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7 服選び
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泣き声でクローナは飛び起きた。
「ニア!? どうしたのニア?」
クローナは素早く周囲を警戒しつつも、体内に流した魔力で体調を確認する。逃亡生活の中、絶えず付き纏っていた気怠さが嘘のように消えていることにも驚いたが、それ以上に自分が居る場所が予想外過ぎて理解が追いつかなかった。
(宿? どうしてこんなところに?)
それもかなり大きく、清掃が行き届いた立派な一室だ。半人半魔の逃亡者で金銭を一切持たない自分達が間違っても泊まれるような部屋ではなかった。
(寝てる間に捕まった? でも拘束されてない)
状況が掴めず困惑するクローナの側で、ニアはこの世の終わりのように泣き叫んでいる。
「うわぁああん!! ママどこ? ママァアアアア!!」
「ニア、どうしたの? 怖い夢でも見た? 大丈夫。大丈夫だから。ねっ? お姉ちゃんが側にいるから」
妹を抱きしめ必死にあやしながらも、今にも自分達を捕まえに帝国兵が部屋に入ってくるのではないかとクローナは気が気でなかった。
「お姉ちゃん、ママが! ママがいないのぉおおお!! ねぇ、ママどこ行ったの? ママ? ママは? ママァアアアア!!」
「ママ? 一体何を言ってるの、二ーー」
ガチャリ、とドアが開く音にクローナは己の心臓が爆発したかと思った。
「ふふ。元気一杯だね」
部屋に入ってきたのは大量の紙袋を抱えた、ひどく美しい女だった。
その美貌を前に昨夜の記憶が蘇る。
(そうだ。私達はこの魔族に助けられたんだ。それで移動の最中に私眠っちゃったんだ)
ようやく状況が呑み込めてきたクローナの手からニアがスルリと抜けた。
「ママ!! ママァアアアア!!」
「おっと。どうやら不安にさせちゃったみたいだね」
自分の足に体当たりさながらの勢いで抱きついてくるニアを見て、優しく微笑むフラウダ。
「ちょっとそこのお姉ちゃん、悪いけれどこれ持ってくれないかな?」
「は、はい」
クローナは命令を受けた軍人のような機敏さで様々な日常品が詰め込まれた紙袋を受け取る。
そんな娘を苦笑気味に見下ろすと、フラウダは自分の足にしがみつく幼子を抱き抱えた。
「ほら、いつまで泣いているんですか? ママはここにちゃんといるだろ」
「だっで、おぎだらママいないがらぁ。わたじ、わたじ……うわぁあああん!!」
「ああ、よしよし。そんなに泣かなくてもママは何処にもいったりしませんよ。あっ、その中に君達の服が入ってるから好きなの選んじゃってね」
言われて、テーブルに荷物を置いたクローナは紙袋の中を覗く。
「……あの、いいんですか?」
「勿論だよ。後でまた買いに行くけど、一先ず出かける為の服が必要だろ」
そこでクローナは初めて自分達がサイズの大きなシャツを着ていることを自覚した。
「前のはボロボロだったから捨てちゃったけど大丈夫だった?」
「はい。問題ありません。ありがとうごさいます」
実験動物のように扱われていた頃の服に愛着などあろうはずもなく、クローナは感情の浮かばない相貌で淡々と紙袋から服を取り出していく。
「ほら、お姉ちゃんが服を選んでますよ。ニアは選ばなくていいのかい?」
「ヒッグ、ヒッグ……ふ、ふぐぅ?」
一枚一枚ベッドの上に並べられていくそれに、フラウダの腕の中で泣きじゃくっていたニアが興味を示した。
「服……きていいの?」
泣きはらした瞳で聞いてくる娘に頷くと、フラウダはニアを抱いたままベッドに近付いた。
「そうだよ。どれか気に入ったものはある?」
フラウダの質問にニアは並べられた服をじっと眺めると、やがて一つの服を指差した。
「これだね。はいどうぞ」
フリルの付いたワンピースを眼前に持ってこられてもニアは中々フラウダの体から手を離そうとはしなかったが、何度も促されることでようやくそれを両手で受け取った。
「……可愛い。ママ、ママ。これ可愛い!」
「気に入って貰えたようで良かったです。それじゃあお着替えしようか。それでその後は三魔で仲良くお出かけしようね」
「……お外行くの?」
「そうだけど、ひょっとして出掛けたくないの?」
「だってお外には怖い人いるもん」
新品のワンピースをギュッと抱きしめるニア。そんな妹の肩にクローナがそっと手を置いた。
「ニア、大丈夫よ。お姉ちゃんが付いてる。それに今はこのまぞ……ママだって居るんだから、もう怖い人に怯えたくていいのよ」
「……本当?」
不安げな娘の前でフラウダは自分の胸をドンと叩いて見せた。
「お姉ちゃんの言う通りですよ。こう見えてもママはとっても強いんだから。どんな怖い人が来てもママに任せておけば大丈夫です」
「う、うん」
「それにお外には可愛い服や美味しい食べ物がいっぱいあるんだよ。そうだ! 何か食べたいものはあるかい?」
フラウダの言葉に不安に曇っていた幼子の瞳が期待に輝いた。
「ケーキ! ママ、私ね。ケーキ食べたいの」
「ケーキですか、いいですね。それじゃあ着替えたらケーキ食べに行きましょうか」
「やった! お姉ちゃん。ケーキ! ケーキだって」
「うん。良かったね、ニア」
(一先ず外に出る恐怖を拭えたようで本当に良かった)
妹が外出に抵抗を持つようにならずにすんで、クローナは内心でホッと胸を撫で下ろした。そんな娘をジッと見つめるフラウダ。
(本当に賢い子だね。ちょっとだけ昔のスイナハに似てるかも)
十にも満たない幼子とはとても思えぬ思考力を発揮する娘を見て、フラウダは水を支配する親友を想った。
「ん? 水……あっ、そうだった。二魔とも、お出かけの前にまずはお風呂に入ろうね」
思い出したようにそういう保護者を前に、タオルで体を拭かれただけでもう何週間も沐浴してない幼子達は揃って首を傾げた。
「ニア!? どうしたのニア?」
クローナは素早く周囲を警戒しつつも、体内に流した魔力で体調を確認する。逃亡生活の中、絶えず付き纏っていた気怠さが嘘のように消えていることにも驚いたが、それ以上に自分が居る場所が予想外過ぎて理解が追いつかなかった。
(宿? どうしてこんなところに?)
それもかなり大きく、清掃が行き届いた立派な一室だ。半人半魔の逃亡者で金銭を一切持たない自分達が間違っても泊まれるような部屋ではなかった。
(寝てる間に捕まった? でも拘束されてない)
状況が掴めず困惑するクローナの側で、ニアはこの世の終わりのように泣き叫んでいる。
「うわぁああん!! ママどこ? ママァアアアア!!」
「ニア、どうしたの? 怖い夢でも見た? 大丈夫。大丈夫だから。ねっ? お姉ちゃんが側にいるから」
妹を抱きしめ必死にあやしながらも、今にも自分達を捕まえに帝国兵が部屋に入ってくるのではないかとクローナは気が気でなかった。
「お姉ちゃん、ママが! ママがいないのぉおおお!! ねぇ、ママどこ行ったの? ママ? ママは? ママァアアアア!!」
「ママ? 一体何を言ってるの、二ーー」
ガチャリ、とドアが開く音にクローナは己の心臓が爆発したかと思った。
「ふふ。元気一杯だね」
部屋に入ってきたのは大量の紙袋を抱えた、ひどく美しい女だった。
その美貌を前に昨夜の記憶が蘇る。
(そうだ。私達はこの魔族に助けられたんだ。それで移動の最中に私眠っちゃったんだ)
ようやく状況が呑み込めてきたクローナの手からニアがスルリと抜けた。
「ママ!! ママァアアアア!!」
「おっと。どうやら不安にさせちゃったみたいだね」
自分の足に体当たりさながらの勢いで抱きついてくるニアを見て、優しく微笑むフラウダ。
「ちょっとそこのお姉ちゃん、悪いけれどこれ持ってくれないかな?」
「は、はい」
クローナは命令を受けた軍人のような機敏さで様々な日常品が詰め込まれた紙袋を受け取る。
そんな娘を苦笑気味に見下ろすと、フラウダは自分の足にしがみつく幼子を抱き抱えた。
「ほら、いつまで泣いているんですか? ママはここにちゃんといるだろ」
「だっで、おぎだらママいないがらぁ。わたじ、わたじ……うわぁあああん!!」
「ああ、よしよし。そんなに泣かなくてもママは何処にもいったりしませんよ。あっ、その中に君達の服が入ってるから好きなの選んじゃってね」
言われて、テーブルに荷物を置いたクローナは紙袋の中を覗く。
「……あの、いいんですか?」
「勿論だよ。後でまた買いに行くけど、一先ず出かける為の服が必要だろ」
そこでクローナは初めて自分達がサイズの大きなシャツを着ていることを自覚した。
「前のはボロボロだったから捨てちゃったけど大丈夫だった?」
「はい。問題ありません。ありがとうごさいます」
実験動物のように扱われていた頃の服に愛着などあろうはずもなく、クローナは感情の浮かばない相貌で淡々と紙袋から服を取り出していく。
「ほら、お姉ちゃんが服を選んでますよ。ニアは選ばなくていいのかい?」
「ヒッグ、ヒッグ……ふ、ふぐぅ?」
一枚一枚ベッドの上に並べられていくそれに、フラウダの腕の中で泣きじゃくっていたニアが興味を示した。
「服……きていいの?」
泣きはらした瞳で聞いてくる娘に頷くと、フラウダはニアを抱いたままベッドに近付いた。
「そうだよ。どれか気に入ったものはある?」
フラウダの質問にニアは並べられた服をじっと眺めると、やがて一つの服を指差した。
「これだね。はいどうぞ」
フリルの付いたワンピースを眼前に持ってこられてもニアは中々フラウダの体から手を離そうとはしなかったが、何度も促されることでようやくそれを両手で受け取った。
「……可愛い。ママ、ママ。これ可愛い!」
「気に入って貰えたようで良かったです。それじゃあお着替えしようか。それでその後は三魔で仲良くお出かけしようね」
「……お外行くの?」
「そうだけど、ひょっとして出掛けたくないの?」
「だってお外には怖い人いるもん」
新品のワンピースをギュッと抱きしめるニア。そんな妹の肩にクローナがそっと手を置いた。
「ニア、大丈夫よ。お姉ちゃんが付いてる。それに今はこのまぞ……ママだって居るんだから、もう怖い人に怯えたくていいのよ」
「……本当?」
不安げな娘の前でフラウダは自分の胸をドンと叩いて見せた。
「お姉ちゃんの言う通りですよ。こう見えてもママはとっても強いんだから。どんな怖い人が来てもママに任せておけば大丈夫です」
「う、うん」
「それにお外には可愛い服や美味しい食べ物がいっぱいあるんだよ。そうだ! 何か食べたいものはあるかい?」
フラウダの言葉に不安に曇っていた幼子の瞳が期待に輝いた。
「ケーキ! ママ、私ね。ケーキ食べたいの」
「ケーキですか、いいですね。それじゃあ着替えたらケーキ食べに行きましょうか」
「やった! お姉ちゃん。ケーキ! ケーキだって」
「うん。良かったね、ニア」
(一先ず外に出る恐怖を拭えたようで本当に良かった)
妹が外出に抵抗を持つようにならずにすんで、クローナは内心でホッと胸を撫で下ろした。そんな娘をジッと見つめるフラウダ。
(本当に賢い子だね。ちょっとだけ昔のスイナハに似てるかも)
十にも満たない幼子とはとても思えぬ思考力を発揮する娘を見て、フラウダは水を支配する親友を想った。
「ん? 水……あっ、そうだった。二魔とも、お出かけの前にまずはお風呂に入ろうね」
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