94 / 149
連載
140 デジャヴ
しおりを挟む
先っぽがツンと尖った耳。幼いながらも将来を約束された顔立ちは、アリアのような例外を除けば、ただの人間には持ち得ない特性だ。
木々が作る影から完全に姿を現した少女の、涙に濡れた翠色の瞳が私達を捉える。
「エルフの……子供?」
「ひっく。ひっく。お、お姉ちゃん達、誰?」
思わず私とアリリアナは顔を見合わせた。
「……えっと、かなり予想外な展開なんだけど。どうする?」
「どうするって……ど、どうしようか?」
てっきり、何か恐ろしい怪物が出てくると思い身構えていたのに、まさか現れたのがこんな小さな女の子だなんて。でもこの子、なんでこんな所にいるんだろ?
「ねぇ、君のお父さんとお母さんは? どうしてこんな所に一人でいるのかな?」
「分からない。分からないの。ママ、パパ。どこ、何処なのぉ~?」
「……迷子? ならやっぱりエルフの里の子かな?」
「その可能性は高い感じだけど、実は魔物が化けてるのかもよ」
アリリアナは冗談っぽく言ったけど、実際あり得ない話じゃない。私達の会話を聞いた子供がビクリと肩を震わせ、周囲を不安そうに見回した。
「魔物? 魔物がいるの? やだよ。怖いよ。ねぇ、お姉ちゃん。私のママとパパは? どこ? ヒック、ヒック……ど、どこなのぉ~?」
「あ~。泣かなくて良い感じだからね。魔物はここにはいないから。いたとしてもお姉ちゃんたちがやっつけちゃうんだから」
「待って。アリリアナ」
私は子供に近づこうとするアリリアナを慌てて止めた。そして子供に聞こえないよう、友人の耳に口を寄せる。
「魔物だったらどうするの。先に魔法で調べようよ」
「アハハ。そうだよね。自分で言ったことなのに。やっぱり容姿の魔力って大きいわ」
「気持ちは分かるけど……」
私だって気を付けていないと、相手は子供だから大丈夫という気持ちになっちゃう。
「よし。それじゃあ、チャチャッと調べますか。君、悪いけどちょっとの間動かないでね」
そうして私とアリリアナはエルフの少女にいくつかの魔法をかけた。
「どれも反応なし。ドロシーは?」
「私も同じ」
「じゃあ、この子は魔物じゃない感じ?」
「……多分。私達の魔法じゃ見破れないくらい高位の魔物でなければだけど」
「もしもそうだった場合、私達、超ヤバくない?」
「う、うん。でもそんな高位の魔物、会おうと思って会えるものじゃないし」
でも近頃の世界情勢を考えると絶対にないとは断言できなかった。アリリアナも珍しくどうしようか決めかねている様子だ。何か一つ、この子を保護する決め手となるものがあればいいんだけど。
「あっ、そうだ。ならさ。あれ使わない?」
「あれって?」
「聖水。せっかく貰ったんだし。使わない手はないっしょ」
聖水は魔物に対して絶大な効果を発揮するけど、人間に対しては無害だ。その為、魔物の偽装を見破る手段として用いられることもある。
「そうだね。えっとそれじゃあ……ねぇ、君の名前はなんていうのかな?」
「ヒック、ヒック。……ラー」
「ラーちゃんね。あのね、ラーちゃん。悪いけど、これを飲んでくれないかな? そしてらお姉ちゃん達がラーちゃんのパパとママを探してあげるから」
「ほ、本当?」
「うん。本当だよ」
「なんかここだけ見ると、私達人攫いみたいじゃない?」
「シー。黙ってて」
私が唇に指を当てると、アリリアナは了解とばかりに頷いた。少女は受け取った聖水をジッと見つめる。
「これ、なんなの?」
「お水だよ。喉乾いたでしょ?」
子供に嘘つくのってちょっと心苦しいけど、この子がただのエルフなら本当にただの水だし、何よりもアリリアナ達に何かあってからでは遅いから、ここは我慢しなきゃ。
ラーと名乗ったエルフの女の子は私とアリリアナを涙で濡れた瞳で交互に見つめる。
「さぁ。グイッと、グイッと行っちゃって」
「アリリアナ、急かさないの」
私は女の子を警戒させないよう笑顔を作りつつ、仮に魔物が正体を表した時の為にロッドへ魔力を流す。この間合いだと詠唱魔法は間に合わない。もしも彼女が魔物だった場合、とにかく速度を優先した魔法で迎撃して、一旦距離を取ろう。
段々と心臓の自己主張が激しくなってくる。そしてーー
「こ、これでいい?」
女の子は聖水を飲み干した。私とアリリアナはホッと息を吐いた。
「オッケー。ごめんね、お姉ちゃん達、ちょっと神経質になってたみたい」
アリリアナが少女の頭を撫でる。
「お水おいしかった感じ?」
「……あんまり」
「アハハ。そっか、なら馬車にケーキがあるから、それ食べる?」
「ケーキ?」
「そう、とっても甘いケーキ。食べたいでしょ?」
コクン。と頷くエルフの子供。
「アリリアナ、ケーキなんて持ってきてたんだ」
そんな保存に向かなそうなもの、どこにしまってるんだろ?
「軽いサプライズのつもりだったんだけど、まぁ、結果オーライな感じよね」
「オーライ……なのかな? あっ、それはお姉ちゃんが片付けるよ」
私は少女の手から空になった瓶をーー
ズキン!
「いたっ!?」
「ドロシー? どうかした?」
「分からないけど、ちょっと頭痛が……」
なんだろ、この感じ。デジャヴ? 似たようなことが前にもあったような……。
思い出そうとすると、頭の痛みが加速した。
「ひとまず皆の所に戻るよ。歩けそう?」
「う、うん」
アリリアナが私と、そしてラーちゃんの腕を取って歩き出す。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
原因の分からない頭痛の最中、私を心配してくれる小さな女の子のその声に、どうしてだか応える気にはなれなかった。
木々が作る影から完全に姿を現した少女の、涙に濡れた翠色の瞳が私達を捉える。
「エルフの……子供?」
「ひっく。ひっく。お、お姉ちゃん達、誰?」
思わず私とアリリアナは顔を見合わせた。
「……えっと、かなり予想外な展開なんだけど。どうする?」
「どうするって……ど、どうしようか?」
てっきり、何か恐ろしい怪物が出てくると思い身構えていたのに、まさか現れたのがこんな小さな女の子だなんて。でもこの子、なんでこんな所にいるんだろ?
「ねぇ、君のお父さんとお母さんは? どうしてこんな所に一人でいるのかな?」
「分からない。分からないの。ママ、パパ。どこ、何処なのぉ~?」
「……迷子? ならやっぱりエルフの里の子かな?」
「その可能性は高い感じだけど、実は魔物が化けてるのかもよ」
アリリアナは冗談っぽく言ったけど、実際あり得ない話じゃない。私達の会話を聞いた子供がビクリと肩を震わせ、周囲を不安そうに見回した。
「魔物? 魔物がいるの? やだよ。怖いよ。ねぇ、お姉ちゃん。私のママとパパは? どこ? ヒック、ヒック……ど、どこなのぉ~?」
「あ~。泣かなくて良い感じだからね。魔物はここにはいないから。いたとしてもお姉ちゃんたちがやっつけちゃうんだから」
「待って。アリリアナ」
私は子供に近づこうとするアリリアナを慌てて止めた。そして子供に聞こえないよう、友人の耳に口を寄せる。
「魔物だったらどうするの。先に魔法で調べようよ」
「アハハ。そうだよね。自分で言ったことなのに。やっぱり容姿の魔力って大きいわ」
「気持ちは分かるけど……」
私だって気を付けていないと、相手は子供だから大丈夫という気持ちになっちゃう。
「よし。それじゃあ、チャチャッと調べますか。君、悪いけどちょっとの間動かないでね」
そうして私とアリリアナはエルフの少女にいくつかの魔法をかけた。
「どれも反応なし。ドロシーは?」
「私も同じ」
「じゃあ、この子は魔物じゃない感じ?」
「……多分。私達の魔法じゃ見破れないくらい高位の魔物でなければだけど」
「もしもそうだった場合、私達、超ヤバくない?」
「う、うん。でもそんな高位の魔物、会おうと思って会えるものじゃないし」
でも近頃の世界情勢を考えると絶対にないとは断言できなかった。アリリアナも珍しくどうしようか決めかねている様子だ。何か一つ、この子を保護する決め手となるものがあればいいんだけど。
「あっ、そうだ。ならさ。あれ使わない?」
「あれって?」
「聖水。せっかく貰ったんだし。使わない手はないっしょ」
聖水は魔物に対して絶大な効果を発揮するけど、人間に対しては無害だ。その為、魔物の偽装を見破る手段として用いられることもある。
「そうだね。えっとそれじゃあ……ねぇ、君の名前はなんていうのかな?」
「ヒック、ヒック。……ラー」
「ラーちゃんね。あのね、ラーちゃん。悪いけど、これを飲んでくれないかな? そしてらお姉ちゃん達がラーちゃんのパパとママを探してあげるから」
「ほ、本当?」
「うん。本当だよ」
「なんかここだけ見ると、私達人攫いみたいじゃない?」
「シー。黙ってて」
私が唇に指を当てると、アリリアナは了解とばかりに頷いた。少女は受け取った聖水をジッと見つめる。
「これ、なんなの?」
「お水だよ。喉乾いたでしょ?」
子供に嘘つくのってちょっと心苦しいけど、この子がただのエルフなら本当にただの水だし、何よりもアリリアナ達に何かあってからでは遅いから、ここは我慢しなきゃ。
ラーと名乗ったエルフの女の子は私とアリリアナを涙で濡れた瞳で交互に見つめる。
「さぁ。グイッと、グイッと行っちゃって」
「アリリアナ、急かさないの」
私は女の子を警戒させないよう笑顔を作りつつ、仮に魔物が正体を表した時の為にロッドへ魔力を流す。この間合いだと詠唱魔法は間に合わない。もしも彼女が魔物だった場合、とにかく速度を優先した魔法で迎撃して、一旦距離を取ろう。
段々と心臓の自己主張が激しくなってくる。そしてーー
「こ、これでいい?」
女の子は聖水を飲み干した。私とアリリアナはホッと息を吐いた。
「オッケー。ごめんね、お姉ちゃん達、ちょっと神経質になってたみたい」
アリリアナが少女の頭を撫でる。
「お水おいしかった感じ?」
「……あんまり」
「アハハ。そっか、なら馬車にケーキがあるから、それ食べる?」
「ケーキ?」
「そう、とっても甘いケーキ。食べたいでしょ?」
コクン。と頷くエルフの子供。
「アリリアナ、ケーキなんて持ってきてたんだ」
そんな保存に向かなそうなもの、どこにしまってるんだろ?
「軽いサプライズのつもりだったんだけど、まぁ、結果オーライな感じよね」
「オーライ……なのかな? あっ、それはお姉ちゃんが片付けるよ」
私は少女の手から空になった瓶をーー
ズキン!
「いたっ!?」
「ドロシー? どうかした?」
「分からないけど、ちょっと頭痛が……」
なんだろ、この感じ。デジャヴ? 似たようなことが前にもあったような……。
思い出そうとすると、頭の痛みが加速した。
「ひとまず皆の所に戻るよ。歩けそう?」
「う、うん」
アリリアナが私と、そしてラーちゃんの腕を取って歩き出す。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
原因の分からない頭痛の最中、私を心配してくれる小さな女の子のその声に、どうしてだか応える気にはなれなかった。
0
あなたにおすすめの小説
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。