婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
87 / 149
連載

133 賭けごと

しおりを挟む
「……なんでこんなに人が集まってるんだよ?」

 闘技場をグルリと囲んで設置されてる観客席は大勢の生徒で賑わっていた。

「そりゃお前、身代わり魔法を使った決闘なんて、魔法使いにとって最高の娯楽だろ」
「そうなのか?」
「ったく。何回か見学に誘ったろ。お前はいつも興味ないの一言だったがな」
「ああ、そう言えば……。だがそれにしたって人が多すぎないか?」

 決闘が行われる度に一部の生徒がお祭り騒ぎになっていたのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

「実戦形式で行われる魔法使いの勝負なんて普通に金が取れるレベルだぜ? 娯楽にもなって、更には勉強にもなる。見学しないなんて勿体ないだろ?」
「勉強。なるほど、そういう考え方もできるのか」

 今までは喧嘩騒ぎぐらいで何をはしゃいでいるのかと、冷めた気持ちで闘技場に群がる奴らを見ていたが、戦い方を学ぶようになった今は、クルスの言った勉強という単語に強い説得力を感じた。

「ってか、お前の方こそ何を考えてるんだよ。ポットの奴はガーロック大佐の息子だけあってかなり強いぜ? 戦闘関連の教科を受けてこなかったお前が勝てる相手じゃねぇ」
「なんだよ。俺の心配してくれるのか?」
「俺が男の心配なんてするわけないだろ。賭けが行われるからお前に秘策があるのかどうか聞いておきたかったんだよ」

 見れば観客席の一角に人が密集した地帯があった。

「貴族ってのは金持ってるくせに、何で賭け事が好きな奴が多いんだ?」
「は? んなの、楽しいからに決まってるだろ」
「……あっそ」

 国によっては学生が賭博行為を行うことを不法行為に定めているところもあると聞くが、遠目にも分かるあの異様な熱狂を見ているとそれも納得の話だ。

「で? どうなんだ? あれだけ無駄な争いをやる奴は馬鹿だと言ってたお前が決闘に応じたんだ。どうしても使いたくなるような、スゲー攻撃魔法でも覚えたのか?」
「ああ。最近『ファイヤーショット』の魔法を会得した」
「は? ファイヤーショット? マジで?」
「大マジで」
「そっか。そっか。なるほどな。よし、安心しろ。あの堅物の従者になるお前の為に今日は俺が美味い飯をご馳走してやるからな」

 俺の肩をバンバンと叩くとクルスは異様な熱気を放っている集団へと足を向けた。その背に声をかける。

「賭けで金をなくしても飯は奢れよな」
「ガーロックの従者風情が命令すんなよ。俺は伯爵様だぞ」
「お前の親父がだろ。頭の病気なら、うちで面倒みてやるぞ」
「負けちまえ、チビ助」
「有り金すって泣けよ、クソボンボン」

 互いに立てた指を見せ合っていると、横合いから結構本格的な殺気が飛んできた。

「アリア様を馴れ馴れしくもさん付けしただけではなく、クルス様に対してもその物言い。最早容赦はせんぞルネラード!! 分際というものを叩き込んでくれるわ」

 ビリビリと空気を振るわせる怒気。魔力を込めて放たれたそれは闘技場全体に響き渡り、観客席でお祭り気分だった生徒達はーー

「おいおい。ポットの奴、スゲーやる気だぞ」
「ポット様、無礼なルネラードに制裁を」
「レオくーん。頑張って~!!」

 凄い盛り上がっていた。それにしてもガーロック大佐の息子であるポットはともかく、俺を応援してくれてる奴もいるのか。見ればポットは軍服を脱ぎ捨てて、筋肉で膨れ上がった体を客席にアピールしている。生真面目なやつかと思ったが、中々どうして大衆の心をうまく掴む。さすがはガーロック大佐の息子だ。俺も少し奴を見習って観客に手でも振ってみよう。

「きゃ~!! 可愛い!!」
「……そっちかよ」

 どうして俺を応援しているのかと思ったら。『クリスタル』で買った薬を毎日ちゃんと飲んでるのに。早く身長伸びてくれないかな。

 溜息を吐いて俺が闘技場に施された魔法陣の中に入れば、ポットの奴が訝しむような顔をした。

「何だよ?」
「貴様、まさか素手でやるつもりか?」
「問題あるか?」
「大ありだ。なんのハンデもなく、貴様がこの俺の相手になると思っているのか。貴様は好きな武器と魔法を使え。俺は身体強化以外の魔法は一切使わん」
「ハンデならいらない。それじゃあ意味がないからな」
「意味だと?」
「ああ、個人的にちょっと確認したいことがある。ちょうど良いからこの機会に確かめさせてくれよ。俺が、戦いの天才なのかどうかを」

「おおっー!!」とか「きゃああ!!」とか、観客席から声が上がる。別に盛り上げるための演出で言ったわけじゃないんだが……まぁいいか。

「つくづく度し難い。素人と喧嘩して圧勝でもしたか? ならば教えてやろう。強者とは常に研鑽の果てに生まれるものであり、子供の喧嘩にいくら勝とうが、それを強さとは呼ばないということを」

 魔力を燃料に、ポットの筋肉がいっそうムキムキになる。いよいよ始まる戦いを前に観客席のボルテージも高まりーーそれが一瞬で凍りついた。

 騒音からの静寂。確か今朝にも似たようなことがあったような? ……あっ、やっぱりか。

 観客席の人混みが割れていく。その中を当然のような顔で歩く美少女。二人の友人と共に席についた彼女はこちらに視線を向けると、無表情のままヒラヒラと手を振った。

「……アリアさん」

 観客席のそこいらから今までとは全く異なる負の視線を感じるが、それを理由に無視するのも悪いので手を振り返す。

「貴様ぁあああ!! 何を笑顔で手を振り返しているか! そういう時は黙って首を垂れるのだ。片膝をつけばなおよし。分かったら早くせんか、愚か者!!」
「別に笑顔ではないだろ。つーか、俺はまだお前の従者じゃないぞ」
「今ゴングが鳴ったぞ! ルネラードォオオオオ!!」

 怒りで膨張する筋肉。肉の要塞と化したポットが突っ込んできた。
 
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。