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11 希望の有無
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「つ、強すぎる。これがナンバーズ」
隣で眼鏡をかけたヒニア法国の騎士が戦慄に戦いた。自己紹介を交わした時に秘めていた静かな自信は見る影もなく砕け散っており、震える手は今にも握る剣を落としそうだ。
(彼はもう戦えない)
果たしてヒニア法国から派遣された救援部隊を迎えに里から降りたのは間違いだったのだろうか?
(ううん。敵の部隊はまだ麓、この敵が化物なだけ)
燃えるような真っ赤な髪に、欲望に暗く濁った金色の瞳。野性的ではあるが、町ですれ違えば殆どの男がその美貌に振り返り、次に頭部と臀部に生えた獣の要素に目を向けることだろう。
帝国の生物兵器の頂点、ナンバーズ。中でもその残虐性と好戦的な性格で知られているのが獣人セブンだ。奴は帝国を除くあらゆる国の者に狙われる立場でありながら、護衛の兵も連れずに私達へ奇襲を仕掛けてきた。
「おいおい! おいおい!! 何だ? その様は? ビビるの早すぎだろ。せっかくこの俺様がこうして足を運んでやったんだ。もっとバカみたいに足掻く姿を見せてくれよ、なぁ!?」
ドスン! とセブンが握る巨大な二つの斧、その内の一つが地面を叩けば、地面が大きくひび割れる。
(こんなの……どうすれば倒せる?)
ギガナの戦士とヒニア法国の精鋭が五十名がかりでたった一人に歯が立たなかった。セブンが単独で現れた時、ナンバーズを討ち取る絶好の好機と勇んだ自分達が、今では道化のように思えて仕方ない。
「ギイナ、ここは俺達の負けだ。お前は今すぐ里に戻れ」
「…………叔父様」
ニメートルを越える巨体に、私達ギガナの民共通の褐色の肌。長である母の弟で私の師匠でもあるサルトト叔父様の言葉は普段なら絶対厳守、逆らうなんてあり得ない。でもーー
「逃げない。私も戦う」
両手に持ったククル刀を構える。叔父様には悪いが、セブンは叔父様一人で足止め出来る相手ではない。ギガナの里でも五指に入る私が逃げるべき状況ではないのだ。
「私もギガナの戦士。連絡役は他の者に」
「……ヤマ、お前が行け」
「ハッ! 命に代えましても長にこの事実を」
叔父様の命を受けて、生き残ったギガナ兵の中で私の次に足の速いヤマが里を目指して駆けっていく。彼が母にナンバーズの想定を遥かに上回る実力と私達の全滅を伝えてくれるだろう。でもーー
(希望は……あるの?)
ナンバーズのあまりに人間離れした戦果。それがなんの誇張もない事実だったと判明した今、いかに百戦錬磨の母といえども、打てる手などあるのだろうか。
セブンは去っていくヤマには目もくれず、ゾッとするような淀んだ視線を私と叔父様に向けた。
「いい! その覚悟の決まった顔、いいじゃねぇか。よし、決めた」
セブンの視線が叔父様で固定される。
「テメーとそこの女は今日から私のペットだ。朝も夜もなく犯し抜いて、飽きたら部下に犯させて、それも飽きたらバラバラに引き裂いて、んでもう一度犯してやるぜ」
獣と混じった故か、それとも人とはここまでおぞましくなれるものなのか。怖気の走ることを口にして、セブンがゆっくりと近づいてくる。それに私達は数で勝りながらも、捕食者に怯える小動物のように後退するしかできなかった。
「言っておくが時間稼ぎは無駄だぞ。後ろを見てみろ」
本来ならそんな言葉で敵から視線を逸らしたりはしない。だがセブンがあまりにも格上すぎたことと、猛烈に嫌な予感に促されて、私は反射的に背後を振り返っていた。
ポタ、ポタ。と胴体を失った首から垂れる血が大地を紅く染めている。
「ボス、なんか逃げてきたんで殺しましたが、良かったんですよね?」
「殺してから聞くんじゃねーよ。つーか、殺しちゃいけねぇ人間ってのはどんな人間だよ?」
「へっへっへ。それもそうですね」
セブンに負けず劣らない怖気の走る笑みを浮かべた獣人が、ヤマの首を放り投げた。
いつの間にか、セブンを取り囲んでいる私達が逆に獣人達に囲まれていた。
(接近に気付かなかった)
獣人とは何度か戦ったことがあったが、今私達を囲んでいる者達は、明らかに他の獣人とは身のこなしが違った。
(……獣人の精鋭部隊)
ヤマが殺された以上、時間稼ぎすることに意味はなく、かといってセブンと対峙した状態で獣人の精鋭に囲まれては最早逃げることも叶わない。絶望が私達ギガナの戦士とヒニアの兵士に重くのし掛かる。
「おいおい、そんな情けない面すんなや。安心しろ、部下には手を出させねー。つーか、手を出すなよテメェら」
「了解しやした。へっへっへ。また最高のショウを期待してますぜ、ボス」
獣人達は私達を取り囲んだまま後退すると、その場に座り込んだり、酒を飲み始めたりし始めた。
「さぁ、これで心置きなくやれるだろ? 来いよ。俺様の首を取れたら大手柄だぜ?」
それは確かにそうなのだが、攻撃を仕掛けた途端にあの巨大な斧で殺される未来しか思い浮かばず、誰も、叔父様でさえも攻撃を仕掛けられずにいた。
「っち。あんまガッカリさせんなよなチキン野郎どもが。仕方ねぇ、出血大サービスだ」
セブンは二本の大斧を無造作に投げ捨てると、指を鳴らした。たちどころにセブンの身体が炎に包まれ、着ていた衣服が全て焼け消えた。
衆目に晒されるナンバーズの裸体。きめ細やかな白い肌に映える炎のような赤い髪。綺麗に割れた腹筋を始めとした全身くまなく鍛えられた肢体は躍動的な美を体現していた。
獣人達から喚声が上がり、セブンの裸体に欲望に濁った視線が遠慮なく注がれる。
「どうだ? これなら怖くねぇだろ? オラ、テメーらのブツで私の身体を貫いてみろや」
生まれたままの姿でセブンが両手を広げて見せる。
(馬鹿にしてる)
ここまでコケにされれば、ギガナの戦士として黙っているわけにはいかない。叔父様が拳を握り締めて正面からセブンへと迫る。私は横合いから、そしてギガナ、ヒニアで生き残った兵士の内、腕利きが飛び出して私達と連携を取った。セブンの頭、首、胸、腰、手足、むき出しの乳房や性器、とにかくあらゆる箇所に刃を振り下ろす。だがーー
「こ、こんなことが」
私達の刃はセブンの皮膚をほんの少しへこましただけで、傷一つつけることも叶わなかった。
(信じられない。本当に同じ生き物?)
こんな化物をどうやって倒せばいいのだろうか?
子鹿のように震える私達を、怪物が嘲笑う。
「ハッ。なんだそりゃ? ヘナヘナの萎えたブツを擦りつけやがって。いいか? 攻撃ってのはな……」
セブンの右手がおもむろに持ち上がる。拳を固めたその腕が筋肉で膨れ上がり、女としての美を保っていた右手はあっという間に野獣の豪腕と化した。
「こうやるんだよ」
「離れろ!」
叔父様の悲鳴にも似た指示。それに反射的に身体が動きーー視界が激しく回転した。全身に走る衝撃。気づけば私は空を見上げていた。
「がぁっ!? ……あっ? う、う」
「お~。よしよし、ちゃんと生きてるな」
体は静止しているのに激しく揺れる視界の中、セブンが私を見下ろしていた。
(ダメ、動けない)
早すぎて見えなかったが、恐らくは筋肉で肥大化した右手を振り回したのだろう。咄嗟に飛んでいなければ死んでいた。
「にしても、ギガナの民の連中は相変わらず裸みたいな格好してんな。褐色の肌は好みだが、服を破りすてる楽しみが少なくて不満だぜ」
「んっ!? ぐっ……ハァハァ」
セブンの踵が私の股間を踏みつける。更にグリグリと動いて弱い所を刺激してくるので、思わず声が漏れてしまった。
「下着みたいな上下に、パレオみたいな布切れだけ。ったく、なんつー嫌らしい連中だ」
グリグリ、グリグリ。
「ふぁ!? あっ、ん、や、やめ……んっ!?」
「ボス、素っ裸で そんなこと言っても説得力ありませんぜ」
「うるせえぞ。テメーらは私の裸でもオカズにしてろや。私はこいつらで楽しむから邪魔すんなよ」
セブンの手が私の胸当てを剥ぎ取った。胸部に向けられる獣人共の視線に、不覚にも頬が熱くなる。
「それならボス、ヒニアの連中は俺達に譲ってくれませんか?」
「あ~? ……っち、まぁ遊ぶぐらいなら許可してやるよ。ただし男だからって殺すなよ。男も女も後で私が楽しむんだからな」
「男なんてどうでもいいですよ。おい、生きてる女を集めろ」
「へへ。ヒニアの女騎士を抱けるなんてついてるぜ」
遠巻きに見ていた獣人達が近づいてきて、私達を包囲している輪が急速に小さくなっていく。もはや立っている仲間は十人といない。
「くっ、は、離せ!」
私はなけなしの力を振り絞ってククル刀をセブンの足に叩きつけた。
「おっ? いいぞ、そうだ。もっと抵抗しろや。私はな、強くて粋の良い奴を屈服させた時、最高に気持ちよくなれんだよ」
私の身体にのし掛かってくるセブン。獣の舌が私の胸を這った。
(こうなったらもう、自分で自分をーー)
「ボスゥウウウウウウ!!」
「あん?」
突然の大声、それを上げたのは黒いコートを着た獣人だった。
「おい、テメーは反対側を担当させたはずだろうが、何でこっちにいんだよ?」
「ば、ばけひょの、や、や、や、つは、ば、ばけひょの、だ」
「あん? ……テメー、私の従僕でありながら、まさか誰かに負けたんじゃねえだろうな?」
黒いコートの獣人はセブンの怒りの形相にも怯んだ様子はなく、怪しげな足取りでふらふらとこちらに近づいてくる。
「おい、大丈夫か? 何か変だぞ」
一人の獣人が黒いコートの獣人に近付いた。次の瞬間ーー
「んひぃ」
怪しげな笑い声と共に振るわれた一撃で、黒いコートに近付いた獣人の首から上が粉々になった。
「は? ……え? ちょっ!?」
「おいおいおいおい!? 一体何してんだ?」
「な、な、な、にを? わ、わたしはね~。ごろざれぇだ、だ、だんでずよぉ~。だ、だから、だからねぇ~。クヒ、ヒ、イヒヒヒヒヒ!!」
獣人もヒニアもギガナも、ここにいる誰もが眼を見開く中、黒いコートの獣人は壊れたように笑い狂った。そしてーー
「あのがだのためぇに、じゅうじんどもお、みなごろざぁないどぉおおおお!!」
獣人達に殺戮の嵐が巻き起こる。
「な、なにす……ぎゃあああ!?」
「しょ、正気じゃねぇ。殺せ! ころ……ぐぁあああ!?」
敵の精鋭達が次々に狂獣の餌食となっていく。獣人達も見事な連携で黒コートにダメージを与えてはいるものの、どれだけ身体を損傷しようとも、狂獣の動きはまるで衰えない。そしてついにーー
「チッ、良いところで邪魔しやがって。何処のどいつだ? この私に舐めた真似をしやがるのは」
セブンが私から離れて行った。最強の獣が狂獣の始末に乗り出したのだ。
「ギイナ、大丈夫か?」
二頭の獣が争うその最中、血だらけの叔父様に抱き抱えられた。叔父様の後ろには生き残った仲間達。
「大丈夫……です」
「よし。この機会を逃すな。撤退! 全員死ぬ気で走れ!」
そうして私達はセブンの魔の手から辛くも逃げ出すことに成功した。しかしそれは一時的なものに過ぎず、それ故に助かったことに対する安堵など皆無だった。
「叔父様、さっきのは一体……」
「分からん。しかしナンバーズでさえも把握していない何か、いや誰かが介入したのは間違いないだろう」
私を抱きしめる叔父様の腕に力がこもる。きっと今、私と叔父様は同じことを考えているのだろう。
(もしかしたら、希望は……ある?)
それは蜘蛛の糸のようにか細い可能性。胸の内の問いに答えなどあるわけもなく、ただいつの間にか昇っていた月が静かに私達を見下ろしていた。
隣で眼鏡をかけたヒニア法国の騎士が戦慄に戦いた。自己紹介を交わした時に秘めていた静かな自信は見る影もなく砕け散っており、震える手は今にも握る剣を落としそうだ。
(彼はもう戦えない)
果たしてヒニア法国から派遣された救援部隊を迎えに里から降りたのは間違いだったのだろうか?
(ううん。敵の部隊はまだ麓、この敵が化物なだけ)
燃えるような真っ赤な髪に、欲望に暗く濁った金色の瞳。野性的ではあるが、町ですれ違えば殆どの男がその美貌に振り返り、次に頭部と臀部に生えた獣の要素に目を向けることだろう。
帝国の生物兵器の頂点、ナンバーズ。中でもその残虐性と好戦的な性格で知られているのが獣人セブンだ。奴は帝国を除くあらゆる国の者に狙われる立場でありながら、護衛の兵も連れずに私達へ奇襲を仕掛けてきた。
「おいおい! おいおい!! 何だ? その様は? ビビるの早すぎだろ。せっかくこの俺様がこうして足を運んでやったんだ。もっとバカみたいに足掻く姿を見せてくれよ、なぁ!?」
ドスン! とセブンが握る巨大な二つの斧、その内の一つが地面を叩けば、地面が大きくひび割れる。
(こんなの……どうすれば倒せる?)
ギガナの戦士とヒニア法国の精鋭が五十名がかりでたった一人に歯が立たなかった。セブンが単独で現れた時、ナンバーズを討ち取る絶好の好機と勇んだ自分達が、今では道化のように思えて仕方ない。
「ギイナ、ここは俺達の負けだ。お前は今すぐ里に戻れ」
「…………叔父様」
ニメートルを越える巨体に、私達ギガナの民共通の褐色の肌。長である母の弟で私の師匠でもあるサルトト叔父様の言葉は普段なら絶対厳守、逆らうなんてあり得ない。でもーー
「逃げない。私も戦う」
両手に持ったククル刀を構える。叔父様には悪いが、セブンは叔父様一人で足止め出来る相手ではない。ギガナの里でも五指に入る私が逃げるべき状況ではないのだ。
「私もギガナの戦士。連絡役は他の者に」
「……ヤマ、お前が行け」
「ハッ! 命に代えましても長にこの事実を」
叔父様の命を受けて、生き残ったギガナ兵の中で私の次に足の速いヤマが里を目指して駆けっていく。彼が母にナンバーズの想定を遥かに上回る実力と私達の全滅を伝えてくれるだろう。でもーー
(希望は……あるの?)
ナンバーズのあまりに人間離れした戦果。それがなんの誇張もない事実だったと判明した今、いかに百戦錬磨の母といえども、打てる手などあるのだろうか。
セブンは去っていくヤマには目もくれず、ゾッとするような淀んだ視線を私と叔父様に向けた。
「いい! その覚悟の決まった顔、いいじゃねぇか。よし、決めた」
セブンの視線が叔父様で固定される。
「テメーとそこの女は今日から私のペットだ。朝も夜もなく犯し抜いて、飽きたら部下に犯させて、それも飽きたらバラバラに引き裂いて、んでもう一度犯してやるぜ」
獣と混じった故か、それとも人とはここまでおぞましくなれるものなのか。怖気の走ることを口にして、セブンがゆっくりと近づいてくる。それに私達は数で勝りながらも、捕食者に怯える小動物のように後退するしかできなかった。
「言っておくが時間稼ぎは無駄だぞ。後ろを見てみろ」
本来ならそんな言葉で敵から視線を逸らしたりはしない。だがセブンがあまりにも格上すぎたことと、猛烈に嫌な予感に促されて、私は反射的に背後を振り返っていた。
ポタ、ポタ。と胴体を失った首から垂れる血が大地を紅く染めている。
「ボス、なんか逃げてきたんで殺しましたが、良かったんですよね?」
「殺してから聞くんじゃねーよ。つーか、殺しちゃいけねぇ人間ってのはどんな人間だよ?」
「へっへっへ。それもそうですね」
セブンに負けず劣らない怖気の走る笑みを浮かべた獣人が、ヤマの首を放り投げた。
いつの間にか、セブンを取り囲んでいる私達が逆に獣人達に囲まれていた。
(接近に気付かなかった)
獣人とは何度か戦ったことがあったが、今私達を囲んでいる者達は、明らかに他の獣人とは身のこなしが違った。
(……獣人の精鋭部隊)
ヤマが殺された以上、時間稼ぎすることに意味はなく、かといってセブンと対峙した状態で獣人の精鋭に囲まれては最早逃げることも叶わない。絶望が私達ギガナの戦士とヒニアの兵士に重くのし掛かる。
「おいおい、そんな情けない面すんなや。安心しろ、部下には手を出させねー。つーか、手を出すなよテメェら」
「了解しやした。へっへっへ。また最高のショウを期待してますぜ、ボス」
獣人達は私達を取り囲んだまま後退すると、その場に座り込んだり、酒を飲み始めたりし始めた。
「さぁ、これで心置きなくやれるだろ? 来いよ。俺様の首を取れたら大手柄だぜ?」
それは確かにそうなのだが、攻撃を仕掛けた途端にあの巨大な斧で殺される未来しか思い浮かばず、誰も、叔父様でさえも攻撃を仕掛けられずにいた。
「っち。あんまガッカリさせんなよなチキン野郎どもが。仕方ねぇ、出血大サービスだ」
セブンは二本の大斧を無造作に投げ捨てると、指を鳴らした。たちどころにセブンの身体が炎に包まれ、着ていた衣服が全て焼け消えた。
衆目に晒されるナンバーズの裸体。きめ細やかな白い肌に映える炎のような赤い髪。綺麗に割れた腹筋を始めとした全身くまなく鍛えられた肢体は躍動的な美を体現していた。
獣人達から喚声が上がり、セブンの裸体に欲望に濁った視線が遠慮なく注がれる。
「どうだ? これなら怖くねぇだろ? オラ、テメーらのブツで私の身体を貫いてみろや」
生まれたままの姿でセブンが両手を広げて見せる。
(馬鹿にしてる)
ここまでコケにされれば、ギガナの戦士として黙っているわけにはいかない。叔父様が拳を握り締めて正面からセブンへと迫る。私は横合いから、そしてギガナ、ヒニアで生き残った兵士の内、腕利きが飛び出して私達と連携を取った。セブンの頭、首、胸、腰、手足、むき出しの乳房や性器、とにかくあらゆる箇所に刃を振り下ろす。だがーー
「こ、こんなことが」
私達の刃はセブンの皮膚をほんの少しへこましただけで、傷一つつけることも叶わなかった。
(信じられない。本当に同じ生き物?)
こんな化物をどうやって倒せばいいのだろうか?
子鹿のように震える私達を、怪物が嘲笑う。
「ハッ。なんだそりゃ? ヘナヘナの萎えたブツを擦りつけやがって。いいか? 攻撃ってのはな……」
セブンの右手がおもむろに持ち上がる。拳を固めたその腕が筋肉で膨れ上がり、女としての美を保っていた右手はあっという間に野獣の豪腕と化した。
「こうやるんだよ」
「離れろ!」
叔父様の悲鳴にも似た指示。それに反射的に身体が動きーー視界が激しく回転した。全身に走る衝撃。気づけば私は空を見上げていた。
「がぁっ!? ……あっ? う、う」
「お~。よしよし、ちゃんと生きてるな」
体は静止しているのに激しく揺れる視界の中、セブンが私を見下ろしていた。
(ダメ、動けない)
早すぎて見えなかったが、恐らくは筋肉で肥大化した右手を振り回したのだろう。咄嗟に飛んでいなければ死んでいた。
「にしても、ギガナの民の連中は相変わらず裸みたいな格好してんな。褐色の肌は好みだが、服を破りすてる楽しみが少なくて不満だぜ」
「んっ!? ぐっ……ハァハァ」
セブンの踵が私の股間を踏みつける。更にグリグリと動いて弱い所を刺激してくるので、思わず声が漏れてしまった。
「下着みたいな上下に、パレオみたいな布切れだけ。ったく、なんつー嫌らしい連中だ」
グリグリ、グリグリ。
「ふぁ!? あっ、ん、や、やめ……んっ!?」
「ボス、素っ裸で そんなこと言っても説得力ありませんぜ」
「うるせえぞ。テメーらは私の裸でもオカズにしてろや。私はこいつらで楽しむから邪魔すんなよ」
セブンの手が私の胸当てを剥ぎ取った。胸部に向けられる獣人共の視線に、不覚にも頬が熱くなる。
「それならボス、ヒニアの連中は俺達に譲ってくれませんか?」
「あ~? ……っち、まぁ遊ぶぐらいなら許可してやるよ。ただし男だからって殺すなよ。男も女も後で私が楽しむんだからな」
「男なんてどうでもいいですよ。おい、生きてる女を集めろ」
「へへ。ヒニアの女騎士を抱けるなんてついてるぜ」
遠巻きに見ていた獣人達が近づいてきて、私達を包囲している輪が急速に小さくなっていく。もはや立っている仲間は十人といない。
「くっ、は、離せ!」
私はなけなしの力を振り絞ってククル刀をセブンの足に叩きつけた。
「おっ? いいぞ、そうだ。もっと抵抗しろや。私はな、強くて粋の良い奴を屈服させた時、最高に気持ちよくなれんだよ」
私の身体にのし掛かってくるセブン。獣の舌が私の胸を這った。
(こうなったらもう、自分で自分をーー)
「ボスゥウウウウウウ!!」
「あん?」
突然の大声、それを上げたのは黒いコートを着た獣人だった。
「おい、テメーは反対側を担当させたはずだろうが、何でこっちにいんだよ?」
「ば、ばけひょの、や、や、や、つは、ば、ばけひょの、だ」
「あん? ……テメー、私の従僕でありながら、まさか誰かに負けたんじゃねえだろうな?」
黒いコートの獣人はセブンの怒りの形相にも怯んだ様子はなく、怪しげな足取りでふらふらとこちらに近づいてくる。
「おい、大丈夫か? 何か変だぞ」
一人の獣人が黒いコートの獣人に近付いた。次の瞬間ーー
「んひぃ」
怪しげな笑い声と共に振るわれた一撃で、黒いコートに近付いた獣人の首から上が粉々になった。
「は? ……え? ちょっ!?」
「おいおいおいおい!? 一体何してんだ?」
「な、な、な、にを? わ、わたしはね~。ごろざれぇだ、だ、だんでずよぉ~。だ、だから、だからねぇ~。クヒ、ヒ、イヒヒヒヒヒ!!」
獣人もヒニアもギガナも、ここにいる誰もが眼を見開く中、黒いコートの獣人は壊れたように笑い狂った。そしてーー
「あのがだのためぇに、じゅうじんどもお、みなごろざぁないどぉおおおお!!」
獣人達に殺戮の嵐が巻き起こる。
「な、なにす……ぎゃあああ!?」
「しょ、正気じゃねぇ。殺せ! ころ……ぐぁあああ!?」
敵の精鋭達が次々に狂獣の餌食となっていく。獣人達も見事な連携で黒コートにダメージを与えてはいるものの、どれだけ身体を損傷しようとも、狂獣の動きはまるで衰えない。そしてついにーー
「チッ、良いところで邪魔しやがって。何処のどいつだ? この私に舐めた真似をしやがるのは」
セブンが私から離れて行った。最強の獣が狂獣の始末に乗り出したのだ。
「ギイナ、大丈夫か?」
二頭の獣が争うその最中、血だらけの叔父様に抱き抱えられた。叔父様の後ろには生き残った仲間達。
「大丈夫……です」
「よし。この機会を逃すな。撤退! 全員死ぬ気で走れ!」
そうして私達はセブンの魔の手から辛くも逃げ出すことに成功した。しかしそれは一時的なものに過ぎず、それ故に助かったことに対する安堵など皆無だった。
「叔父様、さっきのは一体……」
「分からん。しかしナンバーズでさえも把握していない何か、いや誰かが介入したのは間違いないだろう」
私を抱きしめる叔父様の腕に力がこもる。きっと今、私と叔父様は同じことを考えているのだろう。
(もしかしたら、希望は……ある?)
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