運命なんて残酷なだけ

緋川真望

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「透、どうしてこんなものを」

 その蒼ざめた顔を見れば、慶がどんな誤解をしたのか想像できた。
 慶と透が『運命の番』じゃないと分かったとたんに透が唯月の元を訪れ、しかもΩ保護団体の名刺をもらっていたのだ。

「……は……あ……」

 苦しいほどに息が乱れて、うまく声が出せなかった。あまりにも濃いフェロモンが一気に車内に満ちたせいで、透の体は急激に熱くなりぐらぐらと眩暈に襲われている。

「俺から、離れる気なのか……?」

 慶の声は地の底から響くように低くて、まるで激しい怒りに震えているかのようだった。

「俺を好きだと言ってくれただろう……?」

 だが、すぐに分かった。慶は怒っているわけじゃなくて、傷付いているんだ。
 透を見つめる慶の目が切なそうに潤んでいる。

「別れたいなら俺にそう言えばいい。こんな団体になど頼らなくても、俺は透をむりに縛り付けたりなどしない。……透は……透は俺を、そういう男だと思っていたのか……? 嫌がる透を支配したり監禁したり自由を奪ったりするとでも?」
「……ち、が……」

 その時、キキキーという軋むような音と共に突然車が急停止した。
 とっさに透を抱きとめてくれた慶が前を向いてハッとする。

「おい、どうした?」
「も、もうしわけ……ございません……。か、体が……体が……」

 運転手は体を縮こまらせてブルブルと震えていた。慶の圧倒的なフェロモンによる威圧で完全に委縮してしまったようで、とてもそれ以上運転を続けるのは無理そうだった。

「分かった。運転を変わろう」
「で、ですが……」
「どうしました? 何かあったんですか?」

 車の外に誰かが走り寄り、注意を引くように窓をコツコツと叩いてきた。後ろからついて来ていた大型のワゴン車も路肩に停車していて、護衛の男がそこから確認に来たようだった。

 慶がガチャリとドアを開けると、流れ出るフェロモンに護衛は一瞬うっと顔をしかめたが、すぐに冷静な無表情に戻って車内をさっと見回した。
 そしてすぐに状況を察知した様子で、失神しそうな運転手の肩に手を置いた。

「事故を起こす前に停めたのは賢明な判断でした。ここからは私が運転を変わります」

 彼が後ろに合図を送るとすぐにほかの護衛が来て、運転手を支えて後ろのワゴンに連れて行く。

「社長、目的地はどこですか? といっても、長時間の運転は無理だと思われますが……。αフェロモンに耐性のある私でも、この濃さはかなりきついですから」

 運転席に座った護衛の男はそう言って、窓を少し開けた。

 慶は腕に抱いている透の方に顔を向けてきた。

「透はどこに行きたい?」
「……え……」

 当然、神崎の本邸に帰るものと思っていた透はその質問に途惑って視線を揺らした。
 強烈なフェロモンに当てられてしまって、体が熱く疼いている。今すぐに慶に抱いて欲しいくらいなのに、どこかへ行きたいなどと思うはずがない。

「……け、い……」

(キスして欲しい。抱きしめて欲しい。体中を愛撫して欲しい。慶の匂いが体中にどんどん沁み込んでくるみたいで、もう何も考えられなくなる……)

 だが、慶はさっきの名刺を透の顔の前に差し出して来る。『Ω保護団体ひまわりの里』という文字と、黄色いひまわりのイラストが目に入ってきた。

「透がもしもここに……」

 言いかけて、苦しそうにぎゅっと目を閉じ、慶が深呼吸する。

「もしもここに行きたいというなら、送ってやる」

(慶、違う、違うよ。俺はそんなこと望んでない……)

 透は必死に指を伸ばした。慶から名刺を奪ってびりびりと破り捨てたかった。でも、途中でぱたりと手が落ちてしまう。

(なんで……? 体が言うことを聞かない……。いつもの発情と全然違う……)

「透、答えてくれ。透はどうしたいんだ?」

 慶の声は震えていた。きっと慶は必死に感情を抑えている。それでも、フェロモンが溢れ出すのを止められないのだろう。どんどん匂いが強くなっていく。

 運転席の護衛は耐えられないかのように咳き込み、窓を全開にした。涼しい風が入ってきたが、透の体はやはり動けないままだった。

「……わ……て……お、ねが…………」

(触って、お願い)

「……く……いて……」

(はやく、抱いて)

「……透?」

 途切れ途切れの声では慶にはちゃんと伝わらない。

(苦しいよ……。慶、助けて……)

 透の目の端からぽろっと涙がこぼれる。そこから堰を切ったようにぼろぼろと涙が溢れ出してきた。

「透? 透、どうして泣く。どこへ行ってもいいんだ。なんでも透の思い通りにしていいんだ。俺は止めない。透の望み通りにするから。透、透……」
「あの、差し出がましいようですが」

 運転席の護衛が振り返って慶の方を向いた。

「社長、今のあなたのフェロモンの量は尋常じゃない。そのΩは、まるで強制発情剤を使われたかのようにすっかり発情しきっているじゃないですか。おそらく、しばらくはまともな会話は望めないかと」
「……発情?」

 慶が透の顔を覗き込んでくる。

「だが、いつものように抱きついても来ないしキスもしてこない……本当に発情しているのか?」
「ええ、強い威圧を受けて動けなくなってしまったんでしょう。慣れない人間がこんなフェロモンをまともに浴びたら、気絶してもおかしくはないですからね」

 慶は少し驚いたように瞬きした。

「そんなに……?」
「ご自分では分かりませんか? 訓練している私でさえ、まるでライオンの檻に閉じ込められたかのようにさっきから足の震えが止まりませんよ」

 慶の手が透の頬をそっと撫でてくる。透が泣きながらその手に頬を擦り寄せるのを見て、慶はなぜかつらそうな顔をした。

「本当に俺に抱かれたいのか」
「……お……ねが……」
「俺から逃げたいんじゃなかったのか?」

 透の目にまた涙が溢れてくる。

「あのぉ……発情したまま放置されるのは相当苦しいものだと聞いたことがありますが」
「あ、あぁ、そうだな」
「早く慰めてやっては? それ・・は社長のΩなんですよね」
「…………」

 慶はその問いには答えず、動けない透をそっと抱きしめた。

「……んんっ……」

 背中を優しく撫でられただけで、透の体にぞくぞくと快感が走る。

「本邸に行かれますか」
「いや、新阿佐布のマンションへ行ってくれ」
「了解しました」

 やっと慶が行き先を決めたことで、護衛は窓の方を向いて深呼吸してから静かに車を発進させた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 慶の指が肌を滑っていく。優しく、優しく、慈しむような愛撫に、透の体中が痺れていく。

 新阿佐布にあるタワーマンション、最上階のペントハウス。
 モノトーンで統一されたモダンな室内に、洒落た間接照明の明かりがほんのりと落ちている。

「……あ……あぁ……」

 掠れた声しか出すことが出来ず、体をよじることも反らすことも出来ず、透はつまらない人形のように大きなベッドの真ん中に横たわっていた。
 慶は動かない透の体をやわやわさわさわと羽のようなタッチで長時間撫で続けてくれている。

「……け、い……」

 どうしても、体を動かすことが出来ない。気持ちいいのに気持ちいいと声に出せず、慶を抱きしめることもキスすることも出来ない。

「透……苦しくないか?」
「う……ん……」

 慶は不安そうな目で、何度も確認して来た。

 透はほとんど反応らしい反応を示せないけれど、体の中心はきちんと勃ち上がっていて、その先端からはとぷ、とぷ、と少しずつ精液が漏れ出している。

 慶はそれを優しく舌で舐め取り、後ろに指を一本だけ挿し込んできた。

「……うぅっ……」

 なぜだか指一本でもきつい。
 いつもの発情期なら、慶の大きなものでもすんなりと受け入れられるのに。

「つながるのはとても無理そうだな」

 慶がぽつりと言った。

「……ごめ……さ……」
「謝るな、透。ほら、ゆっくり呼吸して、力を抜いて。安心しろ。絶対に透の体は傷付けないから」
「……う……ん……」

 慶は挿し込んだ指を優しくゆっくりとくねらせ始めた。指の腹で内側の壁をこするように、ゆっくりゆっくりうごめかしていく。

「……あ……」

 じわじわと透の体の奥深いところから甘い疼きが這い上って来る。
 指の動きに合わせて、自然に穴がきゅんきゅんと収縮していく。

「……は……あ……」

 気持ちいい。
 じんわりと、とろけていく。
 先端からまた白いものがとろっと零れる。
 さっきからずっと、透はゆるくイッているみたいだった。

「……あっ……あっ……」

 何度も甘イキしている透のそれを、慶の温かい口が包み込んでじゅるじゅると吸ってくれる。
 温かな口内で動く舌の感触と、後ろの内側をクニクニと動く指の感触が相まって、透の快感が高まっていく。

(あぁ、思い切り慶に抱きつきたい。きれいな形の唇に吸い付きたい。俺は慶を怖いなんて思っていないのに、どうして体は動いてくれないんだろう)

「……はぁっ……あっ」

 慶の口の中で、透のものがぴくんぴくんと動いたようだった。でも、手も足もだらりと投げ出したままで、体に力も入らないせいなのか、またトロリトロリと中途半端に精液が出ただけだった。獣のように交じり合う時の、あの爆発的な快感は得られない。

 慶は丁寧にそれを舐め取ってから、そっと口を離した。

「……け……い……」

 透は全裸にされていたが、慶は服を着たままだった。ズボンの中が膨らんでいるのが見えたけれど、慶は透の状態を考えて我慢しているようだった。

「透……つらくないか」

 慶がじっと透の目を見てくる。

「う、ん……」

(俺は何もつらくない。つらそうなのは慶の方だよ)

 慶がそうっと透の体を抱え上げた。透の体は綿の抜けたぬいぐるみのようにくたっとしていて、首も両手もだらりと後ろへ垂れてしまう。
 慶が赤ちゃんにするように透の後頭部を支えて、そっと胸に抱きしめた。

「んん……」

 あったかくて力強くて、慶の胸の中は安心する。
 透は、はぁ……と安堵の息を吐いて目を閉じた。
 でも、耳元から聞こえてきたのは切ない慶の声だった。

「透……すまない……。俺のフェロモンで動けなくなったのだから、俺が透から離れた方がいいのは分かっているんだ……。でも、『発情』を言い訳にして俺はまた透の体に触り続けている。あの葬儀場で最初に出会った時から、俺は何も変わってない。あの時からずっと、卑怯者のままだ……」

 卑怯者という言葉は、慶には一番似合わない言葉だと思った。

 透を拉致して暴行した金田拓真、金のために透と結婚しようとした墨谷春哉、嫌がる透を自分のものにしようとした鬼嵜恭一。あいつらの方が、よほど卑怯者という言葉にふさわしいのに。

「それでも、透の肌に俺以外の誰かが触れるのは我慢ならないんだ……」

 透を抱きしめる慶の腕がかすかに震えている。
 温かい液体が透の肌にぽたりと落ちてきた。

「透が逃げたくなるのも、当然なのかもしれないな……。どうせ透が俺から離れて行く気なら、このまま動けないままの方がずっといいと……俺はそんなことを考えてしまうんだ。このまま透を屋敷に閉じ込めて、俺以外会えなくしてしまおうかと、そんなことまで考えてしまうんだ。俺の頭の中は、いつでも恐ろしいことでいっぱいだ。いつか、本当にそれらを実現してしまいそうで…………」

 慶の体は熱かった。
 慶の体は震えていた。
 透の体も熱くなった。
 透の体も震えていた。

「俺なんかが透を好きになって……すまない。許してくれ……許してくれ、透……」

 ぽた、ぽた、と涙が肌を伝っていく。

 いつでも慶は透に心をさらけ出してくれる。
 慶は透よりもずっと大人で、神崎家の当主で神崎グループの代表で権力も財力も持っているのに、『恋』をするのは初めてだと言っていた。透への気持ちが初恋なのだと隠すことなく言っていた。少年みたいにひたむきな恋心で、自分の持っているものは全部捧げると言い出してしまうし、すべてにおいて透を優先しようとしてしまう。

 慶の恋には、駆け引きも、見栄も、何も無い。

「……け、い……」

 透の胸は、ぎゅーっと締め付けられて苦しかった。

(慶、慶、泣かないで。大丈夫だから、俺はずっとそばにいるから)

 ぴくっと透の指先が動いた。
 またぴくぴくっと手の先が動く。

(動け、動け、俺の体、今動かなかったら一生後悔するぞ)

 透は必死に指を動かした。金縛りを解くように指から手、手から腕、腕から肩へ力を込めていく。
 そうやって必死に動こうとしている内に、ぱき、ぱき、と体を覆う殻が少しずつひび割れていくような感覚があった。

「慶……」

 声が出た。

「慶、好き……」

 言いたい言葉を口に出した途端、呪縛から解けたみたいに体を覆う殻がぱらぱらぱらとすべて剥がれ落ちて行った。
 卵から孵った雛みたいに透は大きく息を吸い込んだ。

「慶! 慶! 大好き!」

 全身全霊で愛を叫んだ。
 両手で慶の体に抱きついた。

「好きだよ、慶、俺は慶が大好きだよ!」

 誤解を解くためには、今日あったことや思ったことや悩んだことをすべて説明した方がいいのかもしれなかった。けれど、今の透にそんな余裕はなくて、ただただ泣いている慶の顔にいっぱいいっぱいキスをし続けた。

「と、とおる……とおるぅ……」

 慶はくしゃくしゃに顔を歪めて、子供みたいに泣き始めた。
 つられるように透の目からもボロボロと涙が落ちたが、それでもキスはやめなかった。ちゅ、ちゅ、としつこいくらいにキスをしながら、しつこいくらいにたっぷりの愛を囁いた。

「好き、んっ、好きだよっ、ちゅっ、慶好き、んちゅっ、愛してる……」

 そして慶の目から落ちていく涙をぺろりと舐めた。

「ふふ、慶は涙まで甘い……ちゅっ、おいしい……んっ、大好き……」
「と、とおる……と……る……」

 しゃくりあげながら、慶がすがるように透の体を抱きしめる。

「うん、うん、慶好きだよ、大好きだよ」

 透も、慶も、それ以上何も言えなくなって、ただひたすらにキスをし続けた。抱きあって、見つめあって、またキスをして、そして無我夢中で互いを求めあった。





 室内はほんのりと暗く、どのくらい時間が経ったのかは分からない。
 心地よい疲れと満足感に包まれながら、透は慶の髪を撫でていた。

「透……」
「うん」
「どこにも行くな……」
「うん」

 慶は甘えるように透の肩に頭をくっつけてくる。
 十歳以上年上の、しかも大きな体のαの男なのに、透の目には慶がむちゃくちゃ可愛く映ってしょうがなかった。

「よしよし、いい子いい子してあげる」

 なでなでしながら、何度も頭にキスをした。

「透……」

 慶が困ったような顔で、透を見上げてくる。

「なぁに? いい子いい子しちゃだめ?」
「……だめ、じゃないが」
「ん?」
「……もちろん嬉しいんだが」
「うん?」
「嬉しいんだが、やっぱり……」

 言って、慶は赤くなっているのを隠すように顔を伏せた。

「ふふふ、恥ずかしそうな慶も可愛い」
「からかうな」
「本気だよ。慶はカッコよくて可愛くて、愛おしすぎて変になりそうなくらいに好き」

 慶の目をじっと見つめると、潤んだ瞳が見返してきた。

「俺も同じだ。好きすぎておかしくなってしまう」
「じゃぁ、変な者同士、お似合いだね」
「ああ」

 お互いにクスクス笑って、また唇を重ねる。

「慶……」
「なんだ」
「今から俺、大事なことを言うね」
「大事なこと?」
「うん、ものすごく大事なことだから、ほんとは着替えて正座して話したいんだけどさ……。いっぱいエッチしすぎて起き上がれないから、このままベッドで言っちゃうね。だって、少しでも早く慶に言いたいから」

 慶が不思議そうな顔で瞬きをする。

 透は手を伸ばして、そっと慶の頬に触れた。

「俺の名前は透。珀山の家に生まれたけれど、今は冬野の姓を使っている」
「あ、あぁ」

 そんなことはとっくに知っているというように、慶はまだ不思議そうな顔をしている。

「年齢は21歳、独身、つがいはいたけどこの前死んだ。性別はΩの男、血液型はO型、健康状態はすごく良好。それから……ほぼ無一文。珀山の家とは縁が切れているし、無職で友人も少ないし、えっと……あんまりアピールするところが無いなぁ。あ、特技はナイフかな」

 透はニコッと笑って、先を続けた。

「俺は慶の『運命の番』じゃなかったし、慶の番になることも、慶の子供を産むことも出来ない」
「透、それは……」

 透は慶の唇の上に指先をちょんと当てた。
 慶が大人しく口を閉じる。

「けれどね、俺は世界中の誰よりも慶を幸せに出来る気がするんだ。お互いにおかしくなっちゃうくらいに相手が好きなんだもん。だから、神崎慶さん、どうか俺と結婚してください」

 フェロモンと精液の匂いの残るベッドの上で、お互いに裸のまま、花束も指輪も無いプロポーズだった。
 けれど、透は今伝えなきゃと思ったし、慶にとっても今で良かったんだと思う。
 その証拠に、慶は肩を震わせて静かに泣き出した。

「慶、返事を……聞かせてくれる?」

 泣きながら慶はこくこくとうなずいた。
 そして、襲い掛かるようにがばっと透を抱きしめてきた。

「……はい。はい、だ。返事は『はい』だ! 絶対に透と結婚する!」

 息も苦しいくらいに抱きしめられながら、透も力いっぱいに抱きしめ返した。
 透も慶もぐしゃぐしゃに泣いて、また激しくエッチして、さらにいっぱい笑っていっぱい泣いて、また抱き合った。



 発情期が終わるとすぐに西濱の会長と中臣の先代に証人になってもらい、二人は婚姻届を提出した。


 神崎慶の結婚はあちらこちらで激震を走らせたらしく、寓夜街のナンバーワンホステスとかどこぞの財閥のご令嬢とかが何人も、何かと理由を付けては透というΩを見に訪れた。何かしらの欠点を指摘したり嫌味を言ったり嫌がらせをしたりするつもりだったはずだが、なぜか全員がすごすごと引き下がっていったという。それは透が慶の結婚相手として完璧だったからというわけではなく、慶のあまりのデレデレとした溺愛ぶりに戦意喪失したということだったらしい。

 そうしていつしか寓夜街にひとつの噂が広まった。
 神崎慶と透はどうやら『運命の番』らしいと。

―――― 運命の番。男も女も国籍も家柄も関係なく、すでに番がいたとしてもそれすらも超えて魅かれ合う運命の相手。一度出会ってしまったら逃れようのない強い絆で結ばれる生涯の伴侶。

 慶も透も、その噂を否定しなかった。
 慶には透が、そして透には慶が本物の『運命』なんだと、もうとっくに分かっていたから……。



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