婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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139 野営

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「いや~、そんな遠くに行くわけでもないのに、なんか意外と多くの人に見送ってもらったね」

 御者台で景色を眺めながら手綱を握っていると、御者台と馬車内を行き来できる穴からアリリアナがひょっこりと顔を出した。

「あんな事件があった後だからね。皆心配してくれてるんだよ」
「だよね。実を言うと私も結構緊張してたり」
「アリリアナが? ちょっと意外かも」
「え~? 私だってうら若き乙女なんですけど?」

 馬車から完全に出てきたアリリアナが隣に腰掛ける。

「一時間交代なんだから休んでていいよ?」
「そうなんだけどさ、疲れてる訳じゃないのに休憩するのもなんか暇じゃん? せっかくの旅なんだし、もっとこう皆でワイワイやりたい感じ」

 イリーナさん達三人は黒帝王が引くもう一台の馬車の方にいるので、こっちの馬車は私とアリリアナだけ。そして私が御者台にいるので、必然馬車の中はアリリアナだけになってしまう。

「あ~あ。早くクランのメンバー増えないかな」

 私の肩に身を寄せてきたアリリアナの頭が乗っかった。

「アリリアナはクランをどれくらいの規模にしたいの?」
「ん~。前も言ったけど、小規模で気楽なのもいいけどメンバーに何かあった時にフォローしあえる中規模くらいにはしておきたいかな。だから最低でも十人以上……できれば十三人くらいは欲しいかも」
「……そのメンバーの中にはレオ君も入ってる?」
「ん? ああ、最近メルルと一緒になってレオっち冒険者反対運動みたいなのやってるんだっけ?」
「そう言うわけじゃないけど……アリリアナはレオ君が冒険者になった方がいいと思う?」
「私としてはレオっちが入ってくれると嬉しいけど、結局どの道を選ぶかは本人の自由じゃん? 外野があまり口を出すもんじゃなくない?」
「外野って、確かにそうかもしれないけど」

 姉であるメルルさんはともかく、友達でしかない私はどこまで口を出していいんだろ?

「いやいや、外野ってのは私のことで、メルルは勿論、ドロシーだってその気になれば身内になれるでしょ」
「え? それって……」
「そうです。結婚です。それが無理ならひとまず婚約だけでもしておけば?」
「ええっ!? そんな簡単に」
「まぁ難しい問題かもしれないけど、真面目な話、私らもう結婚してても全然おかしくない歳だし。レオっちだって似た様なものじゃん? ひとまず婚約者の地位をゲットしておいて、後のことはそれから考えればいいんじゃないかな?」
「いや、でもレオ君の気持ちもあるし……」

 あれ? なら私の気持ちはどうなんだろ? 私は結局レオ君とどうなりたいんだろ?

 考えてみる。考えてみるけど……あ~、もう。全然分からない。どうして恋愛にはマニュアルがないの? あったら絶対に購入するのに。

「なら、聞いてみればいいんじゃない? 色々考えるのはドロシーの長所だと思うけど、恋愛なんて頭でやるものでもないし、レオっちのことを少しでも異性として意識してるなら、とりあえずアタックしとけば?」
「そんな簡単でいいのかな?」
「全然オッケーでしょ。花の寿命は短いって言うし、あまり考えすぎると気づいた時にはお婆ちゃんになってるぞ」 
「花の寿命って……言うかな?」
「言う。言う。超言っちゃう」

 そう言って彼女は私の肩に乗せた頭を動かした。私は馬車が揺れている間中、猫みたいに気まぐれな友人の言葉を反芻し続けた。




「よし。それじゃあ今日はここらでキャンプする感じで」

 前回シャドーデビルに遭遇した危険地帯を慎重に通り抜け、今はエルフの里へと続く山の中。日が暮れ始めたこともあり、私達は里に着く前に予定通り一泊することにした。

「了解ですわ。立地的に馬車は並べてあそこに配置するのが良さそうですわね」
「通行の邪魔にならないかな?」

 馬車が通れる最低限舗装された道を通ってきたから、他にも人が通らないとは限らない。

「時期と時間を考えるとここを人が通る可能性は少ないでしょう。それにこれだけスペースがあれば普通の馬車なら通り抜けるのは可能かと」
「後は今からここでキャンプしようとする人達が来た場合、その人達が面倒な人種だった場合にどうするかですわね」

 ロロルドさんとイリーナさんの言葉を聞いて、アリリアナは自分の頰に指を当てた。

「絶対ここにいなきゃいけないわけでもないし。問題ありそうな人たちが来た場合はトラブルになる前にエルフの里に出発しちゃう感じで行かない?」
「そうですわね。ギルドに所属している身として人間相手の騒動はできれば避けたいところですし」

 そんなこんなで野営が決まった。正直疲労がない状態なら魔力で肉体を最善の状態に保てるので、一日くらいの野宿なら特に何をする必要もないんだけど、長距離の移動を想定して現地での食糧調達と薪集めを行うことになった。

「なんだか魔法学校の野外授業を思い出さない?」
「あっ、分かるかも」

 アリリアナと一緒に森に入って薪を集める。学校の授業では一人黙々と手を動かし続けた退屈な時間も、友達と一緒だと浮き立つような感覚を覚えるから不思議だ。

「でもさぁ、自分で提案しておいてなんだけど、薪集めはともかく食料の確保は難しそうな感じよね」
「うん。それにもう暗くなってきてるし。無理はせずに一通り見て回ったらーー」

 シクシク。シクシク。

 ふっ、と足から力が抜けて膝が落ちそうになる。心臓が今にも爆発せんばかりの早鐘を打つ。

「何? 子供の泣き声? って、ドロシー、どうしたし?」
「な、何が?」
「いや、顔が真っ青な感じなんですけど。体調悪い?」
「わ、分からない。分からないけど……」

 この声を聞いていると、どうしてだかーー

 シクシク。シクシク。

「ひっ!?」
「ちょ、とりあえず三人の所に戻ろ」
「で、でも。子供が……これって子供の声だよね?」
「いや、こんな時間にこんな所で子供の泣き声が聞こえること自体おかしいし。ここは自分らの安全優先で……って、こっちに来た感じ?」

 アリリアナがグローブをはめながら、私を庇うように前に出る。木陰のせいでこちらに近づいて来る者の姿はまだ見えないけど、子供の泣き声と思わしき音はどんどん大きくなる。

「来る。ドロシー?」
「だ、大丈夫。ちゃんと動けるから」

 どうしてこの声を聞いているとこんなにも不安な気持ちになるんだろう? でも何がきたって私の友達に酷いことはさせないんだから。

 その決意で全身の震えを払う。私はオオルバさんにもらったロッドを取り出した。

 そして、血のような夕日が零す影から姿を現したのはーー
 
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