婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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141 連絡

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「それじゃあ、貴方はポポルシェ王国の近くに住んでいたエルフの里の者で、突然里が滅ぼされたと、そういうわけですのね?」

 焚き火を皆で囲みながら、イリーナさんがラーちゃんに問いかける。その声にはできるだけ優しくしようという配慮と一緒に隠しきれない動揺があった。

「うん。あのね、すっごい怖い魔物がね、突然現れてね。それで、それで……ヒック、ヒック……パ、パパとママが」
「怖かったですわね。もう大丈夫ですわ」

 イリーナさんは泣き出すラーちゃんを優しく抱きしめた。

「お嬢様、今すぐギルドに連絡するべきです。向こうはすでに情報を掴んでいるかもしれませんが、これ程の一大事。我々には報告の義務があるかと」

 ポポルシェ王国は私達がいるフェアリーラ王国から山を三つほど挟んだ場所にある国で、小国ではあれど千年以上の歴史を持つ国だ。この弱肉強食の世界で小国であるポポルシェ王国が長い歴史を誇れたのも、エルフの加護があったからこそ。国の守護者ともいうべきその里が滅んだ。同じ人類としては勿論のこと、彼の国から大量の麦を輸入していたフェアリーラ王国の衝撃は計り知れない。

「そうですわね。アリリアナさん、お任せしても?」
「オッケー。じゃあ、ちょっと連絡して来るから」

 軽く手を振ってアリリアナが炎から離れていく。ここから王国まで結構な距離があるけど、アリリアナがアマギさんにもらった遠距離通信用の魔法文字なら連絡が可能だ。

「ふむ。撤退も視野に入れたいところですが、ここからならエルフの里の方が近いですな」

 森の中でも変わらない執事服姿のロロルドさん。彼の言葉にイリーナさんがうんざりしたような顔で相槌を打った。

「ええ。それにしても魔物達は一体どうしたというんですの? 今年に入ってからの暴れっぷり、まさか人類に最終戦争でも仕掛けるつもりじゃありませんわよね」
「冗談に聞こえないところが恐ろしいですな。それにしてもエルフの里を滅ぼすとは。単体の魔物による突発的な襲撃とは思えません。裏に相当強い力と知恵を持つ魔物でも潜んでいるのでしょうか」
「そいつが今大陸を騒がしている元凶? いえ、情報がなさすぎて妄想の域を出ませんわね」
「可能性として、頭の隅に留めておくべきかと」
「それはもちろんですわ。それにしても……ドロシーさん? それにドルド。貴方たち、さっきから何を黙り込んでますの?」
「え? あっ、すみません。何ですか?」

 イリーナさんがあやしているラーちゃんから慌てて目を離す。私は無意識の内にポケットの中で握りしめていたロッドから手を離した。

「体調が悪いとお聞きしましたが、大丈夫ですの?」
「は、はい。すみません。もう平気です」

 頭痛は治っている。魔力で体内の環境を観測してみたけど、特に異常は見当たらなかった。本当、何だったのかな?

「それはよかったですわ。それでドルドはどうしたんですの? 貴方の場合、あまり口を開かれても困りますが、そこまで黙りこむ必要もないんですのよ」

 現在のドルドさんは初めて会った時と同じ、強面のスキンヘッド姿だ。イリーナさんいわく、いらないトラブルを回避するにはこの姿が一番とのこと。

「己が口を開く理由、そして閉ざす理由。それは己がいかなる影響を受けて行動に至るのかという問いに繋がるのではなかろうか。つまり、何故口を開くのかという疑問に答えを得たならば、無論それが表層的な回答ではなく、真に……いや、待て。真とは何なのか。何を持って真実と表層を隔てるのか。そこから考える必要がーー」
「ああ。もういいですわ。私が悪かったですから、貴方はそのままお口にチャックしてなさいな」

 イリーナさんがドルドさんの口を手で押さえる。馬車からアリリアナが飛び出してきた。

「ちょっと問題発生な感じ。魔法文字が送れない。板に問題はなかったから、多分妨害されてるっぽい」

 風に焚火の炎が揺れる。陽が落ちて闇が蔓延る森の中、得体の知れない何かが近付いて来ている気がして、ゾクリと背筋に冷たいものが走った。

 
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