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17 賭ける者達
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「何てことなの」
私の魔術武装である『銀球』を操って獣人共に遠隔からの狙撃をするその最中、大陸でも五指に入る標高を誇るギガナ山脈を揺らさんばかりの激突に決定的な変化が訪れた。
「ナンバーズ、悪魔にでも創造されたと言うのかしら?」
冗談混じりに呟いた言葉が真実をついた気がして、自嘲すらできない。
「シルラ様」
狙撃に気付かれた際の盾役として、前方の岩に身を隠していたクレーリアとドロシーがやってくる。二人の顔は見るからに青ざめており、きっと今の私も同じような顔色をしているのだろう。
クレーリアは地面に膝を付くと、深く頭を垂れた。
「シルラ様、勝敗は決しました。ここから早くお逃げください」
「…………まだ決着はついていないわよ?」
「着いてからでは手遅れです。その前にシルラ様だけでも」
「お待ちくださいシルラ様。私はまだ彼なら勝てると思っておりますわ」
「ドロシー!?」
思いもよらぬ、それこそ私ですら予想していなかった相棒の言葉に、クレーリアが顔を上げた。
「確認させてくださいな、ドロシー。貴方はこの常識はずれな力を相手にして、それでも尚、ロマに勝機があると言うのかしら?」
「はい。彼なら……彼らならば必ずや」
そう言ってドロシーは何故か何度も自身の首筋に指を這わせた。
「シルラ様、私は反対です。敵を引き付ける役割は私がこの命に代えましても、ですからシルラ様はお逃げくだ……えっ!?」
絶望を打ち破るかのように高まる魔力。
クレーリアが、ドロシーが、ヒニアの兵士達が、そして遠くに居る獣人達までもが呆然と空を見上げた。
「ロマ……貴方という人は」
ロマの放つ魔力は巨大すぎてこの天才でも知覚しきれず、それはまるで世界と一つになったかのような途方もなさだ。
巨大な力と力の激突に青かった空に暗雲が立ち込め、その中を雷が走る。最早この山にいる限り、いつ彼らの戦いに巻き込まれても不思議はなかった。
(これ程の激突。きっとお姉様も、そして皇帝達も気付いているのでしょうね)
ナンバーズの力はこちらの想定を遥かに上回っていた。だが天の采配なのか、そのナンバーズですら上回る存在が私達の前に現れた。
クレーリアとドロシーが私を見る。クレーリアは己の意見を変えたことが、ドロシーは己の意見に確信を持ったことが、その顔から分かった。
(いいわロマ、私が持つ全てを貴方に賭けてあげる)
「ヒニア法国第二王女の名に置いて命じるわ。最後の一兵まで逃げることを許しません。彼の勝率を少しでも上げるため、ここは何があろうとも死守します」
「「はっ!!」」
(ひょっとすれば今日、この戦争の行方が決定的に変わるかもしれない)
この天才をして暗い結果しか視えなかった未来に差し込んだ一筋の可能性、それを守るために私は自らの魔力を乗せた『銀』を獣人共へと放った。
~ヒニア法国王都~
「こ、こんなことが……」
「センリ。一体何事ですか? 姫様の前ですよ」
遠見の魔術を極めたセンリに各国の様子を探ってもらっていたその最中、センリは持っていた水晶を床に落とすと幼子のように震え出した。
「帝国がついに自由都市への本格的な進軍を開始しましたか?」
「い、いえ、姫様、これは……ギガナ、ギガナでございます」
「ギガナ? あそこは条件が悪くて遠見の水晶を設置できなかったはず。それとも触媒なしで貴方の遠見に写るほどの兵力がギガナに集結しているというのですか?」
メイメイが縁のない眼鏡を苛立たしげに指で押し上げながらセンリへと問う。彼女は参謀に相応しい頭脳と逆境にもめげない胆力を秘めているが、怒りっぽいのが玉に瑕だ。
「ち、違います。巨大な……あまりにも巨大な力をもった二人がギガナ山脈にて激突しているのです」
「バカな!? ここからギガナ山脈までどれだけ離れていると思っているのですか? 二人? あり得ない。貴方の勘違いだ、センリ」
言葉とは裏腹に今までのセンリの功績を思えば否定しきれない。メイメイはそんなひきつった笑みを浮かべた。
私は早まる心音を気付かれないよう、必死に表情を取り繕った。
「……ギガナ山脈ならばシルラが居るはず。至急連絡をとりなさい。それと念のため、調査団を今すぐにギガナ山脈へと向かわせます。人選は……マギアがいいでしょう」
「姫様。帝国への大侵攻を前にS級であるマギアをこんな不確かな情報に投入するのはーー」
「これはヒニア法国第一王女としての決定です。どのみち帝国を討つには自由都市の協力が必要不可欠。マギアには調査と交渉を同時にやってもらいます。いいですね?」
「か、かしこりました」
「仰せのままに」
何か言いたげなセンリとメイメイを一睨みで黙らせる。難しい決断を迫られることが増え、こんなやり方で友人を黙らせることに馴れてしまった自分が嫌になる。
「……直ぐに準備を始めなさい。知っての通り、最早時は我々の味方ではありません。帝国があの恐るべき実験を完成させる前に、何としてでもこの戦を終わらせなければ」
悪逆非道で大陸中を恐怖のどん底に叩き落としたグンジ帝国。だがその非道さ故に必ず帝国の侵略は行き詰まり、やがては一致団結した国々の力で妥当できると確信していた。実際帝国が支配した国では多くのレジスタンスが活動しており、戦争に勝てば勝つほどに帝国の戦力は疲弊し、それはこちらの読み通り非可逆な所まで進む……はずだった。
(モンスター創造計画、そんな馬鹿げた企みなど必ず阻止してみせるわ)
神話や物語に登場する怪物を造り出し、帝国の兵として使役する。ヒニアの諜報員が命がけで持ち帰ったこの情報をもとに、我々ヒニア法国は長きに渡るこの戦を終わらせるべく、帝国への大侵攻を決意した。その矢先にこの出来事だ。
(ここでの選択が未来を大きく変える気がする)
そんな予感を胸に、私はマギアに命を下すべく、メイメイを引き連れてセンリのいる遠見の間を後にした。
~自由都市『ウイング』~
「本当に行くつもりか?」
幾つもの剣を背や腰に携えた男が意気揚々と馬に跨がるのを、私は何処か呆れた気持ちで眺めていた。
「おうよ。この激しい気と魔力のぶつかり合い。この目で見たいと思うのは当然だろうが」
「…………馬鹿げてる。お前の行動も、この両者の力も、私はそろそろ真面目に物事を考えるのが面倒になってきたぞ」
「カッハッハ。S級魔術師にして『魔法騎士』と呼ばれるアンタがそんなことを言い出すとはな。だが、だからこそ、今この力の持ち主に会っておく必要がある。俺はそう思うね」
「……ナンバーズだったらどうするつもりだ?」
いや、片方はナンバーズで間違いないだろう。多少変化していてもこの荒々しい気には覚えがあった。『獣王セブン』。ナンバーズの中でも好戦的な外道の中の外道。以前戦った時は他のS級の力もあり撃退できたが、もしもあの時にこの力を使われていたなら、私達は生きてはいなかっただろう。
「そんときゃ、素直に白旗でも降るしかねぇかもな」
「お前でも勝てないか?」
分かりきったことを聞いている。その自覚はあったが、それでも一縷の希望を胸に、目の前にいる人類最強へと問いかけずにはいられなかった。
『自由騎士』と名高いダイオスは腕を組むと眉間に皺を寄せた。
「これがセブンだけの奥の手ならまだ勝機はある。だがナンバーズに共通する奥の手であるなら無理だろうな」
人類最強の言葉を聞いた私は、止めたタバコを無性に吸いたくなった。
「だがもしもこの謎の魔術師がセブンに勝って、さらに俺達の味方になれば、今まで最後まで描けなかった帝国打倒への絵図が一気に完成する」
馬の手綱を操って、奴は私に背中を向ける。
「てなわけで、ちょっと言ってくるぜ」
「勝手な男だ。自分の立場を理解しているのか?」
度重なる帝国の侵攻に疲弊し続ける都市。本来であれば人々の希望となっているダイオスがここを離れるなどありえない。だがそれでもダイオスの無茶を見逃すのは、それ程までに私達が追い詰められているからだ。
(こんな時にお前がいてくれたらな、シーニア)
代々忠誠を捧げてきて、私もきっとこの国の為に死ぬのだろうと思っていた帝国を抜ける原因となった親友のことを想う。
(確かにダイオスは強い。あるいは力だけならシーニアに迫るかもしれない。それでも尚、お前なら私達には出来ない何かをやってくれたのではと、そんならしくもないことを考えているよ)
学生時代は越えられないライバル。軍に入ってからは持ちつ持たれつの腐れ縁。血と泥にまみれている今だからこそ余計に輝いて見える私の青春。
(何故あの時私は……)
もう一体何万回悔やんだことだろうか。シーニアが穏健派の主だった者を集めて皇帝と今後についての話をすると決めた際、両親の立場を気にしてその会合に参加しなかったあの日のことを。
後悔して。後悔して。後悔して。それでも思ってしまうのだ。
(私とシーニアのコンビなら何とかできたのでは? せめて奴と幼かったロマくらいなら助けられたのでは?)
会う度に無邪気に抱きついてきた親友と、私の後ろをくっついて離れなかった可愛らしい男の子の顔を思い出す。
(……と、いかんな。つい感傷に浸ってしまった)
この自由都市の最大戦力にして象徴である男がいなくなったのだ。やることは山のようにある。それなのに何故久しぶりに親友を想い泣きたくなったのか。
「ふっ。いよいよ疲労が深刻か? それともまさか年か?」
自嘲した私は一時間ほど仮眠を取ろうと部屋に向かい、ふと足を止めた。
(そういえばこの魔力。どこかシーニアに似ている?)
遥か遠方から響いてくる魔力はまるで血に酔った鬼の慟哭のようで、このような魔力と親友の涼やかな魔力を一緒にした私はーー
「やはり疲れているな」
そう呟いて、自嘲した。
私の魔術武装である『銀球』を操って獣人共に遠隔からの狙撃をするその最中、大陸でも五指に入る標高を誇るギガナ山脈を揺らさんばかりの激突に決定的な変化が訪れた。
「ナンバーズ、悪魔にでも創造されたと言うのかしら?」
冗談混じりに呟いた言葉が真実をついた気がして、自嘲すらできない。
「シルラ様」
狙撃に気付かれた際の盾役として、前方の岩に身を隠していたクレーリアとドロシーがやってくる。二人の顔は見るからに青ざめており、きっと今の私も同じような顔色をしているのだろう。
クレーリアは地面に膝を付くと、深く頭を垂れた。
「シルラ様、勝敗は決しました。ここから早くお逃げください」
「…………まだ決着はついていないわよ?」
「着いてからでは手遅れです。その前にシルラ様だけでも」
「お待ちくださいシルラ様。私はまだ彼なら勝てると思っておりますわ」
「ドロシー!?」
思いもよらぬ、それこそ私ですら予想していなかった相棒の言葉に、クレーリアが顔を上げた。
「確認させてくださいな、ドロシー。貴方はこの常識はずれな力を相手にして、それでも尚、ロマに勝機があると言うのかしら?」
「はい。彼なら……彼らならば必ずや」
そう言ってドロシーは何故か何度も自身の首筋に指を這わせた。
「シルラ様、私は反対です。敵を引き付ける役割は私がこの命に代えましても、ですからシルラ様はお逃げくだ……えっ!?」
絶望を打ち破るかのように高まる魔力。
クレーリアが、ドロシーが、ヒニアの兵士達が、そして遠くに居る獣人達までもが呆然と空を見上げた。
「ロマ……貴方という人は」
ロマの放つ魔力は巨大すぎてこの天才でも知覚しきれず、それはまるで世界と一つになったかのような途方もなさだ。
巨大な力と力の激突に青かった空に暗雲が立ち込め、その中を雷が走る。最早この山にいる限り、いつ彼らの戦いに巻き込まれても不思議はなかった。
(これ程の激突。きっとお姉様も、そして皇帝達も気付いているのでしょうね)
ナンバーズの力はこちらの想定を遥かに上回っていた。だが天の采配なのか、そのナンバーズですら上回る存在が私達の前に現れた。
クレーリアとドロシーが私を見る。クレーリアは己の意見を変えたことが、ドロシーは己の意見に確信を持ったことが、その顔から分かった。
(いいわロマ、私が持つ全てを貴方に賭けてあげる)
「ヒニア法国第二王女の名に置いて命じるわ。最後の一兵まで逃げることを許しません。彼の勝率を少しでも上げるため、ここは何があろうとも死守します」
「「はっ!!」」
(ひょっとすれば今日、この戦争の行方が決定的に変わるかもしれない)
この天才をして暗い結果しか視えなかった未来に差し込んだ一筋の可能性、それを守るために私は自らの魔力を乗せた『銀』を獣人共へと放った。
~ヒニア法国王都~
「こ、こんなことが……」
「センリ。一体何事ですか? 姫様の前ですよ」
遠見の魔術を極めたセンリに各国の様子を探ってもらっていたその最中、センリは持っていた水晶を床に落とすと幼子のように震え出した。
「帝国がついに自由都市への本格的な進軍を開始しましたか?」
「い、いえ、姫様、これは……ギガナ、ギガナでございます」
「ギガナ? あそこは条件が悪くて遠見の水晶を設置できなかったはず。それとも触媒なしで貴方の遠見に写るほどの兵力がギガナに集結しているというのですか?」
メイメイが縁のない眼鏡を苛立たしげに指で押し上げながらセンリへと問う。彼女は参謀に相応しい頭脳と逆境にもめげない胆力を秘めているが、怒りっぽいのが玉に瑕だ。
「ち、違います。巨大な……あまりにも巨大な力をもった二人がギガナ山脈にて激突しているのです」
「バカな!? ここからギガナ山脈までどれだけ離れていると思っているのですか? 二人? あり得ない。貴方の勘違いだ、センリ」
言葉とは裏腹に今までのセンリの功績を思えば否定しきれない。メイメイはそんなひきつった笑みを浮かべた。
私は早まる心音を気付かれないよう、必死に表情を取り繕った。
「……ギガナ山脈ならばシルラが居るはず。至急連絡をとりなさい。それと念のため、調査団を今すぐにギガナ山脈へと向かわせます。人選は……マギアがいいでしょう」
「姫様。帝国への大侵攻を前にS級であるマギアをこんな不確かな情報に投入するのはーー」
「これはヒニア法国第一王女としての決定です。どのみち帝国を討つには自由都市の協力が必要不可欠。マギアには調査と交渉を同時にやってもらいます。いいですね?」
「か、かしこりました」
「仰せのままに」
何か言いたげなセンリとメイメイを一睨みで黙らせる。難しい決断を迫られることが増え、こんなやり方で友人を黙らせることに馴れてしまった自分が嫌になる。
「……直ぐに準備を始めなさい。知っての通り、最早時は我々の味方ではありません。帝国があの恐るべき実験を完成させる前に、何としてでもこの戦を終わらせなければ」
悪逆非道で大陸中を恐怖のどん底に叩き落としたグンジ帝国。だがその非道さ故に必ず帝国の侵略は行き詰まり、やがては一致団結した国々の力で妥当できると確信していた。実際帝国が支配した国では多くのレジスタンスが活動しており、戦争に勝てば勝つほどに帝国の戦力は疲弊し、それはこちらの読み通り非可逆な所まで進む……はずだった。
(モンスター創造計画、そんな馬鹿げた企みなど必ず阻止してみせるわ)
神話や物語に登場する怪物を造り出し、帝国の兵として使役する。ヒニアの諜報員が命がけで持ち帰ったこの情報をもとに、我々ヒニア法国は長きに渡るこの戦を終わらせるべく、帝国への大侵攻を決意した。その矢先にこの出来事だ。
(ここでの選択が未来を大きく変える気がする)
そんな予感を胸に、私はマギアに命を下すべく、メイメイを引き連れてセンリのいる遠見の間を後にした。
~自由都市『ウイング』~
「本当に行くつもりか?」
幾つもの剣を背や腰に携えた男が意気揚々と馬に跨がるのを、私は何処か呆れた気持ちで眺めていた。
「おうよ。この激しい気と魔力のぶつかり合い。この目で見たいと思うのは当然だろうが」
「…………馬鹿げてる。お前の行動も、この両者の力も、私はそろそろ真面目に物事を考えるのが面倒になってきたぞ」
「カッハッハ。S級魔術師にして『魔法騎士』と呼ばれるアンタがそんなことを言い出すとはな。だが、だからこそ、今この力の持ち主に会っておく必要がある。俺はそう思うね」
「……ナンバーズだったらどうするつもりだ?」
いや、片方はナンバーズで間違いないだろう。多少変化していてもこの荒々しい気には覚えがあった。『獣王セブン』。ナンバーズの中でも好戦的な外道の中の外道。以前戦った時は他のS級の力もあり撃退できたが、もしもあの時にこの力を使われていたなら、私達は生きてはいなかっただろう。
「そんときゃ、素直に白旗でも降るしかねぇかもな」
「お前でも勝てないか?」
分かりきったことを聞いている。その自覚はあったが、それでも一縷の希望を胸に、目の前にいる人類最強へと問いかけずにはいられなかった。
『自由騎士』と名高いダイオスは腕を組むと眉間に皺を寄せた。
「これがセブンだけの奥の手ならまだ勝機はある。だがナンバーズに共通する奥の手であるなら無理だろうな」
人類最強の言葉を聞いた私は、止めたタバコを無性に吸いたくなった。
「だがもしもこの謎の魔術師がセブンに勝って、さらに俺達の味方になれば、今まで最後まで描けなかった帝国打倒への絵図が一気に完成する」
馬の手綱を操って、奴は私に背中を向ける。
「てなわけで、ちょっと言ってくるぜ」
「勝手な男だ。自分の立場を理解しているのか?」
度重なる帝国の侵攻に疲弊し続ける都市。本来であれば人々の希望となっているダイオスがここを離れるなどありえない。だがそれでもダイオスの無茶を見逃すのは、それ程までに私達が追い詰められているからだ。
(こんな時にお前がいてくれたらな、シーニア)
代々忠誠を捧げてきて、私もきっとこの国の為に死ぬのだろうと思っていた帝国を抜ける原因となった親友のことを想う。
(確かにダイオスは強い。あるいは力だけならシーニアに迫るかもしれない。それでも尚、お前なら私達には出来ない何かをやってくれたのではと、そんならしくもないことを考えているよ)
学生時代は越えられないライバル。軍に入ってからは持ちつ持たれつの腐れ縁。血と泥にまみれている今だからこそ余計に輝いて見える私の青春。
(何故あの時私は……)
もう一体何万回悔やんだことだろうか。シーニアが穏健派の主だった者を集めて皇帝と今後についての話をすると決めた際、両親の立場を気にしてその会合に参加しなかったあの日のことを。
後悔して。後悔して。後悔して。それでも思ってしまうのだ。
(私とシーニアのコンビなら何とかできたのでは? せめて奴と幼かったロマくらいなら助けられたのでは?)
会う度に無邪気に抱きついてきた親友と、私の後ろをくっついて離れなかった可愛らしい男の子の顔を思い出す。
(……と、いかんな。つい感傷に浸ってしまった)
この自由都市の最大戦力にして象徴である男がいなくなったのだ。やることは山のようにある。それなのに何故久しぶりに親友を想い泣きたくなったのか。
「ふっ。いよいよ疲労が深刻か? それともまさか年か?」
自嘲した私は一時間ほど仮眠を取ろうと部屋に向かい、ふと足を止めた。
(そういえばこの魔力。どこかシーニアに似ている?)
遥か遠方から響いてくる魔力はまるで血に酔った鬼の慟哭のようで、このような魔力と親友の涼やかな魔力を一緒にした私はーー
「やはり疲れているな」
そう呟いて、自嘲した。
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