婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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133 賭けごと

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「……なんでこんなに人が集まってるんだよ?」

 闘技場をグルリと囲んで設置されてる観客席は大勢の生徒で賑わっていた。

「そりゃお前、身代わり魔法を使った決闘なんて、魔法使いにとって最高の娯楽だろ」
「そうなのか?」
「ったく。何回か見学に誘ったろ。お前はいつも興味ないの一言だったがな」
「ああ、そう言えば……。だがそれにしたって人が多すぎないか?」

 決闘が行われる度に一部の生徒がお祭り騒ぎになっていたのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

「実戦形式で行われる魔法使いの勝負なんて普通に金が取れるレベルだぜ? 娯楽にもなって、更には勉強にもなる。見学しないなんて勿体ないだろ?」
「勉強。なるほど、そういう考え方もできるのか」

 今までは喧嘩騒ぎぐらいで何をはしゃいでいるのかと、冷めた気持ちで闘技場に群がる奴らを見ていたが、戦い方を学ぶようになった今は、クルスの言った勉強という単語に強い説得力を感じた。

「ってか、お前の方こそ何を考えてるんだよ。ポットの奴はガーロック大佐の息子だけあってかなり強いぜ? 戦闘関連の教科を受けてこなかったお前が勝てる相手じゃねぇ」
「なんだよ。俺の心配してくれるのか?」
「俺が男の心配なんてするわけないだろ。賭けが行われるからお前に秘策があるのかどうか聞いておきたかったんだよ」

 見れば観客席の一角に人が密集した地帯があった。

「貴族ってのは金持ってるくせに、何で賭け事が好きな奴が多いんだ?」
「は? んなの、楽しいからに決まってるだろ」
「……あっそ」

 国によっては学生が賭博行為を行うことを不法行為に定めているところもあると聞くが、遠目にも分かるあの異様な熱狂を見ているとそれも納得の話だ。

「で? どうなんだ? あれだけ無駄な争いをやる奴は馬鹿だと言ってたお前が決闘に応じたんだ。どうしても使いたくなるような、スゲー攻撃魔法でも覚えたのか?」
「ああ。最近『ファイヤーショット』の魔法を会得した」
「は? ファイヤーショット? マジで?」
「大マジで」
「そっか。そっか。なるほどな。よし、安心しろ。あの堅物の従者になるお前の為に今日は俺が美味い飯をご馳走してやるからな」

 俺の肩をバンバンと叩くとクルスは異様な熱気を放っている集団へと足を向けた。その背に声をかける。

「賭けで金をなくしても飯は奢れよな」
「ガーロックの従者風情が命令すんなよ。俺は伯爵様だぞ」
「お前の親父がだろ。頭の病気なら、うちで面倒みてやるぞ」
「負けちまえ、チビ助」
「有り金すって泣けよ、クソボンボン」

 互いに立てた指を見せ合っていると、横合いから結構本格的な殺気が飛んできた。

「アリア様を馴れ馴れしくもさん付けしただけではなく、クルス様に対してもその物言い。最早容赦はせんぞルネラード!! 分際というものを叩き込んでくれるわ」

 ビリビリと空気を振るわせる怒気。魔力を込めて放たれたそれは闘技場全体に響き渡り、観客席でお祭り気分だった生徒達はーー

「おいおい。ポットの奴、スゲーやる気だぞ」
「ポット様、無礼なルネラードに制裁を」
「レオくーん。頑張って~!!」

 凄い盛り上がっていた。それにしてもガーロック大佐の息子であるポットはともかく、俺を応援してくれてる奴もいるのか。見ればポットは軍服を脱ぎ捨てて、筋肉で膨れ上がった体を客席にアピールしている。生真面目なやつかと思ったが、中々どうして大衆の心をうまく掴む。さすがはガーロック大佐の息子だ。俺も少し奴を見習って観客に手でも振ってみよう。

「きゃ~!! 可愛い!!」
「……そっちかよ」

 どうして俺を応援しているのかと思ったら。『クリスタル』で買った薬を毎日ちゃんと飲んでるのに。早く身長伸びてくれないかな。

 溜息を吐いて俺が闘技場に施された魔法陣の中に入れば、ポットの奴が訝しむような顔をした。

「何だよ?」
「貴様、まさか素手でやるつもりか?」
「問題あるか?」
「大ありだ。なんのハンデもなく、貴様がこの俺の相手になると思っているのか。貴様は好きな武器と魔法を使え。俺は身体強化以外の魔法は一切使わん」
「ハンデならいらない。それじゃあ意味がないからな」
「意味だと?」
「ああ、個人的にちょっと確認したいことがある。ちょうど良いからこの機会に確かめさせてくれよ。俺が、戦いの天才なのかどうかを」

「おおっー!!」とか「きゃああ!!」とか、観客席から声が上がる。別に盛り上げるための演出で言ったわけじゃないんだが……まぁいいか。

「つくづく度し難い。素人と喧嘩して圧勝でもしたか? ならば教えてやろう。強者とは常に研鑽の果てに生まれるものであり、子供の喧嘩にいくら勝とうが、それを強さとは呼ばないということを」

 魔力を燃料に、ポットの筋肉がいっそうムキムキになる。いよいよ始まる戦いを前に観客席のボルテージも高まりーーそれが一瞬で凍りついた。

 騒音からの静寂。確か今朝にも似たようなことがあったような? ……あっ、やっぱりか。

 観客席の人混みが割れていく。その中を当然のような顔で歩く美少女。二人の友人と共に席についた彼女はこちらに視線を向けると、無表情のままヒラヒラと手を振った。

「……アリアさん」

 観客席のそこいらから今までとは全く異なる負の視線を感じるが、それを理由に無視するのも悪いので手を振り返す。

「貴様ぁあああ!! 何を笑顔で手を振り返しているか! そういう時は黙って首を垂れるのだ。片膝をつけばなおよし。分かったら早くせんか、愚か者!!」
「別に笑顔ではないだろ。つーか、俺はまだお前の従者じゃないぞ」
「今ゴングが鳴ったぞ! ルネラードォオオオオ!!」

 怒りで膨張する筋肉。肉の要塞と化したポットが突っ込んできた。
 
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