婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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179 ペンダント

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 輝く金髪は王冠のように荘厳で、その美貌は同じ人間とは思えないほどにただただ完璧。あの男と鏡に映る自分の姿はあまりにも違くて、髪の毛を必死にセットしようとすればするほどに、虚しさが込み上げてくる。

「だぁ~! もう知らん」

 整えた髪を掻きむしって元に戻す。どだい自分はこういうのに向いていないのだ。

「ドロシーさんは見かけで人を判断したりしない。……しないけど」

 ガルドの奴が無駄に距離を詰めても嫌がらないのは、ひょっとすると彼女も奴の完璧さに惹かれているのではないだろうか。などと考える自分がーー

「あ~。女々しい。女々しいぞ俺」

 成長しているのが身長だけだなんて笑えない。もうすぐ俺も魔法学校を卒業。こんなご時世だ。在学中に結婚する貴族も増えてきている。友人であるクルスも既に婚約者との間に子供をもうけており、卒業したらすぐにでも式を上げるらしい。ドロテア家ほどの名家の長女でありながらドロシーさんが未だに独り身なのは、ちょっとした奇跡だ。

 俺は机の引き出しからペンダントを取り出した。

「やっぱり今日申し込むか? いや、でもなぁ~」
「何を悩んでる感じ?」
「何ってそりゃ……って、うぉ!? ア、アリリアナ?」
「は~い」

 スリットの深い黒いワンピースを着た幼馴染がヒラヒラと手を振ってくる。

「なんでここに? いや、それよりも勝手に部屋に入ってくるなよな」
「アハハ。ごめん。ごめん。時間あったからメルルに会えるかな~、って思ってきてみたら、何やらブツブツ聞こえてきた感じだったんで、つい昔と同じノリで開けちゃいました」

 小さい頃、うちに遊びに来ていたアリリアナやセンカは、俺や姉貴の部屋を自室のように行き来していた。

「ったく……これからデートか?」
「あっ。やっぱり分かっちゃう?」
「そりゃな」

 服装もそうだが、デートの時のアリリアナは妙な色香があるので分かりやすい。

「あ~。ちょっとレオっち、今私に見惚れてたでしょ」
「は? そんなわけないだろ」

 まぁ、確かに綺麗ではある。昔から容姿は整っている方だったが性格のせいかあまりそれを意識させなかった。それが一年前、ラミアの戦いの後あたりから妙に綺麗になった。どこがどうとかではなく、身に纏う雰囲気がまるでアリアさんのように時折神秘的に映る。

 そんな彼女が当然のように俺の部屋に入ってきて、顔を近づけてくる。微かに漂う香水の香りになんとなく居心地の悪さを感じて、俺は少し身を引いた。

「な、なんだよ?」
「本当は少しくらいドキドキしてるんじゃないの? ほらほら」

 俺の肩に腕を回してくる女の手を払う。

「しつこいぞ」
「アハハ。ごめ~ん。レオっちが可愛くてつい」
「可愛い言うな」

 ようやく身長も伸びてきて、自分ではちょっとは男らしくなってきたなと思ってるのに。

「可愛いって一応褒め言葉な感じなんですけど?」
「男が可愛いなんて言われても嬉しくないんだよ」
「ふ~ん」
「な、なんだよ」
「レオっちが男らしさにこだわるナイスガイなのは分かったけど、それならそれも男らしく早いところ渡しちゃったら?」

 アリリアナは俺が持っているペンダントを指差した。

「あっ、いや、これは……」
「エンゲージマジックでしょ。最近は指輪が増えてる感じだけど、ペンダントにしたんだ」

 結婚を申し込む際、魔法使いはお互いの位置がわかる術式をアクセサリーに刻んで相手に送るのが慣例だ。俺もそれに従ってみたのだが……

「悪いかよ。俺の技術だと指輪みたいな小さなものに術式を上手く組み込めないんだよ」

 無理をすれば出来なくもないが、どうせなら遠く離れていてもちゃんと機能するものを渡したい。ドロシーさんは俺が守ってみせるけど、それでもこんな危険な時代に冒険者なんてやっていたら何が起こるか分からない。なので指輪よりも面積があって術式を大量に書き込めるペンダントを選んだ。見かけだってそんなに悪くないはずだ。……多分。

「いやいや。私はペンダントありだと思ってる感じだからね。相手の位置が把握できるって便利だし。あっ、ドロシーが移動した。オオルバさんとの食事が終わったみたいね」
「は? なんでお前がそんなこと分かるんだよ?」

 クラン内でも一応互いの居場所がわかる魔法具を使ってはいるが、それは冒険の時のみでプライベートの時は基本携帯していない。

「ふっふっふ。すごいでしょ。今や私とドロシーは血を分けた姉妹みたいなものだからね。なんとなく相手の位置や感情が分かっちゃう感じなのよ。だからね」

 またも身を寄せてくるアリリアナ。こちらを覗き込む金色の瞳は、俺の知っている幼馴染のものではなくて、まるでアリアさんのように神秘の輝きを宿していた。

「心配しなくても上手くいく感じだから、さっさと申し込んだ方がいいぞ」

 そう言って俺の肩を叩いてくる彼女は既にいつもの幼馴染だ。

「お前に言われるまでもねぇよ。……でもありがとな」
「どーいたしまして。それじゃあメルルもいないみたいだし、私はもう行くから。夜、頑張りすぎて明日のミーティング遅れないでよね」
「バッ!? 何言ってんだよ!」
「アハハ。じゃーねぇ~」
「ったく」

 自宅感覚でウチにやってくる幼馴染の背中に、俺はため息を一つ付いた。
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