃないだろ。それよりもあんなんでも一応王子だぞ。こんな所でそんなこと言うなよ」

 あのバカ王子を庇うつもりはまったくないが、それでも相手はこの国の王子なのだ。この学校には貴族の子供が多くいる、どんな経路で誰に伝わるか分かったもんじゃない。

「大丈夫だって、むしろ今は王子を庇うようなことを言う方が貴族の間じゃまずいからな」
「そうなのか?」
「ああ。反王族派でも出来るんじゃないかって勢いだ」
「マジか。あの王子の評判が壊滅的なのは知ってたが……いや、あんな事件を起こしたら当然か」

 誰もが再生魔法の恩恵に預かれるわけじゃない。リトルデビルにやられ、一命は取り留めたものの、日常に支障をきたす大怪我を負い途方に暮れている人達がうちの病院には多くいる。

 親父やお袋はそんな人達を助けようと頑張っているが、金銭的な事情を初め、対象となる患者の多さ、体力の限界、思うようにいかない現実に最近はどちらもピリピリしてる。

 うん。やっぱあのバカ王子がどうなろうが知ったことじゃないな。

「あ~。それもあるが、やっぱ前から言われていたことが今回の件で表面化したことが大きいな」
「前から? 何のことだよ」
「最近魔物の動きがヤバいことは知ってるだろ?」
「ああ」

 魔物被害の多発化。勉強や授業で忙しい俺でも勝手に耳に入ってくる。

「今までも危険な魔物が出現したって程度の問題ならあったが、今回の魔物被害の多発化は近年例を見ないレベルだ。すぐ収まるって言う楽観的な奴もいるにはいるが、多くの人はそう思っていない」
「まぁ、原因もわかってないのに、いきなりピタリと止まるっていうのはちょっとないかもな」
「だろ? 大抵の場合ここまで騒がれるようになった魔物被害はその魔物を討伐しなければ終わらない。でも今回の場合は大陸全土を巻き込んでるんだぜ? 楽観しろってほうが無理だろ」
「大陸全土とか……。黄昏伝達のような会社が面白半分で言ってるだけだろ」
「いや、教会が似たようなデーターを公表した」

 教会。ギルドよりもずっと前から人類の為に活動し続けてきた組織。そこの情報を疑う者はいない。

「それは……そうか。でもそれとバカ王子の件に何の関係があるんだよ?」
「だからさ。こんな時代だと自分らのトップには敏感になるだろって話。間違っても自分の名声欲しさに部下を死地に送るような奴に命令されたくないわけだ」
「まぁ、そりゃな」

 誰だってそうだろう。俺だってそうだ。

「言いたいことはわかるが相手は王子だぞ。無能だからはいどいくれと言うわけにはいかないだろう」
「だからこそ、今ドロテア姉妹に注目が集まってるんだよ」
「は? それって……」
「王になる男が馬鹿でも、王妃になる相手が優秀ならまだ希望はあるだろ? なんせ、姉妹のどちらもが十代の若さでS指定の魔物を単独撃破してるんだぜ? スゲーよな」

 アリアさんはともかくドロシーさんがS指定単独撃破したというのは誤解なのだが、そういうのを抜きにしても何だか面白くない話だ。

「勝手にそんなこと期待されたって二人とも困るだろ。それにどっちも王子と結婚しないかもしれないだろ」
「いやいや。王族としてもここでドロテア家を逃す手はないだろ。ん? 何だよその顔は。あっ、お前、もしかして……」
「何だよ?」 
「はは~ん。なるほどね。分かる。分かるぞ」

 クルスが肩を叩いてくる。別に痛くはないが、無性に腹が立つ顔をしている。なのにコイツときたら、その顔をグイッと近づけて来た。

「で? どっちなんだよ?」
「だから何がだよ」
「照れるなって。ドロテア姉妹のどっちかが気になるんだろ? 普通に考えればアリア様だが、意外とドロシー様の方か?」
「はっ!? な、何でそうなるんだよ?」

 ショートカットの黒髪を揺らして、微笑む彼女の顔が浮かんだ。

「その反応、ドロシー様の方か。いや、分かるぜ? ここだけの話、在学中はドロシー様とアリア様が姉妹とか、まじで? って感じだったが、伝達絵巻に乗ってたドロシー様、普通に可愛かったよな。あれなら全然いける」
「いけるとか、変なこと言うなよな」
「いや、お前だって似たようなこと考えてるんだろ? なぁ、おい、言ってみろって」

 ニヤニヤと笑うクルス。ヤバイ。何だかコイツのことを思いっきりぶん殴りたくなってきた。

「うるせぇ。ったく。朝っぱらからお前は女の話しか出来ないのかよ」
「怒んなって。女っけのなかったお前が異性に興味を持って喜んでるんだからよ。だがまぁ、ドロテア姉妹は憧れ程度に留めておいた方がいいぜ? 治癒使いとしてのルネラード家は確かに権威ではあるが、貴族としては男爵。その点親父が伯爵である俺の方がまだチャンスが……チャンス……が?」
「今度は何だよ?」

 クルスの奴、得意げな顔でベラベラ喋ってると思ったら、いきなり黙り込んだ。

 ……いや、驚いてるのか? 何だ? 俺の後ろに何かーー

「レオ」

 その一言で教室の騒音がピタリと止んだ。この場にいる全ての者の感心を奪い去って、彼女はそこに立っていた。

「おはよう」
「アリア……さん?」
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。