132 / 149
連載
178 ケーキの好み
しおりを挟む
「そうかい。センカ嬢ちゃんも大変なんだね」
ナオさんのお店。一般の席からは少しだけ離れた所に特別に作ってもらった席で、オオルバさんとアリアの三人で昼食を楽しむ。
受けた依頼の準備は昨日のうちに滞りなく終わり、もういつでも出発できる。明日の予定は軽いミーティングくらいだけど冒険者の仕事は予定通りに行かないこともしょっちゅうだ。なのでこれが仕事前の最後の休日と思って、今日は冒険のことは考えず楽しむことにする。
「ドロシー嬢ちゃん、昼はそれだけで足りるのかい? 遠慮せずに好きなの頼んでいいんだよ」
「夜にレオ君とご飯食べる約束してますから。オオルバさんこそコーヒーだけでいいんですか?」
「昔から燃費が良くてね。あまり食べる必要を感じないんだよ」
オオルバさんは妖精。本来人の食事は必要ない。かくいう私やアリアも昔から少食でちょっと食べれば長い時間動けた。魔力の運用に長けた魔法使いにはそういった人は珍しくないから、てっきり自分達もそうなんだと思ってたけど、今考えると妖精の血が原因だったのかもしれない。
「アリア嬢ちゃんはケーキをよく頼むけど、好きなのかい?」
チーズケーキを切り分けていた妹のナイフが止まる。銀の瞳がオオルバさんをジッと見つめる。
「……好き」
「そうかい。そうかい。好きな物があるのはいいことだよ。そうだ。今度私がアリア嬢ちゃんの為にケーキを焼いてあげるよ」
「あっ。それなら私も手伝います」
「私も」
「いいね。なら三人で作ろうか。ちなみにケーキの種類はどうする? 何か希望はあるかい?」
「チョコレートケーキがいいと思います」
「チーズケーキ」
私とアリアの視線がぶつかった。
「アリア、いつもチーズケーキばかりだよね。たまには違うのもいいんじゃないかな?」
「…………」
「な、何よ?」
アリアは無言でチーズケーキを切り分けると、その一つをフォークで刺した。そしてそれをおばあちゃんの方へと向ける。
「なんだい? 私にくれるのかい?」
(コクン)
「ありがとね。なら遠慮なく」
オオルバさんはサラリと流れる銀の髪を耳の後ろへ回すと、妹の持つフォークへと口をつけた。
「うん。ここのケーキは美味しいね」
(フッ)
「えっと、そんな顔されても困るんだけど」
勝ち誇る妹にどう反応したものかと悩んでいると、アリアはもう一度フォークにケーキを刺した。そして今度はそれを私に向けた。
「私にもくれるの?」
(コクン)
「そう。えっと、ありがとね」
どうやら今日のアリアは機嫌がいいようだ。私もオオルバさんのように髪が邪魔にならないよう抑えてフォークに口をーーそこではたと気がついた。
「待って? このケーキに何か入れてないよね?」
「…………入れてない」
「答えるまでの間がすごく気になるんだけど」
「入れてない」
「いや、今更そんな力強く言われても説得力ゼロだよ」
そうだ。オオルバさんならアリアの悪戯を見抜けるはず。
期待を込めて私が視線を向けると、おばあちゃんは困ったように笑ってコーヒーに口を付ける。答えにくそうなその態度が答えな気がした。
ジー、と妹が私を見ている。
「分かった。お姉ちゃんアリアを信じるよ」
(コクコク)
アリアは相変わらず表情を変えないけど、なんとなく「かかったな」とか思ってそうな気がした。
「でもあーんは恥ずかしいから、こっちをもらうね。ありがとう」
私は昼食のサラダに使っていた箸で皿の上にあるケーキを摘んだ。
「だからそっちのはアリアが食べていいよ」
ガーン!! という擬音が妹の背後に見えた気がした。そんな妹を見ながらケーキを頂く。
「うん。美味しい。あれ? どうしたのアリア。食べないの? 何も入れてないんだよね?」
(……コ、コクン)
「なら食べないとね」
百歩譲って食べ物に何か入れるのはまだいいけど(いや、本当はよくないけどね)悪戯を理由にナオさんの料理を残すのは姉として許せない。
そんな私の気持ちが伝わったのか、アリアはぎこちのない動作でゆっくりとケーキを口にする。
あれ? 私の勘違いだったかな?
ケーキを食べても平然としている妹の様子に私が自分の勘違いを疑い始めたところで、アリアの白い肌に玉のような汗がいくつも浮かび始めた。そしてーー
ガシャン。と妹はテーブルに額から突っ伏した。
「やれやれ。すまないけどお水もらえるかい?」
「はーい。今伺います」
トレイに水差しとコップを乗せたナオさんがやってくる。
「あれ? アリアさん、どうしたの?」
「自滅です」
「ふーん? 天才のやることってのは分かんないね」
天才とは真逆の行動だった気がするけど、こんなでも可愛い妹だ。余計なことは言わないでおこう。
水差しの中身が空のコップを満たしていく。
「ありがとね」
「あっ。いえ、全然。これくらいは、し、仕事ですから」
間近でオオルバさんの美貌を見たナオさんの頬が赤らむ。妹がすごい美人なのは誰もが認めるところだけど、おばあちゃんはその上、女性特有の色香まであって、一緒に街を歩いているとすごく目立つ。
……前は殆ど認識されてなかったのに。
出会った頃は妖精の姿をしていてさえ、それを意識させなかった。なのに今ではその美貌を隠そうともしない。というか隠せていない。
神格種に与えられるペナルティ。家族で過ごす幸せな時間の中、それだけが喉に引っ掛かった小骨のように気になった。
ナオさんのお店。一般の席からは少しだけ離れた所に特別に作ってもらった席で、オオルバさんとアリアの三人で昼食を楽しむ。
受けた依頼の準備は昨日のうちに滞りなく終わり、もういつでも出発できる。明日の予定は軽いミーティングくらいだけど冒険者の仕事は予定通りに行かないこともしょっちゅうだ。なのでこれが仕事前の最後の休日と思って、今日は冒険のことは考えず楽しむことにする。
「ドロシー嬢ちゃん、昼はそれだけで足りるのかい? 遠慮せずに好きなの頼んでいいんだよ」
「夜にレオ君とご飯食べる約束してますから。オオルバさんこそコーヒーだけでいいんですか?」
「昔から燃費が良くてね。あまり食べる必要を感じないんだよ」
オオルバさんは妖精。本来人の食事は必要ない。かくいう私やアリアも昔から少食でちょっと食べれば長い時間動けた。魔力の運用に長けた魔法使いにはそういった人は珍しくないから、てっきり自分達もそうなんだと思ってたけど、今考えると妖精の血が原因だったのかもしれない。
「アリア嬢ちゃんはケーキをよく頼むけど、好きなのかい?」
チーズケーキを切り分けていた妹のナイフが止まる。銀の瞳がオオルバさんをジッと見つめる。
「……好き」
「そうかい。そうかい。好きな物があるのはいいことだよ。そうだ。今度私がアリア嬢ちゃんの為にケーキを焼いてあげるよ」
「あっ。それなら私も手伝います」
「私も」
「いいね。なら三人で作ろうか。ちなみにケーキの種類はどうする? 何か希望はあるかい?」
「チョコレートケーキがいいと思います」
「チーズケーキ」
私とアリアの視線がぶつかった。
「アリア、いつもチーズケーキばかりだよね。たまには違うのもいいんじゃないかな?」
「…………」
「な、何よ?」
アリアは無言でチーズケーキを切り分けると、その一つをフォークで刺した。そしてそれをおばあちゃんの方へと向ける。
「なんだい? 私にくれるのかい?」
(コクン)
「ありがとね。なら遠慮なく」
オオルバさんはサラリと流れる銀の髪を耳の後ろへ回すと、妹の持つフォークへと口をつけた。
「うん。ここのケーキは美味しいね」
(フッ)
「えっと、そんな顔されても困るんだけど」
勝ち誇る妹にどう反応したものかと悩んでいると、アリアはもう一度フォークにケーキを刺した。そして今度はそれを私に向けた。
「私にもくれるの?」
(コクン)
「そう。えっと、ありがとね」
どうやら今日のアリアは機嫌がいいようだ。私もオオルバさんのように髪が邪魔にならないよう抑えてフォークに口をーーそこではたと気がついた。
「待って? このケーキに何か入れてないよね?」
「…………入れてない」
「答えるまでの間がすごく気になるんだけど」
「入れてない」
「いや、今更そんな力強く言われても説得力ゼロだよ」
そうだ。オオルバさんならアリアの悪戯を見抜けるはず。
期待を込めて私が視線を向けると、おばあちゃんは困ったように笑ってコーヒーに口を付ける。答えにくそうなその態度が答えな気がした。
ジー、と妹が私を見ている。
「分かった。お姉ちゃんアリアを信じるよ」
(コクコク)
アリアは相変わらず表情を変えないけど、なんとなく「かかったな」とか思ってそうな気がした。
「でもあーんは恥ずかしいから、こっちをもらうね。ありがとう」
私は昼食のサラダに使っていた箸で皿の上にあるケーキを摘んだ。
「だからそっちのはアリアが食べていいよ」
ガーン!! という擬音が妹の背後に見えた気がした。そんな妹を見ながらケーキを頂く。
「うん。美味しい。あれ? どうしたのアリア。食べないの? 何も入れてないんだよね?」
(……コ、コクン)
「なら食べないとね」
百歩譲って食べ物に何か入れるのはまだいいけど(いや、本当はよくないけどね)悪戯を理由にナオさんの料理を残すのは姉として許せない。
そんな私の気持ちが伝わったのか、アリアはぎこちのない動作でゆっくりとケーキを口にする。
あれ? 私の勘違いだったかな?
ケーキを食べても平然としている妹の様子に私が自分の勘違いを疑い始めたところで、アリアの白い肌に玉のような汗がいくつも浮かび始めた。そしてーー
ガシャン。と妹はテーブルに額から突っ伏した。
「やれやれ。すまないけどお水もらえるかい?」
「はーい。今伺います」
トレイに水差しとコップを乗せたナオさんがやってくる。
「あれ? アリアさん、どうしたの?」
「自滅です」
「ふーん? 天才のやることってのは分かんないね」
天才とは真逆の行動だった気がするけど、こんなでも可愛い妹だ。余計なことは言わないでおこう。
水差しの中身が空のコップを満たしていく。
「ありがとね」
「あっ。いえ、全然。これくらいは、し、仕事ですから」
間近でオオルバさんの美貌を見たナオさんの頬が赤らむ。妹がすごい美人なのは誰もが認めるところだけど、おばあちゃんはその上、女性特有の色香まであって、一緒に街を歩いているとすごく目立つ。
……前は殆ど認識されてなかったのに。
出会った頃は妖精の姿をしていてさえ、それを意識させなかった。なのに今ではその美貌を隠そうともしない。というか隠せていない。
神格種に与えられるペナルティ。家族で過ごす幸せな時間の中、それだけが喉に引っ掛かった小骨のように気になった。
0
あなたにおすすめの小説
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。