婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
133 / 149
連載

179 ペンダント

しおりを挟む
 輝く金髪は王冠のように荘厳で、その美貌は同じ人間とは思えないほどにただただ完璧。あの男と鏡に映る自分の姿はあまりにも違くて、髪の毛を必死にセットしようとすればするほどに、虚しさが込み上げてくる。

「だぁ~! もう知らん」

 整えた髪を掻きむしって元に戻す。どだい自分はこういうのに向いていないのだ。

「ドロシーさんは見かけで人を判断したりしない。……しないけど」

 ガルドの奴が無駄に距離を詰めても嫌がらないのは、ひょっとすると彼女も奴の完璧さに惹かれているのではないだろうか。などと考える自分がーー

「あ~。女々しい。女々しいぞ俺」

 成長しているのが身長だけだなんて笑えない。もうすぐ俺も魔法学校を卒業。こんなご時世だ。在学中に結婚する貴族も増えてきている。友人であるクルスも既に婚約者との間に子供をもうけており、卒業したらすぐにでも式を上げるらしい。ドロテア家ほどの名家の長女でありながらドロシーさんが未だに独り身なのは、ちょっとした奇跡だ。

 俺は机の引き出しからペンダントを取り出した。

「やっぱり今日申し込むか? いや、でもなぁ~」
「何を悩んでる感じ?」
「何ってそりゃ……って、うぉ!? ア、アリリアナ?」
「は~い」

 スリットの深い黒いワンピースを着た幼馴染がヒラヒラと手を振ってくる。

「なんでここに? いや、それよりも勝手に部屋に入ってくるなよな」
「アハハ。ごめん。ごめん。時間あったからメルルに会えるかな~、って思ってきてみたら、何やらブツブツ聞こえてきた感じだったんで、つい昔と同じノリで開けちゃいました」

 小さい頃、うちに遊びに来ていたアリリアナやセンカは、俺や姉貴の部屋を自室のように行き来していた。

「ったく……これからデートか?」
「あっ。やっぱり分かっちゃう?」
「そりゃな」

 服装もそうだが、デートの時のアリリアナは妙な色香があるので分かりやすい。

「あ~。ちょっとレオっち、今私に見惚れてたでしょ」
「は? そんなわけないだろ」

 まぁ、確かに綺麗ではある。昔から容姿は整っている方だったが性格のせいかあまりそれを意識させなかった。それが一年前、ラミアの戦いの後あたりから妙に綺麗になった。どこがどうとかではなく、身に纏う雰囲気がまるでアリアさんのように時折神秘的に映る。

 そんな彼女が当然のように俺の部屋に入ってきて、顔を近づけてくる。微かに漂う香水の香りになんとなく居心地の悪さを感じて、俺は少し身を引いた。

「な、なんだよ?」
「本当は少しくらいドキドキしてるんじゃないの? ほらほら」

 俺の肩に腕を回してくる女の手を払う。

「しつこいぞ」
「アハハ。ごめ~ん。レオっちが可愛くてつい」
「可愛い言うな」

 ようやく身長も伸びてきて、自分ではちょっとは男らしくなってきたなと思ってるのに。

「可愛いって一応褒め言葉な感じなんですけど?」
「男が可愛いなんて言われても嬉しくないんだよ」
「ふ~ん」
「な、なんだよ」
「レオっちが男らしさにこだわるナイスガイなのは分かったけど、それならそれも男らしく早いところ渡しちゃったら?」

 アリリアナは俺が持っているペンダントを指差した。

「あっ、いや、これは……」
「エンゲージマジックでしょ。最近は指輪が増えてる感じだけど、ペンダントにしたんだ」

 結婚を申し込む際、魔法使いはお互いの位置がわかる術式をアクセサリーに刻んで相手に送るのが慣例だ。俺もそれに従ってみたのだが……

「悪いかよ。俺の技術だと指輪みたいな小さなものに術式を上手く組み込めないんだよ」

 無理をすれば出来なくもないが、どうせなら遠く離れていてもちゃんと機能するものを渡したい。ドロシーさんは俺が守ってみせるけど、それでもこんな危険な時代に冒険者なんてやっていたら何が起こるか分からない。なので指輪よりも面積があって術式を大量に書き込めるペンダントを選んだ。見かけだってそんなに悪くないはずだ。……多分。

「いやいや。私はペンダントありだと思ってる感じだからね。相手の位置が把握できるって便利だし。あっ、ドロシーが移動した。オオルバさんとの食事が終わったみたいね」
「は? なんでお前がそんなこと分かるんだよ?」

 クラン内でも一応互いの居場所がわかる魔法具を使ってはいるが、それは冒険の時のみでプライベートの時は基本携帯していない。

「ふっふっふ。すごいでしょ。今や私とドロシーは血を分けた姉妹みたいなものだからね。なんとなく相手の位置や感情が分かっちゃう感じなのよ。だからね」

 またも身を寄せてくるアリリアナ。こちらを覗き込む金色の瞳は、俺の知っている幼馴染のものではなくて、まるでアリアさんのように神秘の輝きを宿していた。

「心配しなくても上手くいく感じだから、さっさと申し込んだ方がいいぞ」

 そう言って俺の肩を叩いてくる彼女は既にいつもの幼馴染だ。

「お前に言われるまでもねぇよ。……でもありがとな」
「どーいたしまして。それじゃあメルルもいないみたいだし、私はもう行くから。夜、頑張りすぎて明日のミーティング遅れないでよね」
「バッ!? 何言ってんだよ!」
「アハハ。じゃーねぇ~」
「ったく」

 自宅感覚でウチにやってくる幼馴染の背中に、俺はため息を一つ付いた。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。