婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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171 食卓

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「いい匂いですね」
「二日酔いによく聞くハーブを入れた味噌汁だよ。イリーナ嬢ちゃん、大方今日も二日酔いなんだろ?」
「……なんかすみません」

 一緒に住んでいるアリリアナは当然として、今やイリーナもすっかりオオルバ魔法店での食卓、その常連だ。

「なぁに。構やしないさ。私が好きでやってることだし。それに言うだろ? 手のかかる子ほど可愛いって」
「……そうですか」
「どうしたんだい? 頰がリスみたいになってるよ」
「何でもありません。それよりも冒険者の仕事が入ったので、明々後日からまた暫く家を開けます」
「はいよ。お店のことは気にしなくていいからね。あっ、手が空いてるならそれをテーブルに持って行ってくれるかい」

 私は野菜で盛り付けられたお皿をテーブルに運んだ。

「最近短いスパンで冒険者の依頼をこなしているけど、レオ坊やは大丈夫なのかい? 今年で卒業だろ。なのにあんまり学校行けてないんじゃないかい?」
「えっと、学校でしか経験できないような授業にはなるべく参加してもらって、基本的な勉強については私が教えてます。なので他の人と比べて勉強が遅れているということはないはずです」

 ただレオ君が進路を冒険者で固めてしまったことについては嬉しくもあり、申し訳なさもありでちょっと複雑だ。

「ドロシー嬢ちゃんが教鞭を執ったのなら間違いはないね」
「だといいんですが」
「何だい。不安げだね。ひょっとしてマリッジブルーってやつかい?」
「マ、マリッジブルーって、ちょっと気が早いですよ」
「レオ坊やが卒業と同時に正式に婚約するんだろ? 早すぎるってことはないだろ」
「それは……そうかもしれませんけど」

 レオ君との関係はメルルさんは勿論、向こうのご両親も承知してくださっている。元々病院で何度かお世話にはなっていたけれど、改めてご挨拶に伺った時も快く賛成してくださった。別に不安を感じることなんてーー

「もしかして嬢ちゃんの親父さんが変なちょっかい掛けて来てるのかい?」
「え? いえ、そんなことは……。最近父は別人かってくらい私に優しいですから」

 ラミアの一件以降エルフの人達、特に三聖の一人であるセラスティーヌ様と交流するようになってからというもの、父の私に対する態度は軟化の一途を辿っている。明らかに私が望む父親像を演じているのは分かっているんだけど、これだけ見事に掌を返されると、昔の不満を思い出すことも難しくなってくる。

「嬢ちゃんが冒険者として成功した途端に。本当に現金なやつだね。まぁ、レオ坊やとの関係を邪魔しなかった点は褒めてやってもいいが、なんで結婚は婚約から最低三年後なんて条件つけたんだろね?」
「分かりません。父のことだから何か企んでいるのかも……あれ? しゃもじがありませんよ?」

 ご飯をつごうと思ったら、いつもの所にあるべき物がなかった。オオルバさんが鍋の火を止める。

「ああ。それなら昨日、酔っ払ったイリーナ嬢ちゃんが踊りながら持っていったまま行方不明だよ。引き出しに別のがあるからそっち使っておくれ」
「な、なんかすみません。後で探して戻しておきます」

 そういえば昨日、部屋で歌っていたイリーナがマイク代わりにしてたのがしゃもじだった気がする。

 もう、イリーナったら。

「あの、お詫びというわけじゃないんですけど、明日のお昼、アリアを誘ってまた三人で外食しませんか?」
「おや、いいのかい? このババアに気を使う必要はないんだよ?」
「いえ、私がオオルバさんとご飯食べに行きたいんです」
「嬉しいこと言ってくれるね。それじゃあお言葉に甘えようかね」

 やった。おばあちゃんとお出かけできる。

 私が心の中でガッツポーズをしていると、二人が降りてきた。爆発していたイリーナの頭は綺麗な縦ロール姿を取り戻している。

「わっ。すっごいいい感じの匂いじゃん」
「う~。お腹すきましたわ」
「ふふ。それじゃあ食べるとしようかね」

 そうして私達は四人で食卓を囲んだ。
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